建物及びその敷地の鑑定評価とは

建物及びその敷地の鑑定評価は、原価法取引事例比較法収益還元法三方式を全て適用するのが原則です。これは、他の不動産の類型と比較して最も多くの手法が適用可能な類型であり、鑑定評価の三方式の理解を総合的に問うのに適しているため、試験でも頻出テーマとなっています。

建物及びその敷地とは

定義

建物及びその敷地とは、建物とその敷地が一体となって構成されている不動産をいいます。

鑑定評価基準では、建物及びその敷地を以下のように分類しています。

類型 内容
自用の建物及びその敷地 所有者が自ら使用している建物とその敷地
貸家及びその敷地 建物を賃貸している場合の建物とその敷地
借地権付建物 借地上に建物を所有している場合
区分所有建物及びその敷地 マンション等の区分所有建物とその敷地利用権

本記事では、最も基本的な「自用の建物及びその敷地」を中心に解説します。区分所有建物の評価については別記事で詳しく取り扱っています。

他の類型との関係

建物及びその敷地は、以下の類型と密接に関連しています。

  • 更地:建物がない状態の土地。建物及びその敷地の土地部分を更地として仮定した場合の価格が基礎となる
  • 建付地:建物及びその敷地のうち土地部分のみを取り出した概念
  • 建物:建物及びその敷地のうち建物部分のみを取り出した概念

評価手法:三方式の適用

建物及びその敷地の鑑定評価では、原価法、取引事例比較法、収益還元法の三方式を全て適用して試算価格を求め、これらを調整して鑑定評価額を決定します。

原価法(積算価格)

原価法は、対象不動産の再調達原価を求め、これに減価修正を行って積算価格を求める手法です。

算定の流れ

積算価格 = 土地の価格 + 建物の再調達原価 - 建物の減価額

土地の価格 = 更地としての鑑定評価額(取引事例比較法等により算定)
建物の再調達原価 = 対象建物を新たに建築した場合に必要となる費用
建物の減価額 = 物理的減価 + 機能的減価 + 経済的減価

原価法適用上の留意点

留意点 内容
土地の価格 建付地としての制約を受けない更地価格を求める
再調達原価 直接法(個別の工事費を積算)と間接法(類似建物の建築費から求める)がある
減価修正 耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用するのが望ましい
付帯費用 設計監理費、開発利益等も再調達原価に含める

原価法の詳細も参考にしてください。

取引事例比較法(比準価格)

取引事例比較法は、類似の不動産の取引事例から比準価格を求める手法です。

建物及びその敷地の比較項目

取引事例の選択にあたっては、以下の点で類似性が求められます。

  • 立地条件:近隣地域または類似地域に所在すること
  • 建物の用途:住宅、事務所、店舗等の用途が類似すること
  • 建物の構造・規模:構造(木造、RC造等)や規模が類似すること
  • 築年数:経過年数が大きく異ならないこと
  • 土地の規模・形状:敷地の面積や形状が類似すること

取引事例比較法の基本を踏まえつつ、土地と建物の両方の要因について比較を行います。

収益還元法(収益価格)

収益還元法は、対象不動産が生み出す純収益を還元して収益価格を求める手法です。

直接還元法

収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
純収益 = 総収益 - 総費用

自用の建物及びその敷地であっても、賃貸を想定した場合の収益性を検討することで収益価格を求めることができます。

DCF法

DCF法により、保有期間中の各期の純収益と保有期間終了時の復帰価格を現在価値に割り引いて求める方法です。

収益価格 = Σ(各期の純収益 ÷ (1+r)^n)+ 復帰価格 ÷ (1+r)^N

投資用不動産や収益物件の場合には、DCF法が特に重要になります。

土地残余法と建物残余法

土地残余法

土地残余法は、建物及びその敷地の純収益から建物に帰属する純収益を控除して、土地に帰属する純収益を求め、これを還元して土地の収益価格を求める手法です。

土地に帰属する純収益 = 総純収益 - 建物に帰属する純収益
建物に帰属する純収益 = 建物価格 × 建物還元利回り + 減価償却費
土地の収益価格 = 土地に帰属する純収益 ÷ 土地還元利回り

