特定価格が求められる場面

特定価格は、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的のもとで、正常価格の前提となる条件を満たさない場合に成立する価格です。単に当事者の合意による条件設定ではなく、法令に基づく強制的・制度的な要請がある場面で求められます。

不動産鑑定士試験では、特定価格の定義に加えて、具体的にどのような場面で特定価格が求められるのかを問う出題が頻出です。本記事では、代表的な適用場面を事例ごとに解説します。


特定価格の定義

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

特定価格の基本も参考にしてください。

特定価格の成立要件

特定価格が成立するためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。

要件 内容
市場性を有する不動産 市場での取引可能性がある不動産
法令等による社会的要請 法律や制度に基づく評価目的の存在
正常価格の前提条件からの乖離 合理的な市場の条件を満たさない

特定価格が求められる代表的な場面

場面1:民事再生法に基づく評価

民事再生法に基づく再生計画において、不動産の早期売却を前提とした評価を行う場合に特定価格が求められます。

項目 内容
法的根拠 民事再生法
評価の前提 限定された期間内での売却(早期売却)
正常価格との乖離理由 合理的な市場での十分な売却期間が確保されない
価格水準 正常価格より低い

正常価格との違い

正常価格は「合理的な市場で形成されるであろう価格」ですが、民事再生における早期売却では:

  • 売却期間が制限されている(通常の売却活動期間が確保できない)
  • 情報の公開範囲が制限される可能性がある
  • 売り急ぎの事情が内在する

これらの条件は正常価格の前提(合理的な市場)を満たさないため、特定価格となります。

場面2:会社更生法に基づく評価

会社更生法に基づく更生計画における不動産の評価も特定価格の典型例です。

項目 内容
法的根拠 会社更生法
評価の前提 更生手続きの一環としての資産評価
特徴 事業継続を前提とする場合と清算を前提とする場合で異なる

事業継続前提と清算前提

前提 評価の考え方 価格水準
事業継続 事業用不動産としての利用継続を前提 正常価格に近い場合がある
清算 早期処分を前提 正常価格より大幅に低い

場面3:現物出資における評価

会社法に基づく現物出資の際の不動産の評価において、特定価格が求められる場合があります。

項目 内容
法的根拠 会社法第207条等
評価の目的 出資される不動産の価額の相当性を確認
特徴 出資者と会社との関係で市場条件が限定される

場面4:投資法人等の資産取得・譲渡時の評価

投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)に基づき、投資法人が不動産を取得・譲渡する際の鑑定評価では、特定価格が求められる場合があります。

項目 内容
法的根拠 投信法、不動産投資信託の諸規則
評価の前提 投資法人の組入れ(取得)又は払出し(譲渡)を前提
特徴 利害関係者間取引の場合に市場条件が限定される

証券化対象不動産の鑑定評価において、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合には特定価格として求めなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 各論第3章

証券化対象不動産の評価も参考にしてください。

場面5:資産流動化法に基づく評価

資産の流動化に関する法律(SPC法)に基づく特定目的会社による不動産取得時の評価も特定価格の場面です。

項目 内容
法的根拠 資産流動化法
評価の前提 特定目的会社への資産譲渡を前提
特徴 スキームの制約により市場条件が限定される

特定価格と正常価格の関係

乖離の方向

特定価格は正常価格と比較して高い場合も低い場合もあります

場面 特定価格の水準 理由
早期売却前提 正常価格より低い 売却期間の制約
投資採算価値 正常価格より高い場合も低い場合も 投資条件による
現物出資 ケースバイケース 出資条件による

正常価格との差額の意味

特定価格と正常価格の差額は、法令等による条件設定に起因する市場価値との乖離を表します。

特定価格 = 正常価格 ± 法令等の条件に起因する乖離額

この乖離額が生じる原因は以下の通りです。

  • 時間的制約:十分な売却活動期間がない
  • 情報の非対称性:市場情報の公開が制限される
  • 当事者の制限:取引相手が限定される
  • 条件の制約:引渡し条件、契約条件の制限

