割引率の求め方|DCF法の実践
割引率とは
DCF法において、割引率は将来のキャッシュフローを現在価値に変換するための中核的なパラメータです。不動産鑑定士試験では、割引率の意義、求め方、そして還元利回りとの関係が繰り返し出題されます。
鑑定評価基準では、割引率について次のように定めています。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り引く際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて明示されたものが除かれるものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
DCF法における割引率の位置づけ
DCF法は、保有期間中の各期の純収益と保有期間末の復帰価格を、それぞれ現在価値に割り引いて合計することで収益価格を求めます。
収益価格 = NCF₁/(1+r)¹ + NCF₂/(1+r)² + ... + NCFₙ/(1+r)ⁿ + Vₙ/(1+r)ⁿ
ここで「r」が割引率です。割引率が高いほど将来のキャッシュフローの現在価値は小さくなり、結果として収益価格は低くなります。
計算例:割引率の違いによる収益価格の変動
毎年500万円の純収益を5年間生み出し、5年後に1億円で売却できる不動産について考えます。
| 割引率 | 各期純収益の現在価値合計 | 復帰価格の現在価値 | 収益価格 |
|---|---|---|---|
| 4.0% | 2,226万円 | 8,219万円 | 1億445万円 |
| 5.0% | 2,165万円 | 7,835万円 | 1億万円 |
| 6.0% | 2,106万円 | 7,473万円 | 9,579万円 |
割引率が1%異なるだけで収益価格は約430万円変動します。これは割引率の査定がいかに重要かを示しています。
割引率の意味
割引率は、投資家が期待する収益率(期待利回り)に近い概念です。将来のキャッシュフローには不確実性が伴うため、投資家はその不確実性に見合った利回りを要求します。
割引率には以下の要素が含まれています。
- 無リスク利子率 — 国債利回り等のリスクフリーレート
- 不動産のリスクプレミアム — 流動性リスク、空室リスク、信用リスク等に対する上乗せ分
- 個別のリスクプレミアム — 対象不動産固有のリスクに対する上乗せ分
重要なのは、割引率には将来の純収益の変動予測が含まれない点です。DCF法では将来の収益変動を各期のキャッシュフローで明示的に表現するため、割引率は純粋に時間価値とリスクだけを反映します。
割引率の3つの求め方
不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項)では、割引率を求める方法として3つの手法が例示されています。
割引率を求める方法を例示すれば次のとおりである。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
方法1:類似の不動産の取引事例又は土地取引事例から求める方法
類似不動産の取引事例から内部収益率(IRR) を算出し、これを比較して割引率を求めます。
取引価格 = NCF₁/(1+IRR)¹ + NCF₂/(1+IRR)² + ... + Vₙ/(1+IRR)ⁿ
上記の等式を満たすIRRが、その取引における投資家の実現利回りです。類似の取引事例から複数のIRRを算出し、対象不動産との比較を行って割引率を査定します。
具体例
類似マンションの取引事例3件からIRRを算出した結果。
| 事例 | 取引価格 | 保有期間 | 算出IRR |
|---|---|---|---|
| 事例A | 9,500万円 | 5年 | 5.2% |
| 事例B | 1億200万円 | 7年 | 4.8% |
| 事例C | 8,800万円 | 5年 | 5.5% |
対象不動産の立地・築年・収益の安定性等を考慮し、割引率を5.0%と査定します。
方法2:借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
不動産投資の資金構成に着目し、加重平均資本コスト(WACC) の考え方で求めます。
割引率 = 借入金割合 × 借入金コスト + 自己資金割合 × 自己資金コスト
具体例
| 項目 | 割合 | コスト |
|---|---|---|
| 借入金 | 60% | 2.0%(借入金利) |
| 自己資金 | 40% | 8.0%(期待利回り) |
割引率 = 0.6 × 2.0% + 0.4 × 8.0%
= 1.2% + 3.2%
= 4.4%
方法3:金融資産の利回りに不動産のリスクプレミアムを加算して求める方法
無リスク利子率(国債利回り等) をベースに、不動産投資特有のリスクプレミアムを積み上げて求めます。
割引率 = 無リスク利子率 + リスクプレミアム
具体例
| 構成要素 | 率 |
|---|---|
| 無リスク利子率(10年国債利回り) | 1.0% |
| 不動産の流動性リスク | 1.5% |
| 不動産固有のリスク(空室、修繕等) | 1.5% |
| 個別物件のリスク(築年数、立地等) | 1.0% |
| 割引率 | 5.0% |
この方法はリスクの積み上げ方式とも呼ばれ、割引率の構成要素を明示的に説明できるメリットがあります。
還元利回りと割引率の関係
還元利回りと割引率は密接に関連しますが、概念的に異なる率です。
| 項目 | 還元利回り | 割引率 |
