森林法の概要と保安林の制限
森林法の概要
森林法は、不動産鑑定士試験の行政法規科目で出題される法律の一つです。最も重要なポイントは、保安林に指定された森林における行為制限と、地域森林計画対象民有林における林地開発許可制度の2つの規制を正確に理解することです。
森林法による規制は、林地の鑑定評価において価格形成に直接的な影響を与えます。保安林指定を受けた土地は、原則として立木の伐採や土地の形質変更が制限されるため、利用可能性が大きく制約されます。
本記事では、森林法の目的から保安林制度の詳細、林地開発許可、鑑定評価との関連、試験での出題ポイントまでを体系的に解説します。
森林法の目的
森林法は、森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もって国土の保全と国民経済の発展に資することを目的としています。
この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする。
― 森林法 第1条
森林法は、以下の2つの柱で森林を保護しています。
- 森林計画制度:国・都道府県・市町村が策定する森林計画に基づく計画的な森林管理
- 保安林制度:公益的機能を有する森林を保安林として指定し、行為制限を課す
日本の国土面積に占める森林面積の割合は約67%(約2,505万ヘクタール)であり、森林法は国土のおよそ3分の2に関わる重要な法律です。
森林計画制度
森林計画の体系
森林法における森林計画制度は、国から市町村まで段階的に策定される計画体系です。
| 計画名 | 策定者 | 対象 | 計画期間 |
|---|---|---|---|
| 全国森林計画 | 農林水産大臣 | 全国の森林 | 15年 |
| 地域森林計画 | 都道府県知事 | 民有林 | 10年 |
| 国有林の地域別の森林計画 | 農林水産大臣 | 国有林 | 10年 |
| 市町村森林整備計画 | 市町村長 | 地域森林計画の対象民有林 | 10年 |
| 森林経営計画 | 森林所有者等 | 自己の森林 | 5年 |
地域森林計画の重要性
地域森林計画は、林地開発許可制度の対象区域を画定する点で鑑定評価上きわめて重要です。地域森林計画の対象となっている民有林で、1ヘクタールを超える開発行為を行う場合は都道府県知事の許可が必要となります(森林法第10条の2)。
地域森林計画の対象となる民有林は全国で約1,735万ヘクタールに及び、日本の森林面積の約7割を占めます。鑑定評価の対象地がこの計画区域に含まれるかどうかは、行政法規の制限として必ず調査すべき事項です。
保安林制度
保安林とは
保安林とは、水源のかん養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全など公益的機能を発揮させるために、農林水産大臣または都道府県知事が指定した森林です。
保安林に指定されると、立木の伐採や土地の形質変更等が厳しく制限されるため、不動産としての利用可能性が大幅に制約されます。
保安林の種類
森林法第25条に規定される保安林は17種類あり、主なものは以下のとおりです。
| 種類 | 目的 | 指定面積(概数) |
|---|---|---|
| 水源かん養保安林 | 水源地域の森林を保全し、水資源を確保 | 約923万ha |
| 土砂流出防備保安林 | 土砂の流出を防止 | 約260万ha |
| 土砂崩壊防備保安林 | 山腹の崩壊を防止 | 約6万ha |
| 防風保安林 | 風害を防止 | 約5万ha |
| 水害防備保安林 | 洪水による被害を防止 | 約1万ha |
| なだれ防止保安林 | なだれの発生を防止 | 約2万ha |
| 落石防止保安林 | 落石による被害を防止 | 約2千ha |
| 防火保安林 | 火災の延焼を防止 | 約300ha |
| 防霧保安林 | 霧害を防止 | 約6万ha |
| 保健保安林 | 生活環境の保全・公衆の保健 | 約71万ha |
| 風致保安林 | 名所・旧跡の風致を保存 | 約3万ha |
保安林全体の指定面積は約1,287万ヘクタールで、日本の森林面積の約半分に相当します。このうち水源かん養保安林が最も多く、全体の約7割を占めています。
保安林の指定権者
| 区分 | 指定権者 |
|---|---|
| 1号保安林(水源かん養)〜3号保安林(土砂崩壊防備)のうち、2以上の都道府県にわたるもの等 | 農林水産大臣 |
| 上記以外 | 都道府県知事 |
保安林における行為制限
立木の伐採制限
保安林における立木の伐採は、都道府県知事の許可が必要です(森林法第34条第1項)。ただし、以下の場合は許可なく伐採できます。
- 間伐で都道府県知事に届出をした場合
- 森林経営計画に基づく伐採の場合
- 非常災害に際して緊急に伐採する必要がある場合
| 伐採の種類 | 許可・届出 | 備考 |
|---|---|---|
| 択伐(一部の立木を選んで伐採) | 都道府県知事の許可 | 伐採限度あり |
| 間伐 | 都道府県知事への届出 | 一定割合以下 |
| 皆伐(全ての立木を伐採) | 都道府県知事の許可 | 原則禁止される保安林あり |
土地の形質変更の制限
保安林内で、土地の形質を変更する行為(土石の採取、立竹の伐採等を含む)を行う場合は、都道府県知事の許可が必要です(森林法第34条第2項)。
許可を受けなければならない行為の例は以下のとおりです。
- 土石または樹根の採掘
- 開墾その他の土地の形質の変更
