収益価格と積算価格の調整|どちらを重視するか
収益価格と積算価格の調整の考え方
収益還元法で求めた収益価格と、原価法で求めた積算価格は、同じ不動産を評価しても異なる金額になるのが通常です。不動産鑑定士試験では、この2つの試算価格をどのように調整して鑑定評価額を決定するかが重要な論点です。
結論として、収益用不動産(賃貸ビル・投資用マンション等)では収益価格を重視し、自用の不動産(自宅・自社ビル等)では積算価格にも相応の重みを置く、というのが基準の考え方です。
収益価格と積算価格の性格の違い
収益価格の特徴
収益価格は、不動産が将来生み出す純収益を現在価値に割り引いて求めた価格です。不動産の収益性(いくら稼げるか)に着目しています。
収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り(直接還元法の場合)
投資家の視点に立った価格であり、賃貸用不動産の評価では最も説得力を持ちます。
積算価格の特徴
積算価格は、再調達原価から減価修正を行って求めた価格です。不動産の費用性(造るのにいくらかかるか)に着目しています。
積算価格 = 再調達原価 − 減価額
再調達のコストを反映した価格であり、投資採算とは独立に不動産の「モノとしての価値」を示します。
両者の比較
| 項目 | 収益価格 | 積算価格 |
|---|---|---|
| 着目する側面 | 収益性(将来の稼ぎ) | 費用性(造るコスト) |
| 算出方法 | 純収益を還元利回りで割引 | 再調達原価から減価を控除 |
| 主な適用場面 | 賃貸ビル・投資用不動産 | 自用建物・特殊建物 |
| 影響を受ける要素 | 賃料水準・空室率・利回り | 建築費・経過年数・残存耐用年数 |
なぜ乖離が生じるのか
原因1:収益性とコストの不一致
建築コストが高い建物でも、立地や市場環境によっては十分な賃料収入を得られないことがあります。この場合、積算価格は高いのに収益価格は低いという乖離が生まれます。逆に、建築コストが低くても好立地で高い賃料が取れれば、収益価格が積算価格を上回ることになります。
原因2:還元利回りと減価率の想定差
収益価格は還元利回りの設定に大きく依存します。利回りをわずかに変えるだけで価格が大幅に変動するため、利回りの想定によって乖離の幅が変わります。同様に、積算価格も減価修正の精度に左右されます。
原因3:市場環境の変動
不動産市場が活況なときは、賃料上昇や利回り低下により収益価格が上昇しますが、積算価格は建築費に基づくため変動が小さく、両者の乖離が拡大します。
基準における調整の考え方
鑑定評価基準では、複数の試算価格の調整について次のように定めています。
鑑定評価の手順の各段階で行われた判断の適否等について客観的に再吟味を加えたうえ、各手法の適用において採用した資料の特性、実証性及び論理的整合性について再吟味し、かつ、各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性について再吟味すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節
ここで重要なのは、単純に「算術平均を取る」のではなく、各手法の資料の特性や実証性を考慮して判断するという点です。
不動産の類型別の調整方針
賃貸用不動産(貸ビル・投資用マンション等)
収益価格を重視します。投資家は将来の収益を基準に売買するため、収益価格が市場実態を最もよく反映します。積算価格は下限値のチェック(投資に見合う最低水準の確認)として活用します。
自用の建物及びその敷地(自宅・自社ビル等)
積算価格と比準価格を中心に判断します。自用の不動産は賃貸を前提としないため、収益価格の意味合いが変わります。ただし、賃貸を想定した収益価格も参考として求めることが求められます。
更地
更地の場合、積算価格という概念はあまり使われず(土地には減価がないため)、比準価格と収益価格の調整が中心となります。更地の鑑定評価では、取引事例比較法が中心となります。
特殊用途の建物
工場・研究所・宗教施設など、取引市場が限られる不動産では積算価格を重視します。類似の取引事例や賃貸事例が乏しいため、コストアプローチに頼らざるを得ないケースが多くなります。
類型別調整方針の一覧
| 不動産の類型 | 重視する価格 | 理由 |
|---|---|---|
| 賃貸用不動産 | 収益価格 | 投資対象として収益性が最重要 |
| 自用の建物及びその敷地 | 積算価格・比準価格 | 市場取引の実態とコストの妥当性を重視 |
| 更地 | 比準価格 | 取引市場が成熟しており市場性が重要 |
| 特殊用途の建物 | 積算価格 | 取引事例が乏しくコストアプローチが中心 |
調整の具体的な手順
鑑定評価額の最終決定にあたっては、以下のプロセスを経ます。
- 各手法の適用条件の確認: 採用した資料は信頼できるか、手法の適用に問題はないか
- 試算価格の乖離幅の分析: 乖離が大きい場合はその原因を特定する
- 不動産の類型と市場の特性に基づく判断: どの手法が最も説得力を持つかを判断する
- 鑑定評価額の決定: 重視すべき試算価格を中心に、他の試算価格も踏まえて最終判断する
このプロセスは機械的な平均ではなく、鑑定士の専門的判断に基づくものです。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 「収益価格と積算価格は算術平均により鑑定評価額を求める」→ 誤り。単純な平均ではなく、各手法の特性を踏まえた調整を行う
- 不動産の類型ごとにどの手法を重視すべきかの正確な知識が問われる
- 「自用の建物及びその敷地では収益価格のみを重視する」→ 誤り
論文式試験
- 「試算価格の調整について、不動産の類型に即して論述せよ」という出題パターンが典型的
- 調整は資料の特性・実証性・論理的整合性の再吟味であることを基準の文言に沿って論述する
暗記のポイント
- 収益価格は収益性、積算価格は費用性に着目
- 調整は「資料の特性・実証性・論理的整合性の再吟味」(基準第8章第7節)
- 賃貸用不動産 → 収益価格重視、自用の不動産 → 積算価格・比準価格重視
- 単純な算術平均ではない
まとめ
収益価格と積算価格の調整は、鑑定評価の最終段階における最も重要な判断の一つです。両者の乖離原因を正確に分析し、不動産の類型に応じてどちらを重視するかを判断する力が求められます。試験では、鑑定評価額の決定プロセス全体の中での位置づけを理解し、基準の文言に沿って論述できるように準備しておきましょう。