不動産の個別性と代替性|価格形成の基礎
不動産の個別性と代替性とは
不動産には個別性(一つとして同じものが存在しない性質)と代替性(類似の不動産が相互に競争・代替する関係にある性質)が同時に備わっています。この一見矛盾する二つの性質が、不動産の価格形成メカニズムの基礎をなしており、不動産鑑定士試験では、両者の関係と鑑定評価手法への反映が重要論点として出題されます。
不動産の現実の取引価格等は、取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個々の取引等における諸事情によって左右されがちのものであって、このような取引等によって発生した価格等はそのまま不動産の適正な価格等であるとは限らない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第1章
不動産の個別性
個別性とは
不動産の個別性とは、すべての不動産が固有の特性を持ち、まったく同じものは二つと存在しないという性質です。この個別性は、主に不動産の以下の特性に由来します。
個別性の根拠
| 不動産の特性 | 個別性への影響 |
|---|---|
| 位置の固定性 | 場所が異なる以上、同じ不動産は存在しない |
| 不動性 | 移動できないため、所在地に固有の環境条件を持つ |
| 不増性(土地) | 新たに供給できないため、各土地は唯一の存在 |
| 永続性(土地) | 長期間にわたり存在し、時間経過で周辺環境が変化 |
| 個別的要因の多様性 | 面積、形状、接道、日照等の条件が個々に異なる |
個別的要因と個別性
不動産の個別性を具体的に規定するのが個別的要因です。
| 種類 | 主な個別的要因 |
|---|---|
| 土地 | 地積、間口、奥行、形状、接面道路、方位、高低差、角地・中間画地、地質・地盤 |
| 建物 | 構造、規模、築年数、設備、維持管理状態、耐震性 |
同じ住宅地内の隣接する2つの土地であっても、間口、奥行、形状、接道状況が異なれば、価格水準は異なります。このような個別的要因の違いが価格差を生み出すのです。
不動産の代替性
代替性とは
不動産の代替性とは、不動産が強い個別性を持つにもかかわらず、類似の不動産は相互に競争・代替の関係にあり、一方の不動産の価格が他方の不動産の価格に影響を与えるという性質です。
代替の原則
代替の原則は、不動産の価格に関する諸原則の一つであり、代替性に基づく価格形成の法則を示しています。
代替の原則は、不動産の価格は、その不動産と代替関係にある不動産の価格と相互に関連して形成されるということを示すものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
例えば、ある住宅地の価格が上昇すると、近隣の類似住宅地(代替関係にある住宅地)の価格も連動して上昇する傾向があります。これは、需要者が「同等の効用を得られる不動産」を比較検討して購入判断を行うためです。
代替関係の成立条件
代替関係が成立するためには、以下の条件が必要です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 同一需給圏内 | 需要者が比較検討の対象とする範囲にある |
| 類似の用途 | 同じ用途(住宅、事務所、商業等)に供される |
| 類似の品等 | 規模、グレード、条件等がおおむね類似 |
| 需要者層の共通 | 同じ需要者層が購入候補として検討する |
個別性と代替性の両立
一見矛盾する二つの性質
個別性は「すべての不動産は固有のものである」と述べ、代替性は「類似の不動産は相互に関連する」と述べています。この二つの性質は一見矛盾するように見えますが、実際には両立しています。
【個別性の視点】
A土地とB土地は、面積・形状・接道状況等が異なり、まったく同じではない
→ A土地とB土地は「同一」ではない
【代替性の視点】
A土地とB土地は、同じ住宅地内にあり、用途・規模・立地条件が類似している
→ A土地とB土地は「代替関係」にある
→ 両方が同時に成立する
両立のメカニズム
不動産は完全な同質品ではないが、完全に無関係でもありません。類似の不動産は不完全な代替財として相互に影響し合いながら価格を形成しています。
| レベル | 性質 | 具体例 |
|---|---|---|
| 完全な同質性 | 一般財(工業製品等) | 同じ型番のスマートフォン |
| 不完全な代替性 | 不動産 | 同じ住宅地内の類似した宅地 |
| 完全な個別性 | 芸術作品 | 唯一無二の絵画 |
不動産は、完全な同質性と完全な個別性の中間に位置づけられます。
個別性・代替性と鑑定評価手法
取引事例比較法と代替性
取引事例比較法は、不動産の代替性を前提とした評価手法です。類似の不動産の取引事例から比準価格を求めるためには、対象不動産と取引事例が代替関係にあることが必要です。
一方、補修正(事情補正・時点修正・地域要因比較・個別的要因比較)は、不動産の個別性に対応するための作業です。代替関係にあるが個別性のある不動産同士の価格差を調整します。
代替性 → 取引事例の選択が可能
個別性 → 補修正が必要
収益還元法と個別性
収益還元法は、個々の不動産が生み出す固有の収益に着目する手法であり、不動産の個別性を直接反映する側面があります。一方、還元利回りの査定には類似不動産との比較(代替性)が必要です。
原価法と個別性
原価法は、個々の不動産の再調達原価を把握する手法であり、不動産の個別性を費用面から反映します。ただし、間接法(類似不動産の建設費を基礎とする方法)では代替性の概念も活用されます。
個別性・代替性と同一需給圏
同一需給圏の意義
同一需給圏は、代替関係が成立する不動産の範囲を画定する概念です。同一需給圏内では代替性が認められますが、需給圏が異なる不動産間では代替性は弱くなります。
| 需給圏の位置 | 代替性の強さ |
|---|---|
| 近隣地域内 | 非常に強い |
| 類似地域内 | 強い |
| 同一需給圏内 | 認められる |
| 需給圏外 | 弱い〜ない |
近隣地域と類似地域
近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章
近隣地域内の不動産は、最も強い代替関係にあります。そして、近隣地域と類似の地域特性を持つ類似地域の不動産も代替関係にあり、取引事例の選択対象となります。
個別性・代替性に関する論点整理
試験で問われる具体的な論点
| 論点 | 個別性の視点 | 代替性の視点 |
|---|---|---|
| 事例選択 | 個別性が強すぎる事例は排除 | 代替関係にある事例を選択 |
| 補修正 | 個別的差異を数値化して調整 | 類似性を前提に比較が成立 |
| 最有効使用 | 個別的条件を踏まえた判定 | 市場の標準的使用との比較 |
| 同一需給圏 | 個別性により需給圏の範囲が変動 | 代替関係の成立範囲を画定 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 不動産の個別性の根拠(位置の固定性等)の正誤判定
- 代替の原則の定義と内容
- 個別性と代替性の両立に関する理解
- 同一需給圏と代替関係の関連
論文式試験
暗記のポイント
- 個別性: すべての不動産が固有の特性を持ち、同一のものは存在しない
- 代替性: 類似の不動産は相互に競争・代替の関係にある
- 両立: 不完全な代替財として、個別性と代替性は両立する
- 代替の原則: 代替関係にある不動産の価格は相互に関連して形成される
- 鑑定評価への反映: 代替性→事例選択、個別性→補修正
まとめ
不動産の個別性と代替性は、一見矛盾するようでありながら、不動産の価格形成メカニズムの基礎をなす重要な概念です。個別性があるからこそ鑑定評価における補修正が必要であり、代替性があるからこそ取引事例比較法が成り立ちます。不動産の価格に関する諸原則(特に代替の原則)や不動産の価格の特徴と合わせて、価格形成の基礎理論を体系的に理解しておきましょう。