観察減価法と耐用年数法の概要

減価修正とは、原価法において再調達原価から減価額を控除する手続きをいいます。減価修正の方法は、耐用年数に基づく方法観察減価法の2つがあり、不動産鑑定評価基準では両方法を併用することが求められています。不動産鑑定士試験では、両方法の違い、3つの減価要因(物理的・機能的・経済的減価)の分析方法、併用のあり方が頻繁に出題されます。

減価修正の方法としては、耐用年数に基づく方法と観察減価法の二つがある。これらを併用するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


減価修正の位置づけ

原価法における減価修正の役割

原価法は、再調達原価 − 減価額 = 積算価格という構造で価格を求めます。減価修正は、再調達原価から経年劣化や機能的陳腐化等に起因する価値の低下分を控除する手続きです。

積算価格 = 再調達原価 − 減価額

3つの減価要因

減価額は、以下の3つの減価要因に起因します。

減価要因 内容 具体例
物理的減価 経年劣化、使用による磨耗・損傷 外壁のひび割れ、設備の老朽化、屋根の劣化
機能的減価 設計・設備の陳腐化、機能的不適合 間取りの非効率、設備の旧式化、エレベーターなし
経済的減価 外部環境の変化による市場性の低下 周辺環境の悪化、需要の減退、競合物件の出現

減価の要因としては、物理的要因、機能的要因及び経済的要因があげられる。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


耐用年数に基づく方法

概要

耐用年数に基づく方法は、建物の経済的耐用年数と経過年数の関係から減価額を定量的(計算的)に求める方法です。

定額法

最も基本的な方法で、毎年一定額ずつ減価するものと仮定します。

【定額法の算式】

減価額 = 再調達原価 × (1 − 残価率) × 経過年数 ÷ 経済的耐用年数

【数値例】
再調達原価      : 15,000万円
残価率          : 0%
経過年数        : 20年
経済的耐用年数   : 50年

減価額 = 15,000万円 × 1.0 × 20年 ÷ 50年 = 6,000万円
積算価格 = 15,000万円 − 6,000万円 = 9,000万円

定率法

初期に大きく減価し、年数が経つにつれ減価額が逓減する方法です。

【定率法の考え方】

毎年、前年末の残存価額に一定率を乗じて減価額を算出

例:再調達原価15,000万円、償却率5%の場合
  1年目減価額:15,000万円 × 5% = 750万円
  2年目減価額:(15,000 − 750) × 5% = 712.5万円
  3年目減価額:(14,250 − 712.5) × 5% = 676.9万円
  ...

耐用年数に基づく方法の特徴

長所 短所
客観的で再現性が高い 個別の建物の実態を反映しにくい
計算が明確 管理状態の良否を直接反映できない
説明しやすい 経済的環境の変化を捉えにくい

観察減価法

概要

観察減価法は、対象建物の実態を直接観察・調査して減価額を判定する方法です。建物の物理的状態、機能的状態、経済的環境を個別に分析し、総合的に減価額を見積もります。

観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況等を観察し、さらに対象不動産についての営業の状況、環境の変化等を考慮して減価額を直接求めるものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

観察減価法の手順

  1. 実地調査: 対象建物の外観・内部を直接確認
  2. 物理的状態の把握: 躯体、外壁、屋根、設備等の劣化状況
  3. 機能的状態の把握: 設計の陳腐化、設備の旧式化、法的適合性
  4. 経済的環境の分析: 周辺市場の動向、競合状況、需要の変化
  5. 減価額の総合判定: 上記を総合して減価率(または減価額)を判定

観察減価法の着目点

調査項目 確認事項 減価への影響
外壁 ひび割れ、タイルの浮き、塗装の劣化 物理的減価
屋上・屋根 防水層の状態、漏水の有無 物理的減価
構造躯体 コンクリートの中性化、鉄筋の腐食 物理的減価(重大)
設備 空調・EV・給排水の状態、更新時期 物理的減価+機能的減価
間取り・動線 現在の市場ニーズとの適合性 機能的減価
耐震性能 新耐震基準への適合 機能的減価+経済的減価
周辺環境 嫌悪施設の接近、需要動向 経済的減価
管理体制 修繕計画の有無、修繕積立金の状況 物理的減価の軽減

観察減価法の特徴

長所 短所
個別の建物の実態を反映 判定者の主観が入りやすい
管理状態の良否を反映可能 客観性・再現性がやや劣る
市場の評価を直接的に反映 定量化が難しい

両方法の併用

併用の必要性

基準が両方法の併用を求める理由は、それぞれの方法に長所と短所があるためです。

【併用の考え方】

耐用年数に基づく方法 → 客観的・定量的な基礎データを提供
                    ↓
観察減価法         → 個別の実態に基づく修正を加える
                    ↓
最終的な減価額     → 両方法を総合して判定

