出題の概要

平成28年(2016年)の不動産鑑定士短答式試験・鑑定理論科目は、平成26年の基準改正後2年目の試験であり、改正内容に関連する出題がより踏み込んだ形で登場した年度です。改正で新設・変更された規定を正確に把握しているかが問われるとともに、従来から出題されている基本事項も幅広く問われました。

不動産鑑定士の短答式試験では、鑑定理論40問が2時間で出題されます。平成28年の鑑定理論科目は、総論の基本事項を中心に、証券化対象不動産に関する出題がやや増加したことが特徴です。平成26年の基準改正では証券化関連の規定が整備・充実されたため、その影響が出題に反映されていると考えられます。

試験の基本情報

項目 内容
試験年度 平成28年(2016年)
試験科目 鑑定理論、行政法規
試験時間 鑑定理論:2時間
出題形式 五肢択一式
出題数 40問
合格基準 総合点でおおむね7割以上

合格ラインと難易度

平成28年の短答式試験は標準的な難易度でした。合格率は約33%前後で、大きな変動は見られません。基準改正後の出題がやや増加しましたが、改正内容を把握している受験生にとっては対応可能な範囲でした。

年度 合格率(概算) 難易度の印象
平成26年 約33% 標準
平成27年 約33% 標準
平成28年 約33% 標準
平成29年 約33% 標準

出題分野の分析

基準の章別出題割合

平成28年の鑑定理論40問について、不動産鑑定評価基準の章別に出題割合を整理すると以下のとおりです。

基準の該当箇所 出題数(概算) 比率 特徴
総論第1章(価格の本質) 約2問 約5% 基本事項の確認
総論第2章(種別・類型) 約3問 約8% 種別と類型の区分
総論第3章(価格形成要因) 約3問 約8% 三要因の内容
総論第4章(諸原則) 約2問 約5% 諸原則の基本
総論第5章(価格の種類・条件) 約7問 約18% 最多出題分野
総論第6章(地域分析・個別分析) 約3問 約8% 地域分析の基本
総論第7章(鑑定評価の方式) 約6問 約15% 三方式の適用
総論第8章(試算価格の調整) 約2問 約5% 調整の考え方
総論第9章(鑑定評価報告書) 約1問 約3% 記載事項
各論第1章(価格の各論) 約5問 約13% 種別・類型別の評価
各論第2章(賃料の各論) 約2問 約5% 賃料評価の手法
各論第3章(証券化) 約4問 約10% やや増加

出題傾向の特徴

平成28年の出題で最も注目すべき点は3つあります。

第一に、総論第5章(価格の種類・対象確定条件)からの出題が約18%と最多だったことです。正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の定義に加え、対象確定条件に関する出題が含まれており、この章の学習の重要性が際立っています。

第二に、各論第3章(証券化対象不動産)からの出題が約10%とやや増加したことです。平成26年の基準改正で証券化関連の規定が整備されたことを受け、証券化対象不動産の鑑定評価に関する詳細な出題が見られました。

第三に、全体として総論偏重の傾向が見られ、総論からの出題が全体の約65%を占めたことです。基準の中核部分を正確に理解しているかが重点的に問われました。


頻出論点の解説

価格の種類と対象確定条件

平成28年の最多出題分野である総論第5章からは、以下の論点が問われました。

価格の種類の定義

正常価格の定義は毎年出題される最重要論点です。平成28年でも、定義文の各要素を正確に理解しているかが試されました。

価格の種類 キーワード 出題のポイント
正常価格 合理的な市場、市場価値 市場の5要件を正確に暗記しているか
限定価格 市場の限定、増分価値 併合・分割等の具体的適用場面
特定価格 法令、社会的要請 法令に基づく具体例
特殊価格 市場性がない、文化財等 一般的な市場性の有無による判別

対象確定条件

対象確定条件に関しては、以下の論点が出題されました。

  • 対象不動産の確定:物的確定(所在・範囲の確定)と権利の態様の確定
  • 想定上の条件の設定:条件設定が認められる場合の要件
  • 条件設定の合理性:鑑定評価の目的に照らして合理的であることの判断

鑑定評価に当たっては、まず、鑑定評価の対象を確定しなければならない。鑑定評価の対象は、基本的には、土地若しくは建物又はこれらの組合せに係る所有権及びそれ以外の権利である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節

