出題の概要

令和2年(2020年)の不動産鑑定士短答式試験・鑑定理論科目は、新型コロナウイルス感染症の影響で試験日程が変更された特殊な年度でした。当初5月に予定されていた試験が延期され、受験生にとっては学習計画の見直しを迫られる年となりました。

不動産鑑定士試験の短答式は、鑑定理論と行政法規の2科目で構成されています。令和2年の鑑定理論科目では、不動産鑑定評価基準の総論を中心とした正統派の出題が目立ち、基準の条文を正確に理解しているかが問われる内容でした。

試験の基本情報

項目 内容
試験年度 令和2年(2020年)
試験科目 鑑定理論、行政法規
試験時間 鑑定理論:2時間
出題形式 五肢択一式
出題数 40問
合格基準 総合点でおおむね7割以上

合格ラインと難易度

令和2年の短答式試験は、全体としては標準的な難易度でした。合格率は約33%前後で推移しており、例年並みの水準です。鑑定理論科目単体では、基準の基本的な条文を正確に把握している受験生にとっては比較的得点しやすい出題構成でした。

年度 合格率(概算) 難易度の印象
平成30年 約33% 標準
令和元年 約33% 標準〜やや難化
令和2年 約33% 標準
令和3年 約32% やや難化

出題分野の分析

基準の章別出題割合

令和2年の鑑定理論40問について、不動産鑑定評価基準の章別に出題割合を整理すると以下のとおりです。

基準の該当箇所 出題数(概算) 比率 特徴
総論第1章(価格の本質) 約2問 約5% 不動産の価格に関する基本事項
総論第2章(種別・類型) 約3問 約8% 不動産の種別と類型の区分
総論第3章(価格形成要因) 約3問 約8% 一般的・地域・個別的要因
総論第4章(諸原則) 約2問 約5% 鑑定評価の諸原則
総論第5章(価格の種類・条件) 約6問 約15% 最多出題分野
総論第6章(地域分析・個別分析) 約4問 約10% 分析手法の理解
総論第7章(鑑定評価の方式) 約6問 約15% 三方式の適用
総論第8章(試算価格の調整) 約2問 約5% 調整の手順と留意点
総論第9章(鑑定評価報告書) 約1問 約3% 報告書の記載事項
各論第1章(価格の各論) 約6問 約15% 種別・類型別の評価
各論第2章(賃料の各論) 約3問 約8% 賃料評価の手法
各論第3章(証券化) 約2問 約5% 証券化対象不動産

出題傾向の特徴

令和2年の出題で特徴的だったのは、総論第5章(価格の種類・対象確定条件)と総論第7章(鑑定評価の方式)からの出題が多かったことです。この2つの章だけで全体の約30%を占めており、基準の中核部分を正確に理解しているかが問われました。

また、各論第1章からの出題が約15%と一定の比率を占めており、不動産の種別・類型ごとの評価手法についても問われています。不動産の種別に応じた評価方法の違いは、令和2年に限らず毎年出題される重要分野です。


頻出論点の解説

価格の種類

令和2年でも、正常価格を中心とした価格の種類に関する出題が複数問ありました。

正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の4つの価格類型について、それぞれの定義・要件・適用場面の正確な理解が求められています。

価格の種類 出題のポイント
正常価格 「合理的と考えられる条件を満たす市場」の要件を正確に理解しているか
限定価格 市場が相対的に限定される場合の具体例(隣接地の併合等)を把握しているか
特定価格 法令に基づく社会的要請を背景とする場合の適用条件を知っているか
特殊価格 文化財等の一般的に市場性を有しない不動産に限定されることを理解しているか

特に、限定価格と特定価格の適用場面の違いは令和2年でも問われており、受験生が混同しやすい論点として注意が必要です。

鑑定評価の三方式

鑑定評価の三方式からは、各手法の意義と適用条件を問う出題がありました。

令和2年の特徴として、三方式の併用の意義に関する出題が見られました。基準では三方式の併用を原則としていますが、その理由や適用場面に関する理解が問われています。

最有効使用の判定

最有効使用に関しては、判定の4要件を正確に理解しているかが問われました。

  1. 物理的に可能であること
  2. 法的に許容されていること
  3. 経済的に合理的であること
  4. 使用収益が最も高い使用であること

これら4要件を全て満たす使用が最有効使用として判定されます。令和2年では、建物及びその敷地における最有効使用の判定に関する出題があり、既存建物の用途と更地としての最有効使用が異なる場合の取扱いが問われました。

対象確定条件

対象確定条件に関する出題も令和2年の特徴的な論点です。

  • 未竣工建物等の鑑定評価における想定上の条件
  • 独立鑑定評価・部分鑑定評価の区別
  • 対象不動産の確定に関する基本的な考え方

対象確定条件は、鑑定評価の前提となる重要事項であり、条件の種類と適用場面の整理が得点のカギとなります。

地域分析・個別分析

地域分析に関しては、以下の論点が出題されました。

  • 近隣地域と類似地域の定義と関係
  • 同一需給圏の考え方
  • 個別的要因の分析手法
  • 地域要因と個別的要因の違い

特に、近隣地域の範囲の判定は実務的にも重要な論点であり、短答式試験でも繰り返し出題される分野です。

各論からの出題

各論第1章からは、以下の不動産類型に関する出題がありました。

  • 更地の鑑定評価:適用手法の選択と留意点
  • 建付地の鑑定評価:最有効使用との関係
  • 借地権の鑑定評価:借地権価格の求め方
  • 区分所有建物:専有部分と共用部分の取扱い

