出題の概要

令和元年(2019年)の不動産鑑定士短答式試験・鑑定理論科目は、平成から令和への改元が行われた年の試験であり、出題内容としては前年(平成30年)の傾向を概ね踏襲しつつも、各論からの出題がやや増加したことが特徴です。

不動産鑑定士の短答式試験は、鑑定理論40問・行政法規40問の合計80問で構成されています。令和元年の鑑定理論科目では、基準の条文を一字一句正確に理解しているかを試す出題が多く、曖昧な理解では得点しにくい内容でした。

試験の基本情報

項目 内容
試験年度 令和元年(2019年)
試験科目 鑑定理論、行政法規
試験時間 鑑定理論:2時間
出題形式 五肢択一式
出題数 40問
合格基準 総合点でおおむね7割以上

合格ラインと難易度

令和元年の短答式試験は、やや難化した印象がありました。合格率は約33%前後で、前年の平成30年と大きく変わりませんが、受験生の間では「細かい知識を問う問題が増えた」との声が聞かれました。

年度 合格率(概算) 難易度の印象
平成29年 約33% 標準
平成30年 約33% 標準
令和元年 約33% 標準〜やや難化
令和2年 約33% 標準

出題分野の分析

基準の章別出題割合

令和元年の鑑定理論40問について、不動産鑑定評価基準の章別に出題割合を整理すると以下のとおりです。

基準の該当箇所 出題数(概算) 比率 特徴
総論第1章(価格の本質) 約2問 約5% 基本事項の確認
総論第2章(種別・類型) 約2問 約5% 種別と類型の区分
総論第3章(価格形成要因) 約3問 約8% 三要因の内容
総論第4章(諸原則) 約3問 約8% 諸原則の理解(やや増加)
総論第5章(価格の種類・条件) 約5問 約13% 価格類型の定義
総論第6章(地域分析・個別分析) 約4問 約10% 分析手法の詳細
総論第7章(鑑定評価の方式) 約6問 約15% 最多出題分野
総論第8章(試算価格の調整) 約2問 約5% 調整の考え方
総論第9章(鑑定評価報告書) 約1問 約3% 記載事項
各論第1章(価格の各論) 約7問 約18% 前年より増加
各論第2章(賃料の各論) 約3問 約8% 賃料評価の手法
各論第3章(証券化) 約2問 約5% 証券化対象不動産

出題傾向の特徴

令和元年の最大の特徴は、各論第1章からの出題が約18%と前年(約15%)から増加したことです。不動産の種別・類型ごとの評価手法に関する理解が、従来以上に求められました。

一方、総論第7章(鑑定評価の方式)からの出題が最多(約15%)であることは前年と同様であり、三方式の理解は引き続き最重要分野です。

また、総論第4章(鑑定評価の諸原則)からの出題がやや増加しており、需要と供給の原則、変動の原則、代替の原則など、鑑定評価の諸原則を正確に把握しているかが問われました。


頻出論点の解説

鑑定評価の諸原則

令和元年では、鑑定評価の諸原則に関する出題がやや増加しました。特に以下の原則が問われています。

原則 出題のポイント
需要と供給の原則 不動産の価格が需要と供給の相互作用で形成されることの理解
変動の原則 価格形成要因が常に変動することの認識
代替の原則 代替可能な不動産の価格が相互に影響し合うことの理解
最有効使用の原則 不動産の価格は最有効使用を前提に形成されることの理解
均衡の原則 不動産の構成要素間の均衡が価格に影響することの理解

諸原則は条文が比較的短いため暗記しやすい分野ですが、その分、文言の微妙な違いを問う出題が多くなります。原則の名称と内容を正確にセットで覚えることが重要です。

価格の種類と対象確定条件

令和元年でも正常価格を中心に、価格の種類からの出題がありました。

特に注意が必要だった論点

  • 正常価格の市場条件:「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場」の各要件
  • 限定価格の適用場面:借地権者の底地購入、隣接地の併合、経済合理性に反する不動産の分割
  • 特定価格の具体例:民事再生法に基づく評価、会社更生法に基づく評価、資産の流動化に関する法律に基づく評価

対象確定条件については、以下の点が問われました。

  • 対象不動産の物的確定と権利の態様の確定の区別
  • 地域要因と個別的要因の整理方法
  • 想定上の条件を設定できる場合の要件

鑑定評価の三方式の適用

鑑定評価の三方式は令和元年でも最多出題分野です。

  • 原価法:再調達原価の求め方(直接法・間接法)と減価修正の3要因
  • 取引事例比較法:取引事例の収集・選択の要件、事情補正と時点修正
  • 収益還元法:純収益の求め方、還元利回りとDCF法における割引率の関係

令和元年の特徴として、減価修正の3要因(物理的減価・機能的減価・経済的減価)の内容を正確に区別する出題が見られました。

減価修正の3要因
1. 物理的減価:経年劣化、損傷等による物理的な老朽化
2. 機能的減価:設備の旧式化、設計上の不適合等による機能低下
3. 経済的減価:近隣地域の衰退、市場環境の変化等による外部要因

各論:不動産の種別・類型別評価

各論第1章からの出題が増加した令和元年では、以下の論点が問われました。

更地の鑑定評価 – 適用すべき手法の選択(取引事例比較法、収益還元法、開発法等) – 更地の最有効使用の判定

建付地の鑑定評価 – 建付地と更地の評価の違い – 最有効使用との関係で建物の取壊しが合理的な場合の取扱い

借地権の鑑定評価 – 借地権の取引慣行がある地域とない地域での評価方法の違い – 借地権価格の求め方(取引事例比較法、配分法等)

