底地と借地権の価格配分の考え方
底地と借地権の価格配分の基本
底地と借地権の価格の合計は、更地の価格と必ずしも一致しません。 不動産鑑定士試験において、この価格配分の理論は頻出論点です。一般的に更地の価格のほうが、借地権の正常価格と底地の正常価格の合計よりも大きくなる傾向があり、その差額は権利の分割によるデメリットを経済的に表現したものです。この価格の乖離の理論的根拠を理解することが、鑑定理論の深い理解につながります。
底地とは、宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章
更地・借地権・底地の基本的関係
各概念の定義
まず、更地・借地権・底地の定義を確認します。
| 概念 | 定義 | 特徴 |
|---|---|---|
| 更地 | 建物等の定着物がなく、使用収益を制約する権利が付着していない宅地 | 完全所有権で最も自由な利用が可能 |
| 借地権 | 借地借家法に基づく借地権(建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権) | 土地の利用権 |
| 底地 | 借地権の付着している宅地の所有権 | 土地の所有権だが利用が制約される |
更地に借地権が設定されると、一つの完全所有権が借地権と底地に分割されることになります。理論的には、分割前の更地の価格が分割後の両権利の価格の合計に等しくなるはずですが、実際にはそのようにはなりません。
価格の不一致の概要
更地の価格 > 借地権の正常価格 + 底地の正常価格
この不等式は、鑑定理論における最も重要な命題の一つです。例えば、以下のようなケースが典型的です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 更地の価格 | 100,000,000円 |
| 借地権の正常価格 | 60,000,000円 |
| 底地の正常価格 | 15,000,000円 |
| 合計 | 75,000,000円 |
| 価格の乖離 | 25,000,000円 |
この25,000,000円の差額(価格の乖離)の存在とその理由を説明できることが、鑑定理論の理解度を示す重要な指標です。
価格の乖離が生じる理由
権利分割のデメリット
更地の完全所有権が借地権と底地に分割されると、各権利の市場性が低下し、利用の自由度が制限されることにより、経済的な価値の減損が生じます。
| 要因 | 借地権側への影響 | 底地側への影響 |
|---|---|---|
| 処分の制約 | 譲渡に地主の承諾が必要 | 買手が限定される |
| 利用の制約 | 建物の増改築に制約がある場合 | 自ら使用できない |
| 収益性の制約 | 地代の支払義務 | 地代が低水準に固定化 |
| 市場性の低下 | 完全所有権に比べて流動性が低い | 投資対象としての魅力が低い |
底地の市場性の低さ
価格の乖離が生じる最大の原因は、底地の市場性が極めて低いことにあります。底地には以下のような問題点があります。
- 地代収入が低い:長期の賃貸借関係の中で地代が固定化し、適正な水準を下回っていることが多い
- 地代増額が困難:借地借家法の保護により、賃料増額請求には一定の制約がある
- 完全所有権の回復が困難:借地人の保護が強く、正当事由なく借地権を消滅させることができない
- 買手が限定される:底地を購入する合理的な動機を持つ者が少ない(主に借地権者)
これらの要因により、底地の正常価格は更地価格から借地権価格を控除した理論値よりも大幅に低くなるのが一般的です。
借地権の市場性
一方、借地権は底地に比べて相対的に市場性が高い傾向にあります。特に取引慣行が成熟している大都市圏の商業地域では、借地権単独での取引が活発に行われています。しかし、借地権もまた完全所有権ではないため、以下の制約があります。
- 譲渡に地主の承諾が必要(承諾料の支払い)
- 建物の増改築に制約がある場合がある
- 完全所有権に比べ担保価値が低い
これらの制約は借地権の価格を押し下げる方向に作用しますが、底地ほど大きな市場性の低下は生じない場合が多くなっています。
借地権割合と価格配分
借地権割合の意義
借地権割合とは、更地の価格に対する借地権の価格の割合です。
借地権割合 = 借地権の価格 ÷ 更地の価格
取引慣行が成熟している地域では、慣行的な借地権割合が形成されています。
| 地域 | 借地権割合の目安 |
|---|---|
| 都心商業地域 | 80%~90%程度 |
| 住宅地域(大都市圏) | 60%~70%程度 |
| 住宅地域(郊外) | 40%~60%程度 |
底地割合との関係
底地割合は、更地の価格に対する底地の価格の割合です。
底地割合 = 底地の価格 ÷ 更地の価格
ここで重要なのは、借地権割合と底地割合の合計は100%にならないということです。
借地権割合 + 底地割合 < 100%
例えば、借地権割合が60%、底地割合が15%であれば、合計は75%であり、25%分が価格の乖離として存在します。この乖離分は、権利分割に伴う市場性の低下等の経済的デメリットを反映しています。
地域による乖離の違い
価格の乖離の大きさは、地域によって異なります。
| 地域特性 | 乖離の大きさ | 理由 |
|---|---|---|
| 取引慣行が成熟した地域 | 比較的小さい | 借地権・底地とも市場性が確保される |
| 取引慣行が未成熟な地域 | 大きい | 底地の市場性が特に低い |
| 商業地域 | 比較的小さい | 収益性が高く市場参加者が多い |
| 住宅地域 | やや大きい | 利用面の制約が価格に反映されやすい |
限定価格と増分価値の配分
