還元利回りの求め方|直接還元法の実践
還元利回りとは
収益還元法のうち直接還元法において、還元利回り(キャップレート)は純収益を収益価格に変換するための最重要パラメータです。不動産鑑定士試験では、還元利回りの意義と5つの求め方が繰り返し出題されます。
鑑定評価基準では、還元利回りについて次のように定めています。
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
直接還元法の計算構造
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで割ることによって収益価格を求めます。
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
基本的な計算式は以下の通りです。
収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
計算例:基本的な直接還元法
築10年のRCマンション(1棟)について、以下の条件で直接還元法を適用します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総収益(年間賃料収入等) | 800万円 |
| 総費用(管理費、修繕費、公租公課等) | 300万円 |
| 純収益(NOI) | 500万円 |
| 還元利回り | 5.0% |
収益価格 = 500万円 ÷ 0.05 = 1億円
このように、還元利回りが0.1%変わるだけで収益価格は大きく変動します。
| 還元利回り | 収益価格(純収益500万円の場合) |
|---|---|
| 4.0% | 1億2,500万円 |
| 4.5% | 1億1,111万円 |
| 5.0% | 1億円 |
| 5.5% | 9,091万円 |
| 6.0% | 8,333万円 |
還元利回りが4.0%と6.0%では収益価格に約4,200万円もの差が生じます。このことから、還元利回りの適正な把握がいかに重要かがわかります。
還元利回りの意味
還元利回りは、単なる利率ではなく、将来の収益変動予測と不確実性を織り込んだ率です。
具体的には、還元利回りには以下の要素が反映されています。
- 資本のリターン(利子率相当) — 投資資本に対する期待収益率
- リスクプレミアム — 不動産投資に伴うリスクに対する上乗せ分
- 将来の純収益の変動予測 — 収益の増減見込みを反映
- 資本回収 — 建物の経年劣化等に伴う資本の回収分
還元利回りが低いほど不動産の価格は高くなり、高いほど価格は低くなります。これは、低い利回りで取引される不動産は「安全性・収益の安定性が高い」と市場が評価していることを意味します。
還元利回りの5つの求め方
鑑定評価基準では、還元利回りを求める方法として5つの手法を掲げています。
還元利回りを求める方法を例示すれば次のとおりである。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
5つの方法の全体像
| 方法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 方法1 | 類似取引事例との比較 | 最も基本的。市場実態を直接反映 |
| 方法2 | 借入金と自己資金 | 資金調達構造に着目 |
| 方法3 | 土地と建物の加重平均 | 構成要素別に把握 |
| 方法4 | 割引率との関係 | DCF法の割引率から導出 |
| 方法5 | DSCR(借入金償還余裕率) | 金融的な観点から把握 |
方法1:類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
最も基本的かつ実務で多用される方法です。類似の不動産に係る取引事例から算出された利回り(取引利回り)を収集・比較して還元利回りを求めます。
取引利回り = 純収益 ÷ 取引価格
具体例
対象不動産と類似する築15年RCマンション3件の取引事例を収集したところ、以下の取引利回りが得られました。
| 事例 | 純収益 | 取引価格 | 取引利回り |
|---|---|---|---|
| 事例A | 480万円 | 1億円 | 4.8% |
| 事例B | 520万円 | 1億500万円 | 5.0% |
| 事例C | 460万円 | 8,800万円 | 5.2% |
各事例の立地・築年・規模等を対象不動産と比較検討し、還元利回りを5.0%と査定します。
方法2:借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
不動産投資が借入金と自己資金の組み合わせで行われることに着目し、それぞれの期待利回りを加重平均して求めます。
還元利回り = 借入金割合 × 借入金利回り + 自己資金割合 × 自己資金利回り
具体例
| 項目 | 割合 | 利回り |
|---|---|---|
| 借入金(ローン) | 70% | 2.5%(ローン定数) |
| 自己資金(エクイティ) | 30% | 10.0%(期待利回り) |
還元利回り = 0.7 × 2.5% + 0.3 × 10.0%
= 1.75% + 3.0%
= 4.75%
方法3:土地と建物に係る還元利回りから求める方法
土地と建物のそれぞれについて還元利回りを求め、対象不動産の土地・建物の構成割合で加重平均して求めます。
還元利回り = 土地割合 × 土地還元利回り + 建物割合 × 建物還元利回り
具体例
| 項目 | 価格構成比 | 個別の還元利回り |
|---|---|---|
| 土地 | 60% | 4.0% |
| 建物 | 40% | 6.0% |
還元利回り = 0.6 × 4.0% + 0.4 × 6.0%
= 2.4% + 2.4%
= 4.8%
