不動産市場の特性|完全競争市場との違い
不動産市場の特性とは
不動産市場は、経済学における完全競争市場とは大きく異なる特性を持つ不完全な市場です。財の個別性、市場の地域性、情報の非対称性、取引の非標準性などの特徴により、不動産の価格は一般の商品市場のように自動的に均衡価格が形成されにくい構造にあります。不動産鑑定士試験では、この不完全性が鑑定評価の存在意義と結びつけて出題されます。
不動産の属する市場は、一般の財の市場と異なり、市場参加者の行動について相当の制約がある不完全な市場であり、不動産の取引はこの市場の特性を反映して個別的に行われるものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
完全競争市場の条件
経済学における完全競争市場
経済学の理論では、完全競争市場が成立するためには以下の条件が必要とされています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 多数の売り手と買い手 | 個々の参加者が価格に影響を与えられない |
| 財の同質性 | 取引される商品がすべて同質 |
| 情報の完全性 | 全参加者が価格・品質の情報を完全に把握 |
| 参入・退出の自由 | 市場への参入・退出に障壁がない |
| 取引費用がゼロ | 取引に伴う手数料・コストが存在しない |
完全競争市場では、需要と供給の均衡によって唯一の均衡価格が決まり、市場は効率的に機能します。
不動産市場の特性
不動産市場は、完全競争市場の条件をほとんど満たしていません。以下にその主要な特性を整理します。
特性1:財の非同質性(個別性)
不動産は一つとして同じものが存在しません。位置の固定性により、すべての不動産は異なる場所に所在し、面積、形状、接道状況、周辺環境等も個々に異なります。
| 一般財 | 不動産 |
|---|---|
| 同じ商品は同質 | 一つとして同じものがない |
| 代替品が多数存在 | 完全な代替品は存在しない |
| 規格化されている | 個別性が極めて強い |
この個別性により、「この商品の市場価格はいくらか」を一義的に決定することが困難です。
特性2:市場の地域性
不動産市場は全国一律の市場ではなく、地域ごとに分断されています。不動産は移動できないため、東京の不動産を大阪に持っていくことはできず、地域ごとに独自の需給関係が形成されます。
不動産の属する市場は、その存する地域の特性の影響を受けるため、市場ごとに異なる動向を示すことが多い。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章
基準では、この地域性を反映するために地域分析を行い、対象不動産が属する市場の特性を把握することを求めています。
特性3:情報の非対称性
不動産の取引価格は原則として公開されません。売主と買主の間でさえ情報量に差がある場合が多く、一般の市場参加者が正確な取引情報を入手することは困難です。
| 情報の種類 | 株式市場 | 不動産市場 |
|---|---|---|
| 取引価格 | リアルタイムで公開 | 非公開が原則 |
| 取引量 | 日次で公開 | 統計的にのみ把握可能 |
| 市場参加者 | 不特定多数 | 限定的 |
| 情報格差 | 小さい(規制あり) | 大きい |
特性4:取引の低頻度と高額性
不動産は取引頻度が極めて低く、一つの不動産が売買される回数は数年〜数十年に一度程度です。また、取引金額が高額であるため、購入にあたっては十分な調査と慎重な意思決定が必要です。
| 項目 | 一般財(日用品) | 不動産 |
|---|---|---|
| 取引頻度 | 日常的(毎日〜毎週) | 数年〜数十年に一度 |
| 取引金額 | 数百円〜数万円 | 数百万円〜数億円以上 |
| 意思決定期間 | 即時〜数日 | 数週間〜数ヶ月 |
| 専門知識 | 不要 | 法律・税金・建築等の知識 |
特性5:参入障壁の存在
不動産市場への参加には、高額な資金や専門知識が必要であり、一般の商品市場と比較して参入障壁が高いとされています。また、不動産の取引には法律上の制約(都市計画法による開発許可、農地法による転用規制等)があり、市場参加者の行動が制約されています。
