国際評価基準(IVS)との比較
国際評価基準(IVS)と日本基準の関係
国際評価基準(International Valuation Standards: IVS)は、国際評価基準審議会(IVSC)が策定する不動産等の評価に関する国際的な基準です。不動産鑑定士試験においては、日本の鑑定評価基準との共通点と相違点を理解しておくことが重要です。両者は、市場価値の定義や鑑定評価の三方式に対応する評価アプローチなど、基本的な枠組みを共有していますが、法制度の違いや不動産市場の特性に応じた独自の規定も存在します。
不動産の鑑定評価に関する理論及び実務は、国際的にも通用する普遍性を有するものでなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第1章
国際評価基準(IVS)の概要
IVSの策定主体
IVSは、国際評価基準審議会(International Valuation Standards Council: IVSC)が策定しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 1981年(前身組織) |
| 本部 | ロンドン |
| 目的 | 評価に関する国際的な基準の策定・普及 |
| 対象 | 不動産に限らず、企業価値、金融商品、無形資産等を含む幅広い資産の評価 |
| 法的拘束力 | 各国の法律により異なる。IVS自体に直接の法的拘束力はない |
IVSの構成
IVSは、以下のような構成で整備されています。
- 一般基準(General Standards):評価の目的、評価の基礎(Bases of Value)、評価アプローチ等に関する共通的な規定
- 資産基準(Asset Standards):不動産、動産、企業、金融商品、無形資産等の個別資産に関する規定
- IVS用語集(Glossary):主要な用語の定義
IVSの対象範囲
IVSは、不動産に限定されず、あらゆる種類の資産の評価に適用される包括的な基準です。この点は、不動産の鑑定評価に特化した日本の基準とは異なります。
- 不動産(Real Property)
- 動産(Personal Property)
- 企業(Business and Business Interests)
- 金融商品(Financial Instruments)
- 無形資産(Intangible Assets)
市場価値の定義の比較
IVSにおける市場価値
IVSにおける市場価値(Market Value)は、以下のように定義されています。
市場価値とは、適切なマーケティングが行われた上で、知識を持つ売り手と知識を持つ買い手が、各々利己的に行動し、慎重にかつ強制されることなく取引を行う場合に、評価基準日時点において、資産が交換されるであろう見積金額をいう、とされています。
日本基準における正常価格
日本の鑑定評価基準における正常価格は、以下のように定義されています。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
両者の比較
| 比較項目 | IVS(市場価値) | 日本基準(正常価格) |
|---|---|---|
| 基本概念 | 公開市場での交換価値 | 合理的市場での市場価値 |
| 当事者の前提 | 知識ある売り手・買い手 | 合理的な条件を満たす市場 |
| 強制の排除 | 明示的に強制なしを条件 | 「合理的」に含意 |
| マーケティング | 適切なマーケティングを前提 | 明示的な規定なし |
| 用語 | Market Value | 正常価格(市場価値を表示) |
両者は表現は異なりますが、基本的な概念は同一です。すなわち、合理的な当事者が自由な市場において取引するとした場合に成立するであろう価格という点で共通しています。
評価アプローチの対応関係
IVSの3つのアプローチ
IVSでは、以下の3つの評価アプローチ(Valuation Approaches)が規定されています。
| IVSのアプローチ | 概要 |
|---|---|
| マーケット・アプローチ(Market Approach) | 市場における類似資産の取引価格等と比較して価値を求める |
| インカム・アプローチ(Income Approach) | 将来の収益(キャッシュフロー)を現在価値に割り引いて価値を求める |
| コスト・アプローチ(Cost Approach) | 資産の再調達原価から減価を控除して価値を求める |
日本基準の三方式との対応
日本の鑑定評価基準における鑑定評価の三方式は、IVSの3つのアプローチと以下のように対応しています。
両者は、3つの異なる視点から価値にアプローチするという基本的な枠組みを共有しています。この三方式(三アプローチ)の体系は、世界的に共通する評価の基本原理です。
アプローチの違い
ただし、細部においてはいくつかの違いがあります。
- IVSでは3つのアプローチを資産の種類を問わず共通的に規定しているのに対し、日本基準では不動産に特化した手法として規定
- IVSではインカム・アプローチにおいてDCF法を中心的な手法として位置づけているのに対し、日本基準では直接還元法とDCF法を並列的に規定
- 日本基準特有の手法として、開発法(大規模な素地の評価等に用いる手法)がある
その他の主要な相違点
評価の基礎(Bases of Value)
IVSでは、市場価値以外にも複数の評価の基礎(Bases of Value)が規定されています。
| IVSの評価の基礎 | 概要 | 日本基準の対応概念 |
