新規賃料と継続賃料の違い|完全比較ガイド
新規賃料と継続賃料の概要
新規賃料と継続賃料は、不動産の賃料評価における2つの基本概念です。最大の違いは、新規賃料が市場で新たに形成される賃料であるのに対し、継続賃料は既存の契約関係を前提とする賃料であるという点です。
不動産鑑定士試験では、この2つの賃料の違いは論文式試験で繰り返し出題される最重要テーマの一つです。両者の定義・適用手法・価格形成要因の違いを正確に理解しておくことが求められます。
賃料を求める場合の一般的留意事項として、新規賃料と継続賃料とはその性格が異なるから、不動産の賃貸借等の契約に当たって新たに賃料を定める場合の鑑定評価と賃料の改定に際して行われる場合の鑑定評価とは異なるものであることに留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節
新規賃料と継続賃料の定義
新規賃料
新規賃料とは、新たに賃貸借契約を締結する場合に成立する経済価値に即応した適正な賃料です。既存の契約関係がない状態で、市場において自由に形成されるべき賃料であり、賃貸市場の需給を直接反映します。
新規賃料とは、新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
継続賃料
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料です。既存の契約関係と現行賃料の水準を前提とするため、市場賃料とは異なる水準となることが一般的です。
継続賃料は、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
新規賃料と継続賃料の完全比較
基本的な違い
| 比較項目 | 新規賃料 | 継続賃料 |
|---|---|---|
| 前提 | 新たな契約の締結 | 既存の契約関係の継続 |
| 当事者 | 不特定の合理的な当事者 | 特定の当事者 |
| 市場性 | 市場で自由に形成される | 契約の個別性を反映 |
| 現行賃料 | 考慮しない | 現行賃料を考慮 |
| 契約の経緯 | 考慮しない | 契約の経緯を考慮 |
| 価格との対応 | 正常価格に対応 | 限定価格に近い性格 |
評価手法の違い
| 手法 | 新規賃料 | 継続賃料 |
|---|---|---|
| 積算法 | 適用する | 差額配分法として応用 |
| 賃貸事例比較法 | 適用する | 適用する |
| 収益分析法 | 適用する | 適用しない |
| 差額配分法 | 適用しない | 適用する |
| 利回り法 | 適用しない | 適用する |
| スライド法 | 適用しない | 適用する |
新規賃料は3手法(積算法・賃貸事例比較法・収益分析法)、継続賃料は4手法(差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法)で求めます。
依頼目的の違い
| 依頼目的 | 求める賃料 |
|---|---|
| 新規に店舗を借りる際の適正賃料 | 新規賃料 |
| 賃貸マンションの新規募集賃料 | 新規賃料 |
| 定期借地権設定時の地代 | 新規賃料 |
| 既存テナントの賃料改定 | 継続賃料 |
| 賃料増額請求訴訟における適正賃料 | 継続賃料 |
| 借地権の地代改定 | 継続賃料 |
新規賃料の評価手法
積算法
積算法は、基礎価格に期待利回りを乗じて得た純賃料に、必要諸経費等を加算して賃料を求める手法です。
積算賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等
具体例:
基礎価格(更地価格):5,000万円
期待利回り:5.0%
必要諸経費等:年間50万円
積算賃料 = 5,000万円 × 5.0% + 50万円 = 300万円(年額)
月額賃料 = 25万円
賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、取引事例比較法の賃料版です。類似の賃貸借事例から、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行って賃料を求めます。
収益分析法
収益分析法は、対象不動産の賃借人が事業を営むことにより得る総収益を分析し、不動産に帰属する部分を賃料として求める手法です。事業用不動産の賃料評価に適しています。
継続賃料の評価手法
差額配分法
差額配分法は、対象不動産の現時点における新規賃料(経済価値に即応した適正な実質賃料)と現行賃料との差額を求め、この差額のうち賃貸人と賃借人に帰属する部分を配分して継続賃料を求める手法です。
継続賃料 = 現行賃料 + 差額 × 配分率
具体例:
新規賃料(実質):月額30万円
現行賃料(実質):月額25万円
差額:5万円
配分率(折半):50%
継続賃料 = 25万円 + 5万円 × 50% = 27.5万円
利回り法
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た純賃料に必要諸経費等を加算して賃料を求める手法です。積算法の継続賃料版ともいえます。
スライド法
スライド法は、現行賃料を定めた時点における適正な実質賃料に、変動率を乗じて試算賃料を求める手法です。
継続賃料 = 現行賃料決定時の適正実質賃料 × 変動率
賃貸事例比較法(継続賃料)
継続賃料における賃貸事例比較法は、新規賃料の場合と基本的な手法は同じですが、継続賃料に係る賃貸借事例を収集・選択する点が異なります。
継続賃料固有の価格形成要因
継続賃料の評価においては、新規賃料にはない固有の価格形成要因を考慮する必要があります。
継続賃料固有の価格形成要因として、①直近合意時点及び②その時点における賃料を必ず把握するとともに、これに加え、③契約の内容及びそれに至る経緯等を総合的に勘案すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
