積算法(賃料)の期待利回りの求め方
積算法(賃料)とは
積算法(賃料の積算法)は、新規賃料を求める鑑定評価手法の一つであり、基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して積算賃料を求める方法です。不動産鑑定士試験では、基礎価格の意義、期待利回りの求め方、必要諸経費等の内容が重要論点として出題されます。
積算法は、対象不動産について、基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
積算法の基本算式
積算賃料の算定式
積算賃料(実質賃料) = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等
この算式を分解すると以下のようになります。
(1) 純賃料 = 基礎価格 × 期待利回り
(2) 積算賃料 = 純賃料 + 必要諸経費等
純賃料は、不動産の元本(価格)に対する果実(収益)であり、不動産所有者が投下した資本に対して期待する収益を表します。
基礎価格
基礎価格とは
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる不動産の価格です。賃料を求める対象不動産の経済価値を適切に反映した価格である必要があります。
基礎価格とは、積算法における基礎となる価格であり、原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
基礎価格の求め方
| 対象不動産 | 基礎価格の求め方 |
|---|---|
| 土地のみの賃貸 | 更地としての価格(原価法、取引事例比較法) |
| 建物のみの賃貸 | 建物の価格(原価法) |
| 建物及びその敷地 | 土地と建物を一体とした価格(原価法、取引事例比較法) |
基礎価格の査定例
【例】事務所ビルの賃料を求める場合
土地: 取引事例比較法による更地価格 200,000,000円
建物: 原価法による積算価格 80,000,000円
基礎価格: 280,000,000円
期待利回り
期待利回りとは
期待利回りとは、基礎価格(不動産の元本価値)に対して賃貸人が期待する純賃料の割合です。不動産を賃貸に供することによって期待される収益率を表します。
期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益の当該資本相当額に対する割合をいう。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
期待利回りの性格
期待利回りは、以下の性格を持っています。
- 不動産の元本に対する収益率: 投下資本に対して賃貸人が期待する利回り
- 価格に対する賃料の割合: 不動産価格と賃料水準の関係を示す指標
- 還元利回りとの類似性: 収益還元法の還元利回りと同様の概念
期待利回りの求め方
期待利回りの査定方法には以下のものがあります。
1. 賃貸事例から求める方法
類似の不動産の賃貸事例について、実質賃料から必要諸経費を控除して純賃料を求め、基礎価格で除して期待利回りを算出します。
期待利回り = 純賃料 ÷ 基礎価格
純賃料 = 実質賃料 − 必要諸経費等
【例】
事例の実質賃料: 16,800,000円/年
事例の必要諸経費等: 5,600,000円/年
事例の純賃料: 16,800,000 − 5,600,000 = 11,200,000円
事例の基礎価格: 280,000,000円
期待利回り = 11,200,000 ÷ 280,000,000 = 4.0%
2. 積上法で求める方法
安全資産の利回りにリスクプレミアムを加算して求める方法です。
期待利回り = 安全資産利回り + 不動産のリスクプレミアム
【例】
10年国債利回り: 1.0%
不動産の個別性リスク: 1.5%
流動性プレミアム: 0.5%
管理リスク: 0.5%
市場変動リスク: 0.5%
────────────────────────────
期待利回り: 4.0%
3. 取引利回りとの比較から求める方法
不動産の取引事例から把握される取引利回り(還元利回り)を参考に、賃貸用不動産としての期待利回りを査定します。
期待利回りの水準の目安
| 不動産の種類 | 期待利回りの目安 |
|---|---|
| 都心部の事務所ビル | 3.0〜4.5% |
| 都心部の住宅(賃貸マンション) | 3.5〜5.0% |
| 郊外の住宅 | 5.0〜7.0% |
| 商業施設 | 4.0〜6.0% |
| 物流施設 | 4.0〜5.5% |
