空室等損失と貸倒れ損失とは

収益還元法における運営収益の算定において、満室想定賃料(潜在総収益)から控除すべき2つの損失が空室等損失貸倒れ損失です。不動産鑑定士試験では、これらの損失の意義と査定方法が収益価格の算定精度を左右する重要論点として出題されます。

いかに立地が良い物件であっても、常に満室・全額回収が保証されるわけではありません。テナントの退去に伴う空室期間や、賃料の回収不能リスクは、不動産経営において避けられないリスクであり、これらを適切に見込むことが不動産鑑定士に求められる重要な判断です。

総収益は、一般に、賃料収入に、敷金、保証金等の預り金の運用益等を加えた額とする。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


空室等損失の意義

空室等損失の定義

空室等損失とは、対象不動産の一部または全部が空室となることにより生じる収入の減少分をいいます。満室想定賃料に空室率を乗じて算定します。

空室等損失 = 満室想定賃料 × 空室率

空室等損失に含まれる要素

空室等損失には、以下の要素が含まれます。

要素 内容
既存空室 評価時点において現に空室となっている部分
入替えダウンタイム テナント退去から次のテナント入居までの空室期間
フリーレント期間 テナント誘致のための賃料免除期間
募集中の未契約 募集しているが未だ成約に至らない部分

空室率と稼働率の関係

空室率と稼働率は補数の関係にあります。

空室率 + 稼働率 = 100%

(例)
空室率 5% → 稼働率 95%
空室率 10% → 稼働率 90%

稼働率を用いて運営収益を算定する場合は、以下のように計算します。

実効賃料収入 = 満室想定賃料 × 稼働率
           = 満室想定賃料 ×(1 − 空室率)

空室率の査定方法

査定に用いるデータ

空室率の査定にあたっては、以下のデータを総合的に分析します。

データの種類 内容 留意点
対象不動産の過去実績 過去3〜5年程度の稼働率推移 一時的な要因を除外して分析
類似物件の空室率 同一需給圏内の類似物件の空室率 規模・用途・築年数の類似性を確認
市場全体の空室率 エリア別・用途別の市場空室率データ マクロデータとミクロデータを併用
需給動向 新規供給計画、需要トレンド 将来の空室率変動の予測に活用

用途別の空室率の目安

空室率は物件の用途やエリアにより大きく異なります。

用途 空室率の目安 特徴
都心オフィスビル 3〜7% 景気変動の影響を受けやすい
郊外オフィスビル 5〜15% 都心より高めの傾向
賃貸住宅(都市部) 3〜8% 相対的に安定
賃貸住宅(地方) 5〜15% 人口動態の影響が大きい
商業施設 3〜10% テナント構成による変動
物流施設 2〜5% 近年は需要旺盛で低水準

空室率の種類

空室率にはいくつかの算定方法があり、分析目的に応じて使い分けます。

種類 算定方法 用途
時点空室率 特定時点の空室面積 / 総貸室面積 評価時点の状況把握
期間空室率 一定期間の空室面積積数 / 総面積積数 過去の実績分析
経済的空室率 空室損失額 / 満室想定賃料 フリーレント等を含む実質的損失

貸倒れ損失の意義

貸倒れ損失の定義

貸倒れ損失とは、テナントの賃料滞納や経営破綻等により、本来受け取るべき賃料が回収不能となる損失をいいます。

貸倒れ損失 = 賃料収入 × 貸倒れ率

貸倒れ損失の発生要因

要因 内容
テナントの経営悪化 業績不振による賃料支払い遅延・不能
テナントの破綻 倒産・事業撤退に伴う未収賃料の発生
個人テナントの滞納 住宅の場合、個人の経済的困窮による滞納
法的手続きの長期化 明渡し訴訟等の期間中の賃料未回収

敷金による回収との関係

貸倒れ損失は、敷金・保証金により一定程度カバーされます。しかし、滞納額が敷金を超える場合や、原状回復費用と相殺する場合には、全額の回収は困難です。

実質的な貸倒れ損失 = 滞納賃料 − 敷金充当額 + 回収費用

貸倒れ率の査定方法

査定アプローチ

貸倒れ率の査定にあたっては、以下の要素を考慮します。

考慮要素 内容
テナントの信用力 上場企業・大手テナントは低リスク、中小企業・個人は高リスク
敷金・保証金の水準 敷金が多いほど貸倒れリスクは軽減される
賃料水準 高額賃料はテナントの負担が大きく、滞納リスクが高まる場合がある
契約形態 サブリース等の保証がある場合はリスクが低い
過去の実績 対象不動産・類似物件の貸倒れ実績

用途別の貸倒れ率の目安

用途 貸倒れ率の目安 備考
オフィスビル(大手テナント) 0.5〜1.0% 信用力が高く低リスク
オフィスビル(中小テナント) 1.0〜2.0% テナントの信用力による
賃貸住宅 1.0〜2.0% 個人の滞納リスクを見込む
商業施設 0.5〜2.0% テナント構成による

