事情補正の具体的判断基準
事情補正とは
事情補正とは、取引事例に特殊な事情が存在する場合に、その事情による価格への影響を除去し、正常な価格に補正することをいいます。取引事例比較法において、事情補正は最初に行う補正であり、正確な査定が求められます。
事情補正は、取引事例に係る取引が特殊な事情を含み、これが当該取引事例に係る価格に影響を与えていると認められるときに、適切に補正を行うことをいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
事情補正が必要な取引
主な特殊事情
| 特殊事情 | 内容 | 価格への影響 |
|---|---|---|
| 売り急ぎ | 資金繰り等で早期売却 | 市場価格より低い |
| 買い進み | 隣地取得等で高値購入 | 市場価格より高い |
| 親族間取引 | 親族間での売買 | 市場価格より低いことが多い |
| 法人関連取引 | 関連会社間の売買 | 市場価格と乖離の可能性 |
| 競売・公売 | 裁判所等による売却 | 市場価格より低い傾向 |
事情の程度
特殊事情は、その程度により補正の必要性が異なります。
| 程度 | 対応 |
|---|---|
| 軽微 | 事情補正で対応可能 |
| 中程度 | 事情補正で対応、慎重に判断 |
| 著しい | 事例採用を見送ることも検討 |
売り急ぎの補正
売り急ぎの原因
売り急ぎが生じる主な原因:
- 資金繰りの悪化
- 相続税の納付期限
- 事業撤退の決定
- 債務の弁済
補正率の査定
売り急ぎの補正率は、急ぎの程度により異なります。
| 程度 | 補正率の目安 | 状況 |
|---|---|---|
| 軽度 | +3〜+5% | 通常より短い販売期間 |
| 中度 | +5〜+10% | かなり短い販売期間 |
| 重度 | +10〜+20% | 極めて短期間での売却 |
補正率査定の根拠
【補正率査定の考え方】
通常の販売期間:6ヶ月
実際の販売期間:1ヶ月
→ 短縮率 ≒ 83%
短縮による価格影響 ≒ −10%程度
→ 事情補正率 = 100/90 ≒ 1.11(+11%)
買い進みの補正
買い進みの原因
買い進みが生じる主な原因:
- 隣地の取得(土地の一体利用)
- 事業用地の確保
- 競合他社との競争
- 借地権者による底地取得
補正率の査定
買い進みの補正率は、増加分(プレミアム)の程度により異なります。
| 程度 | 補正率の目安 | 状況 |
|---|---|---|
| 軽度 | −3〜−5% | 若干の上乗せ |
| 中度 | −5〜−10% | 相当の上乗せ |
| 重度 | −10〜−20% | 著しい上乗せ |
隣地取得の場合
隣地取得の場合は、増分価値との関連で判断します。
【隣地取得の補正】
隣地の正常価格:1,000万円
取得価格:1,200万円
上乗せ額:200万円(+20%)
→ 買い進みとして −20%の補正が必要
事情補正率 = 100/120 ≒ 0.83
親族間取引の補正
特徴と補正の考え方
親族間取引は、市場価格より低い価格で行われることが多いです。
| 取引類型 | 価格の傾向 | 対応 |
|---|---|---|
| 時価売買 | 市場価格に近い | 補正小さいまたは不要 |
| 低額譲渡 | 市場価格を大きく下回る | 事例採用を見送り |
| 贈与的売買 | 極めて低い価格 | 事例採用不可 |
補正率の査定
【親族間取引の補正】
親族間の取引価格:800万円
推定される市場価格:1,000万円
割引率:20%
→ 事情補正率 = 100/80 = 1.25(+25%)
※補正幅が大きい場合は、事例採用の適否を再検討
競売・公売の補正
競売物件の特徴
競売物件は、以下の理由で市場価格より低くなる傾向があります。
- 占有者の存在リスク
- 内覧が困難
- 瑕疵担保責任がない
- 購入者の限定
補正率の目安
競売価格 = 市場価格 × 0.7〜0.9 程度
事情補正率 = 市場価格/競売価格
= 1/0.8 = 1.25(+25%)程度
競売事例の採用
競売事例は、補正幅が大きくなるため、採用には慎重な判断が必要です。
事情補正の限界
補正可能な範囲
事情補正には限界があり、著しい特殊事情がある場合は事例採用を見送るべきです。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 補正率 ±10%以内 | 補正で対応可能 |
| 補正率 ±10〜20% | 慎重に判断、他の事例と比較 |
| 補正率 ±20%超 | 事例採用を見送り検討 |
事例採用の判断
【判断のフロー】
特殊事情あり
↓
事情の程度を把握
↓
補正率を査定
↓
補正率が過大 → 事例採用見送り
補正率が許容範囲 → 事情補正を行い採用
事情補正の確認方法
事情の把握
特殊事情の有無は、以下の方法で確認します。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 取引当事者への聴取 | 売主・買主への確認 |
| 仲介業者への聴取 | 取引に関与した業者への確認 |
| 登記情報の確認 | 登記原因、当事者の関係 |
| 価格水準の分析 | 周辺相場との比較 |
事情の推定
事情が直接確認できない場合、価格水準から推定することもあります。
【価格水準からの推定】
取引価格:1,500万円/坪
周辺相場:1,300万円/坪程度
乖離率:+15%
→ 買い進み等の特殊事情を推定
事情補正率 = 100/115 ≒ 0.87
試験での出題ポイント
短答式試験
- 事情補正の定義と目的
- 売り急ぎと買い進みの補正の方向
- 事情補正の限界(著しい場合は採用見送り)
- 競売・親族間取引の取扱い
論文式試験
- 事情補正の判断基準を体系的に論述
- 特殊事情の種類と補正率の考え方を説明
- 事情補正の限界と事例採用の判断を論じる
- 具体的なケースを想定した補正率の査定
暗記のポイント
- 売り急ぎ:正常価格より低い → プラスの補正
- 買い進み:正常価格より高い → マイナスの補正
- 親族間取引:低額譲渡の場合は採用見送り
- 競売:市場価格の70〜90%程度
- 補正の限界:±20%超は採用見送りを検討
まとめ
事情補正は、取引事例に含まれる特殊事情による価格への影響を除去し、正常な価格に補正するプロセスです。売り急ぎ、買い進み、親族間取引、競売など様々な特殊事情について、その程度に応じた補正率を査定します。ただし、補正幅が過大な場合は事例採用を見送ることも検討が必要です。関連する論点として、事情補正と時点修正や取引事例の選択と棄却もあわせて学習しましょう。
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