農地の鑑定評価とは

不動産鑑定士試験において、農地の鑑定評価は各論の重要テーマの一つです。農地の鑑定評価では、取引事例比較法が中心的な手法となりますが、農地の種別によって適用すべき手法や考慮すべき要因が大きく異なります。特に、宅地への転用可能性がある農地では、宅地見込地としての評価が必要となる場合があり、この判定が実務上も試験上も重要な論点です。

農地の鑑定評価は、農地の種別に応じ、当該農地の存する地域の標準的使用及び標準的画地に係る農地の正常価格を基に、各画地の個別的要因を比較考量して行うものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節


農地の種別と特徴

農地は、不動産鑑定評価基準において以下の種別に分類されます。それぞれの特徴を理解することが評価の出発点です。

農地の種別一覧

種別 特徴 主な所在地域 価格形成の特徴
都市近郊農地 都市的利用への転換圧力が高い 市街化調整区域周辺 宅地見込地としての要素が強い
農村農地 農業的利用が主体 農村地域 農業収益が価格の基礎

都市近郊農地の特徴

都市近郊農地は、都市の発展に伴い宅地化の圧力を受けている農地です。以下の特徴があります。

  • 農地としての収益価格よりも、宅地見込地としての価格が上回ることが多い
  • 都市計画法上の区域区分(市街化区域・市街化調整区域)が価格に大きく影響する
  • 市街化区域内の農地は、生産緑地の指定の有無が重要な個別的要因となる
  • 三大都市圏の特定市では、生産緑地以外の市街化区域内農地は宅地並み課税の対象となり、固定資産税負担が大きく異なる

農村農地の特徴

農村農地は、主として農業的利用が行われている地域に存する農地です。

  • 農業収益に基づく収益価格が価格形成の基礎となる
  • 農業生産条件(土壌、日照、灌漑施設、排水条件等)が重要な価格形成要因となる
  • 宅地化の見込みが低いため、純粋な農地としての評価が中心となる
  • 農業振興地域内の農用地区域に指定されている農地は、原則として転用が認められない

農地の鑑定評価手法

取引事例比較法(中心的手法)

農地の評価において取引事例比較法は最も重要な手法です。

適用にあたっての留意点は以下のとおりです。

  • 取引事例の選択:同一需給圏内の類似農地の取引事例を収集する
  • 事情補正:農地取引では縁故関係による取引や、転用目的の取引が混在するため、事情補正が重要
  • 時点修正:農地の価格変動は宅地に比べて緩やかな場合が多い
  • 地域要因・個別的要因の比較:農業生産条件に関する要因を中心に比較する

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

取引事例比較法の詳細はこちら

収益還元法の適用

農村農地では、農業経営に基づく純収益を基に収益価格を求めることが可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 農業収益は天候や農産物価格に左右されるため、平年の純収益を用いる
  • 小作料を基にした賃貸事例から収益価格を求める方法もある
  • 都市近郊農地では、農業収益に基づく収益価格の信頼性は相対的に低い

農地の価格形成要因

農地の評価において考慮すべき価格形成要因は、宅地とは大きく異なります。

地域要因

要因 具体的内容
日照・気温・降水量 農業生産に直接影響する気候条件
土壌の状態 土壌の肥沃度、排水性、保水性
灌漑排水の状態 用水路・排水路の整備状況
農道の整備状況 農業機械の進入可否、幅員
集落との接近性 農家集落からの距離
農産物の市場接近性 出荷先の市場・集荷場との距離

個別的要因

要因 具体的内容
面積・形状 大区画整形田は評価が高い(圃場整備済みか否か)
土壌の質 当該画地固有の土壌条件
灌漑排水の良否 個別の用排水の状態
耕うんの難易 傾斜度、土壌の石礫混入等
農道条件 接面する農道の幅員・舗装状況

宅地見込地としての評価

都市近郊農地で宅地化が見込まれる場合は、宅地見込地の評価手法を適用する必要があります。

  • 比準価格:宅地見込地としての取引事例との比較
  • 開発法:造成後の宅地価格から造成費等を控除して求める

農地法による制約と価格への影響

農地の鑑定評価において、農地法の規制は価格形成に決定的な影響を与えます。

農地法の主な規制

条文 内容 価格への影響
第3条 農地の権利移転の制限 取得者が農業者に限定され、需要が制限される
第4条 農地転用の制限(自己転用) 転用許可の可否が価格を大きく左右する
第5条 転用目的の権利移転の制限 転用許可の見込みにより宅地見込地としての価格が変動する

農地法の制約と価格の関係

  • 農地法第3条の制限により、農地としての取引は農業者間に限られ、需要が限定的になる
  • 転用許可が得られる見込みがある農地は、農地としての価格を大幅に上回る価格が形成される
  • 農業振興地域内の農用地区域に指定された農地は、原則として転用が認められず、価格が低位にとどまる
  • 生産緑地に指定されている農地は、指定解除まで転用が制限される一方、固定資産税が農地課税となる