特定価格と限定価格の区別

特定価格と限定価格は混同されやすいため、明確に区別する必要があります。

項目 特定価格 限定価格
成立原因 法令等の社会的要請 併合・分割等による市場限定
正常価格との関係 前提条件が乖離 同一の市場概念のもとで乖離
増分価値 なし あり
典型例 民事再生、会社更生、証券化 隣接地取得、底地取得
法令の関与 法令に基づく 法令とは無関係
対象不動産 通常の不動産 併合・分割の対象部分

判定の考え方

  • 法令等の社会的要請があるか? → ある場合は特定価格の可能性
  • 併合・分割による増分価値があるか? → ある場合は限定価格の可能性
  • 両方ない場合 → 正常価格

特定価格の鑑定評価における留意事項

鑑定評価書の記載事項

特定価格を求める場合、鑑定評価書には以下の事項を記載する必要があります。

記載事項 内容
価格の種類 特定価格であることを明記
法令等の根拠 どの法令に基づくものかを記載
前提条件 正常価格の前提条件との乖離内容
正常価格との関係 参考として正常価格を併記する場合がある
留意事項 特定価格の性質と利用上の注意

鑑定評価の手順

  1. 依頼目的の確認:法令等の社会的要請の有無を確認
  2. 条件の確認:正常価格の前提条件との乖離を特定
  3. 正常価格の把握:まず正常価格を求める(参考値として)
  4. 条件の反映:法令等の条件を価格に反映
  5. 特定価格の決定:条件を反映した適正な価格として決定

数値例:早期売却前提の特定価格

前提条件

項目 内容
対象不動産 オフィスビル
正常価格 500,000,000円
売却期間 通常12ヶ月 → 3ヶ月に限定
早期売却による減価 10〜20%程度

算定過程

正常価格: 500,000,000円
早期売却に伴う減価率: 15%
減価額: 500,000,000 × 15% = 75,000,000円
特定価格: 500,000,000 − 75,000,000 = 425,000,000円

この減価は以下の要因を反映しています。

  • 売却活動期間の不足による買い手の限定
  • 価格交渉力の低下(売り急ぎが市場に認識される)
  • 情報伝達の不足(十分なマーケティングができない)

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 特定価格の定義に関する正誤判定
  • 特定価格が求められる具体的な場面の選択
  • 特定価格と限定価格の区別
  • 証券化対象不動産における特定価格の位置づけ

論文式試験

  • 特定価格の定義と成立要件を正確に論述
  • 具体的な事例(民事再生法等)における特定価格の適用理由の説明
  • 特定価格と正常価格・限定価格の相互関係の論述
  • 証券化対象不動産の評価における特定価格と正常価格の使い分け

暗記のポイント

  1. 定義のキーワード:「法令等による社会的要請」「正常価格の前提条件を満たさない」
  2. 代表的場面:民事再生法、会社更生法、現物出資、証券化対象不動産
  3. 限定価格との違い:法令等の要請(特定)vs 併合・分割(限定)
  4. 正常価格との関係:前提条件の乖離により、高くも低くもなりうる
  5. 証券化の場面:投資採算価値を表す価格 → 特定価格として求める

まとめ

特定価格は、法令等による社会的要請を背景として、正常価格の前提条件を満たさない場合に求められる価格です。民事再生法・会社更生法に基づく評価、現物出資、証券化対象不動産の評価など、具体的な適用場面を理解しておくことが試験対策の鍵となります。

特定価格と限定価格の区別は試験で繰り返し出題されるテーマです。「法令等の社会的要請」があるかどうかが判定の分水嶺であることを確実に押さえておきましょう。

関連する論点として、特定価格の基本で定義を確認し、価格の4類型の比較で全体像を整理することをお勧めします。