| 要因 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 直近合意時点 | 現行賃料が合意された時点 | 2020年4月の契約更新時 |
| 直近合意時点の賃料 | その時点で合意された賃料の水準 | 月額20万円 |
| 契約の内容 | 賃貸借契約の条件 | 契約期間、更新条項、特約事項 |
| 契約に至る経緯 | 契約締結・更新の背景事情 | 長年の信頼関係に基づく減額等 |
| 賃料改定の経緯 | 過去の賃料変遷 | 5年間据え置き、その前は増額 |
これらの要因は新規賃料では考慮しないものであり、両者の本質的な違いを生む根源です。
新規賃料と継続賃料の乖離
なぜ乖離が生じるのか
実務上、継続賃料は新規賃料と乖離することが一般的です。その主な理由は以下のとおりです。
- 賃料の遅行性(粘着性) ― 賃料は経済環境の変化に対して遅れて変動する傾向がある
- 契約の拘束力 ― 既存の契約条件が賃料水準を制約する
- 当事者間の関係性 ― 長期的な信頼関係が急激な賃料変動を抑制する
- 情報の非対称性 ― 賃借人は市場動向を十分に把握していない場合がある
乖離の具体例
| ケース | 新規賃料 | 継続賃料 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 都心商業ビル(好況期) | 月額50万円 | 月額35万円 | 市場上昇に現行賃料が追いつかない |
| 郊外住宅(不況期) | 月額8万円 | 月額10万円 | 市場下落しても賃料改定が遅れる |
| 長期借地 | 年額100万円 | 年額40万円 | 数十年前の地代が据え置かれている |
特に長期の借地では乖離が顕著になりやすく、賃料増額請求訴訟の要因となります。
実務における新規賃料・継続賃料の鑑定評価
新規賃料が必要とされる場面
実務で新規賃料の鑑定評価が依頼される典型的な場面は以下のとおりです。
| 場面 | 依頼者 | 目的 |
|---|---|---|
| テナントビルの新規募集 | ビルオーナー | 適正な募集賃料の把握 |
| 定期借地権の設定 | 地主・借地人 | 地代の合意形成 |
| 社宅の賃料設定 | 企業 | 税務上の適正賃料の算定 |
| 新規出店の検討 | 小売業者 | 出店判断のための賃料分析 |
継続賃料が必要とされる場面
継続賃料の鑑定評価は、紛争や交渉の場面で多く依頼されます。
| 場面 | 依頼者 | 目的 |
|---|---|---|
| 賃料増額請求訴訟 | 賃貸人(原告) | 裁判所に提出する鑑定評価書 |
| 賃料減額請求訴訟 | 賃借人(原告) | 裁判所に提出する鑑定評価書 |
| 賃料改定の交渉 | 賃貸人・賃借人 | 交渉の根拠資料 |
| 借地権の地代改定 | 地主・借地人 | 地代の適正水準の把握 |
| 調停・仲裁 | 双方 | 第三者機関への提出資料 |
借地借家法は、賃料の増減額請求権を認めており、当事者間で協議が整わない場合は裁判所による判断となります。この際、不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価が最も重要な証拠として活用されます。
実質賃料と支払賃料の違い
概念の整理
賃料評価を正しく理解するためには、実質賃料と支払賃料の違いを把握する必要があります。
| 概念 | 内容 | 算式 |
|---|---|---|
| 実質賃料 | 賃貸借の対価の全体 | 支払賃料 + 権利金等の運用益・償却額 |
| 支払賃料 | 毎月実際に支払う賃料 | 実質賃料 − 権利金等の運用益・償却額 |
鑑定評価基準における賃料評価は、原則として実質賃料ベースで行われます。支払賃料を求めるには、実質賃料から権利金等の一時金の運用益・償却額を控除します。
一時金の取扱い
| 一時金の種類 | 内容 | 実質賃料への影響 |
|---|---|---|
| 権利金 | 賃借権設定の対価 | 運用益を控除 |
| 敷金・保証金 | 担保的性格の金銭 | 運用益を控除(返還されるため償却しない) |
| 礼金 | 契約締結の対価 | 契約期間で償却して控除 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 新規賃料と継続賃料の定義の正誤を問う問題
- 各手法が新規賃料・継続賃料のどちらに適用されるかを問う問題
- 継続賃料固有の価格形成要因の正誤問題
- 「差額配分法は新規賃料にも適用できる」→ 誤り
論文式試験
- 「新規賃料と継続賃料の違いについて述べよ」→ 定義・手法・価格形成要因の3点から論述
- 「継続賃料の評価手法を述べ、それぞれの特徴と留意点を説明せよ」
- 「継続賃料固有の価格形成要因について説明し、これが評価にどう反映されるかを論述せよ」
- 「賃料の改定に係る鑑定評価の意義と留意事項を述べよ」
暗記のポイント
- 新規賃料3手法:積算法、賃貸事例比較法、収益分析法
- 継続賃料4手法:差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法
- 継続賃料固有の要因:直近合意時点、直近合意時点の賃料、契約の内容・経緯
- 新規賃料は不特定の当事者、継続賃料は特定の当事者
- 継続賃料は現行賃料を考慮、新規賃料は考慮しない
まとめ
新規賃料と継続賃料の違いは、「市場で自由に形成される賃料」か「既存の契約関係を前提とする賃料」かという本質的な違いに集約されます。この違いから、適用される手法、考慮すべき価格形成要因、依頼される場面のすべてが異なってきます。
論文式試験では、両者の違いを定義・手法・価格形成要因の3つの観点から整理して論述できるようにしておくことが重要です。特に継続賃料固有の価格形成要因は、論述問題で必ず触れるべきポイントです。
関連記事として、新規賃料の鑑定評価で3手法の詳細を、継続賃料の鑑定評価で4手法の詳細を確認してください。また、差額配分法の仕組みについては差額配分法で詳しく解説しています。