災害対策基本法の概要

災害対策基本法は、不動産鑑定士の鑑定評価の実務に関連する法律です。最も重要なポイントは、国・都道府県・市町村の防災計画の体系と、災害リスクが不動産の鑑定評価に与える影響を理解することです。

※ 本法令は不動産鑑定士試験(行政法規)の37法令には含まれません。ただし、鑑定評価の実務において不動産の価格形成に影響を与える法令であるため、実務的な観点から解説します。

災害対策基本法は、個々の土地に対して直接的な行為制限を課す法律ではありませんが、防災に関する基本的な枠組みを定める法律として、土砂災害防止法急傾斜地法などの個別法の基盤となっています。不動産鑑定士は、災害リスクが不動産の価格形成に与える影響を体系的に理解する上で、この法律の概要を把握しておく必要があります。

本記事では、災害対策基本法の目的と制定経緯、防災計画の体系、災害リスクと鑑定評価の関係、実務での留意点までを体系的に解説します。


災害対策基本法の目的と制定経緯

制定の背景

災害対策基本法は、昭和34年(1959年)の伊勢湾台風を契機に、昭和36年(1961年)に制定されました。伊勢湾台風は死者・行方不明者が5,098人に達する戦後最大級の自然災害であり、防災対策の体系的な法整備の必要性が強く認識されました。

法律の目的

この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

― 災害対策基本法 第1条

対象となる災害

災害対策基本法における「災害」とは、以下のような自然現象または大規模な火災・爆発等により生ずる被害をいいます。

分類 具体例
気象災害 暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、高潮
地震災害 地震、津波
火山災害 噴火
その他自然災害 地すべり、山崩れ、がけ崩れ、干ばつ
大規模事故 大規模な火災、爆発

防災組織と防災計画の体系

中央防災会議

災害対策基本法に基づき、内閣府に中央防災会議が設置されています。中央防災会議は、内閣総理大臣を会長とし、防災に関する重要事項の審議や防災基本計画の作成を行います。

防災計画の3層構造

防災計画は、以下の3層構造で策定されます。

計画名 策定主体 内容
防災基本計画 中央防災会議 防災に関する最上位の総合的・長期的計画
地域防災計画 都道府県・市町村の防災会議 地域の特性に応じた防災計画
地区防災計画 地区居住者等 地区レベルのきめ細かな防災活動計画

この3層構造は、国レベルの基本方針→都道府県・市町村レベルの具体的計画→地区レベルの実践的計画という段階的な体系を構成しています。

指定公共機関の役割

災害対策基本法は、指定公共機関(日本銀行、日本赤十字社、NHK、NTT等)に対しても防災業務計画の作成を義務づけています。これにより、公共機関を含めた総合的な防災体制が構築されています。


災害に関する主な制度

避難指示等

災害対策基本法に基づき、市町村長は住民に対して以下の避難情報を発令できます(令和3年改正後)。

区分 発令基準 住民がとるべき行動
警戒レベル3:高齢者等避難 災害のおそれあり 高齢者等は危険な場所から避難
警戒レベル4:避難指示 災害のおそれ高い 危険な場所から全員避難
警戒レベル5:緊急安全確保 災害発生又は切迫 命の危険、直ちに安全確保

令和3年の法改正により、従来の「避難勧告」は廃止され、「避難指示」に一本化されました。

被災者生活再建支援制度

大規模自然災害で住宅が全壊等した世帯に対して、被災者生活再建支援法に基づき、最大300万円の支援金が支給されます(基礎支援金100万円+加算支援金200万円)。

被災宅地危険度判定

大規模な地震・豪雨等の災害発生後、被災した宅地の危険度を判定する制度です。判定結果は以下の3段階で表示されます。

判定 表示 内容
危険 赤色 使用禁止。二次災害の危険あり
要注意 黄色 使用に注意が必要
調査済 青色 被害なし又は軽微

災害リスクと不動産の鑑定評価

災害リスクの鑑定評価における位置づけ

災害リスクは、不動産の価格形成要因として重要な位置づけにあります。鑑定評価基準では、価格形成要因を一般的要因・地域要因・個別的要因に分類していますが、災害リスクは主に以下のように位置づけられます。

要因の分類 災害リスクの位置づけ 具体例
一般的要因 社会的要因 防災意識の高まり、ハザードマップの普及
地域要因 宅地の地域要因 地域の災害履歴、洪水浸水想定区域の指定
個別的要因 宅地の個別的要因 個別の土地の地盤状況、崖地との近接性

