不動産鑑定評価の手順|調査から報告書まで
鑑定評価の手順とは
不動産鑑定評価は、一定の手順に従って体系的に進められます。不動産鑑定士試験では、この手順の全体像と各ステップの意義を正確に理解しているかが問われます。
鑑定評価基準は、鑑定評価の手順について次のように定めています。
鑑定評価の手順は、鑑定評価の基本的事項の確定、依頼受付の判断、処理計画の策定、対象不動産の確認、資料の収集及び整理、資料の検討及び価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整、鑑定評価額の決定並びに鑑定評価報告書の作成の作業から成り立つものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
鑑定評価は各ステップが有機的に結びつき、前のステップの結果が次のステップの前提となる構造になっています。本記事では、この手順を一つひとつ丁寧に解説します。
鑑定評価の手順の全体像
鑑定評価の手順は、大きく以下の9つのステップに分けられます。
| ステップ | 内容 | 概要 |
|---|---|---|
| 1 | 基本的事項の確定 | 対象・目的・時点・価格の種類を確定 |
| 2 | 依頼受付の判断 | 受任可否の判断 |
| 3 | 処理計画の策定 | スケジュール・方針の策定 |
| 4 | 対象不動産の確認 | 物的確認・権利の態様の確認 |
| 5 | 資料の収集及び整理 | 確認資料・要因資料・事例資料の収集 |
| 6 | 資料の検討及び価格形成要因の分析 | 一般的要因・地域要因・個別的要因の分析 |
| 7 | 鑑定評価の手法の適用 | 三方式に基づく手法の適用 |
| 8 | 試算価格又は試算賃料の調整 | 複数の試算価格の調整 |
| 9 | 鑑定評価額の決定・報告書の作成 | 最終的な評価額の決定と報告 |
ステップ1:基本的事項の確定
鑑定評価の手順の出発点は、基本的事項の確定です。ここで確定すべき事項は以下の通りです。
対象不動産の確定
鑑定評価の対象となる不動産を物的に確定するとともに、その権利の態様を確定します。「何を評価するのか」を明確にする最も基本的な作業です。
例えば、更地として評価するのか、建物及びその敷地として評価するのかによって、評価手法や価格の種類が大きく異なります。
鑑定評価の条件の確定
対象不動産について、対象確定条件(現状所与、独立鑑定評価、部分鑑定評価等)や地域要因又は個別的要因についての想定上の条件を設定します。
鑑定評価の条件は、鑑定評価の妥当する範囲を示すとともに鑑定評価についての制約を明確にするものであり、対象不動産の所在、規模、構成等や依頼目的に応じて適切に設定されなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
価格時点の確定
いつの時点の価格を求めるのかを確定します。不動産の価格は常に変動するため、「いつの時点の価格なのか」を特定することは極めて重要です。
価格又は賃料の種類の確定
求める価格が正常価格なのか、限定価格なのか、特定価格なのか、あるいは特殊価格なのかを確定します。依頼目的や対象不動産の態様に応じて、適切な価格の種類を判断します。
ステップ2:依頼受付の判断
基本的事項を確定した後、鑑定士は依頼を受けるか否かを判断します。この判断に当たっては、以下の点を考慮します。
- 独立性 — 対象不動産と利害関係がないか
- 専門能力 — 当該不動産の評価に必要な知識・経験を有しているか
- 実現可能性 — 指定された条件(期限、条件設定等)に対応できるか
不動産鑑定士には高い職業倫理が求められ、正当な理由なく依頼を拒むことはできませんが、逆に適切な評価を行えない事情がある場合には受任を辞退すべきとされています。
ステップ3:処理計画の策定
依頼を受けた後は、処理計画を策定します。処理計画とは、鑑定評価の作業のスケジュールや調査方針等を定めたものです。
具体的には、以下の事項を計画します。
- 調査スケジュール — 現地調査の日程、資料収集の期間
- 適用手法の方針 — 原価法、取引事例比較法、収益還元法のうち、どの手法を重点的に適用するか
- 共同作業の必要性 — 他の鑑定士との共同鑑定が必要かどうか
- 報告書の提出期限 — 依頼者との合意に基づく期限
処理計画は鑑定評価の品質を左右する重要なステップであり、不十分な計画は評価の精度低下につながります。
ステップ4:対象不動産の確認
対象不動産の確認は、物的確認と権利の態様の確認の2つに分かれます。
物的確認
対象不動産の実地調査(現地調査) を行い、不動産の物的な状態を確認します。
- 土地: 所在、地番、面積、形状、接道状況、高低差、周辺の利用状況
- 建物: 構造、規模、築年数、設備の状態、維持管理の状態
対象不動産の確認に当たっては、対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認を行うものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
実地調査は鑑定評価の信頼性を担保する基礎的な作業であり、原則として鑑定士自らが行います。
権利の態様の確認
不動産登記簿の調査等により、対象不動産に係る所有権・借地権・借家権等の権利関係を確認します。抵当権や地役権等の設定状況も確認が必要です。
ステップ5:資料の収集及び整理
鑑定評価に必要な資料を収集し、整理します。収集すべき資料は大きく3種類に分けられます。
確認資料
対象不動産の確認に必要な資料です。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 公図・地積測量図
