移行地とは

不動産鑑定士試験において、移行地は不動産の種別に関する重要な論点です。移行地とは、ある種別の土地から別の種別の土地へと用途が転換しつつある過程にある土地のことをいいます。

例えば、農地が宅地開発の波にさらされて住宅地へと変わりつつある状態や、住宅地であった地域が商業化の進展により商業地へと変貌しつつある状態が、移行地の典型的な例です。

移行地は、現在の利用状態と将来の利用見込みが異なるため、その鑑定評価には独自の考慮が必要です。本記事では、鑑定評価基準における移行地の定義と分類を確認し、評価上のポイントを解説します。


鑑定評価基準における移行地の位置づけ

鑑定評価基準の総論第2章では、不動産の種別について規定しています。種別とは、不動産の有形的利用の態様に基づく分類であり、不動産の概念における有形的利用の側面に対応するものです。

基準では、宅地について以下のように細分しています。

宅地についてはさらに、住宅地、商業地、工業地等に分けられ、その他に移行地がある。

― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第1節

ここで、移行地は宅地の一種として位置づけられていることに注意が必要です。移行地は独立した種別ではなく、宅地の細分類の一つとして扱われています。

種別の体系における位置

不動産の種別の全体像の中で、移行地がどこに位置づけられるかを整理すると以下のようになります。

大分類 細分類
宅地 住宅地、商業地、工業地、移行地
農地 田、畑
林地
見込地 宅地見込地、農地見込地等
その他 池沼、原野等

移行地は宅地の細分類ですが、実際には宅地以外の種別からの移行も含めて広い概念として理解する必要があります。


移行地の具体的な類型

移行地には、用途転換の方向性によってさまざまなパターンがあります。代表的な類型を整理します。

農地から宅地への移行

最も典型的な移行地の例は、農地が宅地へと転換しつつある土地です。都市の郊外において、農地が順次宅地化されていくケースがこれに該当します。

この場合、当該土地は現況では農地として利用されていますが、周辺の宅地化の進展や都市計画上の位置づけの変化により、近い将来に宅地として利用される蓋然性が高い状態にあります。このような土地が宅地見込地と呼ばれることもありますが、移行地と宅地見込地の関係については後述します。

住宅地から商業地への移行

駅前の住宅地域が商業化の進展により、住宅地から商業地へと変化しつつある土地も移行地の一例です。鉄道の新駅開業や大型商業施設の出店などを契機として、住宅地域の一部が商業地域へと移行していくことがあります。

工業地から住宅地への移行

工場の郊外移転や産業構造の変化に伴い、工業地域が住宅地域へと変貌しつつある土地も移行地に該当します。臨海部の旧工業地域がマンション開発により住宅地域に転換しつつあるケースなどが具体例です。

商業地の用途変化

商業地域の中でも、繁華性の程度が変化しつつある地域に存する土地も移行地として捉えることができます。例えば、高度商業地域が衰退して普通商業地域化しつつある場合や、逆に普通商業地域の繁華性が向上しつつある場合です。


移行地と宅地見込地の関係

移行地と混同されやすい概念に宅地見込地があります。両者の関係を正確に理解することが重要です。

宅地見込地とは

宅地見込地とは、農地や林地等が将来宅地化される見込みのある土地のことです。現況は農地や林地であるが、周辺の開発動向や都市計画の状況から、将来的に宅地として利用される蓋然性が認められる土地をいいます。

両者の関係

移行地と宅地見込地は、いずれも用途転換の過程にある土地を指す概念ですが、以下の点で異なります。

項目 移行地 宅地見込地
基準上の位置づけ 宅地の細分類 種別の一つ(見込地)
転換の段階 転換がかなり進んでいる 転換の初期段階
現況利用 新用途への転換が進行中 まだ旧用途の利用が残存
価格形成 転換後の用途の影響が大きい 旧用途と新用途の両面から影響

宅地見込地は、農地等から宅地への転換の比較的初期の段階にある土地であり、移行地は転換がかなり進んだ段階にある土地と理解することができます。ただし、両者の境界は明確ではなく、連続的な概念として捉えるべきです。


移行地の評価のポイント

移行地の鑑定評価においては、通常の宅地とは異なる独自の考慮が必要です。

最有効使用の判定

移行地の評価において最も重要なのは、最有効使用の判定です。移行地は現在の利用と将来の利用が異なる可能性があるため、どの用途を前提として評価すべきかを慎重に判断する必要があります。

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。

― 不動産鑑定評価基準 総論第4章

移行地の最有効使用を判定するにあたっては、以下の事項を総合的に考慮する必要があります。

  • 転換の熟度:用途転換がどの程度進行しているか
  • 周辺地域の動向:周辺の土地利用がどのように変化しているか
  • 法規制の状況:都市計画上の用途地域の指定、開発許可の見通し等
  • 市場の需給状況:転換後の用途に対する需要の有無と程度
  • 転換に要する期間とコスト:用途転換にどの程度の時間と費用がかかるか

