鑑定評価額の決定プロセス|最終判断の考え方
鑑定評価額の決定プロセスとは
不動産鑑定士が最終的に提示する鑑定評価額は、複数の鑑定評価手法によって求めた試算価格(または試算賃料)を調整し、専門的判断を加えて決定されるものです。
ここでいう「調整」とは、単純に平均するのではなく、各手法の特性や適用した資料の信頼性を吟味して、最も説得力のある価格を導く作業です。不動産鑑定士試験では、この調整プロセスの理解が論文式試験で繰り返し問われます。
鑑定評価の手順における位置づけ
鑑定評価の手順は以下のように進みます。鑑定評価額の決定は、手順の最終段階です。
- 対象不動産の確定: 何を評価するかを明確にする
- 価格時点の確定: いつの時点の価格を求めるかを決める
- 価格の種類の判定: 正常価格等のどれに該当するかを判定する
- 資料の収集・整理: 確認資料・要因資料・事例資料を集める
- 対象不動産の確認: 物的確認・権利の態様の確認を行う
- 地域分析・個別分析: 価格形成要因を分析する
- 最有効使用の判定: 対象不動産の最有効使用を判定する
- 鑑定評価手法の適用: 各手法を適用して試算価格を求める
- 試算価格の調整: 複数の試算価格を調整する
- 鑑定評価額の決定: 最終的な評価額を決定する
試算価格の調整
基準の定め
鑑定評価基準は、試算価格の調整について次のように定めています。
鑑定士は、鑑定評価の手順の各段階で行われた判断の適否等について客観的に再吟味を加えたうえ、各手法の適用において採用した資料の特性、実証性及び論理的整合性について再吟味し、かつ、各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性について再吟味すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節
この条文から、調整にあたって行うべき3つの再吟味が読み取れます。
3つの再吟味
| 再吟味の対象 | 内容 |
|---|---|
| 手順の各段階の判断の適否 | 対象確定から手法適用まで、各段階で行った判断に誤りや不整合がないか |
| 資料の特性・実証性・論理的整合性 | 各手法で使った資料(取引事例、建築費データ、賃料事例等)は信頼できるか、論理的に一貫しているか |
| 価格形成要因に係る判断の整合性 | 複数の手法にまたがって使われている価格形成要因(地域要因、個別的要因等)の判断が矛盾していないか |
調整において注意すべき点
- 算術平均は採用しない: 試算価格を単純に足して割るのではなく、各手法の説得力を考慮して判断する
- 乖離の原因を分析する: 積算価格と比準価格の乖離が大きい場合、その原因を特定する
- 不動産の類型を考慮する: 賃貸用不動産では収益価格を重視し、自用の不動産では積算価格・比準価格を重視するなど、類型に応じた判断を行う
鑑定評価額の決定
基準の定め
試算価格の調整を行った後、鑑定評価額を決定します。
鑑定士は、以上のすべてについて再吟味を行い、各試算価格が有する説得力に係る判断を踏まえ、さらに、対象不動産に係る市場の特性等をも考慮して鑑定評価額を決定するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節
決定にあたっての考慮事項
鑑定評価額の決定では、以下の要素を総合的に考慮します。
| 考慮事項 | 内容 |
|---|---|
| 各試算価格の説得力 | どの手法が最も信頼できる資料に基づいているか |
| 対象不動産の市場の特性 | 取引市場の成熟度、取引慣行、需要者の属性 |
| 不動産の類型 | 更地、建物及びその敷地、借地権等のどれに該当するか |
| 鑑定評価の条件 | 依頼目的、価格の種類等の条件との整合性 |
不動産の類型別の重視すべき手法
| 不動産の類型 | 重視される試算価格 | 補足 |
|---|---|---|
| 更地(住宅地) | 比準価格 | 取引事例が豊富で市場性が高い |
| 更地(商業地) | 比準価格・収益価格 | 投資目的の需要も大きい |
| 自用の建物及びその敷地 | 積算価格・比準価格 | 収益価格は参考 |
| 賃貸用不動産 | 収益価格 | 投資対象として収益性が最重要 |
| 借地権 | 比準価格・収益価格 | 積算価格は求めにくい |
| 特殊建物 | 積算価格 | 取引・賃貸事例が乏しい |
試算価格の調整と鑑定評価額決定の関係
試算価格の調整と鑑定評価額の決定は、密接に関連していますが区別して理解する必要があります。
| 段階 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 試算価格の調整 | 各手法の判断・資料・要因の再吟味 | 分析的・検証的作業 |
| 鑑定評価額の決定 | 説得力と市場特性を考慮した最終判断 | 総合的・判断的作業 |
調整は「ボトムアップ」で各手法の信頼性を検証する作業であり、決定は「トップダウン」で全体を俯瞰して最終額を定める作業です。
鑑定評価額の決定における留意点
一つの手法しか適用できなかった場合
やむを得ず一つの手法しか適用できなかった場合でも、その手法の適用が適切であったかを十分に吟味したうえで鑑定評価額を決定します。ただし、可能な限り複数の手法を適用することが求められています。
鑑定評価に当たっては、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等によりこれらの手法の一部を適用することができないときは、その適用しなかった手法に対応する方式を、他の手法を適用する際に活用するよう努めなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第7節
鑑定評価書への記載
決定した鑑定評価額とともに、その決定に至った判断の過程を鑑定評価書に記載することが求められます。特に、試算価格の調整でどのような吟味を行い、なぜその鑑定評価額に至ったかの論理を明示する必要があります。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 「鑑定評価額は各試算価格の算術平均により決定する」→ 誤り
- 「一つの手法しか適用できなかった場合、鑑定評価額を決定することはできない」→ 誤り。十分な吟味を行えば決定可能
- 3つの再吟味の内容を正確に理解しているかが問われる
論文式試験
- 「鑑定評価額の決定のあり方について論述せよ」という形式での出題が典型
- 基準の条文(総論第8章第7節)の正確な理解と、不動産の類型別の適用が問われる
- 調整と決定の区別を明確にした論述ができるかがポイント
暗記のポイント
- 調整で行う3つの再吟味: 判断の適否、資料の特性・実証性・論理的整合性、価格形成要因の整合性
- 決定で考慮するもの: 説得力に係る判断 + 市場の特性等
- 算術平均ではない
- 複数の手法を適用すべき。一部適用不能なら他の手法で活用に努める
まとめ
鑑定評価額の決定は、鑑定評価の全手順の集大成です。原価法・取引事例比較法・収益還元法で求めた試算価格を、資料の特性や実証性を吟味しながら調整し、不動産の類型や市場の特性を考慮して最終判断を行います。試験では、基準第8章第7節の文言を正確に理解し、類型ごとの重視すべき手法を整理して論述できるよう準備しておきましょう。