土地残余法の適用場面

  • 更地の鑑定評価(建物建築を想定して土地の収益価格を求める場合)
  • 借地権の鑑定評価(借地権に帰属する純収益を求める場合に準用)

建物残余法

建物残余法は、建物及びその敷地の純収益から土地に帰属する純収益を控除して、建物に帰属する純収益を求め、これを還元して建物の収益価格を求める手法です。

建物に帰属する純収益 = 総純収益 - 土地に帰属する純収益
土地に帰属する純収益 = 土地価格 × 土地還元利回り
建物の収益価格 = (建物に帰属する純収益 + 減価償却費) ÷ 建物還元利回り

建物残余法の適用場面

  • 建物の鑑定評価(建物単独の収益価格を求める場合)
  • 建物及びその敷地の内訳価格を求める場合

土地残余法と建物残余法の比較

項目 土地残余法 建物残余法
求めるもの 土地の収益価格 建物の収益価格
控除するもの 建物に帰属する純収益 土地に帰属する純収益
前提条件 建物価格が把握できること 土地価格が把握できること
主な適用場面 更地の評価、借地権の評価 建物の評価、内訳価格の算定
注意点 建物価格の精度が結果に影響 土地価格の精度が結果に影響

最有効使用との関係

現在の建物利用と最有効使用の整合性

建物及びその敷地の評価では、現在の建物利用が最有効使用に合致しているかどうかの判断が極めて重要です。

建物及びその敷地の最有効使用は、現実の建物の用途等を前提とした使用を標準として、敷地の最有効使用との関連を踏まえて判定するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節

3つのパターン

パターン1:現在の建物利用が最有効使用に合致

現在の建物が敷地の最有効使用に沿った利用をしている場合です。

  • 三方式で求めた各試算価格を調整して鑑定評価額を決定
  • 建付減価は生じない
  • 最も単純なケース

パターン2:取壊し最有効使用

現在の建物を取り壊して更地にし、新たに最有効使用に沿った建物を建築する方が合理的と判断される場合です。

建物及びその敷地の価格 = 更地価格 - 取壊し費用等

建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合、すなわち建物の取壊しが最有効使用と認められる場合には、更地としての価格から取壊し費用等を控除して求めるものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第2節

この場合の考慮事項は以下の通りです。

  • 取壊し費用:建物の解体に要する費用
  • 発生材価格:解体により生じる資材の売却価格(控除項目)
  • 立退料等:賃借人がいる場合の立退き費用
  • 工期中の逸失利益:取壊し・建替え期間中の収益機会の喪失

パターン3:建物利用の転換が最有効使用

現在の建物の用途を変更する(コンバージョン)ことが最有効使用と判断される場合です。例えば、事務所ビルを住居に転換する場合などがこれにあたります。

自用と貸家の違い

自用の建物及びその敷地

所有者が自ら使用している建物とその敷地です。

  • 評価の前提:所有者による自己使用
  • 収益還元法の適用:賃貸を想定した収益性の検討
  • 権利の制約:借家権等の権利が付着していない

貸家及びその敷地

建物が賃貸に供されている場合の建物とその敷地です。

  • 評価の前提:借家人の存在を前提とした評価
  • 借家権の影響借家権が付着しているため、自用と比較して制約がある
  • 収益還元法が重視される:実際の賃貸収入に基づく評価

自用と貸家の比較表

比較項目 自用の建物及びその敷地 貸家及びその敷地
使用者 所有者自身 借家人
権利の制約 なし 借家権が付着
収益の把握 想定賃料を算定 実際の賃料収入を把握
価格水準 基準的な水準 一般に自用より低い
重視される手法 三方式を総合的に 収益還元法が中心的
流通性 高い やや制約される場合がある