- 立木以外の木材の採取(落枝、落葉等を除く)
植栽義務
保安林の立木を伐採した者または伐採後の土地の所有者は、伐採の翌年から起算して2年以内に植栽を行う義務があります(森林法第34条の4)。この植栽義務は保安林の機能維持のために課されるものであり、違反した場合は都道府県知事が植栽を命ずることができます。
林地開発許可制度
制度の概要
地域森林計画の対象となっている民有林において、1ヘクタールを超える開発行為を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければなりません(森林法第10条の2)。
地域森林計画の対象となつている民有林(中略)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で政令で定める規模以上のものをいう。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。
― 森林法 第10条の2第1項
許可基準
林地開発許可の審査では、以下の4つの基準が考慮されます。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 災害の防止 | 土砂の流出・崩壊その他の災害を発生させるおそれがないこと |
| 水害の防止 | 水害を発生させるおそれがないこと |
| 水の確保 | 水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないこと |
| 環境の保全 | 環境を著しく悪化させるおそれがないこと |
保安林との関係
保安林に指定されている区域は、林地開発許可制度の対象から除外されます(森林法第10条の2第1項ただし書き)。これは、保安林には別途独自の行為制限が課されているためです。つまり、保安林は保安林の規制が、保安林以外の地域森林計画対象民有林は林地開発許可制度がそれぞれ適用されるという二本立ての構造になっています。
森林法と鑑定評価
保安林指定と価格形成への影響
保安林に指定された土地は、利用制限が厳格であるため、不動産の鑑定評価において大幅な減価要因となります。具体的には以下の影響が考えられます。
| 影響の種類 | 内容 |
|---|---|
| 利用可能性の制限 | 建築・開発行為が原則不可のため、宅地見込地としての転用可能性が著しく低下 |
| 立木の伐採制限 | 経済林としての収益性が制約される |
| 需要の限定 | 利用制限により購入希望者が限定される |
| 転用の困難性 | 保安林の解除は容易ではなく、手続きに長期間を要する |
不動産鑑定士が林地を評価する際は、価格形成要因として保安林指定の有無を必ず確認し、その影響を適切に反映させる必要があります。
林地開発許可と価格への影響
林地開発許可の対象区域では、1ヘクタールを超える開発に都道府県知事の許可が必要です。この許可要件は、大規模な宅地開発やゴルフ場建設などの転用可能性に影響するため、宅地見込地の鑑定評価において重要な考慮要素となります。
開発許可が得られる見込みの有無によって、土地の価格は大きく変動します。鑑定評価においては、最有効使用の判定に際して、林地開発許可の取得可能性を十分に検討する必要があります。
保安林解除の可能性
保安林の指定は、指定理由が消滅したときに限り解除されます(森林法第26条)。解除に際しては、代替施設の設置等の条件が付されることが一般的であり、解除の見通しが立つ場合には、鑑定評価における将来予測としてその可能性を考慮することも考えられます。
ただし、保安林の解除は極めて限定的な場面でしか認められないため、安易に解除を前提とした評価を行うことは適切ではありません。
試験での出題ポイント
短答式試験
短答式試験では、以下の論点が頻出です。
- 保安林の種類と数:17種類あること、水源かん養保安林が最も多いこと
- 保安林の指定権者:農林水産大臣と都道府県知事の区分
- 保安林の行為制限:立木伐採・土地形質変更に都道府県知事の許可が必要
- 林地開発許可の要件:地域森林計画対象民有林で1ヘクタール超の開発
- 林地開発許可の審査基準:災害防止・水害防止・水の確保・環境保全の4基準
- 植栽義務:伐採の翌年から2年以内
論文式試験
論文式試験では、以下のテーマでの出題が想定されます。
- 保安林制度の趣旨と行為制限の内容
- 林地開発許可制度と都市計画法の開発許可制度との比較
- 保安林指定が不動産の鑑定評価に与える影響
暗記のポイント
- 保安林は17種類:水源かん養、土砂流出防備、土砂崩壊防備など
- 林地開発許可の面積要件:1ヘクタール超
- 許可権者:保安林の行為制限は都道府県知事、林地開発許可も都道府県知事
- 林地開発許可の4基準:災害防止・水害防止・水の確保・環境保全
- 植栽義務の期間:伐採の翌年から2年以内
- 全国森林計画は15年、地域森林計画は10年
まとめ
森林法は、保安林制度と林地開発許可制度の2つの柱で森林を保護する法律です。保安林に指定された森林では立木の伐採や土地の形質変更に都道府県知事の許可が必要であり、林地開発許可制度では1ヘクタールを超える開発行為に都道府県知事の許可が求められます。
不動産鑑定士試験では、保安林の17種類、行為制限の内容、林地開発許可の面積要件と4つの審査基準が問われます。鑑定評価においては、保安林指定が大幅な減価要因となることを理解し、林地の鑑定評価や宅地見込地の評価に適切に反映させることが重要です。