複合不動産の評価の概要

複合不動産とは、建物と土地(敷地)が一体となった不動産のことであり、鑑定評価基準では建物及びその敷地として類型化されています。用途の異なる部分を含む場合の評価は、不動産鑑定士試験において実務に直結する重要な論点です。

複合不動産の評価では、まず建物と敷地の一体としての最有効使用を判定し、次に適用すべき手法を選定するという手順をとります。特に、用途の異なる部分(例:1階が店舗、2〜5階が住宅)を含む場合は、全体としての評価と部分ごとの評価の整合性に留意する必要があります。


不動産の類型における複合不動産の位置づけ

不動産の類型の体系

不動産の類型は、不動産の有形的利用と権利関係に基づいて分類されます。複合不動産に関連する主な類型は以下のとおりです。

類型 定義 具体例
更地 建物等がなく、権利の付着なし 宅地(空き地)
建付地 建物の敷地で同一所有者 自社ビルの敷地
建物及びその敷地 建物と敷地が一体 賃貸マンション、店舗ビル
借地権付建物 借地上の建物と借地権が一体 借地上の戸建住宅
区分所有建物 区分所有法に基づく専有部分 分譲マンション一室

建物及びその敷地とは、建物とその敷地が、同一の所有者に属している場合におけるこの両者の結合によって構成されている不動産をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第2章

複合不動産の特殊性

複合不動産の評価が単純な土地評価と異なる点は、以下のとおりです。

  • 建物と敷地は物理的・経済的に一体として機能する
  • 建物の存在が敷地の最有効使用に影響を与える
  • 建物の用途・構造・築年数が全体の価格に影響する
  • 権利関係(賃貸借の有無等)が価格を左右する

用途の異なる部分を含む場合の評価

複合用途建物の典型例

実務上、一つの建物内に複数の用途が混在するケースは非常に多くあります。

構成
住商複合ビル 1〜2階:店舗、3〜10階:住宅
事務所・店舗複合ビル 1階:店舗、2〜8階:事務所
住居一体型店舗 1階:個人商店、2階:住居
倉庫・事務所複合 1階:倉庫・工場、2階:事務所

評価の基本的な考え方

用途の異なる部分を含む複合不動産の評価には、大きく2つのアプローチがあります。

1. 全体一体評価 – 建物と敷地を一体のものとして評価する – 全体としての収益性・市場性を把握する – 原則的なアプローチ

2. 部分別評価の積み上げ – 用途ごとの部分に分けてそれぞれ評価する – 各部分の価格を積み上げて全体の価格を求める – 補完的なアプローチ(全体一体評価の検証に用いる)

建物及びその敷地は、建物と敷地の結合によって一つの不動産を構成しているのであるから、建物及びその敷地の鑑定評価額は、建物と敷地が一体として市場性を有する場合には、原則として一体としての鑑定評価額を求めるべきである。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節


複合不動産の最有効使用判定

建物が最有効使用に合致する場合

建物の用途・規模・構造等が、敷地の最有効使用に合致している場合は、建物と敷地を一体として、その使用の継続を前提に評価します。

例:駅前商業地域で7階建ての店舗・事務所ビルが建っている場合

  • 敷地の最有効使用:商業ビル(容積率を活用した中高層建物)
  • 現況建物:7階建て店舗・事務所ビル(容積率をほぼ充足)
  • 判定:最有効使用に概ね合致 → 現況を前提に一体評価

建物が最有効使用に合致しない場合

建物の用途・規模等が敷地の最有効使用に合致しない場合は、以下のケースに分かれます。

ケース 判定 評価方法
建物の取壊しが最有効 取壊しを前提 更地価格 − 取壊し費用
建物の用途変更が最有効 用途変更を前提 用途変更後の価格 − 変更費用
建物の継続使用が相対的に有効 現況利用を前提 現況の収益性に基づく評価

建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、建物と敷地が一体としてどのような使用がなされるべきかをまず判定すべきであるが、この場合においては、現況が既に建物が存在するものであるから、まず、現実の建物の用途等を前提とした使用が最有効使用かどうかを判定し、現実の建物の用途等を前提とした使用が最有効使用でないと判定される場合には、建物の取壊しが最有効使用であるかどうかを判定すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第2節


複合不動産の評価手法

原価法の適用

原価法を適用する場合、建物と敷地をそれぞれ評価し、合計して積算価格を求めます。

積算価格 = 土地価格(更地価格) + 建物価格(再調達原価 − 減価額)

具体例(住商複合ビル):

土地価格(更地として):8,000万円
建物再調達原価:1億2,000万円
 ├ 店舗部分(1-2階):4,000万円
 └ 住宅部分(3-10階):8,000万円
建物減価額(築15年・耐用年数50年):3,600万円
建物価格:1億2,000万円 − 3,600万円 = 8,400万円

積算価格 = 8,000万円 + 8,400万円 = 1億6,400万円

収益還元法の適用

収益還元法(特にDCF法)は、複合不動産の評価において最も重視される手法です。

用途の異なる部分を含む場合、各用途部分の賃料収入を積み上げて全体の収益を把握します。

具体例(住商複合ビル):