|---|---|---|
| 使用場面 | 直接還元法・復帰価格の算定 | DCF法の現在価値計算 |
| 将来変動の扱い | 率の中に包含 | 各期のCFで明示的に反映 |
| 関係式 | 還元利回り = 割引率 − 純収益変動率 | 割引率 = 還元利回り + 純収益変動率 |
| 大小関係 | 純収益成長時 → 還元利回り < 割引率 | 純収益減少時 → 割引率 < 還元利回り |
大小関係の具体例
| ケース | 割引率 | 純収益変動率 | 還元利回り | 大小関係 |
|---|---|---|---|---|
| 純収益が成長(+1%) | 6.0% | +1.0% | 5.0% | 還元利回り < 割引率 |
| 純収益が安定(±0%) | 5.0% | 0% | 5.0% | 還元利回り = 割引率 |
| 純収益が減少(-1%) | 5.0% | -1.0% | 6.0% | 還元利回り > 割引率 |
純収益が安定的に成長する不動産(都心の優良オフィス等)では、一般に還元利回りの方が割引率より低い水準となります。
最終還元利回り(ターミナルキャップレート)
DCF法では、保有期間末の復帰価格を求める際に最終還元利回りを使用します。
復帰価格 = 保有期間末の翌期の純収益 ÷ 最終還元利回り
最終還元利回りは、保有期間中の還元利回りより高く設定されるのが一般的です。その理由は以下の通りです。
- 建物の経年劣化が進行し、収益力が低下する
- 将来の不確実性が増大する(予測期間が長いほどリスクが大きい)
- 市場環境の変化が見込まれる
具体例
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 保有期間中の還元利回り | 5.0% |
| 最終還元利回り | 5.3%(+0.3%のスプレッド) |
| 保有期間末翌期の純収益 | 480万円 |
復帰価格 = 480万円 ÷ 0.053 ≒ 9,057万円
割引率に影響を与える要因
割引率の水準を左右する要因は、還元利回りと共通する部分が多いですが、将来の収益変動はキャッシュフローに反映されるため、割引率自体には含まれない点が異なります。
| 要因 | 割引率への影響 |
|---|---|
| 金利水準 | 金利上昇 → 割引率上昇 |
| 不動産市況 | 活況 → 割引率低下、低迷 → 割引率上昇 |
| 物件の所在地 | 都心 → 低い、郊外 → 高い |
| テナントの質 | 信用力高い → 低い |
| 建物の品質 | 新しく良好 → 低い、老朽化 → 高い |
| 資金調達環境 | 融資が容易 → 低い |
割引率の査定実務
複数の方法の併用
還元利回りと同様に、割引率の査定においても複数の方法を併用して総合的に判断することが重要です。
査定例:都心オフィスビル
| 求め方 | 算出された率 | 備考 |
|---|---|---|
| 方法1: 類似取引のIRR | 4.3〜5.0% | 取引事例4件のIRR |
| 方法2: 借入金と自己資金 | 4.5% | LTV55%、金利1.5%、エクイティ8.0% |
| 方法3: 金融資産+リスクプレミアム | 4.8% | 国債1.0%+リスクプレミアム3.8% |
以上を総合して、割引率を4.7%と査定します。
DCF法のキャッシュフロー予測との整合性
割引率を設定する際は、キャッシュフロー予測の前提条件との整合性を確認する必要があります。
- 楽観的なキャッシュフロー予測を行う場合 → 割引率は高めに設定すべき
- 保守的なキャッシュフロー予測を行う場合 → 割引率は低めでもよい
キャッシュフローの予測が楽観的であるにもかかわらず割引率を低く設定すると、収益価格が過大に算出されるおそれがあります。予測と割引率の間でリスクの二重計上または計上漏れがないよう、慎重な検討が必要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 割引率の定義の正誤判定
- 割引率と還元利回りの違い(将来変動の扱い)
- 3つの求め方の名称と内容の対応
- 最終還元利回りが還元利回りより高い理由
論文式試験
- 割引率の意義と3つの求め方を体系的に論述する問題(頻出)
- 還元利回りと割引率の関係を論述する問題
- DCF法の計算構造における割引率の位置づけ
- 還元利回り・割引率・最終還元利回りの相互関係の説明
暗記のポイント
- 割引率 = 還元利回り + 純収益の変動率
- DCF法: 収益価格 = Σ NCF/(1+r)ⁿ + V/(1+r)ⁿ
- 3つの求め方: 類似取引のIRR、借入金と自己資金、金融資産+リスクプレミアム
- 最終還元利回りは還元利回りより高いのが一般的
- 割引率には将来の収益変動予測が含まれない(CFで明示するため)
まとめ
割引率は、DCF法において将来のキャッシュフローを現在価値に変換するための中核的なパラメータです。還元利回りとは「将来の収益変動予測を含むか否か」が決定的な違いであり、割引率 = 還元利回り + 純収益変動率という関係式で結ばれています。
試験対策では、3つの求め方を具体例とともに説明できるようにするとともに、還元利回りとの異同を明確に述べられるようにしておくことが重要です。
関連記事として、還元利回りの求め方やDCF法の全体像も併せて確認してください。DCF法の保有期間や復帰価格の設定についてはDCF法の保有期間と復帰価格で、用途別の還元利回りの査定については還元利回りの類型別査定で詳しく解説しています。