継続賃料の鑑定評価とは

継続賃料の鑑定評価は、差額配分法利回り法スライド法賃貸事例比較法の4つの手法を併用して行います。新規賃料と異なり、既存の賃貸借契約関係を前提とする点が最大の特徴です。契約の経緯や現行賃料の水準など、契約固有の事情を考慮するため、論文式試験では最も出題頻度の高い賃料評価の論点です。

継続賃料を求める場合の試算賃料を求める手法としては、差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法がある。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節


継続賃料とは

定義

継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいいます。

継続賃料は、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

限定賃料との関係

継続賃料は、限定価格に対応する賃料概念です。特定の当事者間の契約関係を前提とするため、一般の市場で成立する正常賃料とは性質が異なります。

賃料の種類 性格 対応する価格概念
正常賃料 市場で一般的に成立する賃料水準 正常価格
継続賃料 特定の当事者間の契約関係を前提とした賃料 限定価格

継続賃料は、正常賃料と現行賃料の間に位置することが多いですが、必ずしもそうとは限りません。例えば、周辺の賃料水準が大幅に下落している場合でも、契約の安定性を考慮して現行賃料を維持する判断がなされることもあります。

継続賃料が問題となる場面

継続賃料の鑑定評価が求められる典型的な場面は以下のとおりです。

  • 賃料増額請求:地主・家主が賃料の増額を求める場面
  • 賃料減額請求:借地人・借家人が賃料の減額を求める場面
  • 裁判所からの鑑定評価の委嘱:賃料に関する紛争で裁判所が鑑定を命じる場面
  • 調停・和解における賃料の確認

借地借家法第11条(借地)・第32条(借家)に基づく賃料増減額請求権の行使が典型的であり、裁判や調停の場で継続賃料の鑑定評価が用いられます。


継続賃料の4つの手法

手法の全体像

手法 考え方 特徴
差額配分法 正常賃料と現行賃料の差額を配分 市場賃料との乖離を調整
利回り法 基礎価格に継続賃料利回りを乗じる 資本収益性に着目
スライド法 現行賃料を経済指標でスライド 賃料の変動率に着目
賃貸事例比較法 類似の継続賃料改定事例と比較 市場の改定動向を反映

各手法の概要

差額配分法

差額配分法は、正常賃料と現行賃料の差額を求め、この差額のうち一定割合を現行賃料に加減して継続賃料を求める手法です。

$$ \text{差額配分法による賃料} = \text{現行賃料} + (\text{正常賃料} – \text{現行賃料}) \times \text{配分率} $$

  • 正常賃料を求める必要があるため、新規賃料の3手法の理解が前提
  • 配分率は折半(50%)が一般的だが、個別事情を考慮する
  • 差額がマイナスの場合(現行賃料 > 正常賃料)も同様に適用可能

利回り法

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費を加算して継続賃料を求める手法です。

$$ \text{利回り法による賃料} = \text{基礎価格} \times \text{継続賃料利回り} + \text{必要諸経費} $$

  • 積算法と算式は類似するが、用いる利回りが異なる
  • 積算法:期待利回り(新規)/ 利回り法:継続賃料利回り(継続)
  • 基礎価格は価格時点における対象不動産の価格

スライド法

スライド法は、現行賃料を定めた時点における純賃料に、変動率を乗じて得た額に、価格時点における必要諸経費を加算して継続賃料を求める手法です。

$$ \text{スライド法による賃料} = \text{現行純賃料} \times \text{変動率} + \text{必要諸経費(価格時点)} $$

  • スライドの指標:消費者物価指数、固定資産税の変動率、地価の変動率等
  • 純賃料部分のみをスライドし、必要諸経費は別途価格時点で再計算する
  • 簡便であるが、指標の選択に判断を要する

賃貸事例比較法(継続賃料の場合)

継続賃料における賃貸事例比較法は、類似の継続賃料改定事例を収集し、比較考量して求める手法です。

  • 新規賃料における賃貸事例比較法とは、収集する事例が異なる
  • 新規の賃貸事例ではなく、継続賃料の改定事例を用いる
  • 実務上、類似の改定事例を十分に収集することが困難な場合が多い

