価格等調査と鑑定評価の概要

不動産鑑定士が行う業務は、大きく鑑定評価価格等調査に分けられます。鑑定評価は不動産鑑定評価基準に則った正式な評価であり、鑑定評価書を発行します。一方、価格等調査は鑑定評価基準に則らない価格等の調査であり、より簡易な業務として位置づけられています。

不動産鑑定士試験では、この2つの業務の違いは鑑定評価の制度的な枠組みを理解するうえで欠かせない論点です。両者の違いを正確に把握しておくことが求められます。


鑑定評価とは

鑑定評価の定義

鑑定評価とは、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に則って不動産の経済的価値を判定し、その結果を価額として表示することをいいます。

不動産の鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業であり、不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

鑑定評価の特徴

項目 内容
根拠 不動産鑑定評価基準に完全に準拠
成果物 鑑定評価書(法定書類)
価格の種類 正常価格限定価格特定価格特殊価格
手法の適用 三方式(原価法・取引事例比較法・収益還元法)を併用
法的効力 裁判所・税務署等で公的な証拠資料として認められる
責任 不動産鑑定士が全面的に責任を負う

価格等調査とは

価格等調査の定義

価格等調査とは、不動産鑑定士が不動産の価格又は賃料について意見を述べるものの、鑑定評価基準に則らない調査をいいます。「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」以外の、価格等に関する調査全般を指す広い概念です。

国土交通省が定めた「価格等調査ガイドライン」では、次のように位置づけています。

不動産鑑定士が、不動産鑑定業者の業務として価格等調査を行う場合には、当該価格等調査の目的と範囲に照らし、不動産の鑑定評価に関する法律及び不動産鑑定評価基準等の趣旨を踏まえた適切な調査を行わなければならない。

価格等調査の特徴

項目 内容
根拠 鑑定評価基準に完全には準拠しない
成果物 調査報告書(名称は様々)
調査範囲 依頼者との合意に基づき限定可能
手法の適用 一部の手法のみの適用も可能
法的効力 鑑定評価書に比べて限定的
責任 合意された範囲内で責任を負う

鑑定評価と価格等調査の比較

主要項目の比較表

比較項目 鑑定評価 価格等調査
基準への準拠 完全準拠(必須) 準拠しない(部分的に参考にすることはある)
成果物の名称 鑑定評価書 調査報告書、意見書、簡易査定書等
対象確定条件 基準に従い設定 柔軟に設定可能
手法の適用 三方式の併用が原則 一部手法のみでも可
実地調査 原則として必須 省略・簡略化が可能な場合あり
報酬水準 高い(30〜100万円程度が一般的) 低い(5〜30万円程度)
所要期間 2〜4週間程度 数日〜2週間程度
法的証拠力 高い(裁判等で重視) 限定的

コストと所要期間の具体例

業務 一般的な報酬 所要期間
鑑定評価(一般的な宅地) 30〜50万円 2〜3週間
鑑定評価(大規模商業施設) 100〜300万円 1〜2ヶ月
価格等調査(簡易査定) 5〜15万円 3〜7日
価格等調査(内部評価用) 10〜30万円 1〜2週間

価格等調査が利用される具体的な場面

銀行の担保評価

最も一般的な価格等調査の利用場面は、銀行の担保評価です。

銀行が融資の担保として不動産を評価する際、すべての物件に正式な鑑定評価を行うと、費用と時間が膨大になります。そのため、一定金額以下の融資案件では価格等調査(簡易査定)が広く利用されています。

融資金額の規模 一般的な評価方法
10億円超 鑑定評価(鑑定評価書を取得)
1億〜10億円 鑑定評価または詳細な価格等調査
1億円以下 価格等調査(簡易査定)
5,000万円以下 銀行内部の机上査定(鑑定士は関与しない場合も)

企業の資産評価

企業が保有する不動産の時価評価(会計基準上の減損テスト等)に、価格等調査が利用されるケースが増えています。多数の物件を一括して評価する必要がある場合、全物件について鑑定評価を行うのは現実的ではないため、価格等調査で効率的に対応します。

M&Aにおけるデューデリジェンス

企業買収に伴う不動産の評価でも、初期段階では価格等調査(概算評価) を行い、最終段階で必要な物件のみ鑑定評価を行うというのが一般的な実務です。

相続対策・資産整理

個人の相続対策や資産整理の場面でも、まず価格等調査で大まかな価値を把握し、必要に応じて鑑定評価に進むという段階的アプローチがとられます。


価格等調査ガイドラインの要点

ガイドラインの目的

価格等調査ガイドラインは、国土交通省が策定した価格等調査の品質を確保するための指針です。鑑定評価基準に則らない業務であっても、不動産鑑定士としての専門性と責任に基づいた適切な調査を行うことを求めています。

