取引事例の補修正とは

取引事例比較法における補修正とは、収集した取引事例の価格を対象不動産の価格として適切なものにするための調整作業です。具体的には事情補正時点修正地域要因の比較個別的要因の比較の4段階の手順を経て比準価格を求めます。不動産鑑定士試験では、この4つの補修正の意義と手順が体系的に問われます。

選択された取引事例の取引価格は、取引当事者の事情、取引時点、取引に係る不動産の存する地域の特性及び取引に係る不動産の個別的要因が対象不動産のそれと必ずしも同一ではないことから、これらに応じた補正及び修正を行わなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


補修正の全体像

比準価格の算定式

取引事例比較法における比準価格の算定式は以下の通りです。

比準価格 = 取引価格 × 事情補正 × 時点修正 × 地域要因の比較 × 個別的要因の比較

この算式は、取引事例の価格を段階的に調整し、対象不動産の価格に変換するプロセスを示しています。4つの補修正は原則としてすべて行う必要があり、いずれかを省略することはできません。

4つの補修正の位置づけ

補修正 調整の対象 何を合わせるか
事情補正 取引の事情 正常な取引条件に補正
時点修正 取引の時点 価格時点に修正
地域要因の比較 所在する地域 対象不動産の存する地域に比較
個別的要因の比較 個々の不動産の条件 対象不動産の個別性に比較

事情補正

事情補正の意義

事情補正とは、取引事例に特殊な事情(正常でない取引条件)が含まれている場合に、その影響を排除して正常な取引価格に補正する作業です。

取引事例が特殊な事情を含み、これが当該取引事例に係る取引価格に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

特殊な事情の例

特殊な事情として代表的なものは以下の通りです。

  • 売り急ぎ: 資金繰りの悪化等により、通常より安く売却した場合
  • 買い進み: 隣地の取得など、特別な動機で通常より高く購入した場合
  • 親族間取引: 親族間の特殊な関係で、市場価格と乖離した取引
  • 競売・公売: 裁判所の競売や公売による取得
  • 瑕疵の存在: 取引時に判明していなかった瑕疵による影響
  • 税金対策: 相続税対策等のための購入

事情補正の方法

事情補正は、特殊な事情がない場合の正常な価格を100とし、取引価格に含まれる特殊事情の影響度を数値化して補正します。

【例】売り急ぎにより10%安く取引された事例
取引価格:  9,000万円
事情補正:  100/90 ≒ 1.111
正常価格:  9,000万円 × 100/90 ≒ 10,000万円

事情補正が不要な事例の選択

基準では、正常と認められる取引事例を選択すべきとされています。やむを得ず特殊な事情を含む事例を使用する場合にのみ事情補正を行います。正常な事例が十分に収集できる場合は、特殊事情のある事例は排除するのが望ましいとされています。


時点修正

時点修正の意義

時点修正とは、取引事例の取引時点と鑑定評価の価格時点との間に価格水準の変動がある場合に、その変動分を修正する作業です。

取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められる場合には、当該取引事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

時点修正の方法

時点修正は、取引時点から価格時点までの地価変動率を用いて修正します。

時点修正率 = 価格時点の価格指数 ÷ 取引時点の価格指数

時点修正に用いる指標

時点修正率の査定に用いる資料には以下のものがあります。

指標 内容 公表頻度
地価公示価格 標準地の正常価格 年1回(1月1日時点)
都道府県地価調査 基準地の正常価格 年1回(7月1日時点)
不動産価格指数 地域別の価格変動率 月次・四半期
取引事例の動向 同一地域の複数事例の推移 随時

計算例

【例】
取引時点:  2024年6月(地価指数 105)
価格時点:  2025年1月(地価指数 108)

時点修正率 = 108 ÷ 105 ≒ 1.029

取引価格が5,000万円の場合:
時点修正後の価格 = 5,000万円 × 1.029 = 5,145万円

地域要因の比較

地域要因の比較の意義

地域要因の比較とは、取引事例の存する地域(事例地域)と対象不動産の存する地域(対象地域)との間の地域特性の違いを比較し、価格差を反映させる作業です。

取引事例に係る不動産が所在する地域と対象不動産が所在する地域とが異なる場合には、両地域の地域要因を比較しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

