価格時点の意義と確定方法|いつの時点の価格か
価格時点とは
価格時点とは、鑑定評価によって求める価格の判定基準日をいいます。不動産の価格は時の経過により変動するため、「いつの時点の価格なのか」を明確にすることは鑑定評価の大前提です。不動産鑑定士試験では、価格時点の定義・確定方法・他の基本的事項との関係が頻繁に出題されます。
鑑定評価を行うに当たっては、まず、鑑定評価の基本的事項を確定しなければならない。鑑定評価の基本的事項とは、鑑定評価の対象となる不動産(以下「対象不動産」という。)、価格時点及び鑑定評価によって求めるべき価格又は賃料の種類をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
価格時点とは
定義と趣旨
価格時点とは、鑑定評価によって求められた価格の判定の基準日です。不動産の価格は、社会経済情勢の変化や地域環境の変動、個別的要因の変化等によって常に変動しています。そのため、鑑定評価額は特定の時点における価格として確定しなければなりません。
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この価格の標準についての判断は、[中略] 時の経過に伴い変動するものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、価格時点を確定する必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
つまり、最有効使用の判断自体が時の経過により変化するため、「いつの時点での最有効使用を前提とした価格なのか」を明らかにする必要があるのです。
価格時点の具体的な意味
価格時点を確定するということは、以下の項目を全てその時点の状態で判定することを意味します。
| 判定事項 | 価格時点で確定する内容 |
|---|---|
| 価格形成要因 | 一般的要因・地域要因・個別的要因の全てをその時点で把握 |
| 最有効使用 | その時点における最も合理的な使用方法を判定 |
| 市場の状態 | その時点の不動産市場の需給関係を前提 |
| 法的規制 | その時点で適用される都市計画法・建築基準法等の規制内容 |
例えば、令和5年1月1日を価格時点とする鑑定評価では、令和5年1月1日時点の都市計画規制、不動産市況、金利水準等を前提として価格を判定します。仮に令和5年4月に用途地域が変更されたとしても、価格時点が1月1日であれば、変更前の用途地域を前提とするのが原則です。
価格時点の確定方法
鑑定評価の依頼目的との関係
価格時点は、鑑定評価の依頼目的に応じて確定されます。鑑定評価の依頼目的と価格時点の関係は以下の通りです。
| 依頼目的 | 典型的な価格時点 | 具体例 |
|---|---|---|
| 売買の参考 | 依頼時点(現在) | 所有不動産の売却を検討中 → 現在の価格を求める |
| 担保評価 | 依頼時点(現在) | 金融機関の融資判断 → 現在の担保価値を求める |
| 相続税申告 | 相続開始日 | 被相続人の死亡日を価格時点とする |
| 固定資産税評価 | 賦課期日(1月1日) | 固定資産税の基準日 |
| 地価公示 | 1月1日 | 地価公示法に基づく基準日 |
| 訴訟 | 損害発生日等 | 不法行為の日を基準とする場合がある |
価格時点の3類型
価格時点は、鑑定評価を行う日(作業期間)との関係で、以下の3つに分類されます。
価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として、対象不動産の確認等が行える時期を考慮のうえ、現在時点のほか、過去時点及び将来時点のいずれかに確定することができる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
| 類型 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| 現在時点 | 鑑定評価を行う日に近い時点 | 通常の売買参考・担保評価 |
| 過去時点 | 鑑定評価を行う日より前の時点 | 相続開始日、損害発生日、訴訟における過去の評価 |
| 将来時点 | 鑑定評価を行う日より後の時点 | 開発計画の完了予定日、市場動向を踏まえた将来予測 |
過去時点の鑑定評価における留意点
過去時点が必要となる場面
過去時点の鑑定評価は、以下のような場面で必要となります。
- 相続税の申告: 被相続人の死亡日が価格時点となる
- 訴訟: 不法行為の日や契約締結日を基準とする
- 損害賠償請求: 損害発生時点の価格を求める
- 税務上の取得費算定: 過去の取得時点の価格を遡及して求める
過去時点の鑑定評価の問題点
過去時点の鑑定評価には、対象不動産の確認が困難という実務上の課題があります。
過去の時点について鑑定評価を行う場合は、対象不動産の確認について、鑑定評価を行う時点で確認し得る資料の範囲内で確認するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
例えば、10年前の価格時点で鑑定評価を行う場合、当時の建物の状態、周辺環境、市場動向等を現在入手可能な資料の範囲内で復元して判断する必要があります。当時の写真、固定資産税評価額、近隣の取引事例等が重要な資料となります。
数値例:過去時点の影響
同じ不動産でも価格時点によって評価額は大きく異なります。
