ミクロ経済学の出題傾向と学習の方向性

不動産鑑定士試験の論文式・経済学において、ミクロ経済学は出題の約半分を占めます。特に需要供給分析消費者理論(効用最大化)生産者理論(利潤最大化)余剰分析は繰り返し出題されており、グラフの描画数式による計算の両方の能力が求められます。

経済学の全体的な対策を把握した上で、本記事ではミクロ経済学の各テーマを計算例とともに深掘りしていきます。

出題形式と配点

項目 内容
出題数 2問(ミクロ1問 + マクロ1問が典型パターン)
配点 各50点(計100点)
試験時間 120分
特徴 グラフの描画と数式の計算が必須

需要と供給の基本

需要曲線

需要曲線は、価格と需要量の関係を示す曲線です。通常、右下がりになります。

需要曲線が右下がりになる理由は以下のとおりです。

  • 所得効果:価格が下がると実質所得が増え、より多く購入する
  • 代替効果:価格が下がると相対的に割安になり、他の財から代替する

需要曲線のシフト要因

要因 シフトの方向
所得の増加(正常財の場合) 右にシフト
所得の増加(劣等財の場合) 左にシフト
代替財の価格上昇 右にシフト
補完財の価格上昇 左にシフト
消費者の選好の変化(好む方向) 右にシフト

供給曲線

供給曲線は、価格と供給量の関係を示す曲線です。通常、右上がりになります。

供給曲線のシフト要因

要因 シフトの方向
技術進歩 右にシフト(供給増加)
原材料費の上昇 左にシフト(供給減少)
参入企業の増加 右にシフト

市場均衡

市場均衡は、需要曲線と供給曲線の交点で決定されます。

計算例

需要関数:Qd = 100 − 2P 供給関数:Qs = −20 + 3P

均衡条件:Qd = Qs

100 − 2P = −20 + 3P
120 = 5P
P* = 24(均衡価格)
Q* = 100 − 2(24) = 52(均衡数量)

弾力性

需要の価格弾力性

需要の価格弾力性は、価格が1%変化したときに需要量が何%変化するかを示す指標です。

需要の価格弾力性(Ed)= −(需要量の変化率 ÷ 価格の変化率)
                     = −(dQ/dP)×(P/Q)
弾力性 意味
Ed > 1 弾力的(価格変化に対して需要量が大きく変化)
Ed = 1 単位弾力的
Ed < 1 非弾力的(価格変化に対して需要量があまり変化しない)

不動産の特徴:不動産(特に土地)は、供給が非弾力的(供給の価格弾力性が小さい)であるという特性を持ちます。これは、鑑定評価基準の不動産の価格に関する諸原則における需要と供給の原則とも関連します。

消費者理論

効用最大化

消費者理論は、限られた予算の下で効用(満足度)を最大化する消費の組み合わせを求めるものです。

無差別曲線と予算制約線

  • 無差別曲線:同じ効用水準を与える財の組み合わせの軌跡。原点に対して
  • 予算制約線:所得と価格から決まる購入可能な財の組み合わせ
  • 最適消費点:無差別曲線と予算制約線の接点

最適条件

効用最大化の条件は以下のとおりです。

MRS(限界代替率)= Px / Py(価格比)

すなわち、限界代替率(MRS)が価格比に等しくなる点で消費者の効用は最大化されます。

計算例

効用関数:U = X × Y 予算制約:2X + 4Y = 100

ラグランジュ法を使用して解きます。

MRS = MUx/MUy = Y/X = Px/Py = 2/4 = 1/2
→ Y/X = 1/2
→ X = 2Y

予算制約に代入:
2(2Y) + 4Y = 100
8Y = 100
Y* = 12.5
X* = 25
U* = 25 × 12.5 = 312.5

所得効果と代替効果(スルツキー分解)

価格変化の効果を所得効果代替効果に分解する分析は、頻出テーマです。

効果 内容
代替効果 相対価格の変化による消費量の変化。必ず価格低下→消費増加
所得効果 実質所得の変化による消費量の変化。正常財なら所得増→消費増
全体効果 代替効果 + 所得効果

ギッフェン財:所得効果が代替効果を上回り、価格が下がると需要が減少する財(理論上の概念)。

生産者理論

利潤最大化

企業は利潤(=収入 − 費用)を最大化するように生産量を決定します。

完全競争市場での利潤最大化条件

P = MC(価格 = 限界費用)

限界費用(MC)が価格に等しくなる生産量が、利潤を最大化する最適生産量です。

費用の概念

費用概念 定義 算式
総費用(TC) 生産の総コスト TC = FC + VC
固定費用(FC) 生産量に関係なく一定の費用
可変費用(VC) 生産量に応じて変化する費用
平均費用(AC) 1単位当たりの総費用 AC = TC / Q
平均可変費用(AVC) 1単位当たりの可変費用 AVC = VC / Q
限界費用(MC) 1単位追加生産する場合の費用増加分 MC = dTC / dQ

損益分岐点と操業停止点

概念 条件 意味
損益分岐点 P = AC(価格 = 平均費用) 利潤がゼロになる点
操業停止点 P = AVC(価格 = 平均可変費用) これ以下の価格では生産を停止すべき点

