建物のみの鑑定評価とは

建物のみの鑑定評価とは、土地を含まず建物単体を対象として行う鑑定評価です。不動産鑑定評価基準では、建物は自用の建物貸家に大別され、それぞれ評価手法が異なります。不動産鑑定士試験では、建物のみの評価において原価法が中心的な手法となること、複合不動産(建物及びその敷地)との関係をどう整理するかが頻出の論点です。

建物の鑑定評価額は、積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第3節


建物のみを評価する場面

どのような場合に建物のみを評価するか

建物と土地は通常一体として利用されますが、以下の場面では建物単体の価格が必要になります。

場面 具体例
保険金額の算定 火災保険の保険金額を設定するため、建物の再調達原価を求める
会計上の減価償却 固定資産の帳簿価額算定のため、建物の価格を求める
借地上の建物の評価 借地権者が所有する建物の価格を求める(敷地は借地権として別途評価)
区分所有建物の専有部分 マンションの専有部分のみの価格を求める
建物取壊しの判断 取壊し費用と残存価値の比較のため、建物価格を求める

複合不動産との関係

建物は通常、敷地と一体として複合不動産(建物及びその敷地)を構成しています。建物のみを評価する場合、複合不動産の一部を取り出して評価することになるため、部分鑑定評価としての位置づけとなります。

建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合において、建物のみを鑑定評価の対象とするときは、建物及びその敷地の鑑定評価額の内訳として求めるものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第3節


自用の建物の評価手法

原価法(積算価格)

自用の建物の評価において、原価法は最も基本的かつ重要な手法です。建物の再調達原価を求め、減価修正を行って積算価格を算定します。

【原価法の計算例:自用の建物】

建物概要:
  構造:鉄筋コンクリート造
  延床面積:500㎡
  築年数:15年
  経済的耐用年数:50年

再調達原価:
  単価 35万円/㎡ × 500㎡ = 17,500万円

減価修正:
  耐用年数法:17,500万円 × 15年/50年 = 5,250万円
  観察減価(管理良好のため追加減価なし)

減価額 = 5,250万円

積算価格 = 17,500万円 − 5,250万円 = 12,250万円

再調達原価の求め方

再調達原価は、対象建物を価格時点において新たに建築することを想定した場合に必要とされる適正な原価です。

方法 内容 適用場面
直接法 建設費の積算(材料費・労務費・経費)から求める 新築に近い建物
間接法 類似建物の建設費事例等から求める 一般的な建物

減価修正の方法

建物の減価修正は、耐用年数に基づく方法観察減価法を併用して行います。

方法 内容
耐用年数法 経過年数と耐用年数の比率から減価額を算出
観察減価法 建物の実態を観察して減価額を判定

特に経済的残存耐用年数の判定は、建物の価格を大きく左右する重要な要素です。


配分法に基づく比準価格

配分法とは

配分法とは、建物及びその敷地の取引事例から、建物に帰属する部分を配分して建物の価格を求める手法です。

【配分法の計算例】

類似の建物及びその敷地の取引価格 : 25,000万円
うち土地の価格(土地の標準価格から査定): 14,000万円

建物の比準価格 = 25,000万円 − 14,000万円 = 11,000万円

配分法の留意点

配分法は、土地と建物の価格内訳を合理的に算定できるかどうかが精度のカギとなります。取引事例から土地部分の価格を控除する際の精度が問題となるため、複数の事例を用いて検証することが望ましいとされています。


建物残余法による収益価格

建物残余法とは

建物残余法は、収益還元法の一手法であり、複合不動産の純収益から土地に帰属する純収益を控除し、残りを建物に帰属する純収益として建物の収益価格を求める方法です。

【建物残余法の計算例】

複合不動産の純収益 : 1,200万円/年
土地の価格         : 15,000万円
土地の還元利回り    : 4.0%
土地に帰属する純収益 : 15,000万円 × 4.0% = 600万円/年

建物に帰属する純収益 = 1,200万円 − 600万円 = 600万円/年

建物の経済的残存耐用年数 : 35年
建物の還元利回り        : 6.0%

建物の収益価格 = 600万円 × 年金現価率(6%, 35年)
             = 600万円 × 14.498
             = 8,699万円 ≒ 8,700万円

建物残余法の留意点

建物残余法は、土地の価格と土地の還元利回りの精度に大きく依存します。土地に帰属する純収益を過大に見積もると建物の収益価格は過小になり、逆も同様です。


貸家の評価手法

貸家の特徴

貸家とは、所有する建物を第三者に賃貸している場合の建物をいいます。自用の建物との違いは、借家権の負担がある点です。

評価手法

貸家の鑑定評価額は、積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。この場合において、積算価格は、自用の建物の価格から貸家としての減価を適切に行って求めるものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第3節