具体例:市街化区域内農地500m2の評価

以下は、市街化区域内に所在する農地(500m2)の評価の考え方を示したケーススタディです。

項目 内容
所在 都市近郊(市街化区域内、第一種住居地域)
面積 500m2
生産緑地指定 なし
周辺の状況 三方が宅地に囲まれ、前面に幅員6mの公道
周辺宅地の地価水準 200,000円/m2

この農地は、宅地見込地として評価するのが適切です。

評価手法 試算価格 考え方
比準価格 150,000円/m2 類似の宅地見込地の取引事例と比較
開発法による価格 140,000円/m2 周辺宅地価格200,000円/m2 – 造成費30,000円/m2 – 発注者利益30,000円/m2

農地としての収益価格(農業収益ベース)は数千円/m2程度にとどまり、宅地見込地としての価格と大きく乖離します。このことが、市街化区域内の農地が宅地見込地として評価される根拠です。


農地転用の可能性と価格形成

農地の価格は、転用の可能性(熟成度)に応じて大きく変動します。

転用可能性の判定要素

  • 都市計画上の位置づけ:市街化区域内か市街化調整区域内か
  • 農業振興地域の指定:農用地区域に指定されているか
  • 周辺の土地利用状況:宅地化の進行度合い
  • 道路等のインフラ整備状況:上下水道、ガス等の整備状況
  • 農業委員会の転用許可の方針:過去の許可実績

価格の段階的構造

農地から宅地への転換過程における価格の段階的構造は以下のとおりです。この段階的構造を理解することは、不動産鑑定士試験の論述にも直結します。

段階 価格の性格 価格水準の目安(例)
1. 純粋な農地価格 農業収益のみに基づく価格 2,000〜5,000円/m2
2. 転用期待を含む農地価格 将来の転用可能性を反映した価格 10,000〜30,000円/m2
3. 宅地見込地価格 転用が相当程度見込まれる段階の価格 50,000〜150,000円/m2
4. 宅地価格 転用完了後の価格 100,000〜300,000円/m2

※上記は地方都市の郊外を想定した概数であり、実際の価格は地域の需給環境により大きく異なります。

この段階的構造は、熟成度の概念と密接に関連します。熟成度とは、宅地見込地が宅地に転換される蓋然性の程度を表す概念です。熟成度が高まるほど、価格は宅地価格に近づきます。

生産緑地制度と農地評価

生産緑地法に基づく生産緑地は、農地評価において特に重要な制度です。

項目 内容
指定要件 市街化区域内の農地で、面積500m2以上(2022年改正で300m2以上に緩和)
行為制限 農地以外への転用が原則禁止
固定資産税 農地課税(宅地並み課税より大幅に低い)
指定解除 指定から30年経過(特定生産緑地は10年延長)後、または主たる従事者の死亡・故障
買取り申出 指定解除事由に該当する場合、市町村長に買取り申出が可能

生産緑地の2022年問題(指定から30年を迎える生産緑地が大量に発生)は、都市近郊の農地・宅地市場に大きな影響を与える可能性があるとして注目されました。鑑定評価でも、生産緑地の指定状況とその解除可能性は価格に影響する重要な要因として考慮されます。


試験での出題ポイント

農地の鑑定評価に関して、試験で特に問われやすいポイントを整理します。

論文式試験での頻出論点

  • 農地の種別ごとの評価手法の違い:都市近郊農地と農村農地で適用する手法がどう異なるかを論述できるようにする
  • 農地法の制約と価格形成の関係:法規制が価格にどのような影響を与えるかの論述
  • 宅地見込地との境界判定:どの段階で農地から宅地見込地として評価すべきかの判断基準

短答式試験での注意点

  • 農地の種別の分類を正確に覚える
  • 農地法第3条・第4条・第5条の規制内容の区別
  • 取引事例比較法が中心的手法であることの理解
  • 生産緑地法の基礎的な仕組み(面積要件、行為制限、指定解除)
  • 市街化区域内農地と市街化調整区域内農地の評価の違い

暗記のポイント

  1. 農地の種別:都市近郊農地、農村農地の2種別
  2. 農地法の3つの柱:第3条(権利移転制限)、第4条(自己転用)、第5条(転用目的の権利移転)
  3. 価格の段階的構造:農地価格 → 転用期待農地価格 → 宅地見込地価格 → 宅地価格
  4. 生産緑地の面積要件:300m2以上(2022年改正後)
  5. 鑑定評価基準の条文:「農地の種別に応じ」「標準的使用及び標準的画地に係る農地の正常価格を基に」

他の論点との関連

農地の評価は、以下の論点と組み合わせて出題されることがあります。


まとめ

農地の鑑定評価は、農地の種別に応じて評価手法を使い分けることが重要です。取引事例比較法が中心的手法となりますが、都市近郊農地では宅地見込地としての評価が必要となる場合があり、農村農地では農業収益に基づく収益還元法も適用されます。農地法による転用制限は価格形成に大きな影響を与えるため、法規制の理解は不可欠です。

農地の鑑定評価のポイントは、「種別の判定 → 転用可能性の検討 → 適切な手法の選択」という思考プロセスにあります。試験対策としては、種別ごとの評価手法の違い、農地法の3つの条文の規制内容、そして生産緑地制度の仕組みを体系的に整理しておきましょう。

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