証券化対象不動産の鑑定評価とは

証券化対象不動産の鑑定評価は、不動産鑑定評価基準の各論第3章に定められた特別な規定に基づいて行われます。通常の鑑定評価と比べて、DCF法の適用が原則となること、収支項目の詳細な開示が求められること、エンジニアリングレポートの活用が必要となることが主な特徴です。投資家保護の観点から、透明性の高い評価が求められます。

証券化対象不動産の鑑定評価においては、投資家に対する説明責任を果たすため、鑑定評価の各段階について、特に詳細な説明が求められることに留意しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 各論第3章


証券化対象不動産とは

定義

証券化対象不動産とは、資産の流動化に関する法律や投資信託及び投資法人に関する法律等に基づき、不動産の証券化の対象となる不動産をいいます。

具体的な例

  • J-REIT(不動産投資信託)の投資対象不動産
  • 特定目的会社(TMK)が取得する不動産
  • 不動産特定共同事業の対象不動産
  • 不動産ファンドが組成する投資スキームの対象不動産

なぜ特別な規定が必要か

証券化対象不動産の鑑定評価に特別な規定が設けられている理由は以下のとおりです。

  • 投資家保護:多数の投資家が投資判断に鑑定評価額を利用する
  • 情報の非対称性:投資家は不動産の詳細を直接確認できないことが多い
  • 説明責任:鑑定士は投資家に対する説明責任を負う
  • キャッシュフローの重要性:証券化スキームでは賃料収入等のキャッシュフローが配当の原資となる

通常の鑑定評価との違い

主な相違点の比較

比較項目 通常の鑑定評価 証券化対象不動産の鑑定評価
DCF法 適用は任意(適用が望ましい) 原則として適用が必要
直接還元法 中心的手法 DCF法と併用
収支項目 概括的な記載でも可 各項目を詳細に開示
ER(エンジニアリングレポート) 参考にすることがある 原則として活用が必要
鑑定評価書の記載 基準に基づく記載 より詳細な記載が必要
説明責任 依頼者に対する説明 投資家に対する説明責任

DCF法の適用が原則

DCF法の重要性

証券化対象不動産の評価では、DCF法の適用が原則とされています。これは、証券化スキームにおいてキャッシュフローの予測が投資判断の基礎となるためです。

証券化対象不動産の収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。この場合において、併せて直接還元法を適用すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 各論第3章

DCF法の適用における留意事項

DCF法を証券化対象不動産に適用する際の留意事項は以下のとおりです。

  • 分析期間の設定根拠を明確にする
  • 各期の純収益を具体的に予測し、その根拠を示す
  • 割引率の査定根拠を明確にする
  • 復帰価格(売却想定価格)の算定根拠を示す
  • 最終還元利回りの査定根拠を明確にする

直接還元法との併用

DCF法だけでなく、直接還元法も併せて適用することが求められます。

  • DCF法による収益価格と直接還元法による収益価格を比較する
  • 両者の乖離が大きい場合は、その原因を分析する
  • 収益還元法全体の理解が前提となる

収支項目の詳細開示

証券化対象不動産の評価では、収支項目を詳細に開示する必要があります。

運営収益の項目

項目 内容
貸室賃料収入 各テナントの賃料(契約賃料と市場賃料の比較を含む)
共益費収入 共用部分の維持管理に係る収入
水道光熱費収入 テナントからの水道光熱費の回収額
駐車場収入 駐車場の賃料収入
その他収入 看板使用料、アンテナ設置料等

運営費用の項目

項目 内容
維持管理費 建物の清掃、設備の保守点検等
水道光熱費 共用部分の水道光熱費
修繕費 通常の修繕に要する費用
PMフィー プロパティマネジメント報酬
テナント募集費用 仲介手数料、広告費等
公租公課 固定資産税、都市計画税
損害保険料 火災保険等
その他費用 町会費等

資本的支出

通常の修繕費とは別に、資本的支出(大規模修繕費用)を明示的に計上する必要があります。

  • エンジニアリングレポートの修繕更新費用の見積もりを参考にする
  • 長期修繕計画に基づき、各期の資本的支出を予測する
  • 修繕費(運営費用)と資本的支出の区分を明確にする

各論第3章の位置づけ

不動産鑑定評価基準における位置づけ

不動産鑑定評価基準は、以下の構成となっています。

内容
総論 鑑定評価の基本的事項
各論第1章 価格に関する鑑定評価
各論第2章 賃料に関する鑑定評価
各論第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価

各論第3章は、総論及び各論第1章の規定を前提としつつ、証券化対象不動産の評価に固有の事項を定めたものです。

各論第3章の主な内容

  • 証券化対象不動産の範囲と定義
  • DCF法の適用に関する規定
  • 収支項目の開示に関する規定
  • エンジニアリングレポートの活用に関する規定
  • 鑑定評価書の記載事項に関する規定

運用上の留意事項

鑑定評価書の記載

証券化対象不動産の鑑定評価書には、通常の記載事項に加えて以下の内容を記載する必要があります。

  • DCF法の各種前提条件(分析期間、割引率、最終還元利回り等)
  • 各期のキャッシュフロー予測の内訳
  • 直接還元法との比較結果
  • エンジニアリングレポートの概要と活用方法
  • 対象不動産に係るリスク要因

依頼者との関係

  • 証券化スキームの内容を十分に理解した上で評価を行う
  • 依頼者から提供される資料(賃貸借契約、修繕計画等)を適切に活用する
  • 利害関係の有無について特に慎重に確認する

情報開示の充実

投資家への説明責任

証券化対象不動産の鑑定評価では、投資家に対する説明責任が特に重視されます。

  • 鑑定評価額の算定過程を透明かつ詳細に開示する
  • 前提条件や仮定について明確に記載する
  • リスク要因について適切に情報提供する
  • 投資判断に必要な情報を過不足なく提供する

情報開示が求められる背景

  • 証券化スキームでは、不特定多数の投資家が鑑定評価結果を利用する
  • 投資家は鑑定評価書を直接確認する機会がある(投資法人の資産運用報告書等)
  • 鑑定評価の信頼性が証券化市場全体の信頼性に影響する

試験での出題ポイント

証券化対象不動産の鑑定評価は、近年の試験で出題頻度が増加している論点です。

論文式試験での頻出論点

  • 通常の鑑定評価との違い:DCF法の適用原則、収支項目の詳細開示を中心に論述する
  • 各論第3章の趣旨:なぜ特別な規定が必要なのかを論述する
  • DCF法の適用における留意事項:分析期間、割引率、最終還元利回りの設定根拠
  • エンジニアリングレポートの活用:活用方法と鑑定士の判断の関係

短答式試験での注意点

  • 証券化対象不動産ではDCF法の適用が「原則」であること
  • 直接還元法もDCF法と「併用」すること(DCF法のみではない)
  • 各論第3章の位置づけ(総論・各論第1章の規定が前提)
  • エンジニアリングレポートの主な調査項目

関連する論点


まとめ

証券化対象不動産の鑑定評価は、各論第3章に基づき、通常の鑑定評価とは異なる特別な対応が求められます。DCF法の適用が原則であること、収支項目を詳細に開示すること、エンジニアリングレポートを活用すること、投資家に対する説明責任を果たすことが主な特徴です。これらの規定は、証券化市場における投資家保護と鑑定評価の信頼性確保を目的としています。試験対策としては、通常の鑑定評価との違いを明確に整理し、各論第3章固有の論点を体系的に理解しておきましょう。