価格形成要因の変動予測とは

不動産鑑定士試験において、価格形成要因の変動予測は鑑定理論の重要な論点です。不動産の価格は現在の状態だけでなく、将来の変動に対する予測によっても形成されます。そのため、鑑定評価においては価格形成要因の変動の方向性・程度・速度を的確に予測することが求められます。

鑑定評価基準では、価格形成要因が常に変動する傾向を持つことを明確に述べており、この変動を把握し予測することが適正な鑑定評価の前提となっています。

不動産の価格は、多数の価格形成要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。

― 不動産鑑定評価基準 総論第3章

本記事では、価格形成要因の変動予測の重要性と方法、予測の原則との関係を詳しく解説します。


要因の変動性と鑑定評価

要因は常に変動する

価格形成要因の基本的な性質として、要因自体が常に変動する傾向を持つことが挙げられます。この「常に変動する」という点は、鑑定評価において極めて重要な前提です。

例えば、以下のような変動が起こり得ます。

一般的要因の変動: – 金利の上昇・下降 – 税制の改正 – 人口の増減・高齢化の進展 – 都市計画の変更 – 経済成長率の変動

地域要因の変動: – 新駅・新路線の開設による交通利便性の向上 – 大型商業施設の出店・撤退 – 再開発事業の進行 – 住環境の悪化や改善 – 地域の用途転換

個別的要因の変動: – 建物の経年劣化 – 改修・リノベーションの実施 – 接面道路の拡幅 – 容積率の変更 – 隣接地の利用変化

これらの変動は不動産の価格に影響を与えるため、鑑定評価においては価格時点における現在の要因の状態だけでなく、将来の変動の予測も考慮に入れる必要があります。

変動の3つの側面

価格形成要因の変動を分析するにあたっては、以下の3つの側面から把握する必要があります。

側面 内容
方向性 要因がどの方向に変化するか 地価は上昇か下落か
程度 変化の幅はどの程度か 小幅な上昇か大幅な上昇か
速度 変化はどのくらいの速さで進むか 急激な変化か緩やかな変化か

この3つの側面を総合的に把握することで、変動が不動産の価格に与える影響をより精緻に分析できます。


予測の原則との関係

価格形成要因の変動予測は、鑑定評価基準の総論第4章に規定されている予測の原則と密接に関連しています。

不動産の価格は、その不動産に関する将来の収益性についての予測に基づいて形成される。

― 不動産鑑定評価基準 総論第4章

予測の原則は、不動産の価格が現在の状態の反映であると同時に、将来の予測の反映でもあることを示す原則です。市場参加者は、不動産の将来の価値変動を予測したうえで取引価格を決定するため、予測は価格形成の本質的な要素です。

予測の原則と変動予測の関係

予測の原則と価格形成要因の変動予測は、以下のように関連しています。

  1. 価格形成要因が将来変動する(要因の変動性)
  2. 市場参加者がその変動を予測する(予測の原則)
  3. その予測が現在の価格に反映される(価格形成への影響)
  4. 鑑定評価においても同様の予測を行う必要がある(鑑定評価への要請)

つまり、鑑定評価において価格形成要因の変動予測を行うことは、市場参加者と同様の視点で不動産の価値を判断することに他なりません。


変動予測の方法

一般的要因の変動予測

一般的要因は、経済社会全体に影響を与える要因であるため、その変動予測にはマクロ経済の分析が必要です。

経済的要因の予測:金融政策の動向:金利の見通し、量的緩和の継続・縮小 – 経済成長率:GDP成長率の予測、景気循環の段階 – 物価動向:インフレ率、賃金上昇率 – 為替レート:円高・円安の見通し

社会的要因の予測:人口動態:人口推計(国立社会保障・人口問題研究所等の推計) – 世帯構成の変化:単身世帯の増加、核家族化の進展 – 生活様式の変化:テレワークの定着、消費行動の変化 – 情報化の進展:DX(デジタルトランスフォーメーション)の影響

行政的要因の予測:税制改正の動向:不動産関連税制の変更予定 – 都市計画の方針:大規模な都市計画の変更、規制緩和の動向 – 住宅政策:住宅ローン減税等の施策の動向

