更地評価と三方式の適用

不動産鑑定士試験の鑑定理論において、更地評価における三方式の適用パターンは、各論第1章の最も基本的かつ重要な論点です。更地の鑑定評価では、鑑定評価の三方式のうち適用可能な手法を組み合わせて鑑定評価額を決定しますが、三方式全てが適用できるわけではなく、更地特有の適用パターンがあります。

更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章

この規定は、更地の評価における手法の適用順位と組み合わせを示す最も重要な条文の一つです。本記事では、更地評価における各手法の適用方法と、原価法が適用できない理由を体系的に解説します。


更地評価の手法体系

全体像

更地の鑑定評価に適用する手法は、以下のように体系化されます。

手法 試算価格 基準上の位置づけ キーワード
取引事例比較法 比準価格 基本手法 「関連づけて」
収益還元法(土地残余法) 収益価格 基本手法 「関連づけて」
開発法 開発法による価格 補助手法 「さらに」「比較考量して」
原価法 適用不可 再調達原価が把握できない

この「関連づけて」と「比較考量して」の区別は、試験で極めて頻出のポイントです。

「関連づけて」と「比較考量して」の違い

表現 意味 対象手法
「関連づけて」決定 各試算価格を相互に検証し、調和的に鑑定評価額を決定 比準価格、収益価格(土地残余法)
「比較考量して」決定 基本手法で求めた価格と比較し、参考にして鑑定評価額を決定 開発法による価格

「関連づけて」は基本手法に用いられる表現であり、各試算価格の説得力を判断して調整することを意味します。一方、「比較考量して」は補助手法に用いられる表現であり、基本手法による価格を追加的に検証することを意味します。


取引事例比較法の適用

適用方法

取引事例比較法は、更地の評価において最も基本的な手法です。類似の更地の取引事例を収集し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行って比準価格を求めます。

事例の種類

更地の比準価格を求めるための取引事例には、2つの種類があります。

事例の種類 方法 特徴
更地の取引事例 更地としての取引価格を直接比準 修正が少なく信頼性が高い
建物及びその敷地の取引事例 配分法により土地部分の価格を抽出して比準 更地の事例が少ない場合に活用

更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章

配分法とは、建物及びその敷地の取引価格から建物の価格(通常は原価法で求めた建物の積算価格)を控除して、土地部分の価格を抽出する方法です。更地の取引事例が直接得られない場合に有効です。

適用のポイント

  • 取引事例の選択 — 対象不動産と同一需給圏内の類似地域から選択する
  • 修正幅の最小化 — 事情補正や要因比較の修正幅が小さい事例ほど信頼性が高い
  • 複数事例の活用 — 複数の事例から比準価格を求め、結果の安定性を確認する
  • 時点修正の精度 — 取引時点と価格時点の地価変動を適切に反映する

収益還元法(土地残余法)の適用

土地残余法とは

更地に収益還元法を適用する場合は、土地残余法を用います。更地には建物が存在しないため、通常の収益還元法をそのまま適用することはできません。土地残余法は、更地上に最有効使用の建物を想定し、その不動産全体の純収益から建物に帰属する純収益を控除して、土地に帰属する純収益を求め、これを還元利回りで還元する手法です。

再調達原価が把握できる建物等が存しない場合(更地の場合等)においては、土地残余法の適用を検討すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

土地残余法の計算手順

土地残余法の計算は、以下の手順で行います。

  1. 最有効使用の建物を想定 — 対象更地上に建築可能で最も収益性の高い建物を想定
  2. 不動産全体の純収益を求める — 想定建物を含む不動産全体からの純収益を算出
  3. 建物に帰属する純収益を控除 — 建物の再調達原価に建物の還元利回りを乗じて建物帰属分を算出し控除
  4. 土地帰属の純収益を還元 — 残余の純収益を土地の還元利回りで還元して収益価格を算出
土地の収益価格 =(不動産全体の純収益 − 建物帰属の純収益)÷ 土地の還元利回り

適用のポイント

  • 最有効使用の判定 — 法的規制(用途地域、容積率等)、物理的条件、経済的合理性を考慮
  • 想定建物の設定 — 建物の構造、規模、用途、設備等を具体的に設定
  • 純収益の見積もり — 周辺の賃料水準、空室率等を踏まえた合理的な見積もり
  • 利回りの設定 — 土地と建物のそれぞれの還元利回りを適切に設定

土地残余法の特性

土地残余法は、建物の想定を介して間接的に土地の価格を求める手法であるため、想定建物の設定や利回りの査定に判断の幅が生じやすいという特性があります。特に以下の点が価格に影響を与えます。

  • 想定建物の規模・グレードの設定
  • 建物帰属の純収益の算出に用いる建物の還元利回りの水準
  • 土地の還元利回りと建物の還元利回りの差異の設定

開発法の適用

適用場面

開発法は、更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等に適用を検討する手法です。

当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとする。

(ア)当該更地について、価格時点において、造成に関する工事が完了しているものとして、当該造成後の更地についての比準価格

(イ)当該更地について、開発法に準じた方法により求めた価格

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章

「比較考量して」の意味

開発法は、「さらに」「比較考量して」決定する手法です。これは、比準価格と収益価格(土地残余法)による基本的な判断の枠組みが先にあり、それに開発法による価格を追加的に参考にするという位置づけを意味します。

