既存不適格建物とは

既存不適格建物とは、建築時点では適法であったが、法令改正等により現行法に適合しなくなった建物をいいます。不動産鑑定士試験において、既存不適格建物の原価法での減価は重要な論点です。

既存不適格建物は、現況のまま使用することは認められますが、建替えや大規模な増改築時には現行法への適合が求められます。

既存の建物が存する場合における当該建物及び敷地の鑑定評価額は、[中略]建物等の再調達原価から減価修正を行って求めた価格に、当該敷地の更地としての価格を加算して求めるものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節


既存不適格の種類

主な既存不適格の類型

類型 内容 具体例
容積率超過 現行の容積率制限を超過 法改正で容積率が引下げ
建ぺい率超過 現行の建ぺい率制限を超過 法改正で建ぺい率が引下げ
高さ制限超過 現行の高さ制限を超過 絶対高さ制限の導入
用途不適合 現行の用途地域に不適合 用途地域の変更
接道不良 現行の接道義務に不適合 前面道路の廃道等
構造・設備 現行の構造基準に不適合 耐震基準の改正

違反建築物との違い

区分 建築時 現行法 是正義務
既存不適格 適法 不適合 なし(現況使用可)
違反建築物 違法 不適合 あり(是正命令対象)

減価の考え方

減価が生じる理由

既存不適格建物に減価が生じる主な理由は以下のとおりです。

  1. 建替え困難性:建替え時に現状と同規模の建物を建てられない
  2. 増改築の制約:大規模な増改築に現行法適合が必要
  3. 市場性の低下:買い手の選好が低下
  4. 融資の困難:金融機関の融資姿勢が消極的な場合がある

減価の程度に影響する要素

要素 減価が小さい場合 減価が大きい場合
建物の残存耐用年数 長い(まだ使える) 短い(建替え間近)
不適格の程度 軽微(僅かに超過) 著しい(大幅に超過)
建替えの可能性 低い(継続使用前提) 高い(近い将来建替え)
市場の評価 気にしない需要者多い 敬遠する需要者多い

容積率超過の場合

減価の算定方法

容積率超過の既存不適格建物の減価は、以下の方法で算定します。

方法1:収益性の低下から算定

減価額 = 現状建物の収益 − 適法建物の収益
       =(現状延床面積 − 適法延床面積)× 賃料単価 × 還元係数

方法2:将来の建替え時の損失から算定

減価額 = 建替え時に失われる床面積の価値の現在価値

計算例

【前提条件】
  現状建物:延床面積1,000㎡、残存耐用年数20年
  現行容積率で建築可能な延床面積:800㎡
  超過面積:200㎡
  賃料単価:月額3,000円/㎡
  還元利回り:6%

【方法1による減価】
  超過部分の収益 = 200㎡ × 3,000円 × 12ヶ月 = 720万円/年
  将来失われる価値の現在価値
  = 720万円 × 複利年金現価係数(6%、20年)
  = 720万円 × 11.47 ≒ 8,260万円

  ただし、残存期間中は使用可能なため、全額ではなく一部を減価
  減価額 ≒ 2,000〜4,000万円程度(個別判断)

用途不適合の場合

評価上の取扱い

用途地域の変更により用途不適合となった建物の取扱い:

状況 評価上の対応
現状用途で継続使用可能 現状用途を前提に評価、建替え制約を減価
現状用途での使用困難 用途転換を想定、転換費用を減価

減価の考え方

【例】商業地域から住居専用地域に変更
  現状:店舗ビル(継続使用可能)
  建替え時:住宅のみ建築可能

  減価 = 店舗としての収益力 − 住宅としての収益力
       (建物の残存期間を考慮して現在価値化)

接道不良の場合

再建築不可との違い

状況 評価上の対応
既存不適格(建築時は適法) 現況使用可、建替え制約を減価
再建築不可 建替え不可、大幅な減価

減価の程度

接道不良の減価は著しく大きくなる場合があります。

減価率の目安:
  接道距離がわずかに不足:10〜20%
  接道距離が大幅に不足:30〜50%
  完全な無道路地状態:50〜70%以上

耐震基準不適合の場合

旧耐震基準建物

1981年6月以前に建築確認を受けた建物は、旧耐震基準で建築されており、現行の新耐震基準に適合しません。

減価の考え方

対応 減価の取扱い
耐震改修を行う場合 耐震改修費用相当額を減価
現況のまま使用する場合 地震リスク、市場性低下を減価
建替え前提の場合 建物価値をゼロに近い評価
【耐震改修費用の目安】
  RC造の場合:延床面積 × 20,000〜50,000円/㎡程度

原価法での反映

減価修正としての反映

既存不適格による減価は、機能的減価または経済的減価として反映します。

【減価修正の計算】
  再調達原価:20,000万円
  物理的減価:6,000万円(築20年)
  機能的減価:1,000万円(設備の陳腐化)
  経済的減価:3,000万円(既存不適格による減価)
  積算価格 = 20,000万円 − 10,000万円 = 10,000万円

更地価格との関係

既存不適格建物がある場合の建付地価格更地価格の関係:

ケース1:既存不適格でも収益力が高い場合
  建付地価格 ≧ 更地価格

ケース2:既存不適格の減価が大きい場合
  建付地価格 < 更地価格(建付減価の発生)

収益還元法での反映

収益への影響

既存不適格は、収益還元法においても影響を与えます。

  • 賃料収入:市場性低下により賃料が下がる可能性
  • 空室率:敬遠されやすく空室率が上昇する可能性
  • 還元利回り:リスクプレミアムが上乗せされる可能性

将来の建替えの反映

DCF法において、分析期間中に建替えを想定する場合:

【建替え想定のDCF】
  第1〜10期:現状建物からの収益
  第11期:建替え(取壊し費用、新築費用)
  第12期以降:新建物(適法規模)からの収益

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 既存不適格違反建築物の違い
  • 既存不適格の主な類型(容積率、用途、接道等)
  • 減価の理由(建替え困難性、市場性低下等)
  • 原価法での減価修正(機能的・経済的減価)

論文式試験

  • 既存不適格建物の評価方法を体系的に論述
  • 容積率超過の場合の減価算定方法を説明
  • 原価法と収益還元法での反映方法の違い
  • 具体的なケースを想定した減価の計算

暗記のポイント

  1. 既存不適格:建築時適法、法改正で不適合(是正義務なし)
  2. 違反建築物:建築時から違法(是正義務あり)
  3. 減価の理由:建替え困難、増改築制約、市場性低下、融資困難
  4. 原価法:機能的減価または経済的減価として反映
  5. 収益還元法:賃料、空室率、利回りへの影響を考慮

まとめ

既存不適格建物は、建築時には適法であったが法改正等により現行法に適合しなくなった建物であり、建替え時の制約や市場性の低下により減価が生じます。容積率超過、用途不適合、接道不良、耐震基準不適合など、不適格の内容により減価の程度は異なります。原価法では機能的減価または経済的減価として反映し、収益還元法では賃料、空室率、利回りへの影響を考慮します。関連する論点として、減価修正の考え方建付地の評価もあわせて学習しましょう。