計算例

費用関数:TC = Q^3 − 6Q^2 + 15Q + 10

MC = dTC/dQ = 3Q^2 − 12Q + 15
AC = TC/Q = Q^2 − 6Q + 15 + 10/Q

利潤最大化条件(P = 15の場合):
15 = 3Q^2 − 12Q + 15
3Q^2 − 12Q = 0
3Q(Q − 4) = 0
Q* = 4(Q = 0は不適)

余剰分析

消費者余剰と生産者余剰

概念 定義
消費者余剰 消費者が支払ってもよいと思う最大金額と実際の支払額の差
生産者余剰 実際の販売収入と最低限受け入れ可能な金額の差
社会的余剰(総余剰) 消費者余剰 + 生産者余剰

課税の効果

従量税が課された場合の効果は以下のとおりです。

  • 均衡価格が上昇する(ただし税額の全額が価格に転嫁されるとは限らない)
  • 均衡数量が減少する
  • 死荷重(デッドウェイトロス)が発生する
  • 税の帰着:需要と供給の弾力性によって、税の負担割合が決まる

計算例

需要関数:Qd = 100 − P 供給関数:Qs = P − 20

均衡:P = 60、Q = 40

消費者余剰 = (1/2) × (100 − 60) × 40 = 800
生産者余剰 = (1/2) × (60 − 20) × 40 = 800
社会的余剰 = 800 + 800 = 1,600

ここに従量税t = 10が課された場合:

新しい均衡:Qd = Qs → 100 − Pd = (Pd − 10) − 20
           100 − Pd = Pd − 30 → Pd = 65、Ps = 55、Q = 35
消費者余剰 = (1/2) × (100 − 65) × 35 = 612.5
生産者余剰 = (1/2) × (55 − 20) × 35 = 612.5
税収 = 10 × 35 = 350
死荷重 = 1,600 − (612.5 + 612.5 + 350) = 25

市場の失敗

主なテーマ

市場の失敗とは、市場メカニズムだけでは資源の効率的な配分が達成されない状況をいいます。

テーマ 内容 対策
外部性 市場取引を通じずに他者に影響を及ぼすこと ピグー税、補助金、コースの定理
公共財 非排除性 + 非競合性を持つ財 政府による供給
情報の非対称性 取引当事者間の情報格差 シグナリング、スクリーニング
独占・寡占 市場支配力による非効率 独占禁止法、規制

外部性とピグー税

負の外部性(公害等)がある場合、社会的限界費用(SMC)は私的限界費用(PMC)より大きくなります。

SMC = PMC + 外部限界費用

ピグー税(外部限界費用に等しい税)を課すことで、社会的に最適な生産量を実現できます。

コースの定理

コースの定理は、取引費用がゼロであれば、財産権の初期配分に関係なく、当事者の交渉により効率的な資源配分が達成されるという命題です。

ただし、現実には取引費用がゼロであることは稀であるため、理論的なベンチマークとしての意義が大きいです。

不動産鑑定評価との関連

需要供給分析と不動産市場

不動産市場の分析は、ミクロ経済学の需要供給分析の応用です。鑑定評価基準の価格形成要因のうち、一般的要因地域要因の分析には、市場の需要供給構造の理解が不可欠です。

余剰分析と限定価格

限定価格の考え方は、余剰分析における余剰の配分と関連しています。隣接地の併合における増分価値の配分は、経済学的な余剰分析のフレームワークで理解できます。

外部性と地域分析

不動産の価格は外部性の影響を強く受けます。公園の整備(正の外部性)や嫌悪施設の立地(負の外部性)は、周辺不動産の価格に影響を及ぼします。

試験での出題ポイント

論文式試験の出題パターン

  • 需要供給分析:均衡価格・均衡数量の計算、比較静学分析
  • 消費者理論:効用最大化問題の計算、所得効果と代替効果の分解
  • 生産者理論:利潤最大化の計算、損益分岐点の算定
  • 余剰分析:消費者余剰・生産者余剰の計算、課税の効果
  • 市場の失敗:外部性、公共財、情報の非対称性の論述

暗記のポイント

  1. 効用最大化条件:MRS = Px / Py(限界代替率 = 価格比)
  2. 利潤最大化条件:P = MC(価格 = 限界費用)
  3. 損益分岐点:P = AC、操業停止点:P = AVC
  4. 消費者余剰:需要曲線と価格線で囲まれた三角形の面積
  5. ピグー税:外部限界費用に等しい税を課すことで最適量を実現
  6. コースの定理:取引費用ゼロなら交渉で効率的配分が達成される
  7. 弾力性 > 1:弾力的、弾力性 < 1:非弾力的
  8. ギッフェン財:所得効果が代替効果を上回り、需要法則に反する

まとめ

ミクロ経済学は、需要供給分析を基礎として、消費者理論生産者理論余剰分析市場の失敗へと展開する体系的な学問です。不動産鑑定士試験では、これらのテーマからバランスよく出題されますが、特に効用最大化・利潤最大化の計算問題余剰分析は頻出です。

グラフの描画と数式の計算の両方の訓練が不可欠であり、過去問を繰り返し解くことで解法パターンを身につけましょう。マクロ経済学の頻出問題パターンと併せて、経済学全体の対策を進めてください。