満室想定賃料からの控除フロー

控除の計算手順

満室想定賃料(潜在総収益)から空室等損失と貸倒れ損失を控除して実効総収益(EGI)を求める手順は以下のとおりです。

【実効総収益(EGI)の算定フロー】

Step 1: 満室想定賃料の算定
  貸室賃料(満室想定)          〇〇〇円
  +共益費収入                  〇〇〇円
  +駐車場収入                  〇〇〇円
  +その他収入                  〇〇〇円
  = 潜在総収益(PGI)          〇〇〇円

Step 2: 空室等損失の控除
  △空室等損失                  △〇〇〇円
  (PGI × 空室率で算定)

Step 3: 貸倒れ損失の控除
  △貸倒れ損失                  △〇〇〇円
  (賃料収入 × 貸倒れ率で算定)

Step 4: 実効総収益(EGI)の確定
  = EGI                       〇〇〇円

計算例

【計算例:賃貸マンション20戸】
前提条件:
 月額賃料: 100,000円/戸
 共益費: 10,000円/戸
 駐車場: 月額8,000円 x 15台
 空室率: 5%
 貸倒れ率: 1%

Step 1: 潜在総収益(PGI)
 貸室賃料  100,000円 x 20戸 x 12ヶ月 = 24,000,000円
 共益費    10,000円 x 20戸 x 12ヶ月  =  2,400,000円
 駐車場     8,000円 x 15台 x 12ヶ月  =  1,440,000円
 PGI合計                              = 27,840,000円

Step 2: 空室等損失
 27,840,000円 x 5% = 1,392,000円

Step 3: 貸倒れ損失
 (27,840,000円 − 1,392,000円)x 1% = 264,480円

Step 4: EGI
 27,840,000 − 1,392,000 − 264,480 = 26,183,520円

DCF法における空室等損失の取扱い

各期の空室率の設定

DCF法では、保有期間中の各期における空室率を個別に設定します。テナントの退去予定や契約期間満了時期に基づいて、空室率の変動を予測します。

【DCF法における空室率の設定例(10年保有)】
Year 1:  空室率 3%(現行テナント継続、安定稼働)
Year 2:  空室率 3%(同上)
Year 3:  空室率 8%(主要テナント退去、入替え期間を見込む)
Year 4:  空室率 5%(新規テナント入居、安定化過程)
Year 5:  空室率 3%(安定稼働に回復)
Year 6:  空室率 3%
Year 7:  空室率 5%(一部テナント入替え)
Year 8:  空室率 3%
Year 9:  空室率 3%
Year 10: 空室率 3%

安定空室率と現況空室率

概念 内容 使用場面
安定空室率 長期的に安定して想定される空室率 直接還元法、DCF法の復帰価格算定
現況空室率 評価時点の実際の空室率 DCF法の初年度、現況分析

直接還元法では安定空室率を用いるのに対し、DCF法では初年度は現況を反映しつつ、将来に向けて安定空室率に収束させるのが一般的です。


空室等損失と賃料ギャップの関係

空室率の査定においては、賃料ギャップとの関係にも留意が必要です。

  • 契約賃料が市場賃料より高い場合: テナントの退去リスクが高まり、空室率が上昇する可能性がある
  • 契約賃料が市場賃料より低い場合: テナントが退去しにくく、空室率は低位で安定する傾向がある

DCF法では、賃料改定のタイミングと空室率の変動を整合的に設定することが重要です。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 空室等損失の控除時点: 「空室等損失は総費用として控除する」→ 出題注意(潜在総収益から控除して実効総収益を求めるという位置づけ。証券化基準では運営収益の減算項目)
  • 貸倒れ損失の意義: 賃料の回収不能リスクに備えた控除項目であることの理解
  • 空室率と稼働率の関係: 補数の関係(空室率 + 稼働率 = 100%)の正誤判定

論文式試験

  • 「収益還元法における空室等損失と貸倒れ損失の意義・査定方法を述べ、直接還元法とDCF法における取扱いの違いを論述せよ」
  • 安定空室率と現況空室率の使い分けを説明できるかがポイント
  • DCF法における各期の空室率設定の考え方まで踏み込めると高評価

暗記のポイント

  1. 空室等損失: 満室想定賃料 x 空室率で算定する収入減少分
  2. 貸倒れ損失: 賃料の回収不能リスクに備えた控除額
  3. 控除フロー: PGI → △空室等損失 → △貸倒れ損失 → EGI
  4. 安定空室率: 長期的に安定した水準(直接還元法で使用)
  5. 現況空室率: 評価時点の実際の空室率(DCF法の初年度等で使用)

まとめ

空室等損失と貸倒れ損失は、収益還元法における運営収益の算定において、満室想定賃料から控除すべき重要な項目です。空室率の査定には対象不動産の過去実績、類似物件の水準、市場全体の動向を総合的に分析することが求められ、貸倒れ率はテナントの信用力や敷金の水準等を踏まえて設定します。直接還元法では安定空室率を用い、DCF法では各期の空室率を個別に設定するという手法間の違いも理解しておきましょう。運営収益と運営費用の基礎総費用と純収益の算定フローもあわせて学習してください。