鑑定評価と価格調査の使い分け実務ガイド
鑑定評価と価格調査の使い分け
不動産鑑定士が行う業務には、鑑定評価と価格等調査(鑑定評価に該当しないもの)の2種類があります。最も重要なポイントは、鑑定評価は鑑定評価基準に準拠した独占業務であり、法的効力を持つのに対し、価格等調査は簡略化された調査であり、用途が限定されるという違いを理解することです。
不動産鑑定士試験においては、鑑定評価と価格等調査の区別は基礎的な知識として問われます。また、実務においては依頼者の目的に応じた適切な成果物を提供するため、この使い分けの理解が不可欠です。
本記事では、両者の定義・法的根拠・費用相場・利用場面の違いから、適切な選び方までを解説します。
鑑定評価とは
定義と法的根拠
鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することであり、不動産鑑定士の独占業務です。
不動産の鑑定評価とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。
― 不動産の鑑定評価に関する法律 第2条第1項
鑑定評価は、鑑定評価基準に定められた手順と手法に従って行われ、その結果は鑑定評価書として交付されます。
鑑定評価書の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 不動産の鑑定評価に関する法律、鑑定評価基準 |
| 準拠基準 | 鑑定評価基準に完全に準拠 |
| 成果物 | 鑑定評価書 |
| 現地調査 | 必須(対象不動産の実地調査) |
| 記載事項 | 基準に定められた事項を網羅的に記載 |
| 価格の種類 | 正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格のいずれか |
| 評価手法 | 三方式の適用(原則として複数手法を適用) |
鑑定評価が必要な場面
以下の場面では、法律や制度上、鑑定評価書の取得が必要または強く推奨されます。
| 場面 | 必要性 | 根拠 |
|---|---|---|
| 地価公示 | 法律上必要 | 地価公示法 |
| 都道府県地価調査 | 法律上必要 | 国土利用計画法施行令 |
| 固定資産税評価 | 法律上必要 | 地方税法 |
| 相続税路線価 | 法律上必要 | 相続税法 |
| 裁判での価格立証 | 事実上必要 | 証拠としての信頼性 |
| 公共用地の取得 | 制度上必要 | 公共用地の取得に伴う損失補償基準 |
| 不動産証券化の時価評価 | 制度上必要 | 投資信託法、不動産鑑定評価基準 |
| 同族間取引の適正価格証明 | 強く推奨 | 税務署への説明根拠 |
| 減損会計における時価把握 | 強く推奨 | 企業会計基準 |
価格等調査とは
定義と位置づけ
価格等調査とは、鑑定評価に該当しない不動産の価格等に関する調査の総称です。不動産鑑定士が行う場合は、国土交通省が策定した「価格等調査ガイドライン」に従う必要があります。
価格等調査の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 価格等調査ガイドライン(法律上の独占業務ではない) |
| 準拠基準 | ガイドラインに従うが、手法の簡略化が可能 |
| 成果物 | 調査報告書・意見書・査定書等(名称は様々) |
| 現地調査 | 省略可能な場合がある(机上調査) |
| 記載事項 | 鑑定評価書より簡略化可能 |
| 価格の種類 | 「鑑定評価額」ではなく「調査価格」等の表記 |
| 評価手法 | 必要に応じて手法の一部を省略可能 |
価格等調査の種類
実務上、価格等調査には以下のような種類があります。
| 種類 | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 意見書 | 不動産の価格について意見を述べるもの | 社内検討資料、参考価格 |
| 調査報告書 | 不動産の価格について調査した結果を報告するもの | 金融機関の担保評価、内部監査 |
| 机上査定 | 現地調査を行わず、資料のみで価格を判定するもの | 概算価格の把握 |
| 簡易鑑定 | 鑑定評価の手法を一部簡略化して行うもの | コスト重視の場合 |
鑑定評価と価格等調査の比較
主要な違い
| 比較項目 | 鑑定評価 | 価格等調査 |
|---|---|---|
| 独占業務か | 不動産鑑定士の独占業務 | 独占業務ではない |
| 法的効力 | 裁判・税務等で高い証拠力 | 参考資料としての位置づけ |
| 準拠基準 | 鑑定評価基準(厳格) | ガイドライン(柔軟) |
| 現地調査 | 必須 | 省略可能 |
| 費用 | 高い(20万〜100万円以上) | 比較的安い(5万〜30万円程度) |
