不動産の類型と評価手法の対応まとめ
類型と評価手法の対応を体系的に整理する意義
不動産鑑定士試験では、不動産の類型に応じてどの評価手法を適用すべきかを正確に把握していることが求められます。鑑定評価基準の各論第1章は、各類型の不動産について適用すべき手法を個別に規定していますが、これを一覧表形式で横断的に整理しておくと、試験での素早い判断と正確な論述に直結します。
鑑定評価の三方式は、全ての不動産に同じように適用できるわけではありません。対象不動産の類型や市場特性によって、適用可能な手法の範囲や各手法の説得力が大きく異なります。本記事では、主要な類型ごとに適用される評価手法を整理し、各手法が重視される理由を解説します。
宅地の類型と評価手法の対応一覧
全体一覧表
不動産の種別と類型のうち、宅地に関する類型と評価手法の対応関係を一覧表にまとめます。
| 類型 | 原価法 | 取引事例比較法 | 収益還元法 | 開発法 | その他 | 最重視手法 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 更地 | △ | ◎ | ○ | ○ | ― | 取引事例比較法 |
| 建付地 | ◎ | ○ | ○ | △ | ― | 原価法 |
| 借地権 | △ | ○ | ○ | △ | 割合法 | 状況により異なる |
| 底地 | △ | ○ | ◎ | ― | 割合法 | 収益還元法 |
| 区分所有建物及びその敷地 | ○ | ◎ | ○ | ― | ― | 取引事例比較法 |
| 借家権 | △ | △ | △ | ― | ― | 限定的 |
| 建物及びその敷地(自用) | ◎ | ○ | ○ | ― | ― | 原価法 |
| 建物及びその敷地(賃貸用) | ○ | ○ | ◎ | ― | ― | 収益還元法 |
◎:最も重視、○:重視、△:参考程度
更地の評価手法
適用される手法
更地は、建物が存在せず借地権等の使用収益を制約する権利が付着していない土地です。宅地としては最も基本的な類型であり、他の類型の評価の基礎にもなります。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 取引事例比較法 | ◎ | 類似の更地の取引事例と比較して比準価格を求める |
| 収益還元法 | ○ | 土地残余法により土地に帰属する純収益を還元、または建物を想定して賃貸想定 |
| 開発法 | ○ | 大規模画地で分譲等を想定して開発後の価格から開発費用を控除 |
| 原価法 | △ | 造成地等の場合に素地価格+造成費で適用可能 |
重視する手法とその理由
更地の評価では取引事例比較法が最も重視されます。その理由は、住宅地・商業地ともに更地の取引事例が比較的豊富に収集でき、市場参加者も取引事例を参考にして価格判断を行うのが一般的だからです。
大規模な画地では、マンション用地や戸建分譲用地としての開発法が有力な手法となります。収益性の高い商業地では、土地残余法による収益還元法も重要です。
建付地の評価手法
適用される手法
建付地は、建物及びその敷地のうち土地のみを評価対象とする場合の類型です。建物が土地に付着しているため、更地とは異なる考慮が必要です。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 原価法 | ◎ | 更地価格を基礎とし、建付増減価を考慮 |
| 取引事例比較法 | ○ | 建物及びその敷地の取引事例から土地に帰属する部分を査定 |
| 収益還元法 | ○ | 建物及びその敷地としての収益から土地に帰属する純収益を還元 |
建付減価の考慮
建付地の評価で特に重要なのが建付減価の考慮です。既存建物が最有効使用に合致しない場合、建物の存在が土地の価値を減少させることがあります。
建付地価格 = 更地価格 − 建付減価額
建付減価が生じる典型例としては、容積率の大幅な未消化、用途の不適合、取壊し費用が必要な老朽建物の存在等があります。
借地権の評価手法
適用される手法
借地権の評価には、三方式に加えて借地権特有の手法が適用されます。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 割合法 | ◎ | 更地価格 × 借地権割合で求める |