|---|---|---|
| Market Value | 公開市場での交換価値 | 正常価格 |
| Market Rent | 市場賃料 | 正常賃料 |
| Equitable Value | 特定当事者間の公正な価値 | 限定価格に近い |
| Investment Value | 特定の投資家にとっての価値 | 特定価格に近い |
| Synergistic Value | 複数資産の結合による付加的価値 | 限定価格の一部に対応 |
| Liquidation Value | 清算を前提とした価値 | 特定価格の一部に対応 |
日本基準の価格の4類型(正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格)とIVSの評価の基礎は、完全に一対一で対応するわけではありませんが、概念的には類似する部分が多くあります。
最有効使用の概念
最有効使用(Highest and Best Use)の概念は、IVSと日本基準で共通して重要視されています。
IVSでは、最有効使用とは、物理的に可能で、法的に許容され、財務的に実現可能で、最大の価値をもたらす使用方法とされています。
日本基準でも、最有効使用は鑑定評価の基本概念として位置づけられています。
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
両者の概念は、表現は異なりますが本質的には同一です。
報告書の要件
IVSと日本基準の双方で、評価報告書に記載すべき事項が規定されていますが、その詳細度や必須項目には差異があります。
- IVSでは、報告書の最低限の記載事項を規定し、各国の規制に委ねる部分が大きい
- 日本基準では、鑑定評価報告書の記載事項がより詳細に規定されている
日本基準の独自性
規準の制度
日本基準特有の制度として、地価公示との規準があります。これは、公示区域内の土地について正常価格を求める場合に、公示価格との均衡を求めるものであり、IVSには対応する規定がありません。
不動産の類型別評価
日本基準では、不動産の類型(更地・建付地・借地権・底地等)ごとに詳細な評価方法が規定されています。IVSでは、このような類型別の詳細な規定は設けられておらず、各国の法制度に委ねています。
価格形成要因の体系
日本基準における価格形成要因の体系(一般的要因・地域要因・個別的要因)は、IVSにも類似の概念がありますが、日本基準ほど詳細に分類・列挙されていません。
国際化の動向と影響
不動産市場のグローバル化
不動産投資のグローバル化に伴い、異なる国の評価基準の整合性が重要な課題となっています。
- 海外投資家が日本の不動産を取得する際、IVSに準拠した評価が求められることがある
- 日本の不動産鑑定士が海外の不動産を評価する場面も増加
- クロスボーダー取引における評価の比較可能性の確保
日本基準のIVSへの対応
日本の鑑定評価基準は、IVSとの整合性を意識して改正が行われてきました。
- 平成14年改正でDCF法が明文化された背景には、国際的な評価手法との整合性の確保がある
- 証券化対象不動産の評価に関する規定の整備も、国際的な投資家の要請を踏まえたもの
- 今後も、IVSの改定に対応した日本基準の見直しが行われる可能性がある
各国の評価基準
IVSのほか、各国には固有の評価基準が存在します。
| 国・地域 | 評価基準 |
|---|---|
| 日本 | 不動産鑑定評価基準 |
| 米国 | USPAP(Uniform Standards of Professional Appraisal Practice) |
| 英国 | Red Book(RICS Valuation – Global Standards) |
| 国際 | IVS(International Valuation Standards) |
各国の基準は、IVSの影響を受けつつも、自国の法制度や不動産市場の特性を反映した独自の規定を持っています。
試験での出題ポイント
短答式試験
- IVSの3つの評価アプローチと日本基準の三方式の対応関係
- IVSにおける市場価値と日本基準の正常価格の共通点
- IVSの策定主体(IVSC)に関する基本事項
- 日本基準に特有の制度(規準、類型別評価等)の理解
論文式試験
- IVSと日本基準の共通点・相違点を体系的に論述する問題
- 不動産評価の国際化が鑑定評価制度に与える影響を論じる問題
- 市場価値と正常価格の概念の比較を求める問題
- 評価アプローチ(三方式)の普遍性を論じる問題
暗記のポイント
- IVS:国際評価基準審議会(IVSC)が策定。不動産に限らず幅広い資産を対象
- 3つのアプローチ:マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチ
- 対応関係:マーケット=比較方式、インカム=収益方式、コスト=原価方式
- 市場価値 ≒ 正常価格:基本概念は共通。表現と細部に差異
- 日本基準の独自性:規準の制度、類型別評価、価格の4類型
まとめ
国際評価基準(IVS)と日本の鑑定評価基準は、市場価値(正常価格)の概念や3つの評価アプローチ(三方式)など、基本的な枠組みを共有しています。一方で、IVSが不動産に限らない包括的な基準であるのに対し、日本基準は不動産に特化した詳細な規定を持つ点に違いがあります。不動産投資のグローバル化に伴い、両者の整合性はますます重要になっています。関連する論点として、鑑定評価の三方式の体系や正常価格の概念もあわせて理解を深めましょう。