減価修正とは

減価修正とは、原価法において再調達原価から減価額を控除する作業です。不動産鑑定士試験では、減価の3要因(物理的減価・機能的減価・経済的減価)と、減価修正の2つの方法(耐用年数に基づく方法・観察減価法)が頻出論点です。この2つの方法を併用すべきという点も重要なポイントです。

減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生するであろう減価額を対象不動産の再調達原価から控除して、価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


減価修正の基本的な考え方

「なぜ減価が生じるのか」を理解する

建物は、新築された時点から時間の経過とともに価値が低下していきます。この価値の低下を「減価」といいます。

例えば、新築時に再調達原価が5億円の建物であっても、20年経過した時点では、5億円の価値はありません。なぜなら、20年間の使用により物理的に劣化し、設備が旧式化し、周辺環境の変化に適応できなくなっている可能性があるからです。

この「5億円からどれだけ差し引くべきか」を算定するのが減価修正です。

積算価格 = 再調達原価 − 減価額(← 減価修正で求める)

減価修正の位置づけ

原価法の算定プロセスにおける減価修正の位置づけは以下の通りです。

ステップ1: 再調達原価を求める     → 「新築だといくら?」
ステップ2: 減価修正を行う         → 「どれだけ価値が下がった?」 ← ここ
ステップ3: 積算価格を算定する     → 「現在の価値はいくら?」

減価の3要因

鑑定評価基準では、減価の要因を3つに分類しています。

減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

物理的減価(物理的要因)

物理的減価とは、建物の物理的な劣化による価値の低下です。最もイメージしやすい減価要因です。

具体例:経年劣化: 年月の経過による自然な老朽化(コンクリートの中性化、鉄骨の腐食等) – 自然損耗: 日常使用による摩耗(床の傷、壁の汚れ等) – 偶発的損傷: 地震、火災、水害等による損傷 – 設備の老朽化: 給排水管の劣化、空調設備の老朽化

例えば、築30年のRC造マンションで以下のような状態が観察される場合、物理的減価が進行しています。

部位 劣化の状態 減価への影響
外壁 タイルの浮き・ひび割れ 中程度の物理的減価
屋上防水 防水層の劣化、雨漏り 大きな物理的減価
給排水管 鉄管の錆び、漏水 大きな物理的減価
内装 壁紙の変色、床の摩耗 軽微な物理的減価

機能的減価(機能的要因)

機能的減価とは、建物の機能面における陳腐化による価値の低下です。建物の物理的な状態は良好でも、現在の標準的な仕様に比べて機能面で劣る場合に生じます。

具体例:設計の旧式化: 天井高が低い(2.3m以下)、柱間スパンが狭い – 設備の陳腐化: 個別空調未対応、OAフロア未設置 – 間取りの非合理性: 水回りの配置が不便、収納スペースが不足 – 省エネ性能の不足: 断熱性能が現行基準に適合しない – バリアフリー未対応: エレベーターなし、段差が多い

機能的減価の具体例を示します。

【事例: 築25年の事務所ビル】

現在の標準仕様との比較:
┌───────────────┬──────────┬──────────┬─────────┐
│ 項目           │ 対象建物   │ 現在の標準  │ 減価の有無│
├───────────────┼──────────┼──────────┼─────────┤
│ 天井高         │ 2.5m      │ 2.7m以上   │ あり     │
│ 空調方式       │ セントラル │ 個別空調   │ あり     │
│ OAフロア       │ なし      │ あり       │ あり     │
│ エレベーター   │ 2基      │ 2基       │ なし     │
│ 耐震性能       │ 旧耐震    │ 新耐震    │ 大きい   │
└───────────────┴──────────┴──────────┴─────────┘

特に旧耐震基準(1981年5月以前の建築確認)の建物は、現行の耐震基準に適合しないため、著しい機能的減価が生じます。耐震補強工事を実施していない場合、その費用分が機能的減価として認識されます。

経済的減価(経済的要因)

経済的減価とは、建物の外部環境の変化による価値の低下です。建物自体には問題がなくても、周辺環境の変化により価値が下がる場合に生じます。

具体例:近隣地域の衰退: 商店街のシャッター化、人口減少 – 需要の変化: 用途の需要が減少(例: 特定業種向けの工場) – 周辺環境の悪化: 嫌悪施設の建設、騒音・振動の増加 – 市場の需給悪化: 供給過剰による空室率の上昇 – 建物と環境の不適合: 地域の標準的使用との乖離

経済的減価は建物自体に原因がないのが特徴です。例えば、繁華な商業地域にある商業ビルが、地域の衰退により集客力が低下した場合、建物は物理的にも機能的にも問題がなくても、経済的減価が生じます。


3つの減価要因の比較

3つの減価要因の違いを一覧表で整理します。

項目 物理的減価 機能的減価 経済的減価
原因 経年劣化・損傷 機能の陳腐化 外部環境の変化
着目点 建物の物理的状態 建物の機能・性能 建物の外部環境
対処法 修繕・改修 設備更新・改修 対処が困難な場合が多い
雨漏り、外壁劣化 旧耐震、設備陳腐化 地域の衰退
特徴 目に見えやすい 比較して初めてわかる 建物自体に原因がない

減価修正の方法

耐用年数に基づく方法

耐用年数に基づく方法は、対象不動産の耐用年数を基礎として計算的に減価額を求める方法です。

耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数と経済的残存耐用年数の合計である耐用年数を基礎として減価額を求めるものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

基本算式:

耐用年数 = 経過年数 + 経済的残存耐用年数
減価額 = 再調達原価 × 経過年数 ÷ 耐用年数

ここで重要なのは、耐用年数は「経済的残存耐用年数」を基礎とすることです。物理的耐用年数や法定耐用年数ではなく、物理的・機能的・経済的な各要因を総合的に判断した耐用年数を用います。