併用の実践例

【併用の数値例】

■ 対象建物
  構造    : RC造事務所ビル
  築年数  : 25年
  再調達原価 : 20,000万円

■ 耐用年数に基づく方法
  経済的耐用年数 : 50年
  定額法による減価率 : 25年 ÷ 50年 = 50%
  減価額 : 20,000万円 × 50% = 10,000万円
  → 積算価格 : 10,000万円

■ 観察減価法による修正
  ・10年前に大規模修繕(外壁・屋上防水)を実施 → 物理的減価は軽微
  ・5年前に空調設備を全面更新 → 機能的陳腐化は改善
  ・管理状態は極めて良好
  ・周辺オフィス需要は安定

  観察による判定:
    物理的減価 : 40%(耐用年数法では50%だが管理良好のため軽減)
    機能的減価 : 3%(設備更新済みだがEVが1基で不便)
    経済的減価 : 0%(周辺需要は安定)
    合計減価率 : 43%

  減価額 : 20,000万円 × 43% = 8,600万円
  → 積算価格 : 11,400万円

■ 両方法の総合判定
  耐用年数法 : 10,000万円
  観察減価法 : 11,400万円

  管理状態の良好さを重視し、最終的な積算価格 : 11,000万円と判定

3つの減価要因の詳細

物理的減価

物理的減価は、時間の経過と使用による物理的な劣化に起因する減価です。

部位 劣化の内容 修復可能性
躯体(構造体) コンクリートの中性化、鉄筋腐食 補修困難(重大な減価)
外壁 ひび割れ、タイル剥落、塗装劣化 修復可能
屋上防水 防水層の劣化、漏水 修復可能
給排水設備 配管の腐食、漏水 更新可能
空調設備 能力低下、故障頻度の増加 更新可能

機能的減価

機能的減価は、建物の設計・仕様が現在の市場ニーズに適合しなくなったことに起因する減価です。

  • 間取りの非効率: オフィスビルのコア配置が非効率
  • 天井高の不足: 近年の基準(2.7m〜)に対し2.4m
  • 設備の旧式化: OAフロア非対応、LANケーブル未整備
  • バリアフリー非対応: エレベーターなし、段差あり
  • 耐震性能の不足: 旧耐震基準

経済的減価

経済的減価は、建物自体の問題ではなく、外部環境の変化に起因する減価です。

  • 周辺環境の変化: 嫌悪施設の出現、周辺の衰退
  • 市場の需給変化: 当該用途の需要減退、供給過剰
  • 法的規制の変更: 用途地域の変更により最有効使用が変化
  • 競合物件の出現: 近隣に高性能な新築ビルが建設

修復可能な減価と修復不可能な減価

区別の意義

減価要因は、修復可能(Curable)修復不可能(Incurable)かによって取扱いが異なります。

区分 内容 評価上の取扱い
修復可能な減価 修復費用 < 修復による価値増加 修復費用を減価額として計上
修復不可能な減価 修復費用 ≧ 修復による価値増加 価値低下分を減価額として計上

具体例

【修復可能な減価の例】
  外壁塗装の劣化
  修復費用:500万円
  修復による価値増加:800万円
  → 修復が経済的に合理的 → 修復可能な減価

【修復不可能な減価の例】
  天井高2.4mを2.7mに変更
  改修費用:3,000万円
  改修による価値増加:500万円
  → 改修が経済的に非合理的 → 修復不可能な減価

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 2つの方法の定義: 耐用年数に基づく方法と観察減価法の正確な定義
  • 併用の義務: 基準は両方法を「併用するものとする」としている
  • 3つの減価要因: 物理的要因、機能的要因、経済的要因の区別
  • 観察減価法の着目点: 設計、設備の機能性、維持管理の状態、補修の状況等

論文式試験

  • 2つの方法の特徴と併用の意義: 各方法の長所・短所を踏まえた併用の合理性
  • 3つの減価要因の分析: 具体的な建物について各減価要因を分析する問題
  • 減価額の具体的な算定: 数値を用いた耐用年数法+観察減価法の併用計算

暗記のポイント

  1. 2つの方法: 耐用年数に基づく方法と観察減価法を「併用するものとする」
  2. 3つの減価要因: 物理的要因、機能的要因、経済的要因
  3. 観察減価法の着目点: 設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況
  4. 経済的残存耐用年数の判定: 物理的状態、機能的状態、経済的環境を総合的に勘案

まとめ

減価修正は、耐用年数に基づく方法(定量的・客観的)と観察減価法(定性的・個別的)を併用して行います。減価は物理的・機能的・経済的の3要因に分類され、それぞれの要因を個別に分析したうえで総合的に減価額を判定します。耐用年数に基づく方法だけでは個別の建物の実態を反映できず、観察減価法だけでは客観性が不足するため、両者の相互補完が不可欠です。

経済的残存耐用年数の求め方原価法の全体像もあわせて確認し、減価修正の体系的な理解を深めてください。建物の評価全般については建物のみの鑑定評価も参考になります。