貸家の積算価格

【貸家の積算価格の計算例】

自用の建物の積算価格 : 12,250万円
貸家としての減価    : ▲1,225万円(借家権割合10%と仮定)

貸家の積算価格 = 12,250万円 − 1,225万円 = 11,025万円

貸家としての減価は、借家権の存在により所有者の利用・処分が制約されることを反映するものです。減価の程度は、賃貸借契約の内容、借家権の強弱、市場の慣行等を総合的に勘案して判定します。

自用と貸家の価格比較

項目 自用の建物 貸家
積算価格 12,250万円 11,025万円
借家権の影響 なし ▲1,225万円(借家権に相当する減価)
収益性 自己使用のため直接の収益なし 賃料収入あり

建物及びその敷地の内訳としての建物価格

内訳価格としての位置づけ

前述の通り、建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合、建物のみの価格は複合不動産の内訳として求めます。

【内訳価格の算定例】

建物及びその敷地の鑑定評価額 : 25,000万円

内訳:
  土地(更地価格ベース): 14,000万円
  建物                 : 11,000万円
  合計                 : 25,000万円

ただし、内訳価格の合計は必ずしも複合不動産の価格と一致するとは限りません。複合不動産としての市場性(一体利用の付加価値)が反映されるため、内訳の単純合計と複合不動産の価格には差が生じることがあります。


建物の種類別の留意点

構造別の再調達原価の目安

構造 単価の目安(㎡あたり) 耐用年数の目安
木造 15〜25万円 20〜30年
鉄骨造(S造) 20〜30万円 30〜40年
鉄筋コンクリート造(RC造) 30〜40万円 40〜60年
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) 35〜45万円 50〜70年

これらは一般的な目安であり、建物の規模・用途・仕様・地域等により大きく変動します。

用途別の留意点

用途 評価上の留意点
事務所ビル OAフロア、空調設備等の仕様が価格に影響
共同住宅 各住戸の間取り・設備水準、管理状態が重要
店舗 内装の帰属(テナント負担か所有者負担か)の確認
工場・倉庫 特殊設備の有無、汚染リスクの検討

建物の鑑定評価における実務上の留意点

建物の確認事項

建物の鑑定評価を行う際には、以下の事項を確認する必要があります。

確認事項 確認方法 評価への影響
登記事項 建物登記簿謄本 所有者、構造、床面積、新築年月日
建築確認 建築確認済証・検査済証 適法性の確認、違法建築の有無
増改築の有無 現地調査、所有者への聞取り 未登記部分の把握、再調達原価への影響
修繕履歴 修繕記録、管理組合の資料 経済的残存耐用年数の判定
設備の状態 現地調査 減価修正の判定
アスベスト 調査報告書 除去費用の減価

違法建築・既存不適格の取扱い

建ぺい率超過や容積率超過などの違法建築は、建物の価格に大きな影響を与えます。

区分 内容 価格への影響
違法建築 建築時から法令違反 大幅な減価(融資対象外の場合も)
既存不適格 建築時は適法だが法改正で不適合に 建替え時に現行法への適合が必要→中程度の減価

違法建築の場合、金融機関が担保として認めないことが多く、市場性が著しく低下するため、通常以上の減価が必要になります。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 評価手法の優先順位: 積算価格を標準とし、配分法比準価格と建物残余法収益価格を比較考量
  • 複合不動産の内訳としての位置づけ: 建物及びその敷地の内訳として求める
  • 貸家としての減価: 自用の建物の価格から貸家としての減価を行う
  • 配分法の意味: 複合不動産の取引事例から建物部分を配分して求める

論文式試験

  • 自用と貸家の評価手法の比較: 共通点と相違点を体系的に論述
  • 建物残余法の計算: 複合不動産の純収益から土地帰属分を控除して建物価格を求める
  • 再調達原価と減価修正の具体的な計算: 数値例を用いた演習問題

暗記のポイント

  1. 建物の評価手法: 積算価格(標準)、配分法比準価格、建物残余法収益価格
  2. 貸家の減価: 自用の建物の価格から「貸家としての減価」を行う
  3. 内訳価格: 建物及びその敷地の内訳として求める
  4. 配分法: 複合不動産の取引事例から土地価格を控除して建物価格を抽出

まとめ

建物のみの鑑定評価は、原価法(積算価格)を標準手法として、配分法に基づく比準価格と建物残余法による収益価格を比較考量して行います。貸家の場合は自用の建物の価格から借家権に相当する減価を控除します。建物は通常、敷地と一体として利用されるため、複合不動産の内訳としての位置づけを理解することが重要です。

原価法の詳細は原価法とはを、減価修正については減価修正の実践をあわせてご覧ください。建物の評価は借家権付建物及びその敷地共同ビル方式の評価とも関連が深い論点です。