価格と賃料の相互関係

不動産鑑定士試験において、価格と賃料の相互関係は鑑定評価の根幹をなす理論です。不動産の価格は「元本」、賃料は「果実」にあたり、両者は相互に密接な関連を有しています。価格が上昇すれば賃料も上昇し、賃料水準が高ければ価格も高く形成されるという循環的な関係が成り立ちます。この理論を正確に理解することは、収益還元法の本質を理解する上でも不可欠です。

不動産の価格は、一般に、

(ア)その不動産に対してわれわれが認める効用 (イ)その不動産の相対的稀少性 (ウ)その不動産に対する有効需要

の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第1章


元本と果実の概念

不動産における元本と果実

民法上の概念を不動産に当てはめると、不動産そのもの(所有権等)が元本であり、賃料が果実です。果実は元本から生み出される収益であり、元本の価値が大きければ果実も大きくなるという関係にあります。

概念 不動産の場合 具体例
元本 不動産の価格(所有権等の価値) 土地の価格1億円
果実 不動産の賃料(使用収益の対価) 年間賃料500万円
元本と果実の比率 還元利回り 500万円 ÷ 1億円 = 5%

この「元本と果実の比率」が、まさに収益還元法における還元利回りにあたります。

鑑定評価基準における位置づけ

鑑定評価基準は、価格と賃料の関係について次のように定めています。

不動産の賃料は、不動産の経済価値に即応する適正なものでなければならず、その不動産についての適正な実質賃料は、一般に、その不動産を使用収益することによって得られる経済的利益に即応する額と一致するものとされる。

― 不動産鑑定評価基準 総論第1章

この規定は、賃料が不動産の経済価値(=価格の基礎となる価値)に対応するものであることを明確にしています。価格と賃料は独立した概念ではなく、一方が変動すれば他方も連動して変動するという不可分の関係にあります。


価格から賃料を導く考え方

積算法(賃料積算法)の理論的根拠

積算法は、元本たる不動産の価格から果実たる賃料を導く手法です。価格に期待利回りを乗じて純賃料を求め、これに必要諸経費等を加算して実質賃料を算定します。

実質賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等

この算式は、不動産の元本価値に対して合理的に期待される果実を表しています。

要素 内容 具体例
基礎価格 賃貸に供する不動産の経済価値(価格) 更地価格1億円
期待利回り 元本に対する果実の期待割合 4.0%
純賃料 基礎価格 × 期待利回り 400万円
必要諸経費等 減価償却費、維持管理費、公租公課等 100万円
実質賃料 純賃料 + 必要諸経費等 500万円

期待利回りと還元利回りの関係

期待利回りは「元本に対して期待される果実の割合」であり、還元利回りは「果実を元本価格に還元する際の割合」です。両者は表裏一体の関係にありますが、概念上は異なります。

  • 期待利回り:価格 → 賃料の方向(元本から果実を導く)
  • 還元利回り:賃料 → 価格の方向(果実から元本を導く)

両者の数値は必ずしも一致しませんが、理論的には均衡状態では同一の値に収束します。


賃料から価格を導く考え方

収益還元法の理論的根拠

収益還元法は、果実たる賃料(収益)から元本たる不動産の価格を導く手法です。将来得られる純収益の現在価値の総和として不動産の価格を求めます。

収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り(直接還元法の場合)

例えば、年間純収益500万円、還元利回り5%の場合、収益価格は1億円となります。

直接還元法とDCF法

手法 算式の基本 特徴
直接還元法 価格 = 純収益 ÷ 還元利回り 1期間の安定的な純収益を前提
DCF法 価格 = Σ(各期の純収益の現在価値)+ 復帰価格の現在価値 各期の収益変動を反映

いずれの手法も、果実(賃料)から元本(価格)を求めるという理論的基礎は同じです。


新規賃料と価格の関係

新規賃料の特徴

新規賃料は、新たに賃貸借契約を締結する際の賃料です。新規賃料は、その時点における不動産の経済価値を反映するため、価格との連動性が強いのが特徴です。

新規賃料の鑑定評価額は、積算法による積算賃料、賃貸事例比較法による比準賃料及び収益分析法等による収益賃料を関連づけて決定するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節

新規賃料と価格の連動メカニズム

不動産市場が活況で価格が上昇しているとき、新規賃料も上昇する傾向があります。これは以下のメカニズムによります。

  1. 価格上昇 → 投資採算上、より高い賃料を取得しなければ投資利回りが低下
  2. 需要増加 → 不動産の利用需要が高まり、テナントが高い賃料を受容
  3. 収益期待の上昇 → 市場参加者の収益期待が価格に織り込まれる