階層 用途 面積 月額賃料 年間収入
1階 店舗 100平方メートル 30万円 360万円
2階 店舗 100平方メートル 20万円 240万円
3〜10階 住宅(各50平方メートル×2戸) 800平方メートル 各8万円×16戸 1,536万円
合計 1,000平方メートル 2,136万円
年間総収入:2,136万円
空室率等控除後:1,923万円(稼働率90%と仮定)
年間運営費:500万円
純収益:1,423万円
還元利回り:5.5%

収益価格 = 1,423万円 ÷ 5.5% = 約2億5,873万円

取引事例比較法の適用

取引事例比較法は、類似の複合不動産の取引事例が入手できる場合に適用します。ただし、複合用途建物の取引事例は個別性が強いため、適用にあたっては慎重な比較が必要です。


賃貸中の複合不動産の評価

自用と賃貸が混在する場合

所有者が一部を自己使用し、一部を賃貸している場合は、部分ごとの権利関係の違いを考慮する必要があります。

部分 権利関係 評価上の留意点
自用部分 完全所有権 市場賃料を想定して収益を把握
賃貸部分 賃借権の存在 実際の契約賃料を基礎に収益を把握

テナント構成と評価

複合不動産の価格は、テナント構成(テナントミックス)に大きく影響されます。

  • 優良テナントが入居している → 安定的な収益が見込め、価格はプラス
  • 空室が多い → 収益の不安定さから、価格はマイナス
  • 契約期間が長期 → 長期安定収入が見込め、価格にプラス

複合不動産の減価修正

建物の減価要因

複合不動産の評価において、建物の減価修正は重要な要素です。減価の3要因は以下のとおりです。

減価要因 内容 複合不動産での具体例
物理的減価 経年劣化、損傷等 外壁のひび割れ、設備の老朽化
機能的減価 設計の陳腐化、機能不足 エレベーターなし、天井高不足、旧耐震基準
経済的減価 外部環境の変化 周辺の人口減少、商圏の縮小

用途ごとの減価の違い

複合用途建物では、用途によって減価の進行度が異なることがあります。

用途 減価の特徴
店舗部分 内装の更新頻度が高く、機能的減価が目立ちやすい
住宅部分 設備の更新により物理的減価の進行を抑制しやすい
事務所部分 OAフロア・空調等の設備更新が機能的減価に影響

区分所有建物の評価との比較

複合不動産と区分所有建物の違い

項目 複合不動産(一棟) 区分所有建物(一室)
評価対象 建物と敷地の全体 専有部分と共用部分の持分
権利関係 単一所有者 多数の区分所有者
管理費等 所有者が直接負担 管理組合を通じて負担
取引単位 一棟全体 一室ごと
適用手法 原価法・収益還元法・比較法 比較法が中心

複合不動産の証券化評価

不動産証券化における複合不動産

J-REITや私募ファンドが保有する不動産の多くは複合不動産です。証券化不動産の評価においては、以下の点に特に留意が必要です。

留意点 内容
DCF法の重視 投資判断の基礎となるため、DCF法が最も重視される
テナント分析 主要テナントの信用力、賃料水準の分析
CAPEX(資本的支出) 大規模修繕・設備更新の計画を反映
収益の安定性 空室率、テナント入替リスクの分析
出口価格 保有期間終了時の売却想定価格

証券化不動産の評価は、不動産鑑定士が行う業務の中でも高い専門性が求められる分野であり、報酬水準も高い傾向にあります。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 建物及びその敷地の類型の定義に関する正誤問題
  • 最有効使用判定において「建物の取壊しが最有効である場合」の評価方法
  • 原価法における複合不動産の積算価格の算定方法
  • 「建物及びその敷地は、常に一体として評価しなければならない」→ 原則正しいが例外あり

論文式試験

  • 「建物及びその敷地の最有効使用の判定方法について述べよ」
  • 「建物が敷地の最有効使用に合致しない場合の評価方法を論述せよ」
  • 「用途の異なる部分を含む複合不動産の収益還元法の適用について述べよ」

暗記のポイント

  1. 複合不動産 = 建物及びその敷地として一体評価が原則
  2. 最有効使用判定:現況利用が最有効か → 取壊しが最有効かの順で判定
  3. 原価法:土地価格 + 建物価格(再調達原価 − 減価額)
  4. 収益還元法:各用途部分の賃料を積み上げて全体の収益を把握
  5. 建物が最有効使用に合致しない場合:更地価格 − 取壊し費用

まとめ

複合不動産の評価は、建物と敷地の一体性を前提に、最有効使用の判定から始まります。特に用途の異なる部分を含む場合は、全体としての一体評価を原則としつつ、各部分の収益性も個別に分析する必要があります。

評価手法としては、収益還元法が最も重視され、原価法と取引事例比較法を併用して多角的に検証します。建物が敷地の最有効使用に合致しない場合の判定は、試験でも頻出の論点です。

関連記事として、最有効使用の判定で判定の基本的な考え方を、不動産の種別と類型で類型の全体像を確認してください。評価手法については原価法収益還元法で詳しく解説しています。