建物及びその敷地の評価 – 原価法の適用における建物の再調達原価と減価修正 – 収益還元法の適用における純収益の求め方

賃料評価

各論第2章からは、以下の賃料に関する論点が出題されました。

  • 新規賃料継続賃料の求め方の違い
  • 継続賃料の4手法(差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法)の意義
  • 賃料を求める場合の留意点

誤りやすい選択肢のパターン

パターン1:諸原則の名称と内容の入れ替え

令和元年で目立ったのが、鑑定評価の諸原則の名称と内容を入れ替えるひっかけです。

ひっかけの手口 具体例
原則Aの内容を原則Bの名称で説明 「変動の原則」の内容を「代替の原則」として記述
原則の一部を省略して別の原則に見せかける 「均衡の原則」の一部を「適合の原則」として記述

対策として、各原則の核となるキーワードを整理しておくことが有効です。

パターン2:手法の適用対象の混同

三方式の各手法がどの種類の不動産に適用されるかを混同させるパターンです。

  • 原価法が適用困難な場合を「適用すべき」と記述
  • 収益還元法が適用困難な不動産に「適用しなければならない」と記述
  • 取引事例比較法の適用において、事例が十分でない場合の取扱いを誤って記述

パターン3:各論の評価手法の取り違え

不動産の種別・類型ごとの評価手法を取り違えて記述するパターンです。

種別・類型 正しい手法 ひっかけ
更地 取引事例比較法を中心に三方式を適用 原価法のみで求めると記述
建付地 更地価格を基礎として建付減価を考慮 収益還元法のみで求めると記述
借地権 取引慣行の有無で手法が異なる 全ての場合に同一手法と記述

パターン4:新規賃料と継続賃料の混同

新規賃料の求め方と継続賃料の求め方を混同させるパターンです。

  • 差額配分法を新規賃料の求め方として記述(正しくは継続賃料)
  • スライド法を新規賃料に適用すると記述(正しくは継続賃料)
  • 積算法を継続賃料に適用しないと記述(正しくは新規賃料でも継続賃料でも適用可能)

新規賃料と継続賃料で使える手法の違いを表にまとめて暗記することが効果的です。

パターン5:「原則」と「例外」の入れ替え

基準で定められている原則的な取扱いと例外的な取扱いを入れ替えるパターンです。

  • 三方式の併用が原則であるのに、「状況に応じて1手法のみ適用するのが原則」と記述
  • 実際の取引価格を基礎とするのが原則であるのに、「想定上の価格を基礎とするのが原則」と記述

試験での出題ポイント

令和元年から読み取れる傾向

不動産鑑定士の短答式試験において、令和元年の出題から以下の傾向が読み取れます。

  • 各論からの出題比率が増加傾向にあり、種別・類型ごとの評価手法の理解が重要
  • 諸原則からの出題がやや増加しており、原則の名称と内容の正確な対応が求められる
  • 三方式は最重要分野であり、各手法の意義・適用条件・適用手順を正確に把握する必要がある
  • 新規賃料と継続賃料の区別が問われる出題があり、賃料評価の学習を軽視してはいけない

他の年度との比較

令和元年の出題を前後の年度と比較すると、以下のような傾向がわかります。

比較項目 平成30年 令和元年 令和2年
総論の比率 約55% 約52% 約55%
各論の比率 約15% 約18% 約15%
諸原則の出題 約2問 約3問 約2問
全体の難易度 標準 やや難化 標準

令和元年は各論と諸原則の出題がやや多い年度であり、基準の総論だけでなく各論まで幅広く学習する必要性を示す試験でした。

学習の優先順位

優先度 分野 学習の目安
最優先 三方式(総論第7章) 各手法の意義・適用条件・手順の完全暗記
最優先 価格の種類(総論第5章) 4つの価格の定義・要件の完全暗記
各論第1章(種別・類型別評価) 各類型の評価手法を一覧表で整理
諸原則(総論第4章) 各原則のキーワードを正確に暗記
各論第2章(賃料評価) 新規賃料と継続賃料の手法の違いを整理
地域分析・個別分析(総論第6章) 近隣地域・類似地域・同一需給圏の定義の暗記

まとめ

令和元年短答式試験・鑑定理論の分析ポイントを整理します。

  • 各論からの出題が約18%と前年より増加し、不動産の種別・類型ごとの評価手法の理解が求められた
  • 鑑定評価の諸原則からの出題もやや増加し、原則の名称と内容の正確な対応が問われた
  • 三方式は依然として最多出題分野であり、各手法の意義・適用条件・減価修正の3要因など、詳細な理解が必要
  • ひっかけのパターンは「諸原則の入れ替え」「手法の適用対象の混同」「新規賃料と継続賃料の混同」など、似た概念の区別を問うものが多い
  • 合格率は約33%で前年と同水準だが、受験生の間では「細かい知識が問われた」との印象がある

令和元年の過去問は、各論を含む幅広い分野からの出題に対応する力を養うのに適した教材です。短答式の鑑定理論対策で全体の学習計画を確認した上で取り組みましょう。前後の年度の過去問(平成30年令和2年)との比較学習も有効です。