一般的要因の変動予測においては、公的機関の経済予測、各種統計データ、政策動向等を参考にしつつ、不動産市場への影響を分析します。

地域要因の変動予測

地域要因の変動予測は、特に地域分析において重要です。地域の将来動向を予測するためには、以下の情報を収集・分析します。

都市計画関連:都市計画マスタープラン:行政の長期的な都市計画の方針 – 用途地域の見直し:用途地域の変更予定 – 再開発計画:市街地再開発事業の計画・進捗 – 都市計画道路の整備:新設道路の計画・着工状況

交通インフラ関連:新駅・新路線の計画:鉄道の延伸・新設の予定 – 道路の新設・拡幅:高速道路の開通予定 – 公共交通の再編:バス路線の変更等

民間開発関連:大型商業施設の出店・撤退計画マンション開発の動向オフィスビルの開発計画工場の進出・撤退情報

地域要因の変動予測においては、確実性の高い情報(都市計画決定済みの事項等)と不確実性の高い情報(構想段階の計画等)を区別して評価することが重要です。

個別的要因の変動予測

個別的要因の変動予測は、対象不動産そのものの将来の変化に関する予測です。

  • 建物の経年劣化の予測:耐用年数、修繕計画
  • 周辺環境の変化の予測:隣接地の開発計画、日影の変化
  • 法規制の変化の予測:容積率の変更、建築制限の変化
  • 収益変動の予測:賃料の改定見通し、空室率の変化

変動予測と鑑定評価手法

価格形成要因の変動予測は、鑑定評価の各手法の適用においても重要な役割を果たします。

取引事例比較法における変動予測

取引事例比較法では、時点修正において価格形成要因の変動を反映します。取引事例の取引時点と価格時点との間に生じた市場の変動を分析し、事例価格を価格時点の水準に修正します。

この時点修正を適切に行うためには、取引時点から価格時点までの要因の変動の方向性と程度を的確に把握する必要があります。

収益還元法における変動予測

収益還元法は、将来の収益予測を基礎とする手法であるため、変動予測の重要性が最も高い手法です。

直接還元法では、標準化された純収益を求める際に、将来の賃料水準や費用水準の変動を考慮します。また、還元利回りの決定にあたっても、将来の成長期待が反映されます。

DCF法では、保有期間中の各年の収益を個別に予測するため、年ごとの賃料変動、空室率の変動、費用の変動等を明示的に予測する必要があります。DCF法は変動予測を最も詳細に反映できる手法であるといえます。

DCF法の収益価格 = Σ(各期の純収益の現在価値)+ 復帰価格の現在価値

各期の純収益の予測には、賃料の変動率、空室率の推移、費用の変動等の予測が組み込まれます。

原価法における変動予測

原価法においても、再調達原価の変動(建築費の上昇・下降)や減価修正における将来の減価の予測が変動予測に関連します。


変動予測の留意点

予測の不確実性

価格形成要因の変動予測は、本質的に不確実性を伴います。将来の経済情勢、政策変更、自然災害等は完全に予測することが不可能であり、鑑定評価における予測も一定の限界があることを認識する必要があります。

合理的な範囲での予測

鑑定評価における変動予測は、合理的に予測可能な範囲で行うべきです。不確実性の高い事象(例:将来の大規模自然災害の発生)を過度に考慮すると、鑑定評価の客観性が損なわれるおそれがあります。

予測にあたっては、以下の点を心がける必要があります。

  • 客観的なデータに基づく予測:統計データ、公的機関の予測等を活用する
  • 確実性の程度に応じた評価:確定的な計画と構想段階の計画を区別する
  • 複数のシナリオの検討:楽観的シナリオ、標準的シナリオ、悲観的シナリオを検討する
  • 予測の前提条件の明示:どのような前提に基づいて予測したかを鑑定評価報告書に明記する

