積算価格と比準価格の乖離|なぜ差が出るか
積算価格と比準価格の乖離とは
積算価格と比準価格は、同じ不動産を評価しているにもかかわらず、算出結果が一致しないことが多くあります。不動産鑑定士試験では、この乖離がなぜ生じるのか、どう調整すべきかが繰り返し問われます。
結論を先に述べると、乖離の原因は評価手法のアプローチの違いにあります。積算価格はコスト(費用性)の側面から、比準価格は市場取引(市場性)の側面からそれぞれ不動産の価値を捉えるため、市場環境や不動産の特性によって両者に差が生じるのです。
積算価格と比準価格の基本
積算価格とは
積算価格は、原価法によって求められる価格です。対象不動産を仮に新たに造るとしたら、いくらかかるか(再調達原価)を求め、そこから経年劣化等による減価修正を行って算出します。
積算価格 = 再調達原価 − 減価額
積算価格は、不動産の費用性(造るのにいくらかかるか)に着目した価格です。
比準価格とは
比準価格は、取引事例比較法によって求められる価格です。類似の不動産がいくらで取引されたかという取引事例を収集し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行って算出します。
比準価格 = 取引事例価格 × 事情補正 × 時点修正 × 地域要因比較 × 個別的要因比較
比準価格は、不動産の市場性(いくらで売買されているか)に着目した価格です。
なぜ乖離が生じるのか
原因1:市場の需給バランス
市場が過熱して不動産価格が上昇しているとき、比準価格は高く出やすくなります。取引事例自体が高値を反映しているためです。一方、積算価格は建築コスト(再調達原価)をベースにしているため、市場の過熱を直接反映しにくく、比準価格が積算価格を上回る乖離が生じます。
逆に、市場が低迷しているときは取引価格が下落するため、比準価格が積算価格を下回ることがあります。いわゆる積算割れ(再調達原価から減価を引いた額よりも安く取引される状態)です。
原因2:土地と建物の市場特性の違い
積算価格では、土地価格と建物価格を別々に積み上げるのが基本です。しかし、市場では土地と建物を一体として取引するため、個別の価格配分と市場の評価が異なることがあります。
特に築古の建物付き土地では、建物の積算価格はほぼゼロに近づきますが、市場では「建物付き土地」として一定の評価がなされたり、逆に取壊し費用がかかるため土地のみの場合より安くなったりします。この差が乖離を生みます。
原因3:再調達原価の把握の困難さ
積算価格の出発点である再調達原価を正確に把握することは容易ではありません。同じ建物を現在の建築費水準で造る場合のコスト見積もりには、一定の幅が生じます。建設資材の価格変動や、工法の進歩も影響します。
原因4:減価修正の見積もり誤差
物理的減価・機能的減価・経済的減価の見積もりの精度によっても積算価格は変動します。特に経済的減価(市場の需給悪化や周辺環境の変化による減価)は定量化が難しく、市場の動向を十分に反映しきれないことがあります。
原因5:取引事例の選択と補正
比準価格の精度は、取引事例の選択の適否に大きく左右されます。適切な事例が少ない場合や、事情補正・時点修正に判断の幅がある場合、比準価格にも誤差が生じます。
乖離パターンの整理
| パターン | 比準価格 vs 積算価格 | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| 比準価格 > 積算価格 | 比準価格が上回る | 市場が上昇局面、立地の希少性が高い、収益性が高い不動産 |
| 比準価格 < 積算価格 | 積算価格が上回る | 市場が下落局面、需要が弱い地域、大規模な特殊建物 |
| 両者がほぼ一致 | 乖離が小さい | 市場が安定、標準的な住宅地、新築に近い物件 |
乖離の調整の考え方
不動産鑑定では、複数の手法で求めた試算価格を調整して鑑定評価額を決定します。積算価格と比準価格に乖離がある場合、どちらを重視するかは不動産の類型や市場の状況によって異なります。
鑑定評価の手順の各段階で行われた判断の適否等について客観的に再吟味を加えたうえ、各手法の適用において採用した資料の特性、実証性及び論理的整合性について再吟味し、かつ、各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性について再吟味すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節
不動産の類型による重視すべき手法
| 不動産の類型 | 重視される価格 | 理由 |
|---|---|---|
| 更地・住宅地 | 比準価格 | 取引市場が成熟しており、市場性が重要 |
| 自用の建物及びその敷地 | 積算価格を参考、比準価格を重視 | 市場取引の実態を反映しつつ、コストの妥当性も確認 |
| 収益用不動産 | 収益価格を重視 | 投資対象として収益性が最重要 |
| 特殊な建物 | 積算価格 | 取引事例が乏しく、コストアプローチが中心 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 乖離の原因として「費用性と市場性のアプローチの違い」を正しく理解しているかが問われる
- 「積算価格と比準価格は常に一致する」→ 誤り。両者は異なるアプローチであり、乖離が生じうる
- 積算割れの概念:積算価格を比準価格が下回る状態が何を意味するかの理解
論文式試験
- 「各手法により求めた試算価格の調整について述べよ」という論述では、乖離の原因分析が重要
- 不動産の類型ごとの手法の適用と、どの試算価格を重視すべきかの論述が求められる
暗記のポイント
- 積算価格は費用性、比準価格は市場性に着目
- 乖離の主な原因は市場の需給バランス、再調達原価の見積もり、取引事例の選択
- 調整にあたっては資料の特性、実証性、論理的整合性を再吟味する(基準の文言)
- 不動産の類型によって重視すべき手法が異なる
まとめ
積算価格と比準価格の乖離は、費用性と市場性という異なるアプローチに起因する構造的なものです。乖離の大きさや方向は、市場環境・不動産の類型・データの精度によって変わります。鑑定評価額の決定にあたっては、原価法と取引事例比較法それぞれの特性を理解したうえで、論理的に調整する姿勢が求められます。試験では、乖離の原因を正確に分析し、調整の考え方を論述できるよう準備しておきましょう。