| 取引事例比較法 | ○ | 類似の借地権取引事例と比較 |
| 差額還元法 | ○ | 正常地代と実際支払地代の差額を還元 |
| 開発法 | △ | 大規模画地の場合に適用可能 |
割合法と差額還元法の併用
借地権の評価では、実務上割合法が広く用いられますが、借地権割合の査定の妥当性を検証するために差額還元法を併用することが重要です。
【割合法】
借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合
【差額還元法】
差額地代 = 正常実質地代 − 実際実質地代
借地権価格 = 差額地代 / 還元利回り
底地の評価手法
適用される手法
底地は、借地権が設定されている土地について、借地権の価格を控除した部分の価格です。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 収益還元法 | ◎ | 実際に収受している地代収入を還元 |
| 割合法 | ○ | 更地価格 × 底地割合で求める |
| 取引事例比較法 | ○ | 類似の底地取引事例と比較(事例が限られる場合が多い) |
底地と借地権の合計
底地の評価で注意すべき重要なポイントとして、借地権価格と底地価格の合計は、必ずしも更地価格と一致しないという点があります。
借地権価格 + 底地価格 ≦ 更地価格(一般に)
この不一致は、借地権と底地がそれぞれ単独では更地ほどの使い勝手がないこと(市場性の減退)に起因しています。借地権価格と底地価格の合計の論点は、試験で頻出です。
区分所有建物及びその敷地の評価手法
適用される手法
区分所有建物及びその敷地は、マンションの一室のように建物の専有部分と敷地の共有持分からなる不動産です。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 取引事例比較法 | ◎ | 類似のマンション等の取引事例と比較 |
| 原価法 | ○ | 土地持分の価格+建物専有部分の価格で積算 |
| 収益還元法 | ○ | 賃貸用の場合に賃料収入を還元 |
住居用と投資用の違い
| 用途 | 最重視手法 | 理由 |
|---|---|---|
| 住居用(自用) | 取引事例比較法 | 分譲マンション等の取引事例が豊富 |
| 投資用(賃貸) | 収益還元法 | 投資家は賃料利回りで判断する |
農地・林地等の評価手法
農地の評価
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 取引事例比較法 | ◎ | 類似農地の取引事例と比較 |
| 収益還元法 | ○ | 農業収益を還元 |
| 原価法 | △ | 適用困難 |
農地の評価では取引事例比較法が中心ですが、宅地見込地としての転用可能性がある場合は、宅地見込地としての評価も検討します。
林地の評価
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 取引事例比較法 | ◎ | 類似林地の取引事例と比較 |
| 収益還元法 | ○ | 林業収益を還元 |
| 原価法 | △ | 適用困難 |
林地も取引事例比較法が中心です。長伐期の林業経営を前提とした収益還元法の適用も考えられますが、収益予測の困難さから説得力に限界があります。
建物及びその敷地の評価手法
自用の建物及びその敷地
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 原価法 | ◎ | 土地価格+建物価格(再調達原価−減価額)として積算 |
| 取引事例比較法 | ○ | 類似の建物及びその敷地の取引事例と比較 |
| 収益還元法 | ○ | 賃貸を想定した場合の収益価格 |
自用の建物及びその敷地では、原価法と取引事例比較法を中心に評価します。収益還元法は「賃貸想定」として適用しますが、自用物件では市場参加者が収益性よりも居住性を重視するため、規範性はやや低くなります。
賃貸用の建物及びその敷地
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 収益還元法 | ◎ | 賃料収入に基づく純収益を還元 |
