不動産鑑定評価基準とは

不動産鑑定評価基準(以下「基準」)は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づき、国土交通省が定めた不動産鑑定評価の統一的な基準です。不動産鑑定士が鑑定評価を行うにあたって準拠すべきルールであり、不動産鑑定士試験における最重要科目「鑑定理論」の出題根拠でもあります。

基準は、不動産の適正な価格の形成に寄与することを目的としており、鑑定評価の基本的な考え方から具体的な手法、留意事項に至るまでを体系的にまとめたものです。

不動産鑑定士試験では、短答式試験で基準の条文知識が、論文式試験で条文の暗記と趣旨の理解がそれぞれ問われます。基準の全体像を最初に把握することが、効率的な学習の第一歩です。


基準の制定経緯と改正の歴史

基準の全体像を理解するために、その制定の経緯を簡潔に確認しておきましょう。

制定の背景

基準は、昭和39年(1964年)に最初に制定されました。高度経済成長期における不動産取引の活発化に伴い、不動産の適正な価格形成の必要性が高まったことが背景です。「不動産の鑑定評価に関する法律」(昭和38年制定)に基づき、鑑定評価の統一的な基準として整備されました。

主な改正

その後、社会経済情勢の変化に対応して数度の改正が行われています。

改正年 主な内容
平成14年(2002年) 収益還元法の充実(DCF法の明確化)、証券化対象不動産の評価規定の追加
平成19年(2007年) 各論第3章(証券化対象不動産)の大幅な改正
平成26年(2014年) 最新の改正。価格形成要因の見直し、国際評価基準との整合性向上

試験では改正の歴史そのものが出題されることは少ないですが、平成14年改正で収益還元法が重視されるようになった背景は、収益還元法の学習にあたって理解しておくと有益です。


基準の構成:総論と各論

基準は大きく総論各論の2部構成になっています。全体で総論9章+各論3章=計12章の構成です。

総論と各論の関係

総論は鑑定評価に共通する基本的な考え方と手法を定めた部分であり、各論は不動産の種類(類型)ごとに評価方法の詳細を定めた部分です。総論が「原則」、各論が「具体的な適用方法」という関係にあり、両者を一体として学習する必要があります。

区分 内容 試験での位置づけ
総論(第1章〜第9章) 基本概念、価格の種類、評価手法の原則等 短答式・論文式の両方で最重要
各論(第1章〜第3章) 不動産の類型別・賃料別の評価方法 論文式試験(特に演習)で重要

総論の構成

総論は、鑑定評価に共通する基本的な考え方と手法を定めた部分です。以下の9章で構成されています。

  • 第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察 — 不動産とは何か、不動産の価格はどのように形成されるかという根本的な考え方を示しています。不動産の特性(固定性、個別性、永続性等)や、不動産の価格が「一般的要因、地域要因及び個別的要因」の相互作用の結果として形成されることを述べています。
  • 第2章 不動産の種別及び類型 — 評価対象となる不動産をどのように分類するかを定めています。宅地、農地、林地などの「種別」と、更地、建付地、借地権などの「類型」に分けて整理されています。種別と類型の正確な判定は、鑑定評価の出発点です。
  • 第3章 不動産の価格を形成する要因 — 不動産の価格に影響を与える要因を、一般的要因・地域要因・個別的要因の3つに分類して説明しています。例えば、金利水準や税制は一般的要因、街路条件や交通接近条件は地域要因、画地の形状や接面道路は個別的要因に該当します。
  • 第4章 不動産の価格に関する諸原則 — 需要と供給の原則、代替の原則、最有効使用の原則など、不動産の価格形成に関わる基本原則を定めています。特に最有効使用の原則は、鑑定評価全体を貫く最も重要な原則です。
  • 第5章 鑑定評価の基本的事項 — 対象不動産の確定、価格時点の確定、価格の種類(正常価格限定価格特定価格特殊価格)など、鑑定評価の前提条件を定めています。価格の4類型は試験最頻出の論点です。
  • 第6章 地域分析及び個別分析 — 対象不動産の属する地域の分析と、個々の不動産の特性分析の方法を定めています。近隣地域類似地域の概念、標準的使用最有効使用の判定が重要です。
  • 第7章 鑑定評価の方式原価法、取引事例比較法、収益還元法の三方式を中心に、具体的な鑑定評価の手法を定めています。試験では三方式の併用の原則が頻出です。
  • 第8章 鑑定評価の手順 — 鑑定評価を実施する際の具体的な手順を定めています。対象不動産の確認から鑑定評価額の決定、鑑定評価報告書の作成までの流れを示しています。
  • 第9章 鑑定評価報告書 — 鑑定評価の結果をまとめる報告書の記載事項を定めています。鑑定評価報告書は鑑定士の責任を明確にするものであり、記載要件は試験でも出題されます。