誤りやすい選択肢のパターン

パターン1:義務規定と裁量規定のすり替え

令和2年の出題で多く見られたのが、「しなければならない」と「することができる」の使い分けを問うパターンです。

基準の原文 ひっかけの手口
「しなければならない」(義務) 「することができる」(裁量)に変更
「することができる」(裁量) 「しなければならない」(義務)に変更
「原則として」(例外あり) 「必ず」「常に」に変更

このパターンへの対策としては、基準の条文を読む際に義務規定か裁量規定かを意識して暗記することが有効です。

パターン2:適用場面の入れ替え

ある手法や概念の説明を、本来とは異なる場面に当てはめて出題するパターンです。

  • 正常価格の定義文を限定価格の説明として使用
  • 原価法の適用場面に収益還元法の説明を当てはめる
  • 新規賃料の求め方を継続賃料の文脈で出題

このパターンでは、各概念の適用場面を正確に区別できているかが試されます。価格の種類であれば、それぞれの適用場面を具体例とセットで覚えることが重要です。

パターン3:条件の一部省略

基準に定められている要件の一部を省略して、不完全な記述を正しいように見せかけるパターンです。

  • 最有効使用の4要件のうち1つを省略
  • 取引事例の選択要件から一部の要件を除外
  • 鑑定評価の手順の一部を飛ばして記述

このパターンには、要件や手順を「数」とセットで暗記することで対応できます。「最有効使用の判定要件は4つ」「取引事例の選択要件は5つ」のように数を押さえておけば、省略に気づきやすくなります。

パターン4:原則と例外の逆転

基準で例外的に認められている取扱いを原則として記述するパターンです。

  • 三方式の併用が原則であるのに、「1つの手法のみを適用すればよい」と記述
  • 対象確定条件の設定が限定的な場面で認められるのに、「常に設定すべき」と記述

このパターンでは、基準の「ただし書き」や「例外規定」に注目した学習が効果的です。

パターン5:数値・用語の微妙な変更

基準で使われている用語を似た別の用語にすり替えるパターンです。

基準の用語 すり替えの例
「合理的と考えられる条件」 「最適と考えられる条件」
「市場価値」 「取引価格」
「適正な価格」 「公正な価格」

基準の条文に使われているキーワードを正確に暗記することが、この種のひっかけを見抜く最善の対策です。


試験での出題ポイント

令和2年から読み取れる出題傾向

不動産鑑定士の短答式試験において、令和2年の出題から以下の傾向が読み取れます。

  • 総論第5章と第7章が出題の中心:この2章だけで約30%を占めており、最重点分野
  • 基準の条文の正確な暗記が不可欠:文言の微妙なすり替えを見抜くには正確な暗記が必要
  • 各論からも約15%が出題:各論を軽視すると失点につながる
  • 証券化対象不動産からも出題:DCF法やエンジニアリングレポートに関する知識が必要

学習の優先順位

令和2年の分析を踏まえた学習の優先順位は以下のとおりです。

優先度 分野 学習の目安
最優先 価格の種類(総論第5章) 定義文の完全暗記
最優先 三方式(総論第7章) 各手法の意義・適用条件の暗記
最有効使用(総論第5章) 4要件の暗記と具体例の理解
地域分析・個別分析(総論第6章) 近隣地域・類似地域の定義の暗記
各論第1章(種別・類型別評価) 各類型の評価手法を一覧で整理
各論第2章(賃料評価) 新規賃料・継続賃料の求め方の区別

過去問の活用法

令和2年の過去問を活用する際のポイントを整理します。

  1. まず時間を計って解く:本番と同じ2時間で40問を解き、時間配分を体感する
  2. 選択肢ごとに正誤を分析する:正解以外の選択肢についても、なぜ誤りなのかを基準に戻って確認する
  3. ひっかけのパターンを分類する:上記の5つのパターンに当てはめて、どのタイプのひっかけかを整理する
  4. 他の年度と比較する令和元年平成30年の出題と比較し、共通する論点と変化する論点を把握する

まとめ

令和2年短答式試験・鑑定理論の分析ポイントを整理します。

  • 総論第5章(価格の種類)と第7章(三方式)からの出題が最も多く、全体の約30%を占めた
  • 基準の条文の正確な暗記が合否を分ける最大の要因であり、義務規定と裁量規定の区別、用語のすり替えに注意が必要
  • 各論からも約15%が出題されており、更地・建付地・借地権など各類型の評価手法を一覧で整理しておくことが重要
  • ひっかけのパターンは「義務規定と裁量規定のすり替え」「適用場面の入れ替え」「条件の一部省略」「原則と例外の逆転」「用語の微妙な変更」の5類型に集約される
  • 試験日程の変更があった年度だが、出題内容は基本に忠実であり、基礎をしっかり固めた受験生が有利な試験だった

令和2年の過去問は、基準の基本事項を正確に理解しているかを確認するのに最適な教材です。短答式の鑑定理論対策と併せて活用し、確実な基礎固めを行いましょう。他の年度の過去問(令和元年令和5年令和6年)との比較学習も効果的です。