有効需要とは

有効需要とは、購買力(支払能力)を伴った需要のことであり、不動産の価格を形成する三要素の一つです。単に「ほしい」という欲求(潜在的需要)ではなく、実際に購入する経済力を持った需要が不動産価格に影響を与えます。不動産鑑定士試験では、有効需要の概念と、効用・相対的稀少性との相関関係が出題されます。

不動産の価格は、その不動産の効用、相対的稀少性及び有効需要の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第4章


有効需要とは

有効需要の定義

有効需要とは、単なる「欲しい」という欲求ではなく、実際に対価を支払って購入する能力を伴った需要を指します。経済学の用語を用いれば、「購買力に裏付けられた需要」です。

潜在的需要との違い

項目 潜在的需要 有効需要
定義 不動産を欲しいという欲求 購買力を伴った具体的な需要
購買力 ない場合も含む 必ず伴う
価格への影響 直接的な影響は限定的 価格形成に直接影響
「都心のマンションに住みたい」 「5,000万円の予算で都心のマンションを購入する」

なぜ「有効」需要なのか

不動産市場において価格を左右するのは、購入したいという欲求ではなく、実際に取引に参加できる購買力を持った需要です。いくら「欲しい」という人が多くても、対価を支払えなければ取引は成立しません。価格形成に寄与するのは、あくまで有効需要です。


有効需要を左右する要因

経済的要因

有効需要の水準を左右する主な経済的要因は以下の通りです。

要因 有効需要への影響 価格への影響
所得水準 所得増加→購買力向上 上昇
金利水準 金利低下→借入しやすい 上昇
住宅ローン政策 優遇制度の充実→購入促進 上昇
企業業績 業績好調→設備投資意欲増加 上昇(商業・工業用地)
物価水準 インフレ→実質購買力低下 場合による
税制 優遇税制→取得促進 上昇

人口・社会的要因

要因 有効需要への影響
人口増加 住宅需要の増加
世帯数の増加 住宅需要の増加(核家族化・単身世帯の増加)
都市化 都市部の需要増加、地方の需要減少
高齢化 介護施設・医療施設の需要増加
テレワークの普及 郊外・地方の住宅需要変化

制度的要因

要因 内容
住宅ローン減税 住宅取得の税制優遇により需要を喚起
すまい給付金等 直接的な補助金による購買力の補填
容積率の緩和 供給増加を通じた市場への影響
用途地域の変更 利用可能な用途の変化による需要の変化

有効需要と価格形成の三要素

三要素の相関関係

不動産の価格は、効用相対的稀少性有効需要の三者が相関結合して形成されます。いずれか一つの要素だけでは価格は決まらず、三者のバランスによって価格水準が決定されます。

不動産の価格 = f(効用, 相対的稀少性, 有効需要)

各要素の関係

要素 内容 他の要素との関係
効用 不動産がもたらす有用性 効用が高い→需要が集まる→有効需要に影響
相対的稀少性 供給の限定性 稀少→価格上昇→有効需要の対象が限定
有効需要 購買力を伴った需要 需要の強さ→稀少性の認識→効用の評価に影響

具体例で理解する三要素の相関

【例1:都心の高級住宅地】
効用:         交通至便、生活利便性高、環境良好 → 高い
相対的稀少性:  供給限定的、まとまった宅地は希少 → 高い
有効需要:      高所得者層の購入意欲が旺盛       → 強い
→ 三要素がすべて高水準 → 価格は高い

【例2:過疎地域の住宅地】
効用:         交通不便、商業施設少ない         → 低い
相対的稀少性:  空き地・空き家が多数             → 低い
有効需要:      人口減少、購入希望者が少ない     → 弱い
→ 三要素がすべて低水準 → 価格は低い

【例3:効用は高いが有効需要が弱い場合】
効用:         自然環境豊か、広大な敷地         → 高い(限定的)
相対的稀少性:  類似の物件は少ない               → 高い
有効需要:      取得可能な価格帯の購入者が少ない → 弱い
→ 効用・稀少性は高いが有効需要が弱い → 価格は限定的

有効需要と不動産市場の分析

需給分析における有効需要

地域分析では、対象不動産が存する地域の不動産市場における需給動向を分析します。このとき、有効需要の把握が重要な分析項目となります。

分析項目 内容
需要者の属性 どのような需要者が市場に参加しているか
需要者の購買力 所得水準、資金調達能力
需要の量的把握 有効需要の大きさ、市場規模
需要の質的把握 求められる不動産の条件、嗜好
将来の需要動向 人口動態、経済見通しに基づく予測

有効需要と価格形成要因

有効需要は価格形成要因のうち、主に一般的要因の影響を受けます。

一般的要因 有効需要への影響
人口の動態 人口増減が需要の量に直結
国民の生活水準 生活水準の向上→住宅需要の質的変化
資金・金融の状態 金利水準、融資条件が購買力に影響
財政の状態 住宅政策、税制が需要を左右
国際化の状態 海外投資家による不動産投資需要

有効需要の変動と不動産価格

バブル期の有効需要

1980年代後半のバブル期には、以下の要因により有効需要が膨張し、不動産価格が急騰しました。

  • 金融緩和: 低金利政策により資金調達が容易に
  • 土地神話: 「土地の価格は下がらない」という期待
  • 投機的需要: 転売益を目的とした投機的な購入が増加
  • 過剰融資: 金融機関による不動産向け融資の急増

バブル崩壊後の有効需要

バブル崩壊後は、以下の要因により有効需要が急速に縮小しました。

  • 金融引き締め: 総量規制等による融資の抑制
  • 不良債権問題: 金融機関の融資姿勢の慎重化
  • 資産デフレ: 不動産価格の継続的な下落
  • 企業リストラ: 設備投資の抑制、遊休不動産の処分

近年の有効需要の特徴

近年の不動産市場では、以下のような有効需要の変化が見られます。

  • 低金利環境: 住宅ローンの低金利が住宅取得需要を下支え
  • 海外投資家: インバウンド需要に伴う不動産投資
  • DX需要: データセンター、物流施設への投資需要の増加
  • 都心回帰: マンション需要の都心部への集中

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 有効需要の定義(購買力を伴った需要)の正誤判定
  • 価格形成の三要素(効用・相対的稀少性・有効需要)の相関関係
  • 潜在的需要と有効需要の違い
  • 有効需要を左右する要因(金利、所得、人口等)

論文式試験

  • 不動産の価格形成の三要素を説明し、有効需要の役割を論述
  • 一般的要因と有効需要の関係を記述
  • 価格形成メカニズムにおける有効需要の位置づけ

暗記のポイント

  1. 有効需要の定義: 購買力(支払能力)を伴った需要
  2. 三要素の関係: 効用 × 相対的稀少性 × 有効需要 → 不動産の価格
  3. 潜在的需要との違い: 購買力の有無
  4. 主な影響要因: 所得水準、金利水準、人口動態、税制
  5. 基準の文言: 「効用、相対的稀少性及び有効需要の三者の相関結合」

まとめ

有効需要は、購買力を伴った具体的な需要であり、不動産の効用・相対的稀少性と相関結合して不動産の価格を形成します。有効需要の水準は所得・金利・人口動態等の経済的・社会的要因によって変動し、不動産市場の動向を左右します。不動産の価格の特徴価格形成要因の体系を理解したうえで、有効需要が価格形成に果たす役割を押さえておきましょう。