再調達原価とは

再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再び調達する(造り直す)ことを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額です。不動産鑑定士試験では、原価法の出発点として最も基本的な概念であり、直接法間接法という2つの求め方を理解することが必要です。再調達原価から減価修正を行うことで、積算価格が求められます。

再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


再調達原価の基本的な考え方

「再び調達する」とは

再調達原価の「再調達」とは、今この瞬間に、対象不動産をもう一度新しく造り直すとしたら、いくらかかるかという仮定的な考え方です。

例えば、築20年のRC造マンションを鑑定評価する場合、「このマンションを今の建設費で新築するとしたら、いくら必要か」を計算します。これが再調達原価です。

再調達原価は「過去に実際にかかった費用」ではなく、価格時点(鑑定評価の基準日)における費用である点が重要です。20年前に3億円で建設されたマンションでも、建設費が上昇していれば、再調達原価は4億円、5億円になることもあります。

原価法における位置づけ

再調達原価は、原価法の第一ステップです。原価法の算定プロセスは以下の通りです。

ステップ1: 再調達原価を求める ← ここが再調達原価
ステップ2: 減価修正を行う
ステップ3: 積算価格を算定する

算式で表すと以下の通りです。

積算価格 = 再調達原価 − 減価額

再調達原価が正確に求められなければ、積算価格の信頼性も低下します。そのため、再調達原価の算定は原価法の最も重要な基礎作業です。


再調達原価の構成要素

建物の再調達原価の構成

建物の再調達原価は、以下の要素から構成されます。

構成要素 内容 具体例
直接工事費 建物本体の建設に直接必要な費用 材料費、労務費、機械経費
間接工事費 現場管理に必要な費用 現場管理費、仮設工事費
一般管理費等 建設会社の本社経費等 一般管理費、利潤
付帯費用 発注者が直接負担する費用 設計監理料、開発負担金、資金調達費用

これらを合計したものが、建物の再調達原価となります。

建物の再調達原価 = 直接工事費 + 間接工事費 + 一般管理費等 + 付帯費用

付帯費用の重要性

付帯費用は見落としやすい項目ですが、再調達原価の重要な構成要素です。基準では「発注者が直接負担すべき通常の付帯費用」と定めています。

建物の再調達原価は、建設請負により、課税についての特段の条件がないものとして、当該建物を価格時点において新たに建設することを想定して求めるものとし、直接工事費、間接工事費、一般管理費等の通常の建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。

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付帯費用には、以下のようなものが含まれます。

  • 設計監理料: 設計事務所への報酬(工事費の5〜15%程度)
  • 開発負担金: 上下水道の受益者負担金等
  • 資金調達費用: 建設期間中の借入金利息
  • 登録免許税等: 建物の登記に係る税金

再調達原価の求め方: 直接法

直接法とは

直接法とは、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法です。対象不動産の実際の建設費データや、対象不動産を構成する各部分の単価を積み上げて算定します。

直接法は、対象不動産について、使用資材の種別等についてその品等と数量を調査し、対象不動産の存する地域の建設費水準に基づき、直接的に再調達原価を求めるものである。

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直接法の手順

直接法の手順を、段階的に説明します。

ステップ1: 対象建物の仕様の確認

建物の構造、規模、設備仕様等を確認します。

ステップ2: 各部分の数量の算定

躯体(くたい)、仕上げ、設備等、各部分の数量を積算します。

ステップ3: 単価の適用

各部分に適切な単価を適用します。

ステップ4: 合計と付帯費用の加算

各部分の費用を合計し、付帯費用を加算して再調達原価を算定します。

直接法の具体例: SRC造事務所ビル

SRC造15階建事務所ビル(延床面積5,000m2)の再調達原価を直接法で求める例を示します。

【建物概要】
構造: SRC造15階建
用途: 事務所
延床面積: 5,000m2

【再調達原価の算定】
建設費単価: 350,000円/m2

直接工事費 = 350,000円/m2 × 5,000m2 = 17億5,000万円
設計監理料(8%)               =  1億4,000万円
開発負担金等                   =    2,000万円
資金調達費用                   =    3,000万円
─────────────────────────────
再調達原価合計                 = 19億4,000万円

このように、建設費単価 × 延床面積で建設費の総額を求め、これに付帯費用を加算して再調達原価を算出します。

直接法のメリットと限界

メリット 限界
精度が高い: 実際のデータに基づくため正確性が高い データの入手: 建設費の詳細データが必要
根拠が明確: 各構成要素の積み上げなので説明力がある 専門知識: 建設コストに関する専門知識が必要
対象不動産に即した算定: 個別の仕様を反映できる 手間: 詳細な数量積算に時間を要する

再調達原価の求め方: 間接法

間接法とは

間接法とは、対象不動産と類似の不動産の建設費等を基礎として、間接的に再調達原価を求める方法です。対象不動産の直接的なデータが入手困難な場合に用いられます。

間接法は、対象不動産について、直接的に再調達原価を求めることが困難な場合に、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求めるものである。

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間接法の手順

間接法では、以下の手順で再調達原価を求めます。

ステップ1: 類似不動産の選定

対象不動産と構造・規模・用途が類似する建物の建設事例を選定します。

ステップ2: 類似不動産の建設費の把握

選定した類似不動産の建設費データを把握します。

ステップ3: 補正・修正

類似不動産と対象不動産との間の品等の差異規模の違い地域的な建設費の差等について補正を行います。

ステップ4: 再調達原価の算定

補正後の単価を対象不動産に適用して、再調達原価を算定します。

間接法の具体例

対象不動産がRC造5階建マンション(延床面積2,000m2)で、直接的な建設費データが入手できない場合の間接法を示します。

【類似建物の事例】
類似建物: RC造5階建マンション(延床面積2,500m2)
建設費: 6億2,500万円(単価: 250,000円/m2)
建設時期: 2年前

