共有持分の評価の特徴

不動産鑑定士試験において、共有持分の評価は不動産の権利関係が複雑な場合の典型例です。共有不動産の持分を評価する場合、全体の価格に持分割合を乗じた按分額が基本となりますが、実際の市場では市場性減価(共有減価)が発生するため、按分額よりも低い価格が形成されるのが一般的です。この市場性減価を理論的に理解し、適切に算定できることが求められます。

不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産に係る市場の特性に適合した方法を適用して鑑定評価額を求めなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章


共有の基本概念

民法上の共有

共有とは、一つの物を2人以上の者が共同で所有する形態をいいます。各共有者はその持分に応じて共有物の全部を使用することができます。

各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

― 民法 第249条第1項

共有持分の処分と管理

行為 要件 具体例
保存行為 各共有者が単独で可能 修繕、不法占拠者への明渡請求
管理行為 持分の過半数の同意 賃貸借契約の締結、管理方法の決定
変更行為 共有者全員の同意 売却、増改築、建替え
持分の処分 各共有者が単独で可能 持分の譲渡、持分への抵当権設定

注目すべき点は、共有不動産の売却や建替え等の変更行為には全員の同意が必要であるのに対し、持分の処分は各共有者が単独で行えることです。


共有持分の価格形成メカニズム

基本的な算式

共有持分の価格の基本は以下の通りです。

共有持分の価格 = 不動産全体の価格 × 持分割合 − 市場性減価

なぜ市場性減価が生じるのか

共有持分を第三者が取得しても、以下の制約があるため、不動産全体の価格に対する按分額では取引が成立しません。

制約 内容 影響
使用収益の制約 共有物の全部を使用できるが、他の共有者との調整が必要 実質的な利用が困難
処分の困難性 不動産全体の売却には全員の同意が必要 売却のタイミングを自由に選べない
管理の煩雑さ 管理行為にも持分の過半数の同意が必要 意思決定に時間がかかる
買手の限定性 共有持分を購入する第三者が極めて少ない 市場での流動性が著しく低い
紛争リスク 共有者間の意見対立や訴訟のリスク 追加コストの発生

市場性減価の考え方

市場性減価(共有減価)の定義

市場性減価とは、共有持分が市場で取引される際に、按分額に対して生じる減価をいいます。共有持分の市場性が低いことに起因する減価です。

市場性減価の水準

市場性減価の水準は個別の事情により異なりますが、一般的には以下の範囲とされます。

条件 市場性減価の目安 背景
共有者が2名で関係が良好 10%〜20% 共有者間での売買が成立しやすい
共有者が複数で関係が普通 20%〜30% 意思決定に時間がかかる
共有者が多数で関係が悪い 30%〜50% 紛争リスクが高く、処分が困難
共有者の一方が所在不明 40%以上 共有物分割の手続きが煩雑

数値例

項目 金額
不動産全体の価格 1億円
持分割合 2分の1(50%)
按分額 5,000万円
市場性減価率 25%
市場性減価額 △1,250万円
共有持分の価格 3,750万円

共有持分の評価手法

手法1:按分法+市場性減価

最も一般的な方法です。

共有持分の価格 = 不動産全体の価格 × 持分割合 ×(1 − 市場性減価率)

手法2:取引事例比較法

共有持分の取引事例があれば、直接比較により価格を求めることができます。ただし、共有持分の取引事例は非常に少ないのが実情です。

手法3:収益還元法

共有持分に帰属する収益から価格を求める方法です。

共有持分の収益価格 = 不動産全体の純収益 × 持分割合 ÷ 還元利回り

この場合の還元利回りは、共有持分固有のリスクを反映して通常よりも高い水準に設定されます。


市場性減価に影響する要因

減価を大きくする要因

要因 内容
共有者の数が多い 意思決定が困難になり、処分の実現性が低下
共有者間の関係が悪い 協議が成立しにくく、紛争リスクが高い
持分割合が小さい 少数持分は市場での需要がさらに限定的
不動産が分割困難 マンション1室の共有等、物理的分割が不可能
共有者の所在が不明 全員の同意を取得することが困難

減価を小さくする要因

要因 内容
共有者が2名で関係が良好 一方の持分を他方が取得する見込みが高い
不動産が分割容易 広大な土地の共有等、現物分割が可能
持分割合が大きい 過半数の持分であれば管理行為の主導権がある
共有物分割請求の容易さ 裁判所による分割が現実的な場合

