令和4年論文式試験の概要

令和4年(2022年)の不動産鑑定士論文式試験・鑑定理論科目では、基準の条文を正確に再現する力具体的な事例に基準を適用する当てはめ能力が問われました。本記事では、令和4年に出題された主要論点について、基準の該当条文を示しながら答案構成の骨格を解説します。

論文式試験では、「結論→理由(基準引用)→当てはめ→結論」の流れが高得点の鍵です。以下、論点ごとに具体的な答案の書き方を示します。


令和4年論文式試験の概要

試験の基本情報

項目 内容
試験日 2022年8月(3日間のうち1日目・2日目)
鑑定理論(論文) 午前2時間+午後2時間
鑑定理論(演習) 2時間
出題形式 記述式
配点 鑑定理論は全科目中で最も配点比率が高い

合格率の推移

年度 論文式合格率(概算) 最終合格者数
令和2年 約16% 135人
令和3年 約17% 143人
令和4年 約15% 143人
令和5年 約15% 146人

主要論点1:価格の種類――定義の正確な再現と適用場面の論述

論点の特定

価格の種類は論文式でも繰り返し出題される最重要テーマです。価格の4類型の定義を正確に書けるかが合否を分けます。

答案構成の骨格

問い:「正常価格について、その定義と意義を述べよ」(典型的な出題形式)

【結論】
正常価格とは、基準が定める市場価値を表示する適正な価格であり、
鑑定評価において最も基本的な価格類型である。

【基準の引用】
基準は正常価格を以下のように定義している。
「正常価格とは、市場性を有する不動産について、…(全文引用)」

【趣旨の説明】
この定義の趣旨は、鑑定評価が把握すべき価格は、
特殊な事情に左右されない客観的な市場価値であることを
明らかにする点にある。

【当てはめ】(事例が与えられている場合)
本件は、一般的な売買を想定した評価であり、
市場の制約も法令等による特別な要請もないため、
正常価格を求めることが適切である。

【結論の再確認】
以上より、本件では正常価格を求めるべきである。

引用すべき基準の条文

正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

答案での注意点:この定義は全文を正確に書くことが求められます。「市場性を有する不動産について」「現実の社会経済情勢の下で」「合理的と考えられる条件を満たす市場」等のフレーズを一つでも落とすと減点対象となります。

典型的な失点パターン

失点パターン 具体例 対策
定義が不完全 「適正な価格をいう」のみで要件を省略 定義全文を暗記して書く
適用場面を示さない 定義だけ書いて、どの場面で使うかを書かない 「本件では〜」と当てはめる
他の価格類型との比較がない なぜ限定価格や特定価格ではないかを説明しない 消去法の論述も加える

主要論点2:鑑定評価の手順――全体像を体系的に論述する

論点の特定

鑑定評価の手順は、鑑定評価の手順の全体像を踏まえた体系的な論述が求められます。

答案構成の骨格

問い:「鑑定評価の手順の概要を述べよ」

【結論】
鑑定評価は、以下の一連の手順に従って行われる。

【基準の引用と各段階の説明】

1. 鑑定評価の基本的事項の確定
   → 対象不動産の確定、価格時点の確定、
     求める価格の種類の確定

2. 処理計画の策定
   → 必要な調査・分析の範囲と方法を決定

3. 対象不動産の確認
   → 物的確認と権利の態様の確認

4. 資料の収集及び整理
   → 確認資料、要因資料、事例資料の3種類を収集

5. 資料の検討及び価格形成要因の分析
   → 一般的要因、地域要因、個別的要因の分析
   → 地域分析、個別分析の実施

6. 鑑定評価手法の適用
   → 三方式(原価法・取引事例比較法・収益還元法)の適用

7. 試算価格又は試算賃料の調整
   → 各手法の結果を比較検証し、調整

8. 鑑定評価額の決定
   → 最終的な評価額の決定

【結論の再確認】
以上の手順を遵守することにより、
適正な鑑定評価が確保される。

典型的な誤答パターン

誤答パターン なぜ間違えるか 正しい対応
手順の順序を間違える 暗記が不正確 8つの手順を順番通りに暗記
手順の一部を省略する 重要度が低いと思い込む 全手順を漏れなく記述する
各段階の内容が薄い 手順名だけ書いて説明がない 各段階で何を行うかを具体的に記述

主要論点3:収益還元法――直接還元法とDCF法の論述

論点の特定

収益還元法は論文式でもほぼ毎年出題される最重要テーマです。直接還元法とDCF法の違いと適用上の留意点が問われます。

引用すべき基準の条文

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

答案構成の骨格

問い:「収益還元法における直接還元法とDCF法について、それぞれの意義と適用上の留意点を述べよ」

【結論】
収益還元法には直接還元法とDCF法の2つの方法があり、
対象不動産の特性に応じて適切に適用すべきである。

【直接還元法】
1. 意義:一期間の純収益を還元利回りで還元して
   収益価格を求める方法
2. 算式:収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
3. 留意点:
   - 還元利回りの求め方が適切であること
   - 純収益が安定的に見込まれる場合に適している
   - 類似の不動産の取引事例から還元利回りを求める

【DCF法】
1. 意義:連続する複数の期間に発生する純収益と
   復帰価格を、割引率によって現在価値に割り引き、
   それぞれを合計して収益価格を求める方法
2. 算式:収益価格 = Σ(各期の純収益の現在価値)
   + 復帰価格の現在価値
3. 留意点:
   - 割引率と最終還元利回りの査定が適切であること
   - 収益の変動が見込まれる場合に適している
   - 証券化対象不動産の評価では必ず適用すべき