【同一不動産の評価額の違い(例)】
価格時点:令和2年1月1日 → 評価額:8,000万円
(コロナ禍前、不動産市況は安定)
価格時点:令和3年1月1日 → 評価額:7,200万円
(コロナ禍の影響で取引が停滞)
価格時点:令和5年1月1日 → 評価額:9,500万円
(市況回復、金融緩和の継続)
このように、価格時点の違いにより評価額は数千万円単位で変動し得ます。価格時点の確定が鑑定評価において極めて重要である理由がここにあります。
将来時点の鑑定評価
将来時点が求められる場面
将来時点の鑑定評価は、以下のような場面で利用されます。
- 開発事業の事業採算性検討: 竣工後の想定価格を求める
- 都市再開発事業: 事業完了後の権利変換後の価格を算定
- 投資判断: 一定期間後の想定売却価格を求める
将来時点の鑑定評価の留意点
将来時点の鑑定評価は、不確実性が高いという特質があります。将来の経済情勢、法的規制の変更、市場動向等は予測に過ぎないため、一定の前提条件(想定上の条件)を置いたうえで行うのが通常です。
鑑定評価の条件として、将来時点における市場環境や法的規制の状態について想定上の条件を設定し、その条件のもとで価格を求めることになります。
価格時点と他の基本的事項との関係
鑑定評価の三要素
鑑定評価の基本的事項は、以下の3つの要素で構成されます。これらは相互に関連しており、一体として確定する必要があります。
| 基本的事項 | 内容 | 確定する問い |
|---|---|---|
| 対象不動産の確定 | 何を評価するか | どの不動産の価格か |
| 価格時点の確定 | いつの時点の価格か | いつの時点の価格か |
| 価格の種類の確定 | どのような価格か | 正常価格か限定価格か等 |
対象確定条件と価格時点
対象確定条件と価格時点は密接に関連しています。例えば、未竣工の建物について鑑定評価を行う場合、価格時点を竣工後の将来時点とするか、現在時点で「竣工を前提とした条件」を付すかによって、評価の枠組みが異なります。
| 方法 | 価格時点 | 条件 |
|---|---|---|
| 将来時点で評価 | 竣工予定日 | 想定上の条件として市場環境を設定 |
| 現在時点で条件付き評価 | 現在 | 「建物が竣工しているものとして」という想定上の条件を付す |
価格形成要因との関係
価格時点は価格形成要因の把握の基準時点でもあります。一般的要因(経済情勢、金利等)、地域要因(都市計画規制、インフラ整備等)、個別的要因(建物の経過年数、管理状態等)の全てを、価格時点の状態で捉えなければなりません。
特に経過年数による減価は価格時点に直結します。建物の経済的残存耐用年数を判定する際、価格時点における建物の経過年数・管理状態を基準とするため、価格時点が1年異なれば減価額も変わります。
地価公示・地価調査における価格時点
地価公示の価格時点
地価公示法に基づく地価公示は、毎年1月1日を価格時点として実施されます。土地鑑定委員会が全国の標準地について鑑定評価を行い、その年の3月に公示します。
都道府県地価調査の価格時点
都道府県地価調査は、毎年7月1日を価格時点として実施されます。地価公示と半年ずれた時点で行うことで、年間を通じた地価動向の把握に役立てられています。
| 制度 | 価格時点 | 公表時期 | 根拠法 |
|---|---|---|---|
| 地価公示 | 1月1日 | 3月下旬 | 地価公示法 |
| 都道府県地価調査 | 7月1日 | 9月下旬 | 国土利用計画法施行令 |
これらの制度は、固定資産税評価額や相続税路線価の算定基礎としても利用されており、価格時点の概念が実務において果たす役割の大きさを示しています。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 価格時点の定義: 「価格の判定の基準日」という表現を正確に把握する
- 3類型: 現在時点・過去時点・将来時点の区別と、それぞれの適用場面
- 過去時点の確認方法: 「鑑定評価を行う時点で確認し得る資料の範囲内」という制約
- 基本的事項の構成: 対象不動産の確定・価格時点の確定・価格の種類の確定の3要素
論文式試験
- 価格時点が必要な理由の論述: 「不動産の価格は時の経過により変動する」→「最有効使用の判断も変動する」→「いつの時点の価格か明確にする必要がある」
- 過去時点の鑑定評価の留意点: 対象不動産の確認の困難性、利用可能な資料の制約
- 他の基本的事項との関連: 対象確定条件・鑑定評価の条件・価格の種類との体系的な関係
暗記のポイント
- 基本的事項の3要素: 対象不動産の確定、価格時点の確定、価格の種類の確定
- 価格時点の3類型: 現在時点、過去時点、将来時点
- 価格時点が必要な理由: 最有効使用の判断が時の経過に伴い変動するため
- 過去時点の制約: 鑑定評価を行う時点で確認し得る資料の範囲内で確認
まとめ
価格時点は、鑑定評価の基本的事項の一つであり、「いつの時点の価格なのか」を確定するものです。不動産の価格は時の経過により変動するため、価格時点を明確にすることは鑑定評価の前提条件として不可欠です。現在時点・過去時点・将来時点の3類型があり、依頼目的に応じて適切な時点を選択します。
価格時点は対象確定条件や価格形成要因と密接に関連する論点であり、体系的に理解しておくことが試験対策上も重要です。次に、鑑定評価の条件について詳しく学びたい方は鑑定評価の条件の体系もあわせてご覧ください。