共有物分割と鑑定評価

共有物分割の方法

分割方法 内容 鑑定評価の関与
現物分割 共有不動産を物理的に分割 分割後の各部分の価格を評価
代金分割(換価分割) 売却して代金を分配 不動産全体の価格を評価
価格賠償(全面的価格賠償) 一人が取得し、他の共有者に代償金を支払う 持分の適正な価格を評価

全面的価格賠償と鑑定評価

裁判所が全面的価格賠償を命じる場合、取得する共有者が他の共有者に対して支払うべき代償金の算定に鑑定評価が必要となります。

代償金 = 不動産全体の適正な価格 × 代償を受ける者の持分割合

この場合、市場性減価は考慮しないのが一般的です。なぜなら、全面的価格賠償では共有状態が解消され、取得者は完全な所有権を取得するため、共有に伴うデメリットがなくなるためです。


限定価格との関係

共有者間での持分取得

共有者の一方が他方の持分を取得する場合、限定価格が成立する可能性があります。取得者にとっては共有状態の解消(完全所有権の回復)という増分価値が生じるためです。

増分価値 = 不動産全体の価格 −(取得者の持分の正常価格 + 相手方の持分の正常価格)

例えば、不動産全体の価格が1億円、各持分(2分の1ずつ)の正常価格がそれぞれ3,750万円の場合、増分価値は以下の通りです。

増分価値 = 1億円 −(3,750万円 + 3,750万円)= 2,500万円

取得する持分の限定価格は、正常価格3,750万円に増分価値の配分額を加算した額となります。


具体的な算定例

ケーススタディ

前提条件 内容
対象不動産 都心の事務所ビル
不動産全体の価格 3億円
共有者 A(持分3分の2)、B(持分3分の1)
共有者間の関係 良好(親族間)
収益状況 年間純収益1,500万円

Bの持分(3分の1)の評価

按分額 = 3億円 × 1/3 = 1億円
市場性減価率 = 15%(共有者2名、関係良好、少数持分)
市場性減価額 = 1億円 × 15% = 1,500万円
Bの持分の正常価格 = 1億円 − 1,500万円 = 8,500万円

Aが Bの持分を取得する場合の限定価格

Aの持分の正常価格 = 3億円 × 2/3 ×(1 − 10%)= 1億8,000万円
(Aは多数持分のため市場性減価率は小さい)
増分価値 = 3億円 −(1億8,000万円 + 8,500万円)= 3,500万円
Bの持分の限定価格 = 8,500万円 + 増分価値の配分額(例:2,100万円)= 1億600万円

試験での出題ポイント

短答式試験

不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が出題されます。

  • 共有の基本 — 民法上の保存・管理・変更行為の要件
  • 市場性減価の概念 — 按分額よりも低い価格が形成される理由
  • 持分の処分 — 各共有者が単独で可能であること
  • 共有物分割 — 現物分割、代金分割、価格賠償の3方法

論文式試験

論文式試験では、以下の体系的な論述が求められます。

  • 共有持分の価格が按分額を下回る理論的根拠
  • 市場性減価の算定に際して考慮すべき要因
  • 限定価格との関係(共有者間での持分取得の場合)
  • 共有物分割における鑑定評価の役割

暗記のポイント

  1. 市場性減価の発生理由 — 使用収益の制約、処分の困難性、買手の限定性
  2. 減価の水準 — 一般に10%〜50%(個別事情により変動)
  3. 持分の処分 — 各共有者が単独で可能(全員の同意は不要)
  4. 変更行為 — 共有不動産の売却には全員の同意が必要
  5. 限定価格 — 共有者間での持分取得の場合に成立(増分価値が発生)

まとめ

共有持分の評価では、不動産全体の価格に持分割合を乗じた按分額から市場性減価を控除して価格を求めます。市場性減価は、共有に伴う使用収益の制約や処分の困難性に起因し、共有者の数や関係性、持分割合等によって変動します。共有者間での持分取得の場合は、共有状態の解消による増分価値が発生し、限定価格が成立します。

共有持分の評価は、価格の4類型の理解が前提となります。また、民法上の共有に関する規定(民法・物権法)とあわせて学習することで、理解がより深まるでしょう。