比較する地域要因の例

地域要因の比較で取り上げる項目は、不動産の種別によって異なります。

種別 主な地域要因
住宅地 交通接近条件、生活利便施設、街路幅員、環境条件、行政的条件
商業地 繁華性、顧客の流動性、交通アクセス、商業集積度
工業地 交通利便性、労働力の確保、公害規制、地盤の状況

比較の方法

地域要因の比較は、各要因について事例地域と対象地域を対比し、格差率として数値化します。

【例】住宅地の地域要因比較
                    事例地域    対象地域    格差
交通接近条件         駅徒歩8分   駅徒歩12分   -5%
生活利便施設         スーパー近接  やや離れる   -3%
街路条件            幅員6m      幅員5m       -2%
環境条件            住宅街      幹線道路沿い  -4%
行政的条件          同一用途地域  同一         ±0%
──────────────────────────────────────
地域要因の格差合計                            -14%

地域要因の比較率 = 100/(100+14) ≒ 0.877

同一需給圏内の事例選択

地域要因の比較を適切に行うためには、取引事例は対象不動産と同一需給圏内から選択することが前提です。需給圏が異なる事例では、地域要因の比較が困難になるためです。


個別的要因の比較

個別的要因の比較の意義

個別的要因の比較とは、取引事例に係る不動産と対象不動産との間の個別的な特性の違いを比較し、価格差を反映させる作業です。

取引事例に係る不動産の個別的要因と対象不動産の個別的要因とを比較しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

比較する個別的要因の例

種別 主な個別的要因
土地 地積、間口・奥行、形状、接面道路、高低差、角地・中間画地
建物 築年数、構造、規模、設備、維持管理状態

比較の方法

個別的要因の比較も、地域要因と同様に各要因について格差率を数値化します。

【例】住宅地の個別的要因比較
                    事例不動産   対象不動産   格差
地積               150m²       180m²       +3%
間口・奥行          8m/19m      10m/18m     +2%
形状               ほぼ整形     整形        +1%
接面道路            幅員4m公道   幅員6m公道   +5%
方位               北向き       南向き       +3%
角地               中間画地     角地         +5%
──────────────────────────────────────
個別的要因の格差合計                         +19%

個別的要因の比較率 = (100+19)/100 = 1.190

補修正の総合計算例

4つの補修正を一連で適用する総合計算例を示します。

【前提条件】
取引事例の取引価格:       150,000円/m²
事情補正:                 正常な取引のため補正なし(100/100)
時点修正:                 108/105 ≒ 1.029
地域要因の比較:           100/114 ≒ 0.877
個別的要因の比較:         119/100 = 1.190

【比準価格の算定】
比準価格 = 150,000 × 100/100 × 1.029 × 0.877 × 1.190
        ≒ 150,000 × 1.000 × 1.029 × 0.877 × 1.190
        ≒ 161,100円/m²

実際の鑑定評価では、複数の取引事例についてそれぞれ比準価格を算定し、各比準価格を比較検討したうえで最終的な比準価格を決定します。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 4つの補修正の順序と内容の正誤判定
  • 事情補正が必要となる特殊事情の具体例
  • 時点修正に用いる指標の種類
  • 地域要因と個別的要因の区別

論文式試験

  • 取引事例比較法における補修正の手順を基準の文言に即して記述
  • 事情補正の意義と具体例の説明
  • 価格形成要因と補修正の関係

暗記のポイント

  1. 補修正の4段階: 事情補正 → 時点修正 → 地域要因の比較 → 個別的要因の比較
  2. 算定式: 比準価格 = 取引価格 × 事情補正 × 時点修正 × 地域要因比較 × 個別的要因比較
  3. 事情補正: 特殊な事情の影響を排除して正常な価格に補正
  4. 時点修正: 取引時点と価格時点の間の価格変動を修正
  5. 地域要因: 事例地域と対象地域の地域特性の格差を反映
  6. 個別的要因: 事例不動産と対象不動産の個別的特性の格差を反映

まとめ

取引事例比較法における補修正は、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較の4段階からなります。各段階で取引事例の価格を適切に調整し、対象不動産にふさわしい比準価格を算定します。試験では、4つの補修正の意義・手順・計算方法が頻出であり、特に事情補正の具体例や地域要因と個別的要因の区別は正確に理解しておく必要があります。取引事例比較法の全体像や事情補正の詳細と合わせて学習を進めましょう。