鑑定評価額と価格概念の違い

鑑定評価額とは、鑑定評価の手順に従って求められた具体的な金額(たとえば1億2,000万円)のことです。一方、価格概念とは、その金額が表示する価格の種類(正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格)のことです。不動産鑑定士試験では、鑑定評価額がどの価格概念に基づいて求められたかを明確に判定・表示することが求められている点が重要です。

鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的及び条件に応じて限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的及び条件に即して、求める価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節


わかりやすく言うと

「鑑定評価額」は最終的な金額の答えです。「価格概念」は、その答えがどういう性質の価格なのかを示すラベルです。

たとえるなら、「80点」というテストの点数が鑑定評価額で、「数学」「英語」「国語」といった科目名が価格概念に相当します。同じ80点でも、数学の80点と英語の80点は意味が違うのと同じように、同じ1億円でも正常価格としての1億円と限定価格としての1億円は性格が異なります


身近な具体例

例1:健康診断の数値と診断名

健康診断で「血圧130/85」という数値(=鑑定評価額に相当)が出たとき、それが「正常値」なのか「高血圧」なのかという判定(=価格概念に相当)がなければ、その数値だけでは意味がわかりません。鑑定評価も同様で、「1億円」という金額だけでは不十分であり、それが正常価格なのか限定価格なのかを明示して初めて情報として完全になります。

例2:不動産の売買と価格

マンションが1億円で売りに出ているとき、それが市場で誰でも買える正常な価格なのか、隣室の住人に対してだけ意味のある特別な価格なのかで、1億円の意味は全く異なります。鑑定評価では、この「どういう前提で求めた価格なのか」を価格概念として明確にすることが義務づけられています。

例3:中古車の買取価格と販売価格

中古車ディーラーで「この車は100万円です」と言われたとき、それが買取価格なのか販売価格なのかで意味が大きく違います。同じ車、同じ金額でも、価格の種類によって持つ意味が変わるという点は、鑑定評価額と価格概念の関係と共通しています。


価格の4類型

鑑定評価基準では、求める価格を以下の4つの類型に分類しています。

価格の種類 概要 典型的な場面
正常価格 合理的な市場で形成される市場価値 一般的な売買、担保評価
限定価格 市場が相対的に限定される場合の価格 隣地の併合、借地権と底地の同時売却
特定価格 法令等による社会的要請により求める価格 証券化、会社更生法
特殊価格 市場性を有しない不動産の価格 文化財、宗教建築物

判定の基本原則

鑑定評価で求める価格は原則として正常価格です。限定価格・特定価格・特殊価格は、鑑定評価の依頼目的や条件に応じて、正常価格以外の価格を求めることが適切と判断された場合にのみ適用されます。


鑑定評価額の決定プロセス

試算価格の調整

鑑定評価額は、鑑定評価の三方式(原価法、取引事例比較法、収益還元法)を適用して得られた試算価格を調整して決定されます。

原価法     → 積算価格   ─┐
取引事例比較法 → 比準価格   ─┼→ 調整 → 鑑定評価額
収益還元法   → 収益価格   ─┘

価格概念の判定

鑑定評価額を決定する際には、求める価格の種類(価格概念)を事前に明確にしておく必要があります。どの価格概念を適用するかによって、試算価格の求め方や調整の方法が異なる場合があるためです。

鑑定評価書への記載

鑑定評価書には、鑑定評価額とともに求めた価格の種類を必ず記載しなければなりません。これにより、鑑定評価書の利用者は、その金額がどのような前提・条件のもとで求められたものかを正確に理解できます。


価格概念を誤ると何が起こるか

実務上の問題

価格概念の判定を誤ると、以下のような問題が生じます。

  • 正常価格とすべきところを限定価格で求めた場合: 市場の実態と乖離した価格が出る
  • 限定価格とすべきところを正常価格で求めた場合: 当事者間の特別な利益を反映できない
  • 特定価格の条件を見落とした場合: 法令上の要件を満たさない鑑定評価となる

試験上の注意

試験では、与えられた条件から適切な価格概念を判定する力が問われます。たとえば、「借地権者が底地を買い取る場合の評価」と問われれば限定価格、「証券化対象不動産の評価」と問われれば特定価格、というように条件と価格概念の対応関係を即座に判断できる必要があります。


鑑定評価額と賃料の関係

賃料の鑑定評価

鑑定評価では、価格だけでなく賃料についても鑑定評価額を求めます。賃料についても、以下の種類があります。

賃料の種類 概要
正常賃料 合理的な市場で形成される適正な賃料
限定賃料 市場が限定される場合の賃料
継続賃料 既存の契約を前提とした賃料

価格の場合と同様に、賃料の鑑定評価額についても、どの種類の賃料を求めたかを明示する必要があります。


関連する用語との違い

用語 意味 違いのポイント
鑑定評価額 鑑定評価の結果としての具体的な金額 数値そのもの
価格概念(価格の種類) 鑑定評価額が表す価格の性格・類型 金額の「意味」を示す
試算価格 各手法によって求められた個別の価格 鑑定評価額の決定前段階の価格
市場価格(実勢価格) 実際の市場で成立する取引価格 個別の事情を含む可能性がある

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 価格概念の判定: 依頼目的・条件から適切な価格の種類を判断する
  • 鑑定評価額の決定プロセス: 試算価格の調整から鑑定評価額の決定までの手順
  • 鑑定評価書への記載事項: 鑑定評価額と価格の種類の記載義務

論文式試験

  • 価格の4類型の定義と各類型の適用場面を体系的に論述する問題
  • 鑑定評価額の決定にあたっての留意事項: 価格概念の判定→手法の適用→試算価格の調整→最終判定
  • 正常価格と限定価格の違いを具体的な事例に基づいて論述する問題

まとめ

鑑定評価額は具体的な金額であり、価格概念はその金額が持つ性格・種類を示すものです。鑑定評価では、まず依頼目的と条件から適切な価格概念を判定し、その価格概念に基づいて鑑定評価額を決定します。正常価格が基本であり、限定価格特定価格特殊価格は特定の場面でのみ適用される点を正確に理解しておきましょう。試験では、条件から価格概念を即座に判定する力が求められるため、各類型の適用場面を具体例とともに整理しておくことが重要です。