宅地見込地の鑑定評価|転換の判定と評価
宅地見込地の鑑定評価とは
不動産鑑定士試験において頻出の宅地見込地は、農地・林地等から宅地への転換が見込まれる土地のことです。鑑定評価では、転換の判定基準の理解と、開発法の計算手順の習得が最重要事項となります。開発法は宅地見込地の評価において最も特徴的な手法であり、論文式試験でも頻出の論点です。
宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格及び当該宅地見込地について、[中略]開発法による価格を関連づけて決定するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節
宅地見込地とは
定義
宅地見込地とは、農地、林地、原野等で、宅地としての利用が見込まれる土地をいいます。現時点では宅地ではないものの、将来的に宅地に転換される蓋然性が高い土地です。
宅地見込地に該当する土地の例
- 市街化区域内の農地(生産緑地を除く)
- 都市近郊の林地で開発許可が見込まれるもの
- 市街化調整区域内でも、都市計画の変更により市街化区域への編入が見込まれる土地
- 鉄道新駅の設置や道路の開通により、宅地需要が見込まれる農地・林地
- 大規模工場の跡地で住宅開発が見込まれる土地
宅地見込地に該当しない土地の例
宅地見込地との判別が試験で問われることがあります。以下のような土地は宅地見込地には該当しません。
- 農業振興地域の農用地区域内の農地:転用が原則禁止のため、宅地化の見込みがない
- 保安林に指定された林地:転用が制限されており、宅地化は極めて困難
- 市街化調整区域内で編入の見込みがない農地:引き続き農地としての利用が最有効使用
転換の判定基準
宅地見込地として評価するか否かの判定は、鑑定評価において極めて重要です。以下の要素を総合的に勘案して判断します。
転換判定の主な要素
| 判定要素 | 具体的な検討内容 |
|---|---|
| 都市計画上の位置づけ | 市街化区域か調整区域か、用途地域の指定の有無 |
| 法規制の状況 | 農地法の転用許可の可能性、開発許可の見込み |
| 周辺の土地利用動向 | 宅地化の進行度、開発事業の計画 |
| インフラ整備状況 | 道路、上下水道、電気、ガス等の整備 |
| 交通アクセス | 鉄道駅・バス停との距離、幹線道路との接続 |
| 需要の動向 | 住宅需要、商業・工業用地需要の見込み |
熟成度の概念
熟成度とは、宅地見込地が宅地に転換される蓋然性の程度を表す概念です。
- 熟成度が高い:宅地への転換が近い将来に実現する可能性が高い(例:既にインフラが整備され、開発許可も得られる状態)
- 熟成度が低い:宅地への転換までに相当の期間を要する(例:インフラ未整備、法規制が厳しい)
熟成度は、開発法における投下資本収益率(開発スケジュール)やリスクの大きさに反映されます。熟成度が低いほど開発期間が長くなり、不確実性も高まるため、価格は相対的に低くなります。
評価手法:比準価格と開発法
宅地見込地の鑑定評価では、比準価格と開発法による価格を関連づけて鑑定評価額を決定します。
比準価格
宅地見込地の取引事例を収集し、取引事例比較法を適用して求めます。
- 同一需給圏内の宅地見込地の取引事例を収集する
- 事情補正(特に開発業者による仕入れ目的の取引に注意)
- 熟成度の違いを個別的要因として比較する
開発法
開発法は、宅地見込地の評価において最も重要かつ特徴的な手法です。
開発法は、更地又は建付地について、開発後の更地又は建物及びその敷地の価格から、通常の造成費又は建築費及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用並びに発注者が通常期待する利益を控除して、対象不動産の試算価格を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
開発法の計算手順
開発法の計算は、以下の手順で行います。
ステップ1:造成後の宅地価格の想定
開発が完了した後の宅地(更地)の価格を想定します。
- 周辺の宅地の取引事例や公示価格等を参考にする
- 開発後の画地の規模・形状を想定する
- 用途地域等の法規制に基づき、最有効使用を判定する
ステップ2:造成費の算定
宅地見込地を宅地に転換するために必要な費用を算定します。
- 直接工事費:切土・盛土、擁壁工事、道路築造、上下水道敷設等
- 間接工事費:測量費、設計費、許認可手続費用
- その他の費用:開発負担金、公共施設の整備費
ステップ3:発注者利益の算定
開発事業者が通常期待する適正利益を算定します。
- 造成後の宅地価格に対する一定割合として求めることが一般的