各論の構成

各論は、不動産の種類ごとに評価方法の詳細を定めた部分です。

  • 第1章 価格に関する鑑定評価 — 更地、建付地、借地権、底地、建物、建物及びその敷地など、不動産の類型ごとの鑑定評価手法を定めています。総論第7章で示された三方式を、各類型にどのように適用するかが具体的に規定されています。
  • 第2章 賃料に関する鑑定評価新規賃料継続賃料の鑑定評価手法を定めています。新規賃料の4手法(積算法、賃貸事例比較法、収益分析法、企業経営に基づく賃料の算定法)と、継続賃料の4手法(差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法)が規定されています。
  • 第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価 — J-REITや不動産ファンドなど、不動産証券化に関連する鑑定評価の特殊な取扱いを定めています。DCF法の適用が原則とされるなど、通常の鑑定評価とは異なる規定があります。

基準と留意事項の関係

基準本体に加えて、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(以下「留意事項」)が定められています。留意事項は、基準の各条文について、より具体的な解釈や運用方法を示したものです。

区分 性格 試験での出題
基準本体 鑑定評価の原則・大枠を定める 短答式・論文式の両方で出題
留意事項 基準の具体的な解釈・運用方法を示す 主に論文式試験で出題

試験対策上、基準本体と留意事項は一体のものとして学習する必要があります。特に論文式試験では、留意事項の内容まで踏み込んだ出題がなされることがあります。例えば、価格の種類に関する留意事項では、限定価格を求める場面の例示や、特定価格として求めることが適切な場合の具体例が示されており、これらは論文式試験で問われる重要な知識です。


試験での出題傾向

不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定士試験において以下のように出題されます。

短答式試験

短答式試験の「鑑定理論」では、基準の条文内容の正誤を問う問題が出題されます。条文の正確な理解が求められるため、繰り返し肢別演習で定着させることが重要です。

出題頻度の高い分野は以下の通りです。

分野 出題頻度 出題のされ方
価格の種類(第5章) 極めて高い 4類型の定義の正誤判定、具体的事例の分類
三方式(第7章) 極めて高い 各手法の名称・算式・適用場面の正誤
最有効使用(第4章) 高い 最有効使用の判定に関する正誤
価格形成要因(第3章) 高い 要因の分類(一般的/地域/個別的)の正誤
対象確定条件(第5章) 高い 部分鑑定評価、条件設定の正誤
不動産の種別・類型(第2章) 高い 各類型の定義、種別との関係

論文式試験

論文式試験の「鑑定理論(論文)」では、基準の条文を踏まえた論述が求められます。条文の暗記だけでなく、その趣旨や背景を理解したうえで、論理的に記述する能力が問われます。

論文式試験の「鑑定理論(演習)」では、三方式を用いた具体的な価格算定が出題されます。原価法による積算価格、取引事例比較法による比準価格、収益還元法による収益価格をそれぞれ算出し、試算価格の調整を行って鑑定評価額を決定する一連のプロセスが問われます。


学習のポイント

鑑定評価基準を効率的に学習するために、以下のポイントを意識しましょう。

全体像を先に把握する

基準は体系的に構成されています。個別の条文を暗記する前に、まず全体の構造(総論9章+各論3章)を理解することが重要です。全体像が頭に入っていれば、個別の論点がどの位置にあるかを把握でき、学習効率が大幅に向上します。

例えば、「正常価格」を学習する際に、それが総論第5章(鑑定評価の基本的事項)の「価格の種類」に位置することを知っていれば、関連する論点(対象不動産の確定、価格時点等)との関係も自然と理解できます。

定義と趣旨をセットで覚える

基準には多くの専門用語が登場します。用語の定義を覚えるだけでなく、「なぜそのように定義されているのか」という趣旨まで理解することが、特に論文式試験の対策として不可欠です。

例えば、正常価格の定義に「市場性を有する不動産について」というフレーズがありますが、これは「市場性を有しない不動産は特殊価格で評価する」という他の類型との区別の趣旨を含んでいます。

繰り返しの演習で定着させる

基準の内容は、一度読んだだけでは定着しません。肢別演習や過去問を繰り返し解くことで、条文の正確な理解を身につけましょう。短答式試験では基準の条文が「一字一句」のレベルで出題されるため、微妙な言い回しの違いに気づける精度が求められます。

図表で整理する

基準には対比的な概念が多数登場します(正常価格 vs 限定価格、地域要因 vs 個別的要因、新規賃料 vs 継続賃料 など)。これらを比較表で整理しながら学習すると、相互の関係が明確になり、記憶にも定着しやすくなります。


まとめ

不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定士試験の中核をなす最重要科目の出題根拠です。総論で基本的な考え方と手法を、各論で不動産の種類ごとの評価方法を学びます。まずは全体像を把握し、そのうえで各論点を深掘りしていくことが、合格への近道です。

この記事をスタート地点として、各論点の詳細記事もあわせて学習を進めてください。特に出題頻度の高い価格の4類型鑑定評価の三方式は、最優先で学習すべきテーマです。