取引態様とは

取引態様とは、不動産取引が行われた際の具体的な事情や状況のことです。売り急ぎ、買い急ぎ、特殊な関係者間の取引など、正常でない事情が取引価格に影響を与えることがあります。不動産鑑定士試験では、取引事例比較法の事情補正と関連して出題される重要な概念です。

取引事例に係る取引が特殊な事情を含み、これが当該取引事例に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


わかりやすく言うと

不動産の取引にはさまざまな事情があります。「借金返済のために急いで売った」「隣の土地だからどうしても欲しかった」「親子間の取引だった」など、取引の背景によって価格は大きく変わります。

鑑定評価では、こうした通常とは異なる事情(特殊な事情)を把握し、その影響を排除して正常な価格水準を見極めることが求められます。


身近な具体例

例1: 売り急ぎによる安値取引

ある会社が資金繰りに困り、保有していたビルを早急に売却しなければならなくなりました。通常なら1億円で売れるビルですが、時間的な余裕がないために8,000万円で売却しました。この取引価格をそのまま比較対象にすると、周辺の適正価格を過小評価してしまいます。鑑定評価では、この2,000万円の差を事情補正として処理します。

例2: 隣地購入による高値取引

自宅の庭を広げたい人が、隣の更地を購入するケースです。隣地は自分にとって通常以上の価値があるため、相場より200万円高くても購入するかもしれません。この場合の取引価格は限定価格に近い性質を持っており、正常価格の判定にはそのまま使えません。


特殊な事情の類型

取引態様 具体例 価格への影響
売り急ぎ 相続税納付、資金繰り困難 正常価格より安くなる
買い急ぎ 立退き先の確保、事業用地の取得期限 正常価格より高くなる
特殊な関係者間取引 親子間、関連会社間 正常価格と乖離しやすい
隣地の購入 既存の土地の一体利用を目的 正常価格より高くなる
投機的取引 バブル期の土地ころがし 正常価格より高くなる
公共取引 公共用地取得のための任意取得 正常価格と異なる場合がある

鑑定評価における位置づけ

取引態様は、取引事例比較法における事情補正の根拠となる重要な概念です。

  • 事例の選択: 特殊な事情のある取引事例の取扱いを判断する
  • 事情補正: 特殊な事情による価格への影響を適切に補正する
  • 正常価格の判定: 取引態様から正常な市場の条件を満たしているかを判断する
  • 取引事例の信頼性評価: 取引態様の内容によって事例の採用可否を検討する

関連する用語との違い

用語 意味 違いのポイント
取引態様 取引が行われた具体的な事情・状況 取引の「背景事情」を表す
事情補正 特殊な事情の影響を排除する補正 取引態様に基づく「処理手法」
時点修正 取引時点と価格時点の価格変動を補正 「時間の経過」に基づく補正

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 事情補正の可否: 「特殊な事情を含む取引事例は、いかなる場合も使用できない」→ 誤り(適切に補正すれば使用できる)
  • 取引態様の具体例: どのような事情が「特殊」に該当するかの判断が問われる

論文式試験

  • 「取引事例比較法における事情補正の意義と方法を論述せよ」という出題パターン
  • 正常な市場の条件と照らし合わせて、特殊な事情がなぜ補正を要するのかを論理的に説明する

まとめ

取引態様は、不動産取引の背景事情を指し、売り急ぎ・買い急ぎ・特殊関係者間取引など、価格に影響を与える要素を包括する概念です。取引事例比較法では、こうした特殊な事情を事情補正によって処理し、正常価格の水準を見極めます。事情補正と時点修正の違いも併せて整理しておきましょう。