災害関連法令と不動産価格への影響

災害対策基本法を基盤として、各種災害関連法令が個別の規制を課しています。これらの規制は不動産の価格に直接的・間接的に影響を与えます。

法律 区域指定 価格への影響
土砂災害防止法 イエローゾーン・レッドゾーン レッドゾーンで大幅な減価
急傾斜地法 急傾斜地崩壊危険区域 行為制限による減価
水防法 浸水想定区域 浸水リスクに応じた減価
津波防災地域づくり法 津波災害警戒区域・特別警戒区域 特別警戒区域で大幅な減価
都市計画法 災害レッドゾーン等 開発許可の厳格化(令和4年改正)

近年の法改正と不動産評価への影響

近年、災害リスクに関する法改正が相次いでおり、不動産の鑑定評価に影響を与えています。

都市計画法の改正(令和4年施行)では、災害レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域等)における自己居住用住宅を含む開発行為の厳格化が図られました。

不動産鑑定評価基準の改正においても、災害リスクの考慮が強調されており、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域等の指定状況は、鑑定評価における必須の調査事項となっています。

災害履歴と価格回復

過去の災害による被災地では、災害発生直後に地価が大幅に下落するものの、復旧・復興に伴い中長期的に回復する傾向が見られます。

事例 災害後の価格動向
東日本大震災(2011年) 被災地で30%以上の下落も、5年後には回復傾向
熊本地震(2016年) 市街地は比較的早期に回復、山間部は回復が遅い
西日本豪雨(2018年) 浸水被害エリアで下落、上流域では影響軽微
令和元年東日本台風(2019年) 浸水エリアで下落、ハザードマップ外は影響限定的

鑑定評価においては、過去の災害履歴と地価の回復動向も考慮した上で、適切な評価を行うことが求められます。

鑑定評価上の留意点

不動産鑑定士が災害リスクを評価に反映する際の具体的な留意点は以下のとおりです。

  1. 法令に基づく区域指定の確認:土砂災害警戒区域、浸水想定区域、津波災害警戒区域等の指定状況を網羅的に調査
  2. ハザードマップの確認:自治体が公表するハザードマップで対象地の災害リスクを把握
  3. 災害履歴の調査:過去の災害による被害の有無、被害程度を確認
  4. 地盤情報の確認:液状化リスク、盛土造成地等の情報を確認
  5. 取引事例の選択と補正:災害リスクの有無が異なる事例を用いる場合の適切な補正

鑑定評価の実務での留意点

重要な制度の整理

  • 制定の背景:伊勢湾台風を契機に昭和36年制定
  • 防災計画の3層構造:防災基本計画・地域防災計画・地区防災計画
  • 中央防災会議:内閣府に設置、会長は内閣総理大臣
  • 避難指示等の体系:警戒レベル3〜5、避難勧告は廃止
  • 災害対策基本法と個別法の関係:基本法は枠組み、個別法が具体的規制

評価における着眼点

  • 災害リスクが不動産の鑑定評価に与える影響
  • 災害関連法令と不動産価格の関係
  • 鑑定評価における災害リスクの考慮の方法

主要ポイントの整理

  1. 制定の契機:伊勢湾台風(昭和34年)
  2. 中央防災会議の会長:内閣総理大臣
  3. 防災計画の3層構造:防災基本計画→地域防災計画→地区防災計画
  4. 避難情報の3段階:高齢者等避難(レベル3)→避難指示(レベル4)→緊急安全確保(レベル5)
  5. 避難勧告の廃止:令和3年改正により避難指示に一本化
  6. 被災者生活再建支援金:最大300万円(基礎100万+加算200万)

まとめ

災害対策基本法は、防災に関する国の基本的な枠組みを定める法律であり、防災基本計画・地域防災計画・地区防災計画の3層構造で防災体制を構築しています。個別の行為制限は土砂災害防止法急傾斜地法等の個別法に委ねられていますが、災害対策基本法はそれらの基盤となる重要な法律です。

災害対策基本法は行政法規の試験範囲外ですが、防災計画の体系、避難情報の段階、制定の背景は実務理解の土台となります。鑑定評価においては、災害リスクが価格形成要因として重要であることを認識し、各種ハザードマップや区域指定の情報を網羅的に調査した上で、適切に評価に反映することが求められます。

関連法令として、森林法自然公園法もあわせて学習すると、土地利用規制と防災の全体像が理解しやすくなります。