令和4年短答式試験の概要

令和4年(2022年)の不動産鑑定士短答式試験・鑑定理論科目は、鑑定評価基準の条文を正確に理解しているかを問う問題が中心でした。本記事では、令和4年に出題された主要論点について、基準の原文を根拠にした正誤判断の方法典型的な誤答パターンを解説します。

短答式試験では、選択肢の一語一句を基準の条文と照合できるかが合否を分けます。以下、論点ごとに基準の該当条文を示しながら解説します。


令和4年短答式試験の概要

試験の基本情報

項目 内容
試験日 2022年5月(第2日曜日)
試験科目 鑑定理論、行政法規
試験時間 鑑定理論:2時間
出題形式 五肢択一式
出題数 40問
合格基準 総合点でおおむね7割以上

合格率と受験者数の推移

年度 受験者数(概算) 合格率(概算)
令和2年 約1,400人 約33%
令和3年 約1,500人 約34%
令和4年 約1,600人 約33%
令和5年 約1,600人 約36%

主要論点1:価格の種類の正誤判断

正常価格の定義――正確な文言がすべて

短答式で最も頻出の論点は価格の種類です。正常価格の定義は基準で以下のように規定されています。

正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

選択肢の正誤判断のフレームワーク

この定義を使って、典型的な誤りの選択肢を判断する方法を示します。

選択肢の記述例 正誤 判断の根拠
「市場性を有する不動産について…市場価値を表示する適正な価格」 基準の定義に合致
「すべての不動産について…市場価値を表示する適正な価格」 「市場性を有する」が「すべての」にすり替わっている
「現実の社会経済情勢の下で一般的と考えられる条件」 「合理的と考えられる」が「一般的と考えられる」にすり替わっている
「市場で形成されるであろう市場価値を表示する最高な価格」 「適正な」が「最高な」にすり替わっている

なぜ間違えやすいか:正常価格の定義は文言が長く、キーワードが多いため、一部の文言を別の表現にすり替える引っかけに気づけないことが原因です。

限定価格と特定価格の区別

限定価格と特定価格の混同は、受験生が最も陥りやすい誤りの一つです。

限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

正誤判断のポイント

判断基準 限定価格 特定価格
背景 併合・分割等の取引形態 法令等による社会的要請
市場概念 正常価格と同一の市場概念の下 正常価格の前提となる諸条件を満たさない
適用例 隣接地の併合、借地権者による底地の取得 資産流動化法に基づく評価、民事再生法に基づく評価

典型的な誤答パターン:限定価格の適用場面(併合・分割)に「法令等による社会的要請」という特定価格の条件を当てはめた選択肢を正しいと判断してしまう。


主要論点2:鑑定評価の三方式

三方式の意義と適用の基準条文

鑑定評価の三方式は毎年複数問出題される最重要論点です。

不動産の鑑定評価の手法は、不動産の再調達(建築、造成等)に要する原価に着目する原価法、不動産の取引事例に着目する取引事例比較法及び不動産から生み出される収益に着目する収益還元法に大別される。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

各手法の定義と正誤判断ポイント

原価法

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

選択肢の正誤判断

記述 正誤 根拠
「再調達原価を求め、減価修正を行って…」 基準の定義通り
「再調達原価を求め、時点修正を行って…」 「減価修正」が「時点修正」にすり替わっている。時点修正は取引事例比較法の概念
「原価法は建物のみに適用される手法である」 基準は「対象不動産」と規定しており、土地にも適用可能(造成地等)

取引事例比較法

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

選択肢の正誤判断

記述 正誤 根拠
「事情補正及び時点修正を行い、地域要因・個別的要因の比較を行って…」 基準の定義通り
「事情補正及び時点修正を行い、一般的要因の比較を行って…」 一般的要因は比較の対象ではない。地域要因と個別的要因の比較
「取引事例比較法は、取引事例が1つ以上あれば適用できる」 基準は「多数の取引事例を収集」と規定

収益還元法

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

典型的な誤答パターン:「過去の純収益」「現在の純収益」と書かれた選択肢を正しいと判断してしまう。基準は「将来生み出すであろうと期待される純収益」と明記している。


主要論点3:最有効使用の判定

基準の条文

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節

正誤判断の着目ポイント

最有効使用に関する問題では、以下の要件を正確に把握しているかが問われます。

要件 基準の文言 誤りの選択肢パターン
前提 客観的にみて 「主観的な判断で」
使用者 良識と通常の使用能力を持つ人 「最大限の能力を持つ人」
使用方法 合理的かつ合法的な最高最善の使用 「合法的ではなくとも合理的な」

なぜ間違えやすいか:最有効使用は「最高最善」という言葉から、制限のない最大限の使用と勘違いしやすい。しかし基準は「合理的かつ合法的な」という制約を明記している。


主要論点4:価格形成要因の分類

基準の条文

価格形成要因の3分類は、分類の正確さと具体的内容が問われます。

価格形成要因とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。不動産の価格は、多数の価格形成要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。

― 不動産鑑定評価基準 総論第3章

3分類の正確な理解

要因の種類 基準の趣旨 典型的な誤りの選択肢
一般的要因 一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因 「個々の不動産の価格を個別的に形成する」→個別的要因の定義と混同
地域要因 各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因 「一般経済社会の価格水準に影響」→一般的要因の定義と混同
個別的要因 不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因 「地域の特性を形成する」→地域要因の定義と混同