計算例:

【対象建物】
構造: RC造事務所ビル
経過年数: 20年
経済的残存耐用年数: 25年
再調達原価: 5億円

【計算】
耐用年数 = 20年 + 25年 = 45年
減価額 = 5億円 × 20年 ÷ 45年 ≒ 2億2,222万円
積算価格 = 5億円 − 2億2,222万円 ≒ 2億7,778万円

耐用年数の種類

耐用年数には、以下の3種類があります。

種類 内容 考慮する要因
物理的耐用年数 物理的に使用可能な年数 物理的減価
機能的耐用年数 機能的に使用可能な年数 機能的減価
経済的耐用年数 経済的に使用可能な年数 経済的減価を含む全要因

この3つの中で最も短い年数が、実質的な耐用年数を決定します。物理的にはあと30年使えても、機能的に20年で陳腐化するなら、耐用年数は20年ベースで判断されます。

観察減価法

観察減価法は、対象不動産の実際の状態を直接観察して減価額を判定する方法です。

観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求める方法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

観察減価法では、鑑定士が実際に建物を調査し、各減価要因の程度を判定します。

観察減価法の判定例:

【対象建物: 築25年RC造マンション】

物理的減価の観察:
- 外壁: タイル一部浮きあるが概ね良好 → 減価率 30%
- 屋上防水: 10年前に更新済み → 減価率 15%
- 給排水管: 未更新だが漏水なし → 減価率 40%
- 内装: 一般的な経年劣化 → 減価率 35%
→ 物理的減価 総合判定: 30%

機能的減価の観察:
- 設備仕様は一般的 → 減価率 10%
- 耐震基準: 新耐震適合 → 減価なし
→ 機能的減価 総合判定: 10%

経済的減価の観察:
- 地域の需要は安定 → 減価なし
→ 経済的減価 総合判定: 0%

総合減価率: 1 −(1 − 0.30)×(1 − 0.10)×(1 − 0.00)
         = 1 − 0.70 × 0.90 × 1.00
         = 1 − 0.63
         = 0.37(37%)

再調達原価が4億円の場合:

減価額 = 4億円 × 37% = 1億4,800万円
積算価格 = 4億円 − 1億4,800万円 = 2億5,200万円

2つの方法の併用

併用の必要性

鑑定評価基準では、耐用年数に基づく方法と観察減価法の併用を求めています。

減価修正を行うに当たっては、減価の要因に基づき耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用して、対象不動産の減価額を適正に求めなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

なぜ併用が必要なのか

方法 長所 短所
耐用年数に基づく方法 計算が客観的。基準となる年数があれば一律に適用可能 個別の状態を反映しにくい
観察減価法 個別性を反映。実態に即した判定が可能 判定が主観的になりやすい

耐用年数に基づく方法は客観性に優れるが、個別の状態を反映しにくいという限界があります。例えば、同じ築30年の建物でも、適切に維持管理されている建物と放置されている建物では、減価の程度が大きく異なります。

一方、観察減価法は個別性を反映できるが、鑑定士の判断に依存する面があります。

この2つの方法を併用することで、客観性と個別性の両方を担保し、減価額の精度を高めます。

併用の実務的な流れ

一般的な実務では、以下の流れで2つの方法を併用します。

  1. 耐用年数に基づく方法で減価額の目安を算定する
  2. 観察減価法により実態調査を行い、各減価要因の程度を判定する
  3. 両方法の結果を比較し、乖離がある場合はその原因を分析する
  4. 最終的な減価額を総合的に判定する

例えば、耐用年数に基づく方法では減価率が40%と算定されたが、観察の結果、維持管理が良好で物理的減価が少ないことが確認された場合、減価率を35%程度に修正するなどの調整を行います。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 減価修正の定義と目的
  • 減価の3要因(物理的・機能的・経済的)の内容と区別
  • 耐用年数に基づく方法の算式(耐用年数 = 経過年数 + 経済的残存耐用年数)
  • 観察減価法の内容
  • 2つの方法の併用が必要であること
  • 経済的残存耐用年数と物理的耐用年数の違い

論文式試験

  • 減価の3要因の意義と具体例の論述
  • 耐用年数に基づく方法と観察減価法の内容・長所・短所
  • 併用の必要性とその方法の説明
  • 個別的要因(建物)と減価要因の関連

暗記のポイント

  1. 減価の3要因: 物理的減価(劣化・損傷)、機能的減価(陳腐化)、経済的減価(外部環境の変化)
  2. 減価修正の2方法: 耐用年数に基づく方法観察減価法併用すべき)
  3. 耐用年数の算式: 耐用年数 = 経過年数 + 経済的残存耐用年数
  4. 経済的減価は建物自体に原因がない点が物理的・機能的減価と異なる
  5. 減価率の複合計算: 1 −(1 − 物理的減価率)×(1 − 機能的減価率)×(1 − 経済的減価率)

まとめ

減価修正は、再調達原価から減価額を控除して積算価格を求める作業です。減価の要因は物理的減価・機能的減価・経済的減価の3つに分類され、それぞれ異なる原因により価値の低下が生じます。減価修正の方法としては、耐用年数に基づく方法と観察減価法の2つがあり、これらを併用して適正な減価額を求めます。

初学者の方は、まず3つの減価要因の違い(物理的=劣化、機能的=陳腐化、経済的=外部環境)をしっかり区別し、具体例と対応づけて覚えましょう。再調達原価の記事と合わせて、原価法の全体像を理解することが大切です。