| 作成期間 | 2週間〜1ヶ月程度 | 数日〜2週間程度 |
| 成果物のボリューム | 30〜50ページ以上 | 数ページ〜20ページ程度 |
費用相場の目安
不動産の種類や規模によって異なりますが、一般的な費用相場は以下のとおりです。
| 対象不動産 | 鑑定評価 | 価格等調査 |
|---|---|---|
| 更地(住宅地) | 20万〜30万円 | 5万〜15万円 |
| 更地(商業地) | 30万〜50万円 | 10万〜20万円 |
| 戸建住宅(土地建物) | 25万〜40万円 | 8万〜20万円 |
| マンション1室 | 25万〜35万円 | 5万〜15万円 |
| 収益ビル | 40万〜80万円 | 15万〜30万円 |
| 大規模商業施設 | 80万〜200万円以上 | 30万〜80万円 |
※上記はあくまで目安であり、地域・物件の複雑さ・依頼内容によって変動します。
場面別:鑑定評価と価格等調査の使い分け
鑑定評価を選ぶべき場面
以下の場面では、鑑定評価を選択することが適切です。
- 裁判の証拠として提出する場合
- 税務署への申告資料として使用する場合(特に同族間取引、相続・贈与)
- 公共事業の用地取得の基礎資料として使用する場合
- 不動産証券化における時価評価
- 会計監査における時価の裏付け資料として使用する場合
- 金額が大きく、紛争リスクが高い取引の場合
価格等調査を選ぶべき場面
以下の場面では、価格等調査で十分なケースが多いです。
- 売買の参考価格を知りたい場合
- 社内検討用の概算価格が必要な場合
- 金融機関の内部管理用担保評価
- 相続対策の初期段階で概算把握したい場合
- 予算が限られている場合
- 法律上、鑑定評価が義務づけられていない場合
宅建業者の査定との違い
不動産鑑定士が行う価格等調査と、宅地建物取引業者が行う「査定」は異なるものです。
| 項目 | 不動産鑑定士の価格等調査 | 宅建業者の査定 |
|---|---|---|
| 目的 | 不動産の価格についての専門的見解の提供 | 売出価格の提案 |
| 根拠 | 価格等調査ガイドライン | 宅建業法に基づく一般的な価格意見 |
| 専門性 | 鑑定評価基準に基づく専門的分析 | 取引事例・経験に基づく判断 |
| 費用 | 有料(5万〜30万円程度) | 多くの場合無料 |
| 法的証拠力 | 一定の専門的証拠力あり | 証拠力は限定的 |
価格等調査ガイドラインの概要
ガイドラインの目的
価格等調査ガイドラインは、不動産鑑定士が鑑定評価に該当しない価格等調査を行う場合の品質確保と依頼者保護を目的として、国土交通省が策定したものです。
ガイドラインの主な内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査の範囲の明示 | 鑑定評価との違い、調査の限界を依頼者に明確に説明 |
| 成果報告書の記載事項 | 調査の対象・目的・方法・結果等を記載 |
| 利用者の範囲の明示 | 成果報告書を利用できる者の範囲を明確にする |
| 鑑定評価との区別 | 鑑定評価に該当しないことを明記し、混同を防止する |
特に重要なのは、価格等調査の成果物が鑑定評価書と混同されないよう、明確に区別することが求められている点です。
試験での出題ポイント
短答式試験
短答式試験では、以下の論点が出題されます。
- 鑑定評価の定義:不動産の経済価値を判定し、価額に表示すること
- 独占業務の範囲:鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務
- 価格等調査との区別:鑑定評価に該当しない価格等調査は独占業務ではない
- 成果物の名称:鑑定評価書 vs 調査報告書
暗記のポイント
- 鑑定評価=独占業務(鑑定法第36条)
- 価格等調査=独占業務ではない
- 鑑定評価基準に完全準拠→鑑定評価書
- 価格等調査ガイドラインに従う→調査報告書
- 現地調査:鑑定評価は必須、価格等調査は省略可能
- 混同防止:価格等調査の成果物に「鑑定評価書」の名称は使用不可
まとめ
不動産鑑定士が行う業務は、鑑定評価(独占業務)と価格等調査(独占業務ではない)に大別されます。鑑定評価は鑑定評価基準に完全準拠して行われ、法的効力の高い鑑定評価書が成果物となります。一方、価格等調査は手法の簡略化が可能であり、費用・期間の面でメリットがありますが、法的証拠力は鑑定評価に劣ります。
依頼者の目的と利用場面に応じて適切な成果物を選択することが重要であり、法律上鑑定評価が必要な場面(公的評価・裁判・証券化等)では必ず鑑定評価を、参考情報としての価格把握であれば価格等調査を選択するのが合理的です。
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