ガイドラインの主な要求事項

要求事項 内容
調査範囲の明示 依頼者と合意した調査範囲を明確にする
条件設定の明示 鑑定評価基準との乖離点を明示する
成果物への記載 「鑑定評価基準に則った鑑定評価ではない」旨を明記する
利用者の範囲 調査結果を利用できる者の範囲を限定する
記録の保存 調査の過程と根拠を記録・保存する

「鑑定評価」と誤認されないための措置

価格等調査の成果物は、鑑定評価書と誤認されないようにすることが重要です。具体的には以下の措置が求められます。

  • 成果物に「本調査は不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価ではありません」と明記
  • 「鑑定評価書」という名称を使用しない
  • 調査の前提条件・制約条件を明示する
  • 利用目的の限定を記載する

鑑定評価と価格等調査の実務上の使い分け

使い分けの判断基準

実務上、鑑定評価と価格等調査のどちらを選択するかは、以下の基準で判断されます。

判断基準 鑑定評価が適切 価格等調査が適切
金額の重大性 数億円以上の取引 小〜中規模の取引
法的要件 法令で鑑定評価が義務 法的義務なし
第三者への開示 裁判所・投資家等に開示 内部利用のみ
意思決定の重要性 経営上の重要な判断 参考情報として利用
評価精度の要求 高い精度が必要 概算で十分

段階的アプローチの実務例

実務では、まず価格等調査で概算を把握し、必要に応じて鑑定評価に進むという段階的なアプローチが一般的です。

例:企業の遊休不動産の売却検討

ステップ 内容 費用
1. 机上査定 社内での概算把握 0円
2. 価格等調査 鑑定士による簡易評価 10〜20万円
3. 鑑定評価 売却先への提示用の正式評価 40〜60万円

このように、情報の精度とコストのバランスを考慮して段階的に進めることで、効率的な意思決定が可能になります。


鑑定評価が必要とされるケース

以下のケースでは、価格等調査ではなく正式な鑑定評価が必要とされます。

ケース 理由
地価公示・地価調査 法令に基づく公的評価
裁判所の求めによる評価 法的証拠として鑑定評価書が必要
税務上の評価(一定金額以上) 税務署への提出書類として必要
公共事業の用地取得 公正な補償額の算定に必要
上場企業の開示 投資家保護の観点から正式な評価が必要
不動産証券化 投資家保護のため鑑定評価が義務づけ

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 鑑定評価と価格等調査の定義の違いに関する正誤問題
  • 「価格等調査は鑑定評価基準に全く従わなくてよい」→ 誤り(ガイドラインに従う必要あり)
  • 「価格等調査の成果物を鑑定評価書と称することができる」→ 誤り
  • 鑑定評価が義務づけられる場面を問う問題

論文式試験

  • 「鑑定評価と価格等調査の違いについて、制度的な観点から論述せよ」
  • 「価格等調査ガイドラインの意義と内容について述べよ」
  • 「不動産鑑定士の業務の範囲と責任について論じよ」

暗記のポイント

  1. 鑑定評価 = 基準に完全準拠、成果物は「鑑定評価書」
  2. 価格等調査 = 基準に則らない、成果物は「調査報告書」等
  3. 価格等調査は価格等調査ガイドラインに従う必要がある
  4. 成果物に「鑑定評価ではない」旨を明記する義務
  5. 法令に基づく公的評価には鑑定評価が必須

価格等調査の種類と名称

成果物の名称の多様性

価格等調査の成果物は、依頼目的や依頼者に応じてさまざまな名称で呼ばれます。

名称 主な依頼者 内容
調査報告書 金融機関 担保評価のための価格調査
価格意見書 企業・個人 売買の参考とするための価格意見
簡易査定書 金融機関 少額融資案件の簡易的な評価
不動産調査書 企業 M&A等におけるデューデリジェンス
概算評価書 投資ファンド 投資検討段階での概算評価

いずれの場合も、「鑑定評価書」という名称は使用できません。依頼者にとって鑑定評価との違いが明確にわかる名称を使用する必要があります。

調査の範囲の設定例

価格等調査では、依頼者との合意に基づいて調査の範囲を限定できます。具体的には以下のような限定が行われます。

限定の種類 内容 具体例
手法の限定 適用する手法を一部に限定 収益還元法のみ適用
調査範囲の限定 現地調査を簡略化 外観調査のみ(内覧なし)
確認事項の限定 確認する権利関係を限定 登記簿の確認のみ
条件の設定 仮定の条件を付与 更地想定での評価

まとめ

鑑定評価と価格等調査は、ともに不動産鑑定士が行う業務ですが、その根拠・成果物・責任範囲・法的効力において大きく異なります。鑑定評価は基準に完全準拠した正式な評価であり、価格等調査はより柔軟で簡易な業務です。

実務上は、費用・期間・目的に応じて使い分けるのが一般的であり、銀行の担保評価や企業の内部評価では価格等調査が広く利用されています。ただし、裁判や公的評価など、高い法的証拠力が求められる場面では鑑定評価が必須です。

鑑定評価制度の全体像については鑑定評価基準とはを、価格の種類については正常価格価格の類型まとめを参照してください。