- 開発リスクの大きさに応じて利益率を設定する
- 熟成度が低い(リスクが高い)ほど、利益率は高く設定される
ステップ4:試算価格の算定
$$ \text{開発法による価格} = \text{造成後の宅地価格} – \text{造成費} – \text{発注者利益} $$
具体的な計算例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 造成後の宅地価格(1,000m2、@200,000円/m2) | 200,000,000円 |
| (-)造成費(直接工事費+間接工事費) | 30,000,000円 |
| (-)発注者利益(造成後価格の15%) | 30,000,000円 |
| = 開発法による価格 | 140,000,000円 |
| 単価 | 140,000円/m2 |
※上記は簡略化した例です。実際には、開発期間に応じた複利現価への割引計算が必要となります。
開発期間と現価計算
開発に期間を要する場合は、各時点の収入・支出を現在価値に割り引く必要があります。
- 造成後の販売収入は、販売時点から価格時点に割り引く
- 造成費は、支出時点から価格時点に割り引く(または複利計算で価格時点に揃える)
- 割引率は、開発事業のリスクに応じた投下資本収益率を用いる
現価計算を含む具体的な計算例
開発期間2年を想定した、より実務に即した計算例を示します。
| 項目 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 造成後の宅地価格(2,000m2、@150,000円/m2) | 2年後に販売 | 300,000,000円 |
| 有効宅地化率 | 道路・公園等を除いた利用可能面積の割合 | 70% |
| 有効宅地面積 | 2,000m2 × 70% | 1,400m2 |
| 有効宅地の販売収入 | 1,400m2 × @150,000円/m2 | 210,000,000円 |
| 造成費(1年目支出) | 直接工事費+間接工事費 | 40,000,000円 |
| 発注者利益 | 販売収入の15% | 31,500,000円 |
| 投下資本収益率 | 年10%と想定 | ― |
現価計算:
販売収入の現価 = 210,000,000円 ÷ (1.10)^2 = 約173,554,000円
造成費の複利元利合計 = 40,000,000円 × (1.10)^1 = 44,000,000円
発注者利益の現価 = 31,500,000円 ÷ (1.10)^2 = 約26,033,000円
開発法による価格 = 173,554,000円 − 44,000,000円 − 26,033,000円
= 約103,521,000円
単価 = 約103,521,000円 ÷ 2,000m2 = 約51,760円/m2
※有効宅地化率は開発面積のうち実際に販売可能な宅地面積の割合であり、開発規模が大きいほど公共施設用地の負担が増え、有効宅地化率は低下する傾向にあります。
試験での出題ポイント
宅地見込地の鑑定評価は、論文式試験・短答式試験の両方で頻出の論点です。
論文式試験での頻出論点
- 開発法の定義と計算手順:基準の条文を正確に引用しつつ、計算手順を論述できるようにする
- 熟成度の概念と価格への影響:熟成度がどのように価格に反映されるかを論述する
- 比準価格と開発法による価格の調整:両手法の結果が乖離する場合の調整方法
短答式試験での注意点
- 開発法の算式を正確に覚える(造成後価格 – 造成費 – 発注者利益)
- 宅地見込地に適用する手法の組み合わせ(比準価格+開発法)
- 開発法は宅地見込地だけでなく、更地や建付地にも適用可能であること
- 原価法との違いを整理する
暗記のポイント
- 宅地見込地の評価手法:比準価格と開発法による価格を「関連づけて」決定する
- 開発法の算式:造成後の宅地価格 – 造成費 – 発注者利益(現価計算が必要)
- 熟成度の3つの反映先:開発期間、投下資本収益率、発注者利益率
- 開発法の適用対象:宅地見込地、更地、建付地(マンション適地の判定等)
- 有効宅地化率の考慮:道路・公園等の公共施設用地分を控除する
関連する論点
まとめ
宅地見込地の鑑定評価は、農地・林地等から宅地への転換が見込まれる土地を対象とし、比準価格と開発法による価格を関連づけて評価額を決定します。開発法は「造成後の宅地価格 – 造成費 – 発注者利益」という算式で求めますが、開発期間に応じた現価計算も重要です。熟成度の概念は、転換の蓋然性を反映する重要な要素であり、開発リスクや開発期間を通じて価格に影響します。試験対策としては、開発法の計算手順を正確に理解し、具体的な計算問題にも対応できるようにしておくことが大切です。