特性6:供給の非弾力性
特に土地については、新たな供給が困難(あるいは不可能)です。工業製品は需要の増加に対して生産量を増やすことで対応できますが、特定の場所の土地は増やすことができません。
一般財: 需要増加 → 生産量増加 → 供給増加 → 価格安定
不動産: 需要増加 → 供給は固定的 → 価格上昇
不動産市場の不完全性と鑑定評価
鑑定評価の存在意義
不動産市場の不完全性は、そのまま鑑定評価の社会的意義に直結します。
| 市場の不完全性 | 鑑定評価の対応 |
|---|---|
| 財の個別性 | 個別分析により対象不動産固有の要因を把握 |
| 情報の非対称性 | 取引事例の収集・分析により市場実態を把握 |
| 市場の地域性 | 地域分析により地域の特性を把握 |
| 取引の低頻度 | 三方式を併用して多角的に価格を検証 |
| 参入障壁 | 専門的知見に基づく適正価格の判定 |
正常な市場の想定
鑑定評価基準では、正常価格を求める際に「合理的と考えられる条件を満たす市場」を想定します。これは、不動産市場の不完全性を認識したうえで、仮に合理的な市場が存在した場合に形成されるであろう価格を求めるという考え方です。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
不動産市場の需給圏
同一需給圏の概念
不動産市場の地域性を踏まえ、基準では同一需給圏の概念を用いています。同一需給圏とは、対象不動産と代替、競争等の関係が成立する他の不動産が存する範囲をいいます。
同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章
需給圏の広さ
同一需給圏の広さは、不動産の種類によって異なります。
| 不動産の種類 | 同一需給圏の範囲 |
|---|---|
| 住宅地 | 同一市区町村〜近隣市区町村程度 |
| 商業地 | 同一商業圏、同一ビジネスエリア |
| 工業地 | 広域的(同一産業集積地域) |
| 農地 | 同一農業振興地域 |
不動産市場と価格形成要因
不動産市場の特性は、価格形成要因の分析と密接に関連しています。
一般的要因と市場全体
一般的要因(経済状況、金利、人口動態等)は不動産市場全体に影響を与えますが、市場の地域性により、その影響は地域ごとに異なる現れ方をします。
地域要因と地域市場
地域要因は、地域ごとに分断された不動産市場の特性を直接反映するものです。交通条件、都市計画、インフラ整備状況等の地域要因が、当該地域の不動産価格の水準を規定します。
個別的要因と個別取引
個別的要因は、不動産の個別性(非同質性)に対応するものであり、同一地域内であっても個々の不動産の価格差を生じさせます。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 不動産市場の特性(不完全性)と完全競争市場の条件の対比
- 同一需給圏の定義と範囲
- 市場の不完全性と鑑定評価の必要性の関係
- 不動産市場の地域性に関する正誤判定
論文式試験
- 不動産市場の特性を列挙し、鑑定評価の社会的意義と結びつけて論述
- 正常価格の定義における「合理的な市場」の意味
- 同一需給圏の概念と地域分析の関係
暗記のポイント
- 不完全市場の特性: 個別性、地域性、情報の非対称性、取引の低頻度、参入障壁、供給の非弾力性
- 完全競争市場の条件: 多数の参加者、財の同質性、情報の完全性、参入退出の自由、取引費用ゼロ
- 同一需給圏: 対象不動産と代替関係が成立する不動産の存する圏域
- 基準の文言: 「市場参加者の行動について相当の制約がある不完全な市場」
- 鑑定評価の意義: 不完全市場における適正な価格の判定
まとめ
不動産市場は、財の個別性、市場の地域性、情報の非対称性など、完全競争市場の条件を満たさない不完全な市場です。この不完全性こそが、不動産鑑定士による鑑定評価を必要とする根拠であり、基準が三方式の併用や地域分析・個別分析を要求する理由でもあります。不動産の価格の特徴や価格形成要因と合わせて、不動産の価格形成に関する基礎理論を体系的に理解しておきましょう。