変動の原則との関係

基準に規定されている変動の原則は、価格形成要因の変動予測の理論的基盤です。

不動産の価格は、その価格を形成する要因の変動に伴って変動する。

― 不動産鑑定評価基準 総論第4章

変動の原則は、不動産の価格が静的なものではなく、動的に変動するものであることを示しています。この原則を踏まえて、鑑定評価においては価格時点における要因の状態を的確に把握するとともに、将来の変動の予測を適切に行うことが求められます。


変動予測と市場分析

不動産市場の分析

価格形成要因の変動予測は、不動産市場の分析と密接に関連しています。鑑定評価基準では、鑑定評価を行うにあたって市場の動向を分析することが求められています。

市場分析においては、以下の事項を分析します。

  • 需要動向:取引件数の推移、購入意欲の変化
  • 供給動向:新規供給の見通し、開発計画の動向
  • 価格動向:取引価格の推移、賃料の推移
  • 利回り動向:投資利回りの推移
  • 金融環境:融資条件の変化、投資マネーの動向

これらの市場動向は、価格形成要因の変動が集約的に表れたものであり、市場分析を通じて要因の変動の方向性と程度を把握することができます。

同一需給圏の分析

市場分析を行う際には、対象不動産が属する同一需給圏を適切に設定し、その圏域内の市場動向を分析することが重要です。

同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

同一需給圏の範囲は、不動産の種別・類型によって異なり、住宅地と商業地では市場の範囲が異なります。変動予測にあたっては、この同一需給圏内の動向に着目することが肝要です。


具体的な変動予測の事例

住宅地の変動予測

ある郊外住宅地について変動予測を行う場合の分析例を示します。

プラス要因(価格上昇方向): – 鉄道新駅の開設が決定済み(2年後開業予定) – 駅前に商業施設の出店計画あり – 人口増加傾向(子育て世帯の転入増)

マイナス要因(価格下降方向): – 金利上昇の見通し(住宅ローン負担増) – 周辺の大規模マンション供給計画(供給増) – 少子高齢化の長期的影響

これらのプラス要因とマイナス要因を総合的に勘案し、変動の方向性・程度・速度を予測します。

商業地の変動予測

都心の商業地について変動予測を行う場合の分析例を示します。

プラス要因: – 再開発事業の進行による地域の魅力向上 – インバウンド需要の回復 – オフィス需要の堅調な見通し

マイナス要因: – Eコマースの拡大による店舗需要の減少 – テレワーク定着によるオフィス需要の不透明感 – 大規模ビルの新規供給による競合の激化


試験での出題ポイント

短答式試験

短答式試験では、価格形成要因の変動予測に関して以下の論点が出題されます。

  • 要因自体が常に変動する傾向を持つことの正誤
  • 変動の3つの側面(方向性・程度・速度)
  • 予測の原則との関係
  • 変動の原則の内容
  • 変動予測が鑑定評価の各手法にどのように反映されるか

論文式試験

論文式試験では、以下のような出題が考えられます。

  • 価格形成要因の変動性について述べ、変動予測の重要性を論じる
  • 予測の原則の内容と、鑑定評価における変動予測の方法を論じる
  • 収益還元法(特にDCF法)における変動予測の反映方法を論じる
  • 変動の原則と予測の原則の関係を論じる

暗記のポイント

  1. 要因自体が常に変動する傾向を持つ(基準の明文規定)
  2. 変動の3側面:方向性・程度・速度
  3. 予測の原則:「不動産の価格は将来の収益性についての予測に基づいて形成される」
  4. 変動の原則:「不動産の価格は要因の変動に伴って変動する」
  5. DCF法は変動予測を最も詳細に反映できる手法

まとめ

価格形成要因の変動予測は、鑑定評価において適正な価格を判定するための不可欠の要素です。要因自体が常に変動する傾向を持ち、市場参加者はその変動を予測して取引を行うため、鑑定評価においても合理的な範囲で将来の変動を予測する必要があります。

変動予測は、予測の原則変動の原則といった価格に関する諸原則と理論的に結びついており、収益還元法(特にDCF法)や取引事例比較法の時点修正など、各評価手法の適用においても重要な役割を果たしています。価格形成要因の変動予測の方法を正しく理解し、鑑定評価の精度向上に役立ててください。