継続賃料と価格の関係

継続賃料の特殊性

継続賃料は、既存の賃貸借契約を継続する際の賃料です。継続賃料は新規賃料と異なり、契約の経緯や契約当事者間の個別的な事情を考慮する必要があります。

継続賃料を求める場合における鑑定評価の基本的な考え方は次のとおりである。

賃料の改定についての当事者間の協議が調わない場合に、改定についての裁判所の判断を得るために当事者の一方が訴訟を提起することがあり、そのような場合に鑑定評価の依頼がなされることがある。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節

価格変動と継続賃料の乖離

不動産価格が大きく変動しても、継続賃料は緩やかにしか変動しないのが一般的です。これを賃料の粘着性(遅行性)といいます。

状況 新規賃料 継続賃料 乖離
価格急上昇期 大きく上昇 緩やかに上昇 継続賃料 < 新規賃料(賃料差額が発生)
価格安定期 横ばい 横ばい 乖離は小さい
価格下落期 下落 緩やかに下落 継続賃料 > 新規賃料(逆転の場合あり)

この賃料の粘着性が、差額配分法スライド法といった継続賃料固有の手法が存在する理由です。


利回りと価格・賃料の三角関係

三者の関係

価格、賃料、利回りは三角関係にあり、いずれか2つが分かれば残りの1つを導くことができます。

賃料(純収益)= 価格 × 利回り
価格 = 賃料(純収益)÷ 利回り
利回り = 賃料(純収益)÷ 価格

利回りの種類と特徴

利回りの種類 定義 使用場面
還元利回り 収益価格を求める際に純収益を割り戻す率 直接還元法
期待利回り 元本価値に対して期待される収益の割合 積算法
割引率 将来の収益を現在価値に割り引く率 DCF法
最終還元利回り 保有期間終了時の復帰価格を求める率 DCF法

利回りの水準は、不動産市場の動向、金融市場の金利水準、不動産固有のリスクによって変動します。利回りが低下すれば、同じ賃料水準でも価格は上昇し、利回りが上昇すれば価格は下落します。


具体的な数値例による理解

ケース1:価格上昇局面

項目 変動前 変動後
更地価格 1億円 1.2億円(+20%)
還元利回り 5.0% 4.5%(利回り低下)
新規賃料水準 500万円/年 540万円/年(+8%)
継続賃料水準 500万円/年 510万円/年(+2%)

このケースでは、価格が20%上昇する一方、新規賃料は8%の上昇にとどまり、継続賃料はわずか2%の上昇です。価格の変動幅に対して賃料の変動幅は小さく、特に継続賃料は粘着性が強いことがわかります。

ケース2:利回り変動の影響

同じ純収益500万円に対して、還元利回りの違いで価格がどう変わるかを示します。

還元利回り 収益価格 差額
6.0% 8,333万円
5.0% 1億円 +1,667万円
4.0% 1億2,500万円 +4,167万円
3.0% 1億6,667万円 +8,334万円

利回りが1%低下するごとに価格は大幅に上昇します。利回りの変動が価格に与える影響は極めて大きく、還元利回りの査定は鑑定評価における最重要項目の一つです。


試験での出題ポイント

短答式試験

不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が出題されます。

  • 元本と果実の関係:「価格は元本、賃料は果実」という基本命題の正誤
  • 積算法と収益還元法の理論的基礎:価格から賃料へ、賃料から価格への方向性
  • 賃料の粘着性:継続賃料が新規賃料に比べて緩やかに変動する性質
  • 利回りの種類:還元利回り、期待利回り、割引率の概念の区別

論文式試験

論文式試験では、価格と賃料の関係を理論的に論述する能力が問われます。

  • 元本と果実の関係を出発点として、鑑定評価の三方式との関連を論じる
  • 新規賃料と継続賃料の違いを価格との関係から論述する
  • 利回りの意義と、利回り変動が価格・賃料に与える影響を説明する
  • 収益還元法と積算法(賃料)が同一の理論的基礎に立つことを示す

暗記のポイント

  1. 価格=元本、賃料=果実の関係 — 両者は相互に密接に関連し、一方が変動すれば他方も連動する
  2. 積算法の算式 — 実質賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等
  3. 収益還元法の算式 — 収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
  4. 賃料の粘着性 — 継続賃料は価格変動に対して遅行する性質がある
  5. 利回りの変動と価格 — 利回りが低下すれば価格は上昇し、利回りが上昇すれば価格は下落する

まとめ

価格と賃料は「元本と果実」の関係にあり、不動産鑑定評価の最も基礎的な理論です。積算法は元本から果実を導き、収益還元法は果実から元本を導くという、表裏一体の関係にあります。新規賃料は価格との連動性が強い一方、継続賃料は粘着性により緩やかにしか変動しません。利回りは価格と賃料をつなぐ架け橋であり、その変動が両者に大きな影響を与えます。

この理論は、収益還元法積算法の理解、さらには継続賃料の評価手法を学ぶ上での前提知識となります。価格と賃料の関係を体系的に理解し、試験対策に活かしましょう。