原価法における土地の再調達原価の求め方
原価法における土地の再調達原価とは
原価法を土地に適用する場合の再調達原価は、標準的な取得原価に標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めます。不動産鑑定士試験では、建物だけでなく土地に対する原価法の適用方法が問われるため、各構成要素の意味と計算手順を正確に理解しておくことが重要です。
土地についての再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
土地の再調達原価の基本算式
土地の再調達原価は、以下の算式で求められます。
土地の再調達原価 = 標準的な取得原価 + 標準的な造成費 + 付帯費用
この算式は、原価法の基本的な考え方を土地に適用したものです。建物の場合は建設費用から再調達原価を求めますが、土地の場合は「素材となる土地の取得」から「造成完了」までの一連の費用を積み上げて求めることになります。
再調達原価の考え方
土地の再調達原価を理解するうえで重要なのは、「その土地を今あらためて作り出すとしたらいくらかかるか」という発想です。例えば、造成済みの宅地を評価する場合、素材となる原野や山林を取得し、宅地として利用できるように造成工事を行い、その過程で発生する諸費用を積算するという考え方をとります。
標準的な取得原価
標準的な取得原価とは
標準的な取得原価とは、造成前の素材となる土地(原地)を取得するために必要な費用です。「標準的な」とされているのは、特殊な事情による価格ではなく、市場で通常成立するであろう正常な取引価格を基礎とするためです。
求め方
標準的な取得原価は、以下の方法で求めます。
- 取引事例比較法の活用: 造成前の素地(原野、山林、農地等)の取引事例から比準して求める
- 地価公示・地価調査の活用: 近隣の基準値等を参考にする
- 固定資産税評価額等の活用: 公的評価を参考資料として活用する
重要なのは、造成後の宅地価格ではなく、造成前の素地としての取得原価を把握することです。
具体的な数値例
【例】丘陵地における住宅用造成地の評価
素材となる山林の取得原価:
近隣の山林取引事例 800円/m²
事情補正 1.00
時点修正 1.02
地域要因比較 0.98
個別的要因比較 1.00
─────────────────────
標準的な取得原価 800 × 1.00 × 1.02 × 0.98 × 1.00
≒ 800円/m²
標準的な造成費
造成費の構成
標準的な造成費とは、素材となる土地を宅地等の用途に適した状態にするために必要な造成工事費用です。造成費には以下の項目が含まれます。
| 項目 | 内容 | 費用例(m²あたり) |
|---|---|---|
| 切土・盛土工事 | 地盤の整地、高低差の調整 | 3,000〜8,000円 |
| 擁壁工事 | 法面保護、擁壁の設置 | 5,000〜15,000円 |
| 排水工事 | 雨水排水、汚水排水の整備 | 1,000〜3,000円 |
| 道路築造工事 | 区画内道路の建設 | 2,000〜5,000円 |
| 上下水道工事 | 給水管・排水管の布設 | 1,500〜4,000円 |
| ガス工事 | ガス管の布設 | 500〜1,500円 |
| 電気・通信工事 | 電線・通信線の整備 | 500〜1,000円 |
| のり面緑化 | 法面の植栽、緑化工事 | 500〜2,000円 |
「標準的な」の意味
造成費についても「標準的な」とされているのは、対象地固有の特殊事情を排除し、同種の造成工事において通常必要とされる費用水準を採用するためです。例えば、施工業者の倒産によるやり直し費用や、異常な地盤条件による追加費用は、標準的な造成費には含めません。
造成費の査定方法
造成費の査定には以下の方法があります。
- 実際の造成費の調査: 対象地の実際の造成工事費を調査する(直接法)
- 類似の造成事例からの推定: 近隣の類似造成地の工事費を基に推定する(間接法)
- 積算基準の活用: 建設物価や土木工事積算基準等から算出する
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用
付帯費用の内訳
付帯費用とは、土地の取得や造成に直接関連して発注者が負担する諸費用です。具体的には以下のものが含まれます。
| 項目 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 設計・監理費 | 造成工事の設計費・監理費 | 造成費の5〜10% |
| 開発許可関連費用 | 開発許可申請費、各種調査費 | 数百万円程度 |
| 登記費用 | 所有権移転登記、分筆登記等 | 取得原価の1〜2% |
| 不動産取得税 | 素地取得に係る不動産取得税 | 取得原価の3〜4% |
| 資金調達費用 | 借入金の利息(造成期間中) | 投下資本×金利×造成期間 |
| 販売管理費 | 一般管理費等 | 取得原価+造成費の5〜10% |
| 開発利益 | 開発行為に伴い発生する利益 | 投下資本の一定割合 |
開発利益の取扱い
付帯費用の中で特に重要なのが開発利益の取扱いです。開発利益とは、素地を造成宅地に転換することにより発生する価値の増分のうち、事業者のリスク負担に対する報酬に相当する部分です。
開発利益を再調達原価に含めるかどうかは議論のあるところですが、実務上は投下資本に対する適正な利潤として計上するのが一般的です。
土地の再調達原価の計算例
計算例:住宅造成地の場合
造成済みの宅地(地積500m²)について、原価法を適用するケースを考えます。
【前提条件】