| 原価法 | ○ | 土地価格+建物価格として積算 |
| 取引事例比較法 | ○ | 類似の賃貸不動産の取引事例と比較 |
賃貸用の建物及びその敷地では、収益還元法が最も重視されます。投資家や事業者は収益性を基準に投資判断を行うため、収益価格の規範性が高くなります。
証券化対象不動産の評価手法
特則の適用
証券化対象不動産の評価には、鑑定評価基準各論第3章の特則が適用されます。
| 手法 | 適用可否 | 適用の内容 |
|---|---|---|
| 収益還元法(DCF法) | ◎(必須) | 各期のキャッシュフローと復帰価格の現在価値 |
| 収益還元法(直接還元法) | ○(検証) | DCF法の結果を検証するために適用 |
| 原価法 | △ | 積算価格による検証 |
| 取引事例比較法 | △ | 参考として比準価格を求める |
通常の評価との違い
| 項目 | 通常の鑑定評価 | 証券化対象不動産 |
|---|---|---|
| 手法の選択 | 三方式を併用(選択的) | DCF法必須、他は検証手段 |
| 求める価格 | 正常価格(原則) | 特定価格となる場合がある |
| 収支項目 | 標準的な査定 | 詳細な個別査定が必要 |
| 報告書の開示 | 通常の記載 | 各収支項目の明示的な開示 |
証券化対象不動産のDCF法やエンジニアリングレポートの活用は、各論第3章特有の重要論点です。
特殊な類型の評価手法
宅地見込地
宅地見込地は、農地や林地から宅地への転用が見込まれる土地です。
| 手法 | 適用可否 |
|---|---|
| 取引事例比較法 | ○(類似の見込地事例と比較) |
| 開発法 | ◎(宅地化後の価格−造成費−負担金等) |
移行地
移行地は、ある種別から他の種別へ移行しつつある土地です。移行の段階や転換の見込みに応じて適用手法の重視度が変わります。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 各類型と適用可能な手法の組み合わせの正誤判定
- 更地には原価法が適用困難であること(造成地等を除く)
- 証券化対象不動産ではDCF法が必須であること
- 底地の評価で収益還元法が重視される理由
- 借地権価格+底地価格は更地価格と一致しないのが一般的であること
論文式試験
- 特定の類型について適用すべき手法とその理由を論述する問題
- 複数の類型を比較し、手法適用の違いとその根拠を論じる問題
- 自用不動産と賃貸用不動産の評価手法の違いを論述する問題
- 三方式の併用原則と各論第3章の特則の関係を論じる問題
暗記のポイント
- 更地:取引事例比較法を重視、大規模画地は開発法も
- 建付地(自用):原価法を重視、建付減価に注意
- 借地権:割合法と差額還元法を併用
- 底地:収益還元法(地代収入の還元)を重視
- 賃貸用不動産:収益還元法を最重視
- 証券化対象不動産:DCF法が必須、直接還元法で検証
- 農地・林地:取引事例比較法を重視
まとめ
不動産の類型と評価手法の対応関係は、鑑定理論の中核をなす知識です。更地では取引事例比較法、自用の建物及びその敷地では原価法と取引事例比較法、賃貸用不動産では収益還元法、証券化対象不動産ではDCF法がそれぞれ重視されます。ただし、三方式の併用原則に基づき、可能な限り複数の手法を適用して各試算価格の説得力を判定したうえで、鑑定評価額を決定することが原則です。
各類型の詳細な評価方法については、更地の鑑定評価、借地権の鑑定評価、底地の鑑定評価、区分所有建物の鑑定評価の各記事で確認してください。また、三方式と試算価格の調整の全体像では、複数の試算価格からどのように鑑定評価額を決定するかを体系的に解説しています。類型別の重視すべき手法もあわせて参照し、知識の定着を図りましょう。
不動産鑑定士試験の学習を、もっと効率的に。
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短答式の肢別演習・過去問から、論文式のドリル・論証カードまで、体系的に学習を進められます。
- 肢別演習 ― 鑑定理論・行政法規を一問一答で反復
- 過去問演習 ― 年度別・分野別に出題傾向を把握
- ドリル ― 重要用語を穴埋めで定着
- 論証カード ― 論文式で使える論証パターンを暗記