方法4:割引率との関係から求める方法
DCF法で用いる割引率との関係を利用して還元利回りを求めます。純収益の変動率を考慮して求めます。
還元利回り = 割引率 − 純収益の変動率
具体例
割引率が6.0%、純収益が毎年1.0%ずつ成長すると見込まれる場合。
還元利回り = 6.0% − 1.0% = 5.0%
逆に、純収益が毎年0.5%ずつ減少すると見込まれる場合。
還元利回り = 6.0% −(−0.5%)= 6.5%
純収益が成長する不動産は還元利回りが低く(価格が高く)、純収益が減少する不動産は還元利回りが高く(価格が低く)なる関係が明確に表れます。
方法5:借入金償還余裕率の活用による方法
借入金の元利返済に対してどの程度の余裕があるかを示す借入金償還余裕率(DSCR) を活用して求めます。
還元利回り = 借入金割合 × ローン定数 × DSCR
具体例
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 借入金割合(LTV) | 70% |
| ローン定数 | 6.0% |
| DSCR | 1.2倍 |
還元利回り = 0.7 × 6.0% × 1.2 = 5.04%
還元利回りと割引率の違い
還元利回りと割引率は混同されがちですが、本質的に異なる概念です。
| 項目 | 還元利回り | 割引率 |
|---|---|---|
| 使用場面 | 直接還元法・復帰価格の算定 | DCF法の現在価値計算 |
| 意味 | 一期間の純収益と価格の比率 | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く率 |
| 将来変動の扱い | 率の中に将来の変動予測を包含 | 各期のCFで明示的に反映 |
| 関係式 | 還元利回り = 割引率 − 純収益変動率 | 割引率 = 還元利回り + 純収益変動率 |
割引率は「時間価値とリスクの率」であり、還元利回りはそこに「将来の収益変動予測」を加味した率といえます。この違いの理解は、割引率の求め方でさらに詳しく解説しています。
還元利回りに影響を与える要因
還元利回りの水準は、以下の要因によって変動します。
| 要因 | 還元利回りへの影響 |
|---|---|
| 立地(都心 vs 郊外) | 都心は低い、郊外は高い |
| 築年数 | 新しいほど低い、古いほど高い |
| 用途(住居 vs 商業 vs 物流) | 住居は低い傾向、商業は中程度、物流は比較的高い |
| テナントの信用力 | 信用力が高いほど低い |
| 賃貸借契約の残存期間 | 長期安定契約は低い |
| 金利水準 | 金利上昇局面では上昇傾向 |
| 不動産市場の需給 | 需要超過は低下、供給超過は上昇 |
一般的な目安として、都心一等地のオフィスで3%台後半〜4%台、住宅で4%前後、郊外の商業施設で6〜7%台が一つの水準ですが、市場環境により常に変動します。
還元利回りの査定実務
複数の方法を併用する
実務では、5つの方法のうち複数を適用し、それぞれの結果を総合的に検討して還元利回りを査定します。1つの方法だけに依拠するのではなく、複数のアプローチから得られた率を比較検討することで、査定の客観性を高めます。
査定例:築15年RC造賃貸マンション(都心住宅地)
| 求め方 | 算出された率 | 備考 |
|---|---|---|
| 方法1: 類似取引事例の比較 | 4.6〜5.2% | 取引事例5件のNOI利回りの範囲 |
| 方法2: 借入金と自己資金 | 4.7% | LTV60%、金利1.8%、エクイティ利回り9.0% |
| 方法4: 割引率との関係 | 5.0% | 割引率5.5%、純収益変動率-0.5% |
以上を総合して、還元利回りを5.0%と査定します。
純収益と還元利回りの整合性
直接還元法で用いる純収益は、安定的に得られると認められる標準化された純収益です。一時的な空室増加や大規模修繕年の異常な費用発生は、純収益に反映するか還元利回りに反映するかを明確にする必要があります。
- 純収益に反映する場合 — 純収益自体を通常の水準に修正する(例:一時的な空室率の高い年は標準的な空室率で計算)
- 還元利回りに反映する場合 — 将来のリスクとして還元利回りに上乗せする
二重計上を避けることが重要であり、純収益と還元利回りの間で同じリスクが重複して反映されないよう注意が必要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 還元利回りの定義の正誤判定
- 5つの求め方の名称と内容の対応
- 還元利回りと割引率の違い
- 「将来の収益変動予測を含む」という特徴の正誤
論文式試験
- 還元利回りの意義と5つの求め方を体系的に論述する問題(頻出)
- 直接還元法における還元利回りの位置づけ
- 還元利回りと割引率の関係式の説明
- 具体的な事例を用いた還元利回りの査定プロセスの論述
暗記のポイント
- 直接還元法の公式: 収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
- 5つの求め方: 類似取引、借入金と自己資金、土地と建物、割引率との関係、DSCR
- 還元利回り = 割引率 − 純収益の変動率
- 還元利回りには将来の収益変動予測と不確実性が含まれる
- 還元利回りが低いほど価格は高い
まとめ
還元利回りは、直接還元法において純収益を収益価格に変換する最も重要なパラメータです。その水準がわずかに変動するだけで収益価格は大きく変わるため、適正な還元利回りの査定は鑑定評価の精度を左右します。
基準では5つの求め方が示されており、実務では複数の方法を併用して総合的に査定することが一般的です。試験対策としては、5つの求め方をそれぞれ具体例とともに説明できるようにしておくことが重要です。