しかし、「比較考量」は「参考にする程度」という意味ではありません。開発法による価格が合理的な根拠に基づいている場合は、鑑定評価額の決定に重要な影響を与えます。特に、大規模画地やマンション用地など、開発法の適用が有効な場面では、開発法による価格の比重が大きくなることがあります。


原価法が適用できない理由

理論的な理由

更地の鑑定評価において原価法が適用できないのは、土地には再調達原価の概念がなじまないためです。

原価法は、対象不動産を「再び調達する(再建築・再造成する)」場合の費用を基礎とする手法です。建物であれば、同じ建物を新築する場合の費用(再調達原価)を求めることができますが、土地は自然に存在するものであり、人為的に「再び調達する」ことはできません

対象 再調達原価の把握 理由
建物 可能 同一の建物を新築する費用を見積もれる
更地(既成宅地) 不可 土地は自然に存在し、再調達の概念がない
造成地(宅地見込地) 部分的に可能 造成費は把握できるが、素地の価格は再調達原価ではない

例外的なケース

ただし、以下のケースでは原価法的なアプローチが部分的に可能です。

  • 埋立地・造成地 — 造成費や埋立費を把握できるため、原価法的な考え方を一部適用可能
  • 公共用地の取得 — 用地取得費と造成費から公共施設用地の原価を把握可能

しかし、これらの場合でも、素地の取得価格自体は原価法で求められるものではなく、取引事例比較法等で求めた価格を基礎とすることになります。

基準の規定

基準では、再調達原価が把握できる場合には積算価格をも関連づけて決定すべきとの規定があります。

再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章

この規定は、造成地等の特殊なケースを想定したものであり、通常の既成宅地としての更地には原価法は適用しないのが原則です。


公示価格を規準とした価格

法的義務

更地の鑑定評価において正常価格を求める場合には、公示価格を規準とすることが法律上義務づけられています。

不動産鑑定士は、土地についての鑑定評価を求められたときは、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない。

― 地価公示法 第8条

「規準とする」とは、公示価格と同一の価格を求めるということではなく、公示価格の水準との均衡に留意することを意味します。具体的には、近傍の地価公示標準地の価格と比較検討し、両者の関係が合理的に説明できることを確認します。

規準の手順

  1. 対象地の近傍に所在する地価公示の標準地を選定
  2. 標準地と対象地の地域要因・個別的要因の比較を行う
  3. 標準地の公示価格から対象地の規準価格を求める
  4. 各手法で求めた試算価格と規準価格の均衡を確認する

手法の組み合わせパターン

住宅地域の更地

住宅地域の更地の場合、典型的な手法の組み合わせは以下の通りです。

手法 適用 理由
取引事例比較法 必須 住宅地は取引事例が豊富、最も説得力が高い
土地残余法 適用検討 賃貸住宅を想定した収益性の検証
開発法 大規模画地の場合 分譲開発が合理的な場合に適用
原価法 不可 再調達原価が把握できない

商業地域の更地

商業地域の更地の場合、土地残余法の重要性が増します。

手法 適用 理由
取引事例比較法 必須 市場性の直接的な把握
土地残余法 必須 商業地では収益性が価格形成の主要因
開発法 大規模画地の場合 大規模商業施設の開発を想定
原価法 不可 再調達原価が把握できない

工業地域の更地

工業地域の更地では、取引事例が少ない場合があります。

手法 適用 理由
取引事例比較法 必須(事例が得られれば) 工業地域の事例は比較的少ない
土地残余法 適用検討 工場・倉庫を想定した収益性の検証
開発法 大規模画地の場合 物流施設等の開発を想定
原価法 不可 再調達原価が把握できない

試験での出題ポイント

短答式試験

不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が頻出です。

  • 適用手法の組み合わせ — 「比準価格と収益価格を関連づけて決定」「開発法は比較考量
  • 原価法が適用できない理由 — 「再調達原価が把握できない」
  • 配分法の適用 — 建物及びその敷地の取引事例から土地価格を抽出する方法
  • 土地残余法の適用根拠 — 「再調達原価が把握できる建物等が存しない場合」
  • 「関連づけて」と「比較考量して」の違い — 基本手法と補助手法の区別

論文式試験

論文式試験では、更地の鑑定評価における手法の適用を体系的に論述する問題が出題されます。

  • 各手法の適用方法と手順の記述
  • 取引事例比較法と土地残余法の「関連づけて」決定する意味の説明
  • 開発法の「比較考量して」決定する位置づけの説明
  • 原価法が適用できない理論的根拠の説明
  • 公示価格を規準とすることの意義

暗記のポイント

  1. 基本手法 — 比準価格と土地残余法による収益価格を「関連づけて」決定
  2. 補助手法 — 「さらに」開発法による価格を「比較考量して」決定
  3. 原価法の不適用 — 再調達原価が把握できる場合には積算価格をも関連づけて決定すべき(通常の更地では不可)
  4. 配分法 — 建物及びその敷地の取引事例を用いた比準価格の算出方法
  5. 公示価格の規準 — 正常価格を求める場合は公示価格を規準とする義務あり

まとめ

更地評価における三方式の適用は、取引事例比較法と土地残余法を基本手法として「関連づけて」決定し、大規模画地等では開発法を「比較考量して」決定するのが原則です。原価法は土地の再調達原価が把握できないため適用できません。この手法体系の理解は、鑑定評価基準の各論第1章を学ぶうえでの出発点です。

更地の鑑定評価の全体像については更地の鑑定評価を、三方式の併用の意義については三方式の併用と調整理論もあわせて学習してください。