経年減価と観察減価の違い|耐用年数法の落とし穴
経年減価と観察減価の違い
経年減価とは、建物の経過年数に基づいて機械的に算定する減価であり、観察減価とは、建物の実際の状態を観察して個別に判断する減価です。不動産鑑定士試験では、耐用年数に基づく方法と観察減価法の違い、そしてそれぞれの長所・短所が頻出論点です。
わかりやすく言うと
- 経年減価: 「築30年だから○%減価」と年数で自動的に計算する方法
- 観察減価: 「実際に見たら意外と良い状態」または「思ったより傷んでいる」と現物の状態から判断する方法
どちらも原価法における減価修正の手法ですが、アプローチが根本的に異なります。
耐用年数に基づく方法(経年減価)
考え方
建物の耐用年数を設定し、経過年数に応じて一定の割合で減価が進むと想定する方法です。
耐用年数に基づく方法は、対象不動産の経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握するものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
計算方法(定額法の場合)
減価額 = 再調達原価 × 経過年数 ÷ 耐用年数
たとえば、再調達原価1億円のRC造建物(耐用年数50年)が築20年であれば、
減価額 = 1億円 × 20年 ÷ 50年 = 4,000万円
積算価格 = 1億円 − 4,000万円 = 6,000万円
耐用年数の種類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 物理的耐用年数 | 建物が物理的に存続できる期間 |
| 機能的耐用年数 | 建物が機能的に有用である期間 |
| 経済的耐用年数 | 建物が経済的に価値を持つ期間 |
| 経済的残存耐用年数 | 価格時点から経済的に価値を持ち続ける残りの期間 |
鑑定評価では、これらを総合的に判断して経済的残存耐用年数を査定します。
耐用年数法の長所と落とし穴
| 長所 | 落とし穴 |
|---|---|
| 計算が客観的で明快 | 個別の状態を反映できない |
| 年数だけで算定できる | 維持管理の良否が無視される |
| 比較可能性が高い | 大規模修繕の効果が反映しにくい |
落とし穴: 同じ築30年のRC造マンションでも、適切に修繕されたものと放置されたものでは実態の劣化度合いがまったく異なります。耐用年数法だけでは、この差を反映できません。
観察減価法(観察減価)
考え方
建物の実際の状態を直接観察し、物理的・機能的・経済的な減価の程度を個別に判定する方法です。
観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況等に基づく各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求めるものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
観察のポイント
| 観察項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 外壁・屋根の状態 | ひび割れ・雨漏り・塗装の劣化 |
| 設備の状態 | 空調・給排水・電気設備の機能 |
| 構造躯体の状態 | 鉄筋の露出・コンクリートの劣化 |
| 維持管理の履歴 | 大規模修繕の実施状況 |
| 機能的な陳腐化 | 設備の旧式化・間取りの時代遅れ |
観察減価法の長所と短所
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 個別の実態を反映できる | 観察者の主観が入りやすい |
| 維持管理の効果を評価できる | 専門的知見が必要 |
| 大規模修繕後の回復を反映できる | 内部構造は外観から把握しにくい |
両者の併用が原則
鑑定評価基準では、耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用することを求めています。
減価修正の方法としては、耐用年数に基づく方法と観察減価法の二つがあり、これらを併用するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
併用の理由: 耐用年数法は客観性に優れるが個別性を反映しにくく、観察減価法は個別性を反映できるが主観が入りやすいため、両者の長所を組み合わせて精度を高める必要があるからです。
身近な具体例
例1: 管理の良いヴィンテージマンション
築45年のRC造マンションがあります。耐用年数法では、経済的耐用年数50年として90%の減価が生じる計算になります。しかし、実際には管理組合が優秀で、外壁の大規模修繕を3回実施し、共用部のリノベーションも完了しています。観察減価法では減価率は60%程度と判定されました。このように、管理状態の良い建物では、耐用年数法だけでは過大な減価となってしまいます。
例2: 管理の悪い新しめのビル
築15年のオフィスビルですが、前オーナーがメンテナンスをほとんど行っていません。空調設備は故障が多発し、外壁にはひび割れが目立ちます。耐用年数法では減価率30%程度ですが、観察減価法では50%程度の減価が認められました。この場合、耐用年数法だけでは過小な減価となり、実態を反映できません。
関連用語との比較
| 用語 | 着眼点 | 特徴 |
|---|---|---|
| 経年減価(耐用年数法) | 経過年数 | 客観的だが画一的 |
| 観察減価(観察減価法) | 実際の状態 | 個別的だが主観的 |
| 減価の3要因 | 減価の原因 | 物理的・機能的・経済的の分類 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 併用の原則: 「減価修正は耐用年数に基づく方法のみで行えば足りる」→ 誤り(観察減価法と併用する)
- 経済的残存耐用年数: 「耐用年数とは建物の物理的耐用年数のみをいう」→ 誤り(経済的残存耐用年数を総合的に判断)
論文式試験
- 「原価法における減価修正の方法を説明し、耐用年数に基づく方法と観察減価法の関係について論述せよ」
- 併用が必要な理由を、両者の長所・短所を踏まえて論じることがポイント
暗記のポイント
- 2つの方法: 耐用年数に基づく方法と観察減価法
- 併用が原則: どちらか一方では不十分
- 耐用年数の種類: 物理的・機能的・経済的耐用年数 → 経済的残存耐用年数を重視
まとめ
経年減価(耐用年数に基づく方法)は経過年数から機械的に減価を算定する方法、観察減価(観察減価法)は実際の状態から個別に減価を判定する方法です。原価法ではこの2つの方法を併用することが求められており、どちらか一方だけでは正確な減価修正ができません。減価の3要因(物理的・機能的・経済的減価)との関係も含めて、体系的に理解しておきましょう。