- 建物図面・建築確認通知書
- 都市計画図・用途地域図
要因資料
価格形成要因の分析に必要な資料です。
- 一般的要因に関する資料: 経済指標、金融情勢、人口動態等
- 地域要因に関する資料: 地域の特性、近隣地域の標準的使用等
- 個別的要因に関する資料: 対象不動産固有の特性
事例資料
鑑定評価の手法の適用に必要な資料です。
- 取引事例: 取引事例比較法の適用に必要
- 収益事例: 収益還元法の適用に必要
- 造成事例・建設事例: 原価法の適用に必要
資料の質が鑑定評価の質を決定するといっても過言ではなく、信頼性の高い資料を十分に収集することが重要です。
ステップ6:資料の検討及び価格形成要因の分析
収集した資料を検討し、価格形成要因を分析します。
一般的要因の分析
社会全体に影響する要因を分析します。具体的には、経済成長率、金利動向、地価の全般的動向、不動産に関する法制度の変更などです。
地域分析
対象不動産が所在する地域の特性を分析します。近隣地域の標準的使用を判定し、類似地域との比較を行います。
地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第2節
個別分析
対象不動産固有の要因を分析します。土地であれば画地条件(間口、奥行、形状等)、建物であれば建物の品等・設備の状態等を検討します。個別分析の結果として、対象不動産の最有効使用を判定します。
ステップ7:鑑定評価の手法の適用
価格形成要因の分析結果を踏まえ、鑑定評価の三方式に基づく手法を適用します。
| 手法 | 着目する側面 | 求められる試算価格 |
|---|---|---|
| 原価法 | 費用性 | 積算価格 |
| 取引事例比較法 | 市場性 | 比準価格 |
| 収益還元法 | 収益性 | 収益価格 |
基準では、3つの手法を併用すべきとされています。
鑑定評価に当たっては、原則として原価法、取引事例比較法及び収益還元法の三手法を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三手法の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
具体例:住宅地の更地評価
例えば、住宅地の更地を評価する場合を考えます。
- 取引事例比較法: 近隣の類似した住宅地の取引事例5件を収集し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行い、比準価格3,500万円を算定
- 収益還元法: 当該土地に賃貸住宅を建築した場合の純収益を想定し、収益価格3,200万円を算定
- 原価法: 造成地でないため直接適用は困難だが、考え方を参酌
ステップ8:試算価格又は試算賃料の調整
各手法により求められた試算価格が異なる場合(通常は異なります)、それらを調整して最終的な評価額を導きます。
試算価格の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
調整に当たっては、以下の観点から各試算価格の説得力を判断します。
- 資料の信頼性 — 採用した事例や数値データの質は十分か
- 手法の適合性 — 対象不動産の種類に対して当該手法がどの程度適合するか
- 資料の豊富さ — 十分な数の事例が収集できたか
調整の具体例
先の住宅地の例で考えると、以下のように調整します。
比準価格: 3,500万円(近隣の取引事例が豊富で信頼性が高い)
収益価格: 3,200万円(住宅地であり投資市場の参加者は限定的)
→ 住宅地では市場性を反映した比準価格を重視しつつ、
収益価格も参酌して、鑑定評価額 3,450万円と決定
単純な平均ではなく、説得力に基づく判断である点が重要です。
ステップ9:鑑定評価額の決定と報告書の作成
試算価格の調整を経て、最終的な鑑定評価額を決定します。鑑定評価額は不動産鑑定士の最終的な判断として示される金額であり、その決定には高度な専門的判断が求められます。
鑑定評価額を決定した後、鑑定評価報告書を作成します。報告書には、評価額はもちろん、評価の過程で行った分析・判断の根拠を詳細に記載します。
報告書の記載事項については、鑑定評価報告書の記載事項で詳しく解説しています。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 鑑定評価の手順の9つのステップの順序を正確に覚えているか
- 各ステップの名称と内容の対応関係
- 「依頼受付の判断」と「処理計画の策定」の順序の正誤
- 資料の3分類(確認資料・要因資料・事例資料)の区別
論文式試験
- 鑑定評価の手順の全体像を体系的に論述する問題
- 「試算価格の調整」の意義と方法についての論述
- 各ステップにおける留意事項の具体的な記述
- 手順の各段階が有機的に結びつく構造の説明
暗記のポイント
- 手順の9ステップは、「基本→受付→計画→確認→収集→分析→手法→調整→決定」 と覚える
- 「対象不動産の確認」は物的確認と権利の態様の確認の2種類
- 資料は確認資料・要因資料・事例資料の3種類
- 試算価格の調整は単純平均ではなく、説得力に基づく判断
- 3手法の併用が原則(困難な場合でも考え方を参酌)
まとめ
鑑定評価の手順は、基本的事項の確定から鑑定評価報告書の作成まで9つのステップで構成されています。各ステップは前後の段階と有機的に結びついており、いずれかのステップを省略すると鑑定評価の信頼性が損なわれます。
特に試験では、手順の順序を正確に記憶していることはもちろん、各ステップの意義と具体的な作業内容を理解しているかが問われます。試算価格の調整が単純平均ではなく説得力に基づく判断である点は、論文式試験の頻出テーマです。