地域分析の重要性

移行地の評価では、地域分析が特に重要な意味を持ちます。移行地は地域の変動の最前線に位置する土地であるため、対象不動産が属する地域の動態的な変化を的確に把握することが不可欠です。

地域分析においては、以下の点に特に留意する必要があります。

  • 近隣地域の範囲をどのように画定するか(転換前の地域として見るか、転換後の地域として見るか)
  • 近隣地域の標準的使用をどのように判定するか
  • 類似地域の選定にあたって、転換後の地域として見た場合の比較対象をどのように設定するか

価格形成要因の分析

移行地の価格形成要因の分析においては、以下の要因が特に重要です。

地域要因として考慮すべき事項: – 用途転換の進行度合い – 行政の都市計画方針インフラ整備の状況と見通し – 周辺における開発事業の動向 – 人口動態と需要の変化

個別的要因として考慮すべき事項: – 当該土地の面積・形状が転換後の用途に適しているか – 接面道路の状況(転換後の用途に十分な幅員があるか) – 法規制上の制約(用途地域、建ぺい率、容積率等) – 土壌汚染等の有無(特に工業地からの転換の場合)


移行地の評価手法

移行地の評価に適用される手法は、転換の段階や方向性によって異なります。

取引事例比較法の適用

移行地の取引事例がある場合には、取引事例比較法が適用できます。ただし、移行地は個別性が強く、類似した事例を見つけることが困難な場合が多いため、事例の選択には慎重を期す必要があります。

事例の選択にあたっては、以下の点に留意します。

  • 用途転換の方向性が同じ事例を選択する
  • 転換の進行度合いが類似した事例を選択する
  • 転換後の用途の地域要因が類似した事例を選択する

収益還元法の適用

移行地に収益還元法を適用する場合、現在の収益と将来の収益をどのように見込むかが問題となります。現在の用途による収益は低いが、転換後の用途による収益は高いという状況では、転換に要する期間とコストを考慮したDCF法の適用が有効です。

開発法の適用

農地や林地から宅地への移行地の場合には、開発法の適用が有効です。開発法は、開発完了後の販売価格から開発に要する費用を控除して土地の価格を求める手法であり、宅地見込地や移行地の評価に適した手法です。

移行地の価格 = 転換後の想定価格 − 転換費用 − 発注者利益

移行地と不動産の特性の関係

移行地の存在は、不動産の人文的特性と密接に関連しています。

  • 用途の多様性:土地がさまざまな用途に利用可能であるからこそ、用途転換が生じる
  • 社会的位置の可変性:地理的位置は固定されているが、社会的・経済的な位置づけが変化するからこそ、移行地が発生する
  • 併合及び分割の可能性:移行に際して、土地の併合や分割が行われることがある

特に社会的位置の可変性は、移行地の本質を理解するうえで最も重要な特性です。移行地は、社会的位置の可変性が具体的に現れている場面であるといえます。


試験での出題ポイント

短答式試験

短答式試験では、移行地に関して以下の論点が出題されます。

  • 移行地の定義:用途転換の過程にある土地
  • 種別上の位置づけ:宅地の細分類であること
  • 宅地見込地との区別:見込地は種別の一つであり移行地とは異なる
  • 移行地の具体例の正誤判定
  • 最有効使用との関係:移行地における最有効使用の判定

論文式試験

論文式試験では、以下のような出題が考えられます。

  • 移行地の定義と種別体系における位置づけを述べ、評価上の留意点を論じる
  • 移行地と宅地見込地の関係について、両者の異同を論じる
  • 移行地の評価における最有効使用の判定方法を論じる
  • 移行地の評価に適した手法について論じる

暗記のポイント

  1. 移行地は宅地の細分類の一つ(住宅地、商業地、工業地に並ぶ)
  2. 宅地見込地は種別の一つ(宅地の細分類ではない)
  3. 移行地の評価では最有効使用の判定が特に重要
  4. 移行地の評価手法として開発法が有効な場面がある
  5. 移行地の存在は不動産の社会的位置の可変性と関連する

まとめ

移行地は、ある用途から別の用途へと転換の過程にある土地であり、鑑定評価基準では宅地の細分類の一つとして位置づけられています。移行地の評価においては、転換の熟度や周辺地域の動向を踏まえた最有効使用の判定が特に重要であり、地域分析や価格形成要因の分析にも独自の考慮が必要です。

移行地の理解は、不動産の種別・類型の体系的な理解の一部であり、宅地の細分類地域分析の学習と合わせて理解を深めてください。