4手法の比較

比較項目 差額配分法 利回り法 スライド法 賃貸事例比較法
着目点 市場賃料との乖離 資本収益性 賃料の変動率 市場の改定動向
必要データ 正常賃料、現行賃料 基礎価格、利回り 現行賃料、経済指標 改定事例
長所 市場水準を反映 理論的根拠が明確 算定が簡便 市場実態を反映
短所 配分率の設定に判断要 利回り設定が難しい 指標選択に判断要 事例収集が困難
重要度 高い 高い 補助的 補助的

継続賃料固有の価格形成要因

継続賃料の評価では、新規賃料では考慮しない固有の価格形成要因があります。

主な固有要因

  • 契約の内容及びその経緯
  • 契約締結時の事情(賃料水準の決定経緯)
  • 過去の賃料改定の経緯と頻度
  • 契約上の特約事項(賃料改定条項等)

  • 契約締結の経過期間及び残存期間

  • 契約締結からの経過年数
  • 契約の残存期間
  • 更新の可能性

  • 直近合意時点から価格時点までの期間における経済事情の変動

  • 地価の変動
  • 物価の変動
  • 近隣の賃料水準の変動

  • 契約当事者間の信頼関係

  • 賃料の支払い状況
  • 契約条件の履行状況

鑑定評価基準(各論第2章第1節)では、継続賃料を求める場合には、継続賃料固有の価格形成要因として、契約の内容及びその経緯、契約上の経過期間及び残存期間等を総合的に勘案するものとしています。

直近合意時点の重要性

継続賃料の評価において、直近合意時点は極めて重要な概念です。直近合意時点とは、現行賃料が合意された時点(最後に賃料改定が行われた時点、または契約締結時点)をいいます。

  • 直近合意時点から価格時点までの期間における経済事情の変動が、賃料改定の根拠となる
  • 借地借家法でも、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下」「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」等が賃料増減額の要件とされている
  • 直近合意時点が古いほど(長期間改定されていないほど)、現行賃料と市場水準の乖離が大きくなる傾向がある

新規賃料との違い(まとめ表)

比較項目 新規賃料 継続賃料
前提条件 新規契約 既存契約の継続
当事者 不特定 特定(既存の貸主・借主)
賃料の種類 正常賃料 限定賃料(継続賃料)
評価手法 3手法 4手法
契約経緯の考慮 なし あり(重要)
現行賃料の影響 なし あり(基準となる)

試験での出題ポイント

継続賃料は、論文式試験で最も出題頻度が高い賃料評価の論点です。

論文式試験での頻出論点

  • 4手法の定義と算式の正確な記述:各手法の基準条文を暗記し、算式を示せるようにする
  • 新規賃料と継続賃料の対比:両者の違いを体系的に論述する問題が頻出
  • 継続賃料固有の価格形成要因:どのような要因をどのように考慮するかを論述する
  • 4手法の適用結果の調整:各手法の試算賃料が乖離する場合の調整方法

短答式試験での注意点

  • 継続賃料の4手法の名称を正確に覚える
  • 差額配分法と利回り法の算式の区別
  • スライド法で純賃料部分のみをスライドすること
  • 継続賃料が「限定賃料」に該当すること

学習の順序

以下の順序で学習すると効果的です。

  1. 新規賃料の3手法(特に積算法)
  2. 本記事(継続賃料の全体像)
  3. 差額配分法(個別手法の詳細)
  4. 利回り法(個別手法の詳細)
  5. スライド法と賃貸事例比較法(個別手法の詳細)

まとめ

継続賃料の鑑定評価は、差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法の4手法を併用して行います。新規賃料と異なり、既存の賃貸借契約関係を前提とし、契約の経緯や現行賃料の水準など、契約固有の事情を考慮する点が最大の特徴です。4手法にはそれぞれ特性と限界があり、各試算賃料を比較考量して鑑定評価額を決定します。論文式試験では最頻出の論点であるため、各手法の定義・算式・特徴を正確に理解し、新規賃料との対比を含めて論述できるようにしておきましょう。