【両手法の関係】
直接還元法とDCF法は相互に補完する関係にあり、
可能な限り両者を適用して検証を行うことが望ましい。

【結論の再確認】
対象不動産の収益の安定性や変動の見込みに応じて
適切な方法を選択し、適用すべきである。

典型的な失点パターン

失点パターン 原因 対策
算式を書かない 論述に気を取られる 算式は必ず記載する
両手法の違いが不明確 定義が曖昧 「一期間」vs「複数期間」の違いを明確に
適用場面を書かない 当てはめが抜ける どの場合にどちらが適切かを論じる
証券化への言及がない 各論の知識不足 証券化対象不動産ではDCF法が必須であることに言及

主要論点4:試算価格の調整

論点の特定

試算価格の調整は、複数の鑑定評価手法で求めた試算価格の信頼性を検証し、鑑定評価額を決定する重要な工程です。

引用すべき基準の条文

基準では、試算価格の調整について、各手法の適用によって求められた試算価格の再吟味を行い、各試算価格が有する説得力に係る判断を行った上で、鑑定評価における各手法の適用について総合的に判断し鑑定評価額を決定すべきと規定しています。

答案構成の骨格

【結論】
試算価格の調整は、各手法の試算結果の信頼性を
検証し、最終的な鑑定評価額を決定する工程である。

【調整の手順】
1. 各試算価格の再吟味
   - 資料の選択、検討の適否
   - 適用手法に係る判断の適否
   - 各手法に共通する価格形成要因の分析の整合性

2. 各試算価格が有する説得力の判断
   - 資料の信頼性
   - 手法の適用の適切性
   - 対象不動産の類型との適合性

3. 鑑定評価額の決定
   - 機械的な平均値ではなく、説得力の判断に基づく

【留意点】
試算価格の調整は、単純に試算価格の平均を求める
ものではなく、各試算価格が有する説得力に係る
判断に基づいて行うべきものである。

答案作成の実践テクニック

時間配分の目安

フェーズ 所要時間 内容
問題の読み込み 10分 問題文を精読し、出題意図を把握
答案構成の作成 10分 書くべき内容のメモを作成
答案の執筆 90分 論述の本体を書く
見直し 10分 誤字脱字、論理の飛躍を確認

答案構成メモの重要性

いきなり書き始めるのではなく、問題用紙の余白に答案構成のメモを作ってから書き始めることが不可欠です。

構成メモに書くべき内容は以下の通りです。

  • 引用すべき基準の条文のキーワード
  • 論述の流れ(結論→引用→趣旨→当てはめ→結論)
  • 問題文の事例に対する結論
  • 関連して言及すべき周辺論点

字数の目安

問題の種類 字数の目安
大問(配点が大きい問題) 1,500〜2,000字
小問(配点が小さい問題) 500〜800字
定義を書く問題 条文をそのまま正確に記述

試験での出題ポイント

論文式で繰り返し出題されるテーマ

令和4年の出題を踏まえ、論文式で繰り返し出題されるテーマを整理します。

テーマ 出題頻度 答案で必要なこと
価格の種類 2年に1回程度 定義の全文引用+適用場面の当てはめ
鑑定評価の手順 2年に1回程度 全手順の体系的記述+各段階の内容
三方式の適用 ほぼ毎年 各手法の定義・算式・留意点
収益還元法の詳細 ほぼ毎年 直接還元法とDCF法の比較論述
試算価格の調整 頻出 調整の趣旨と手順の説明
最有効使用 頻出 定義の引用と判定の考え方

論文式で求められる3つの力

  1. 暗記力:基準の条文を正確に再現する力
  2. 論理構成力:結論→理由→基準引用→当てはめ→結論の流れを作る力
  3. 当てはめ力:具体的な事例に基準を適用し、根拠を示す力

過去問の活用法

令和4年の過去問で練習すべきこと

  1. 答案構成の練習:問題を読んで10分で答案構成メモを作る
  2. 条文引用の練習:基準の条文を見ずに正確に書く
  3. 時間を計ったフル答案の作成:2時間で完成させる
  4. 模範答案との比較:予備校等の解答例と自分の答案を比較分析

令和3年の論文式との組み合わせ学習

令和3年と令和4年の出題テーマを比較すると、テーマの入れ替わりが見えます。両年度を解くことで、出題範囲の全体像を把握できます。

論文式・鑑定理論の対策も合わせて活用してください。


まとめ

令和4年論文式試験・鑑定理論の主要論点と対策を整理します。

  • 基準の条文を正確に再現する暗記力が合否を分ける最大のポイント。定義規定は全文暗記が必須
  • 答案は「結論→基準引用→趣旨説明→当てはめ→結論」の5段階で構成する
  • 価格の種類、鑑定評価の手順、収益還元法(直接還元法・DCF法)、試算価格の調整が主要論点
  • 当てはめが高得点の鍵。基準の引用だけでは差がつかない
  • 時間配分を事前に決め、答案構成メモを必ず作ってから書き始める
  • 部分点を狙う書き方を意識し、完璧でなくても論理的に書き切ることが重要

鑑定評価基準の暗記術論文式・鑑定理論の対策も活用し、着実に実力を高めましょう。