鑑定評価の三方式

鑑定評価の三方式からは、各手法の意義と適用に関する出題がありました。

原価法

  • 再調達原価の概念と求め方
  • 減価修正の意義と方法
  • 原価法の適用が有効な場合と困難な場合の区別

取引事例比較法

  • 事例の収集範囲:同一需給圏内の近隣地域または類似地域から収集
  • 事情補正の内容:特殊な事情がある取引の補正
  • 時点修正の考え方と方法

収益還元法

  • 直接還元法:一期間の純収益を還元利回りで還元
  • DCF法:複数期間の純収益と復帰価格を割引率で現在価値に変換
  • 純収益の求め方:総収益から総費用を控除

三方式に関する出題では、各手法がどのような不動産に対して有効かを問う出題が見られました。原価法は費用性(再調達原価の把握)、取引事例比較法は市場性(取引事例の存在)、収益還元法は収益性(賃貸用不動産等)という各手法の基盤を理解しているかがポイントです。

証券化対象不動産

平成28年では、各論第3章(証券化対象不動産)からの出題がやや増加しました。

出題された主な論点

  • 証券化対象不動産の鑑定評価の特徴:投資家保護の観点からの厳格な評価
  • DCF法の適用の必須化:証券化対象不動産ではDCF法の適用が求められること
  • エンジニアリングレポートの活用:物的確認・修繕費用の査定に活用
  • 収益費用項目の詳細な査定:空室率、運営費用等の項目ごとの詳細な検討

証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、DCF法を適用しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 各論第3章第1節

証券化対象不動産の評価では、通常の不動産の鑑定評価に比べてより詳細な分析が求められます。特にDCF法の適用においては、各期の収益・費用の査定根拠を明確にすることが重要です。

不動産の種別・類型

各論第1章からは、以下の論点が出題されました。

更地の鑑定評価

  • 更地の定義:建物等の定着物がなく、使用収益を制約する権利の付着していない宅地
  • 更地の鑑定評価で適用すべき手法の選択
  • 最有効使用の判定との関係

借地権の鑑定評価

  • 借地権の取引慣行がある地域での評価方法
  • 借地権の取引慣行がない地域での取扱い
  • 借地権割合の意義

建物及びその敷地

  • 一体評価の考え方
  • 最有効使用との関係で既存建物の扱いが変わること
  • 原価法と収益還元法の適用

賃料評価

各論第2章からは、賃料評価の基本的な枠組みに関する出題がありました。

  • 新規賃料と継続賃料の区別
  • 新規賃料を求める手法(積算法、賃貸事例比較法、収益分析法)
  • 継続賃料を求める手法(差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法)

誤りやすい選択肢のパターン

パターン1:正常価格の市場要件の一部省略

正常価格の定義における市場の要件を一部省略して、不完全な定義を正しいように見せかけるパターンです。

正常価格における「合理的な市場」の要件として、基準では以下の条件が示されています。

  1. 市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入・退出が自由であること
  2. 取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ・買い進み等を誘引したりするような特別な事情がないこと
  3. 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること
  4. 取引当事者が対象不動産及び取引について必要な情報を了知していること
  5. 取引当事者が相手方の属性に無関係に取引を成立させること

このうち1つや2つを省略した選択肢を「正しい」として出題するのが典型的なひっかけです。市場の要件を「5つある」と数で覚えておくことが有効な対策です。

パターン2:証券化対象不動産の評価要件の混乱

証券化対象不動産の評価に関して、一般の不動産の評価との違いを曖昧にするパターンです。

論点 一般の不動産 証券化対象不動産 ひっかけ
DCF法 適用は任意 適用は必須 証券化でも任意と記述
ER 参考資料 活用が求められる ERは不要と記述
収益費用 適切に査定 詳細な査定 一般と同じ水準と記述

証券化対象不動産の評価の特徴を「一般の不動産との違い」として整理しておくと、このパターンのひっかけに対応しやすくなります。

パターン3:対象確定条件の設定要件の取り違え

対象確定条件の設定が認められる場合と認められない場合を混同させるパターンです。

  • 想定上の条件は常に設定できると記述(正しくは合理性が必要)
  • 調査範囲等条件は設定できないと記述(正しくは一定の場合に設定可能)
  • 鑑定評価の依頼目的に照らして不合理な条件でも設定できると記述(正しくは合理性が必要)