【補正・修正】
時点修正: 建設費指数の上昇 +8% → 250,000円 × 1.08 = 270,000円/m2
品等補正: 仕上げグレードの違い +5% → 270,000円 × 1.05 = 283,500円/m2
規模補正: 規模が小さい分の割高 +3% → 283,500円 × 1.03 = 292,005円/m2
≒ 292,000円/m2

【再調達原価の算定】
建設費: 292,000円/m2 × 2,000m2 = 5億8,400万円
付帯費用(10%)                =   5,840万円
─────────────────────────────
再調達原価合計                 = 6億4,240万円

間接法のメリットと限界

メリット 限界
データ不足でも適用可能: 類似事例から推定できる 精度: 補正の妥当性に依存し、直接法より精度が低い
実務での汎用性: 多くの案件に適用できる 類似事例: 適切な類似事例の選定が前提
効率性: 詳細な数量積算が不要 補正の判断: 品等補正等に専門的判断が必要

直接法と間接法の使い分け

適用場面の比較

状況 適用すべき方法 理由
建設費の明細が入手可能 直接法 精度の高い算定が可能
新築直後の建物 直接法 実際の建設費を基礎にできる
築年数が古く建設費不明 間接法 類似建物の事例から推定
類似建物の事例が豊富 間接法 市場の建設費水準を反映

両方法の併用

鑑定評価基準では、直接法と間接法の併用が推奨されています。

再調達原価は、直接法及び間接法を適用して求めるものとする。再調達原価を求めるに当たっては、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の建設費又は同一需給圏内の代替競争不動産の建設費等の把握に努めなければならない。

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直接法で求めた再調達原価を間接法で検証する、あるいは間接法で求めた再調達原価を直接法のデータで補完するなど、相互に検証することで精度の向上を図ります。


土地の再調達原価

土地への原価法の適用

土地に原価法を適用する場合の再調達原価は、建物とは異なるアプローチで求められます。

土地についての再調達原価は、その素地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。

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土地の再調達原価 = 素地の標準的な取得原価 + 標準的な造成費 + 付帯費用

土地の再調達原価の具体例

造成地の再調達原価の算定例を示します。

【対象地】
造成宅地: 面積200m2

【再調達原価の算定】
素地(原野)の取得原価: 50,000円/m2 × 200m2 = 1,000万円
造成費: 30,000円/m2 × 200m2             =   600万円
付帯費用(登記費用、開発許可費用等)     =   100万円
─────────────────────────────
土地の再調達原価                         = 1,700万円

土地への適用の限界

既成市街地の土地については、素地の標準的な取得原価や造成費を合理的に把握することが困難な場合が多いため、原価法の適用には限界があることが指摘されています。

そのため、既成市街地の更地の鑑定評価では、取引事例比較法が中心的な手法として用いられることが一般的です。


建設費に関する基礎知識

構造別の建設費単価の目安

再調達原価を把握するための参考として、構造別の建設費単価の一般的な目安を示します(実際の建設費は地域・時期・仕様により大きく異なります)。

構造 用途 単価の目安(m2あたり)
SRC造 事務所 30〜40万円
RC造 マンション 25〜35万円
S造 工場・倉庫 15〜25万円
W造 戸建住宅 15〜25万円

これらの単価は、一般的な仕様の場合の目安です。高仕様の建物(免震構造、高級内装等)では、単価が大幅に上昇します。

建設費指数

建設費の時点修正には、建設工事費デフレーター建築費指数などの統計データが用いられます。間接法で過去の建設事例を参照する際に、時点修正としてこれらの指数を活用します。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 再調達原価の定義(「適正な原価の総額」)
  • 直接法と間接法の定義・違い
  • 再調達原価の構成要素(建設費 + 付帯費用
  • 土地の再調達原価の算式(素地の取得原価 + 造成費 + 付帯費用)
  • 直接法と間接法の併用が求められること

論文式試験

  • 再調達原価の意義と原価法における位置づけ
  • 直接法・間接法の内容と適用場面の説明
  • 建物と土地それぞれの再調達原価の求め方
  • 付帯費用の内容と重要性

暗記のポイント

  1. 定義: 「価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額
  2. 求め方: 直接法(実際の費用を積算)と間接法(類似不動産から推定)
  3. 建物の構成: 直接工事費 + 間接工事費 + 一般管理費等 + 付帯費用
  4. 土地の算式: 素地の取得原価 + 造成費 + 付帯費用
  5. 両方法の併用が原則

まとめ

再調達原価は、原価法の出発点となる重要な概念であり、対象不動産を価格時点において再び造り直す場合に必要な適正な原価の総額です。求め方には直接法(実際の費用データの積み上げ)と間接法(類似不動産からの推定)があり、両方法を併用して精度を高めることが求められます。

初学者の方は、まず基本算式(積算価格 = 再調達原価 − 減価額)における再調達原価の位置づけを理解し、建物と土地それぞれの算定方法の違いを押さえておきましょう。次に、減価修正の記事で、再調達原価から減価額を控除するプロセスを学びましょう。