貸家及びその敷地の価格

貸家及びその敷地の価格は、一般的に自用の建物及びその敷地の価格よりも低くなります。その理由は以下の通りです。

  1. 借家権の存在:借家人の権利が付着しているため、所有者の自由な処分が制約される
  2. 収益性の制約:実際の賃料が正常賃料を下回る場合、収益性が低下する
  3. 管理の負担:賃貸管理に伴う費用と手間が必要
  4. 流通性の制約:借家人付きでの売却は、買主の選択肢を狭める場合がある

三方式の試算価格の調整

調整の考え方

建物及びその敷地の鑑定評価では、三方式で求めた積算価格、比準価格、収益価格を調整して最終的な鑑定評価額を決定します。

鑑定評価の複数の手法の適用により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定を行う。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節

試算価格の特徴と説得力

試算価格 特徴 説得力が高い場面
積算価格 費用性(再調達コスト)を反映 新築・築浅物件、自用の不動産
比準価格 市場性(取引価格)を反映 取引事例が豊富な住宅地域のマンション・戸建
収益価格 収益性(投資価値)を反映 収益物件(オフィスビル、賃貸マンション)

調整のポイント

  • 対象不動産の類型(自用か賃貸か)に応じて重視する試算価格が異なる
  • 各手法の適用過程における精度を検証する
  • 市場の実態(売買市場か賃貸市場か)を踏まえて判断する
  • 三方式の原則を理解した上で、バランスのとれた調整を行う

試験での出題ポイント

建物及びその敷地は、鑑定理論の論文式試験における最頻出テーマの一つです。

出題されやすいポイント

  1. 三方式の適用:原価法・取引事例比較法・収益還元法の具体的な適用手順
  2. 土地残余法と建物残余法の仕組みと使い分け
  3. 最有効使用との関係:取壊し最有効使用の判断基準と算定方法
  4. 自用と貸家の違い:権利の制約、価格水準の差、評価の考え方の違い
  5. 試算価格の調整:各試算価格の説得力の判断と最終的な鑑定評価額の決定

短答式試験での注意点

  • 建物及びその敷地の定義と類型の区分
  • 三方式の適用原則
  • 取壊し最有効使用の場合の価格算定式
  • 土地残余法・建物残余法の基本的な仕組み

論文式試験の答案構成例

  1. 建物及びその敷地の定義と類型の整理
  2. 最有効使用の判定(現在の利用が最有効使用に合致するかの検討)
  3. 三方式の適用 – 原価法による積算価格の算定 – 取引事例比較法による比準価格の算定 – 収益還元法による収益価格の算定
  4. 各試算価格の調整と鑑定評価額の決定
  5. 取壊し最有効使用の場合の特別な取扱い(出題がある場合)

暗記のポイント

  1. 三方式の全適用:建物及びその敷地は三方式を全て適用する典型類型
  2. 取壊し最有効使用:「更地価格 – 取壊し費用等」で算定
  3. 土地残余法:総純収益から建物帰属分を控除して土地の収益価格を求める
  4. 建物残余法:総純収益から土地帰属分を控除して建物の収益価格を求める
  5. 貸家との差異:貸家は借家権が付着するため、一般に自用より価格が低い

まとめ

建物及びその敷地の鑑定評価について、要点を整理します。

  • 建物及びその敷地とは:建物とその敷地が一体として構成されている不動産(自用、貸家、借地権付建物、区分所有建物に分類)
  • 評価の原則:原価法、取引事例比較法、収益還元法の三方式を全て適用
  • 土地残余法・建物残余法:純収益を土地と建物に配分する手法。内訳価格の算定に使用
  • 最有効使用との関係:取壊し最有効使用の場合は「更地価格 – 取壊し費用等」で算定
  • 自用と貸家の違い:貸家は借家権が付着するため価格が低い傾向
  • 試算価格の調整:各試算価格の説得力を判断し、最終的な鑑定評価額を決定

建物及びその敷地は、更地建付地底地借地権借家権区分所有建物など、各論で学ぶ多くの類型と関連する中核的な概念です。三方式の適用方法を体系的に理解し、試験で確実に得点できるようにしましょう。