併合による増分価値
借地権者が底地を取得する場合、又は底地所有者が借地権を取得する場合、完全所有権(更地)が回復されることにより増分価値が発生します。
不動産の併合又は分割に際し、併合後又は分割後の不動産の正常価格が、併合前又は分割前の不動産の正常価格の合計額と異なる場合がある。このような場合、当該併合又は分割の当事者間において成立する不動産の経済価値を適正に表示する価格を求める場合、その価格は限定価格となる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
増分価値 = 更地の価格 −(借地権の正常価格 + 底地の正常価格)
先の例では、増分価値は25,000,000円です。この増分価値を当事者間でどのように配分するかが、限定価格の問題です。
増分価値の配分方法
増分価値の配分は、取引当事者間の交渉力等を考慮して行います。
| 取得者 | 限定価格の算定 |
|---|---|
| 借地権者が底地を取得 | 底地の限定価格 = 底地の正常価格 + 増分価値の配分額 |
| 底地所有者が借地権を取得 | 借地権の限定価格 = 借地権の正常価格 + 増分価値の配分額 |
例えば、増分価値25,000,000円を借地権者と底地所有者で折半する場合、以下のようになります。
借地権者が底地を取得する場合の底地の限定価格
= 15,000,000円 + 12,500,000円
= 27,500,000円
底地所有者が借地権を取得する場合の借地権の限定価格
= 60,000,000円 + 12,500,000円
= 72,500,000円
ただし、増分価値の配分比率は当事者間の交渉力や経済的立場等を総合的に考慮して判断されるものであり、必ずしも折半とは限りません。
配分の考慮要素
増分価値の配分においては、以下の要素が考慮されます。
- 交渉力の格差:経済的に優位な立場にある当事者がより大きな配分を得る傾向
- 併合の主導者:併合を主導する側がより多くの対価を支払う傾向
- 代替手段の有無:他に底地・借地権を取得できる代替手段があるかどうか
- 取引の緊急性:急いで取引を成立させる必要がある側は不利になりやすい
価格配分の理論的整理
完全競争市場との比較
完全競争市場においては、資産の分割や併合による価値の変動は生じないはずです。しかし、不動産市場は不完全市場であるため、権利の分割による市場性の低下が価格に反映されます。
| 市場の性質 | 権利分割の影響 |
|---|---|
| 完全競争市場(理論上) | 更地 = 借地権 + 底地 |
| 不完全市場(現実) | 更地 > 借地権 + 底地 |
不動産市場が不完全市場である理由としては、取引の個別性が高いこと、情報の非対称性が大きいこと、取引費用が大きいこと等が挙げられます。
利用効率の観点
更地の完全所有権は、所有者が最有効使用を自由に実現できる権利です。しかし、借地権と底地に分割されると、以下のように利用効率が低下します。
- 借地権者:契約条件による制約(用途制限、増改築制限等)
- 底地所有者:自ら利用できず、地代収入のみ
この利用効率の低下が、価格の乖離の経済的実体です。最有効使用の実現が制約されることにより、各権利の価値の合計が完全所有権の価値を下回ります。
普通借地権と定期借地権での配分の違い
普通借地権と定期借地権では、価格配分の構造が異なります。
| 項目 | 普通借地権の場合 | 定期借地権の場合 |
|---|---|---|
| 借地権割合 | 高い(60%~90%) | 残存期間に応じて変動 |
| 底地割合 | 低い(10%~20%程度) | 普通借地権付底地より高い |
| 価格の乖離 | 大きい | 比較的小さい |
| 乖離の理由 | 底地の市場性が極めて低い | 期間満了で更地が復帰するため底地の市場性が相対的に高い |
定期借地権の場合は、期間満了時に更地が返還されることが確定しているため、底地の所有者は将来の完全所有権回復を見込むことができます。この結果、底地の価格が相対的に高くなり、権利合計と更地価格の乖離が小さくなります。
試験での出題ポイント
短答式試験
不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が問われます。
- 更地価格と借地権・底地の価格合計の関係:合計は更地価格を下回る
- 価格の乖離が生じる理由:権利分割による市場性の低下
- 借地権割合と底地割合の合計:100%にはならない
- 限定価格の成立場面:借地権と底地の併合
論文式試験
論文式試験では、以下の論述が求められます。
- 更地価格と権利合計が一致しない理由の理論的説明
- 底地の市場性が低い理由
- 増分価値の概念と配分方法
- 普通借地権と定期借地権における配分構造の違い
暗記のポイント
- 基本不等式 — 更地の価格 > 借地権の正常価格 + 底地の正常価格
- 乖離の理由 — 権利分割による市場性の低下、利用効率の低下
- 増分価値 — 更地の価格 −(借地権の正常価格 + 底地の正常価格)
- 限定価格 — 併合により完全所有権が回復する場合に成立
- 定期借地権との違い — 定期借地権の場合、更地復帰が確定しているため乖離が比較的小さい
まとめ
底地と借地権の価格配分は、権利分割により市場性が低下するため、両者の合計が更地価格を下回るという理論に基づいています。特に底地は市場性が極めて低いため、価格の乖離が大きくなります。この乖離こそが、併合時に発生する増分価値の源泉であり、限定価格の成立根拠です。借地権の鑑定評価や底地の評価の個別的な理解とあわせて、価格配分の全体像を体系的に把握することが、試験対策として不可欠です。