典型的な誤答パターン:3分類の定義文の「影響の及ぶ範囲」を入れ替えた選択肢に引っかかる。一般的要因は「価格水準全般」、地域要因は「地域の不動産全般」、個別的要因は「個々の不動産」に影響するという階層構造を理解することが重要。


主要論点5:地域分析と個別分析

近隣地域と類似地域の区別

地域分析に関する問題では、近隣地域と類似地域の定義の違いが頻繁に問われます。

基準では近隣地域について、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を有する地域と規定しています。一方、類似地域は近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域です。

正誤判断のポイント

概念 特徴 誤りの選択肢パターン
近隣地域 対象不動産が属する地域 「対象不動産が属さない地域でも近隣地域となる」→誤り
類似地域 近隣地域と類似する特性を持つ地域 「近隣地域と同一の地域」→誤り(類似であって同一ではない)
同一需給圏 代替・競争等の関係が成り立つ地域の範囲 「近隣地域のみで構成される」→誤り(より広い範囲)

主要論点6:対象確定条件

基準の条文

対象確定条件は、短答式では正答率が低くなりやすい分野です。

基準では、対象確定条件について、対象不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件として規定しています。

正誤判断のポイント

条件の種類 内容 誤りの選択肢パターン
対象確定条件 物的事項と権利の態様の確定 「価格の種類の確定を含む」→誤り(価格の種類は別の確定事項)
独立鑑定評価 対象不動産を対象確定条件によって確定された独立のものとして評価 他の条件と混同した記述
部分鑑定評価 対象不動産を複合不動産の一部分として評価 独立鑑定評価の説明と混同

選択肢の正誤を見抜く5つのテクニック

短答式試験全般に共通する、選択肢の正誤を見抜くテクニックを整理します。

テクニック1:義務と裁量の区別

基準の文言 意味 引っかけ方
「しなければならない」 義務(必ず行う) 「することができる」にすり替え
「することができる」 裁量(行ってもよい) 「しなければならない」にすり替え
「努めなければならない」 努力義務 「しなければならない」にすり替え

テクニック2:「すべて」「必ず」の追加に注意

基準に「原則として」と書かれている規定に対して、選択肢で「すべての場合に」「必ず」と書かれていたら誤りの可能性が高い。

テクニック3:適用場面のすり替え

ある概念の説明を、別の概念の適用場面に当てはめた選択肢は誤り。例:限定価格の定義を特定価格の適用場面で使用。

テクニック4:主語と述語の対応

「○○は△△である」という記述の、○○(主語)と△△(述語)の対応が基準と一致しているかを確認する。

テクニック5:数量限定語に注目

「のみ」「だけ」「唯一」などの限定語が選択肢にある場合、基準がそのような限定をしているかを確認する。


試験での出題ポイント

令和4年の学習から得られる教訓

教訓 具体的な学習法
条文の一字一句が問われる 基準の定義規定を音読・書写で正確に暗記
似た概念の区別が問われる 比較表を作成して整理(限定価格vs特定価格等)
引っかけパターンは定番 過去問の誤りの選択肢を分析し、パターンを把握
全選択肢の分析が最も効率的 正解だけでなく、誤りの選択肢も基準に照らして検証

学習の優先順位

優先度 分野 学習のポイント
最優先 価格の種類(4類型の定義) 定義を全文暗記、適用場面を整理
最優先 三方式の意義と定義 各手法の定義を正確に暗記
最有効使用の判定 要件(合理的・合法的・客観的)を正確に
価格形成要因の3分類 影響の及ぶ範囲の違いを正確に
地域分析・個別分析 近隣地域・類似地域・同一需給圏の区別
対象確定条件 条件の種類と内容を正確に

過去問の活用法

令和4年の過去問を使った学習法

  1. まず時間を計って解く:本番と同じ2時間で40問に挑戦し、時間感覚を養う
  2. 全選択肢を基準の条文に照らして検証する:正解の選択肢だけでなく、誤りの選択肢がどの条文のどの部分を改変しているかを特定する
  3. 誤りの選択肢を「正しい文に修正する」練習:誤りの部分を基準の正しい文言に戻す作業が最も効率的な暗記法
  4. テーマ別に整理する:同じ分野の問題を他年度と合わせて解き、出題パターンを把握する

過去問を使った効率的な学習法も参考にしてください。

他年度の過去問との組み合わせ

順序 年度 目的
1回目 令和4年 基本事項の理解度を確認
2回目 令和6年 最新の出題傾向を把握
3回目 令和5年 出題傾向の変化を比較
4回目 全年度の間違えた問題 弱点の克服

まとめ

令和4年短答式試験・鑑定理論の主要論点と対策を整理します。

  • 価格の種類は定義の一字一句が問われる。特に「市場性を有する」「合理的と考えられる条件」等のキーワードを正確に暗記する
  • 三方式の定義は各手法の着目点(原価・取引事例・収益)と手順を正確に区別する
  • 最有効使用は「合理的かつ合法的」「客観的にみて」という要件を落とさない
  • 引っかけパターンは「文言のすり替え」「適用場面の入れ替え」「限定語の追加」が定番
  • 過去問は誤りの選択肢を基準の条文に照らして分析することが最も効率的な学習法
  • 基準の条文を正確に暗記することが、すべての論点に共通する最重要の対策

基準の条文を繰り返し読み込み、過去問で正誤判断の実戦力を養いましょう。短答式・鑑定理論の対策も合わせて参考にしてください。