・素材となる山林の取得原価: 800円/m²
・造成面積: 500m²(有効宅地率 70%)
・総造成面積: 500 ÷ 0.70 ≒ 714m²
【再調達原価の算定】
(1) 標準的な取得原価
800円 × 714m² = 571,200円 ≒ 570,000円
(2) 標準的な造成費
切土・盛土 5,000円 × 714m² = 3,570,000円
擁壁工事 8,000円 × 714m² = 5,712,000円
排水工事 2,000円 × 714m² = 1,428,000円
道路築造 3,000円 × 714m² = 2,142,000円
上下水道 2,500円 × 714m² = 1,785,000円
その他 1,500円 × 714m² = 1,071,000円
──────────────────────────────────
造成費合計 15,708,000円
(3) 付帯費用
設計・監理費 15,708,000円 × 8% = 1,257,000円
開発許可関連 = 500,000円
登記・取得税 570,000円 × 5% = 28,500円
資金調達費用 (570,000+15,708,000)× 3% × 1.5年
= 733,000円
一般管理費 (570,000+15,708,000)× 5%
= 814,000円
開発利益 (570,000+15,708,000)× 10%
= 1,628,000円
──────────────────────────────────
付帯費用合計 4,960,500円
(4) 再調達原価(総額)
570,000 + 15,708,000 + 4,960,500 = 21,238,500円
(5) 有効宅地1m²あたりの再調達原価
21,238,500円 ÷ 500m² ≒ 42,500円/m²
既成市街地における土地の再調達原価
既成市街地での適用の困難性
既成市街地の土地については、素材となる土地の取得原価を把握することが困難な場合が多いとされています。都心部のビルが建ち並ぶ商業地などでは、造成前の素地がどのような状態であったかを推定すること自体が難しいためです。
既成市街地における土地にあっては、取引事例との比較が困難であったり、素材の価格の把握が困難であったりすることが多い。このような場合には、再調達原価を求めることは適当でなく、原価法の適用が困難となることに留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
既成市街地での対応
既成市街地の土地を評価する場合は、原価法に代えて以下の手法を用いるのが一般的です。
- 取引事例比較法: 類似の取引事例から比準して求める
- 収益還元法: 土地が生み出す収益から価格を求める
- 開発法: 最有効使用を前提とした建物を想定し、開発完了後の価格から投下資本を控除する
ただし、既成市街地であっても、造成履歴が比較的新しい宅地(ニュータウン等)については、造成費のデータが入手可能なため、原価法の適用が可能な場合があります。
土地と建物の一体としての再調達原価
建物及びその敷地の場合
建物及びその敷地を一体として評価する場合、再調達原価は土地の再調達原価と建物の再調達原価を合算して求めます。
建物及びその敷地の再調達原価 = 土地の再調達原価 + 建物の再調達原価
この場合の土地の再調達原価は、前述の方法(取得原価+造成費+付帯費用)で求めるほか、既成市街地では取引事例比較法等で求めた更地価格を再調達原価として採用することもあります。
計算例:建物及びその敷地の場合
【前提条件】
・土地: 更地価格(取引事例比較法) 30,000,000円
・建物: 再調達原価(直接法) 50,000,000円
【建物及びその敷地の再調達原価】
30,000,000 + 50,000,000 = 80,000,000円
【減価修正後の積算価格】(建物の経過年数10年、耐用年数40年の場合)
土地: 減価なし 30,000,000円
建物: 50,000,000 × (1 - 10/40) = 37,500,000円
────────────────────────────
積算価格 67,500,000円
試験での出題ポイント
短答式試験
- 土地の再調達原価の構成要素(取得原価・造成費・付帯費用)の正誤判定
- 既成市街地における原価法の適用の困難性に関する出題
- 「標準的な」取得原価・造成費とされている理由
- 付帯費用に含まれる項目の範囲
論文式試験
- 土地の再調達原価の求め方を基準の文言に即して記述する問題
- 原価法の適用が有効な不動産と困難な不動産の対比
- 再調達原価の直接法と間接法を土地に当てはめた記述
暗記のポイント
- 基本算式: 土地の再調達原価 = 標準的な取得原価 + 標準的な造成費 + 付帯費用
- 素材となる土地: 造成前の土地(原野、山林、農地等)の価格
- 付帯費用の例: 設計監理費、開発許可関連費用、登記費用、不動産取得税、資金調達費用、一般管理費、開発利益
- 既成市街地: 素材の価格把握が困難 → 原価法の適用が困難
- 「標準的な」の趣旨: 特殊事情を排除し、通常の費用水準を採用
まとめ
原価法における土地の再調達原価は、標準的な取得原価、標準的な造成費、付帯費用の3つの要素から構成されます。造成地や埋立地など、造成履歴が明確な土地に対しては有効な手法ですが、既成市街地では素材の価格把握が困難なため、原価法の適用には限界があります。試験では、基準の文言に即して各構成要素の意味を正確に記述できるようにしておくことが求められます。原価法の全体像や減価修正の3要因と合わせて体系的に理解しておきましょう。