これらの水準はあくまで目安であり、個々の不動産の特性や市場環境に応じて適切に判断する必要があります。
必要諸経費等
必要諸経費等の構成
必要諸経費等とは、不動産を賃貸に供するために必要な費用で、賃借人に転嫁すべき費用です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 減価償却費 | 建物の経年劣化に対応する費用 |
| 維持管理費 | 清掃費、警備費、設備保守費等 |
| 修繕費 | 通常の修繕に必要な費用 |
| 公租公課 | 固定資産税・都市計画税 |
| 損害保険料 | 建物の火災保険料等 |
| 貸倒れ準備費 | 賃料の未回収リスクに対する引当 |
| 空室等損失相当額 | 空室リスクに対応する費用 |
計算例
【例】事務所ビルの必要諸経費等
減価償却費: 80,000,000 × 1/50年 = 1,600,000円
維持管理費: = 2,500,000円
修繕費: = 1,200,000円
公租公課: = 3,800,000円
損害保険料: = 300,000円
貸倒れ準備費: = 200,000円
空室等損失相当額: = 500,000円
──────────────────────────────────
必要諸経費等合計: 10,100,000円
積算賃料の総合計算例
計算例1:事務所ビル
【前提条件】
基礎価格:
土地価格(取引事例比較法): 200,000,000円
建物価格(原価法): 80,000,000円
基礎価格合計: 280,000,000円
期待利回り: 4.0%
【積算賃料の算定】
(1) 純賃料
280,000,000 × 4.0% = 11,200,000円
(2) 必要諸経費等
合計: 10,100,000円
(3) 積算賃料(実質賃料・年額)
11,200,000 + 10,100,000 = 21,300,000円
(4) 月額換算
21,300,000 ÷ 12 ≒ 1,775,000円/月
(5) 賃貸可能面積1m²あたり(720m²の場合)
1,775,000 ÷ 720 ≒ 2,465円/m²・月
計算例2:住宅
【前提条件】
基礎価格:
土地価格: 30,000,000円
建物価格: 15,000,000円
基礎価格: 45,000,000円
期待利回り: 5.0%
【積算賃料の算定】
(1) 純賃料
45,000,000 × 5.0% = 2,250,000円
(2) 必要諸経費等
減価償却費: 15,000,000 × 1/30 = 500,000円
維持管理費: 120,000円
修繕費: 180,000円
公租公課: 350,000円
損害保険料: 50,000円
─────────────────────
合計: 1,200,000円
(3) 積算賃料(実質賃料・年額)
2,250,000 + 1,200,000 = 3,450,000円
(4) 月額換算
3,450,000 ÷ 12 ≒ 287,500円/月
積算法の特徴と限界
積算法の特徴
- 費用面からのアプローチ: 不動産の価格(元本価値)を基礎とした賃料査定
- 客観性: 基礎価格が把握できれば体系的に賃料を算定可能
- 新規賃料に適用: 新規賃料の鑑定評価で用いる
積算法の限界
- 期待利回りの査定困難: 賃貸事例が少ない場合、期待利回りの査定が困難
- 市場賃料との乖離: 積算賃料と市場で成立する賃料が乖離する場合がある
- 建物の経年変化: 築年数が経過すると基礎価格(建物部分)が低下し、純賃料も低下する
試験での出題ポイント
短答式試験
- 積算法の定義と算式の正誤判定
- 基礎価格の意義と求め方
- 期待利回りの定義
- 必要諸経費等に含まれる項目
論文式試験
暗記のポイント
- 基本算式: 積算賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等
- 純賃料: 基礎価格 × 期待利回り(元本に対する果実)
- 基礎価格: 原価法及び取引事例比較法により求める
- 期待利回り: 投下資本に対して期待される純収益の割合
- 必要諸経費等: 減価償却費、維持管理費、修繕費、公租公課、損害保険料、貸倒れ準備費等
まとめ
積算法(賃料)は、基礎価格に期待利回りを乗じた純賃料に必要諸経費等を加算して積算賃料を求める手法です。期待利回りの査定が結果を大きく左右するため、賃貸事例からの算出、積上法、取引利回りとの比較など複数の方法を検討することが重要です。新規賃料の鑑定評価における他の手法(賃貸事例比較法等)と合わせて、各手法の特徴と計算方法を体系的に理解しておきましょう。