パターン4:減価修正の方法の混同

原価法における減価修正の2つの方法を混同させるパターンです。

方法 内容 ひっかけ
耐用年数に基づく方法 経済的残存耐用年数を基礎に減価額を算定 「観察に基づく」と記述
観察減価法 対象不動産の実態を観察して減価額を判定 「耐用年数に基づく」と記述

両者は併用することが望ましいとされていますが、それぞれの方法の内容を正確に区別できるかが問われます。

パターン5:手法の適用条件の誤り

各手法が適用できる場合と適用が困難な場合を入れ替えるパターンです。

  • 取引事例が存在しない場合に「取引事例比較法を適用しなければならない」と記述
  • 再調達原価の把握が困難な不動産に「原価法が最も有効」と記述
  • 収益性のない不動産(自用の住宅等)に「収益還元法の適用が必須」と記述

各手法の適用が有効な場面と困難な場面を表で整理しておくことが効果的です。


試験での出題ポイント

平成28年から読み取れる傾向

不動産鑑定士の短答式試験において、平成28年の出題から以下の傾向が読み取れます。

  • 総論第5章からの出題が約18%と最多:価格の種類と対象確定条件の両方を正確に把握する必要がある
  • 証券化対象不動産からの出題が約10%に増加:基準改正の影響で証券化関連の知識が重視される
  • 総論偏重(約65%)の出題構成:基準の中核部分の学習が最優先
  • 基本事項の正確な暗記が引き続き重要:文言レベルの正確さが求められる

基準改正の影響

平成28年は平成26年の基準改正後2年目であり、改正に関連する出題が自然な形で織り込まれていました。改正の主要なポイントは以下のとおりです。

改正内容 出題への影響
証券化関連の規定の充実 各論第3章からの出題増加
対象確定条件の整理 総論第5章の出題が増加
鑑定評価報告書の記載事項の見直し 報告書に関する出題

基準改正の内容を正確に把握しているかは、改正直後の数年間の試験で特に重視される傾向があります。

学習の優先順位

優先度 分野 学習の目安
最優先 価格の種類(総論第5章) 4つの価格の定義・市場の要件の完全暗記
最優先 三方式(総論第7章) 各手法の意義・適用条件の暗記
対象確定条件(総論第5章) 条件の種類と設定要件の整理
証券化対象不動産(各論第3章) DCF法の適用必須、ERの活用
各論第1章(種別・類型別評価) 各類型の評価手法の一覧整理
価格形成要因(総論第3章) 3分類の具体例の把握

過去問の活用法

平成28年の過去問に取り組む際のポイントを整理します。

  1. 基準改正との関連を意識する:改正で変更された規定を確認しながら解く
  2. 証券化関連の問題は重点的に復習する:各論第3章の条文を正確に把握する
  3. 対象確定条件の問題は条件の種類を整理してから解く:条件の種類ごとの設定要件を表にまとめる
  4. 他の年度との比較平成29年平成30年との出題傾向の変化を確認する

まとめ

平成28年短答式試験・鑑定理論の分析ポイントを整理します。

  • 総論第5章(価格の種類・対象確定条件)からの出題が約18%で最多であり、正常価格の定義や対象確定条件の設定要件の正確な理解が求められた
  • 各論第3章(証券化対象不動産)からの出題が約10%に増加し、平成26年基準改正の影響が出題に反映された
  • 全体として総論偏重(約65%)の出題構成であり、基準の中核部分の正確な学習が合否を左右する
  • ひっかけのパターンは「正常価格の市場要件の省略」「証券化の評価要件の混乱」「対象確定条件の取り違え」など、条文の正確な暗記で対応できるものが多い
  • 合格率は約33%で例年並みであり、基本事項を着実に積み上げた受験生が合格できる試験だった

平成28年の過去問は、基準改正後の出題傾向を把握するのに有用な教材です。短答式の鑑定理論対策で学習の全体像を確認し、過去問の出題傾向分析と合わせて活用しましょう。他の年度の過去問(平成29年令和元年令和2年)との比較学習も効果的です。